有機合成化学

SuFEx:フッ化スルホニル~新たなクリック反応試薬

KitAlysis™ ハイスループット スクリーニング キット

はじめに

2001年に、K. B. Sharplessらによって提唱されたクリックケミストリーは、化学分野における重要な方法論として定着し、多方面に大きな影響を与えています。クリックケミストリーのコンセプトは、簡便に結合を生成できる優れた反応によって、効率よく分子を作り出し、機能性分子の探索に役立てるというものです。

クリック反応としては、(1)悪影響を及ぼす副生成物を出さない、(2)熱力学的に有利で、迅速に進行する、(3)水中でも反応が可能、といった条件を満たすものが選ばれます。アジドとアルキンの[3+2]付加環化反応が、その代表的なものとして知られています。

そして最近、イオウ(IV)フルオリド交換反応(SuFEx:sulfur (VI) fluoride exchange)が、新たなクリック反応として認められるようになりました。フッ化スルホニル(RSO2F)と求核剤による、イオウ原子上でのフッ素-他原子の交換反応を指します。プロトン性溶媒中での、フッ素原子の特異な反応性が、この反応をクリック反応ならしめています。

K. B. Sharpless教授の協力の下、アルドリッチでは、新たなクリック反応の試薬として各種のフッ化スルホニル類を提供いたします1。これらSuFExビルディングブロックは、合成化学、材料科学、ケミカルバイオロジー、医薬探索など、広い範囲に応用が可能です1-4

代表的なSuFEx反応

特長

これまでのクリック反応と同様、SuFExはシンプルな反応であり、水や酸素の存在下でも問題なく、最小限の精製操作だけで高収率で生成物が得られます。さらにフッ化スルホニルは、以下に示すような特徴を示し、独特の安定性及び反応性を有します1

  1. 還元に対して抵抗性:

    他のハロゲン化スルホニルと異なり、フッ化スルホニルはヘテロリティックに開裂し、このため還元条件に対して抵抗性があります1。たとえば、塩化スルホニルはトリフェニルホスフィンによってチオールまで還元されるのに対し、フッ化スルホニルは同じ条件では全く還元を受けません。

    SuFExの還元抵抗性
  2. 熱的安定性:

    フッ化スルホニルは熱に対して安定性が高く、130℃で3時間撹拌しても全く分解を受けません。同様に、求核剤に対しても安定で、無溶媒でアニリンとともに加熱還流しても反応しません2

    SuFExの熱的安定性
  3. イオウ選択的な反応:

    フッ化スルホニルは反応が速く、かつ塩化スルホニルに比べて官能基選択性が高いことが知られています。下図のようなエステルエノラートと塩化スルホニルの反応ではα-クロロエステルを与えるのに対し、フッ化スルホニルを用いた場合にはスルホニル化された生成物のみを与えます1

    SuFExのイオウ選択的反応
  4. フッ化物イオンとプロトンとの相互作用による特異な性質:

    水分子は、フッ化物イオンに配位してこれを安定化するため、水を溶媒に用いた場合にフッ化スルホニルは特異な反応性を示します1。下図のように、フッ化スルホニルをアニリン中加熱還流しても反応しませんが、水中では室温で容易に反応し、スルホンアミドを与えます。

    SuFExの特異な性質

重要なSuFEx試薬:フッ化エテンスルホニル(ESF)

アルドリッチから入手可能なフッ化スルホニルビルディングブロックの中から、ここではフッ化エテンスルホニル(ESF:ethenesulfonyl fluoride、746959)について紹介します。この試薬は、窒素・酸素・イオウ、そして炭素求核剤に対する、優れたマイケル受容体として働きます。このため、適当な求核部位を持つ分子に対して、ESFを作用させることでSO2F基を簡単に導入でき、生成物は医薬探索やケミカルバイオロジーへ応用可能です。導入されたSO2F基は非常に安定ですが、適切な条件下では素早く反応し、さらなる官能基化や生化学的な応用に役立てられます1-2

 

代表的応用例

・SO2F基の導入

下図のように、求核剤に対してESFを作用させることで、簡便にSO2F基を必要な分子へ導入することができます1-2

SO2F基の導入の例1

SO2F基の導入に利用可能な他のSuFExビルディングブロックとして、Jonesらのグループによって用いられた、4-(ブロモメチル)ベンゼンスルホニルフルオリド(ALD00028)があります。彼らはこの試薬を用いて合成したSF-p1プローブ(下図)を、ケミカルバイオロジー分野へ応用しています5。またKellyらは、3-(フルオロスルホニル)安息香酸(ALD00038)及び4-(フルオロスルホニル)安息香酸(224189)を用いて、1,3,4-オキサジアゾールを基本骨格としたライブラリを構築しています6

SO2F基の導入の例2

ケミカルバイオロジー及び医薬探索

生理活性物質に対し、活性及び反応性を失わないようにSO2F基を結合させたものは、ケミカルバイオロジー及び創薬研究者にとっての強力なツールになります4。SO2F基は各種のタンパク質の、セリン、トレオニン、チロシン、リジン、システイン、ヒスチジンなどの残基に対して、共有結合によって選択的に結合します。この性質を活かし、フッ化スルホニル基を持った化合物は、化学プローブとして、また共有結合を介した不可逆的阻害剤として用いることができます。これらは、医薬のターゲットバリデーション、リード化合物の最適化、合成終盤での官能基化などに適用が可能です。

ケミカルバイオロジーへの応用例1

酵素阻害剤や酵素安定化剤にSO2F基を導入し、官能基選択的に標的タンパク質の修飾を行なった研究はいくつもあります。デキャッピングスカベンジャー酵素(DcpS)のチロシン残基5、トランスチレチンのリシン残基6、ポリイソプレニル化メチル化タンパク質メチルエステラーゼのセリン残基7などが、最近の例として挙げられます。

他のよく知られたフッ化スルホニル系阻害剤として、セリンプロテアーゼ及びシステインプロテアーゼ阻害剤であるPMSFことベンジルスルホニルフルオリド(P76267883093482)、不可逆的セリンプロテアーゼ阻害剤であるAEBSFこと4-(2-アミノエチル)ベンゼンスルホニルフルオリド(7630715633A8456)及び、ATPアーゼやキナーゼの阻害剤であるFSBAこと5’-(4-フルオロスルホニルベンゾイル)アデノシン(F9128)などがあります。

ケミカルバイオロジーへの応用例2

SuFExの生物学的な応用の詳細は、ファイザー社のLyn Jones氏によるウェブセミナー「ケミカルバイオロジー及び医薬探索研究におけるフッ化スルホニル化合物(USサイト)」をご覧下さい。また、この他の製品について知りたい方は、Professor Product PortalのSharpless教授のページ(USサイト)をご覧ください。

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