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ネイティブケミカルライゲーション

はじめに

ペプチドとタンパク質の合成技術は、組換えDNA技術と競合しながらも、生物学分野の及ばないアプローチや遺伝暗号の限界を超えたアプローチをタンパク質工学にもたらしています。自然とは異なり、純粋な合成的手法は白紙の状態からペプチドを設計することができ、あらゆる非天然残基を有するタンパク質アナログを提供できます。

しかし、ペプチドの化学合成はある限界に直面しています。液相合成法が適しているのは最大10個のアミノ酸から成る鎖長のペプチドです(表1)。固相合成(SPPS)法は、速度と合成効率を劇的に向上させることによって合成可能なペプチドの幅を広げましたが、それでも、SPPS法で調製できるペプチドの最大鎖長は約50アミノ酸残基が限度です。

表1

液相ペプチド合成 小さなペプチドのみ(鎖長<10アミノ酸)
固相ペプチド合成 中等度のサイズのペプチド(鎖長<50アミノ酸)
Native chemical ligation ペプチドと比較的小さなタンパク質(鎖長<200アミノ酸)
Expressed protein ligation 化学修飾を施したタンパク質(鎖長>500アミノ酸)
Staudinger ligation ペプチドの修飾、固定化、結合

ライゲーション部位に天然と同じペプチド結合を生成する化学選択的な反応を開発できれば、あらかじめSPPS法で合成した小さなペプチドをつなぐことによってタンパク質を合成することができます。このアプローチの課題は、遊離アミン(Lys)や遊離カルボン酸(Glu/Asp)を有するアミノ酸側鎖の存在下で化学選択的にアミド結合を形成することでした。保護基を使用する必要がなく、生物学的環境に適合する温和な条件下ですべての化学変換が起これば理想的です。この種の手法の中で最も強力なものは、Kentらが1994年に発表したネイティブ化学ライゲーション(Native Chemical Ligation, NCL)です(Scheme 11。この研究の前には、Wielandが初期の先駆的な研究によってペプチドチオエステルの縮合を観察しています2。これまでのところ、Native Chemical Ligationによって中程度のサイズのさまざまなタンパク質や糖タンパク質の合成が実現しており、ついには203個のアミノ酸から成るHIVプロテアーゼ共有結合性ダイマーも構築されました3。NCLの革新的な応用例や改良された手法はこの章の後半で示します。

scheme1

Scheme 1

Expressed Protein Ligation(EPL)は、化学と生物学とのギャップを埋めることによって、分子生物学と化学合成の長所を兼ね備えています。合成したペプチドフラグメントを使って、組換えDNA技術によって発現させたタンパク質を翻訳後に伸長できます。最近の例では、ColeらがEPLを利用して、合成した小さなリン酸化ペプチドをC末端に付加しています4。WaldmannとGoodyらは、アジド化したN-Rasタンパク質をEPLで合成し、ホスフィン基を導入したガラス表面へのこのタンパク質の位置特異的な固定化をStaudingerライゲーションによって行っています5

Native Chemical Ligation

Native Chemical Ligationでは、α-チオエステルとシステイン-ペプチドとの反応によってふたつの無保護のペプチドセグメントを結合させることができます(Scheme 1)。ライゲーション部位に天然と同じアミド結合が形成されるため、この方法は大きなペプチドを合成する際にきわめて魅力的です。通常は、調製が容易なα-アルキルチオエステルが用いられますが、やや反応性が低いため、チオールを添加するin situチオエステル交換反応によってライゲーション反応を触媒します。現在最も一般的なチオール触媒は、チオフェニル/ベンジルメルカプタン混合物または2-メルカプトエタンスルホナート(MESNa)ですが、最近の研究では、MESNaは反応性の低い触媒であり、通常24~48時間の反応時間が必要であることが示されました。触媒としては、アリールチオール類のほうがはるかに優れています。4-メルカプトフェニル酢酸(MPAA)を用いるとはるかに速やかにタンパク質を合成することができます(Figure 2)。通常、化学ライゲーションは1時間未満で完了し、高い収率が得られます6

figure 1

Figure 1

Native Chemical Ligationは通常、標的のアミノ酸配列中にXaa-Cysライゲーション部位が約40残基以下の適切な間隔で存在することを前提としています。しかし、タンパク質のポリペプチド鎖に存在するXaa-Cys部位は限られていることが多く、Cys残基がきわめて少ないタンパク質、Cys残基が存在しないタンパク質、またはCys残基が不適切な位置にのみ存在するタンパク質は数多くあります。YanとDawsonは、本来のAla残基の代わりにCys残基を用いてXaa-Ala部位でのライゲーションを可能にするアプローチを発表しました。ライゲーション後、新鮮なラネーニッケルを使って生成物の脱硫を行うと、天然の標的配列が生成します7。最近、Kentらはこの方法論を拡張し、Xaa-Ala結合部位でフラグメントのライゲーションを行ってCysを含むペプチドを合成しています8。側鎖を保護するアセトアミドメチル(Acm)基をライゲーション部位以外のCys残基に用いて、効率的かつ選択的にライゲーション部位の脱硫を行うことができます。

化学ライゲーションについては左記のページもご参考ください。

References

  1. Dawson, P.E.; Muir, T.W.; Clark-Lewis, I.; Kent, S.B.H. Science, 1994, 266, 776.
  2. Wieland, T.; Bokelmann, E.; Bauer, L.; Lang, H.U.; Lau, H. Justus Liebigs Ann. Chem. 1953, 583, 129.
  3. Torbeev, V.Y.; Kent, S.B.H. Angew Chem. Int. Ed. 2007, 46, 1667.
  4. Cole, P.A. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 4192.
  5. Watzke, A. et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 1408.
  6. Johnson, E.C.B.; Kent, S.B.H. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 6640.
  7. Yan, L.Z.; Dawson, P.E. J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 526.
  8. Pentelute, B.L.; Kent, S.B.H. Org. Lett. 2007, 9, 687.
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