FLAGタグ抗体入門編

お客様インタビュー

カイコを用いた発現系と精製純度の高いFLAG発現システムで、
さまざまなタンパク質生産が可能に

世界的にもユニークな、カイコを用いたタンパク質受託生産を行うシスメックス株式会社の長屋 英和さんに、
FLAG発現システムについてお話を伺いました。

シスメックス株式会社 R&I事業本部
事業企画部 タンパク事業推進課長
長屋 英和さん

高生産能力、高生産再現性、高品質を誇るカイコ‐バキュロウイルス発現系

シスメックス株式会社のProCube®サービスでは、カイコを用いたリコンビナントタンパク質生産を行っており、その生産過程でシグマのFLAG発現システムを利用しています。

カイコ‐バキュロウイルス発現系とは、カイコを発現宿主としてタンパク質発現を行う技術です。この発現系ではまず、目的タンパク質をコードする遺伝子を組み込んだベクターを構築します。このベクターとバキュロウイルスDNAをカイコ培養細胞(BmN細胞)に導入してウイルスの相同組み換えを行い、組み換えバキュロウイルスを作製します。これをカイコのサナギまたは幼虫に感染させて、カイコの虫体で目的タンパク質を発現させます。感染1週間後に虫体の破砕あるいは幼虫体液の回収をし、得られた破砕液や体液から、アフィニティービーズやゲルろ過などのクロマトグラフィーによって目的タンパク質を精製します。

カイコ‐バキュロウイルス発現系は、大腸菌や哺乳細胞などのタンパク質発現系と比較して生産能や生産発現性が高く、高品質のタンパク質を得られることが特徴です。さらに、さまざまな種類、分子量、局在のタンパク質発現が可能であることがわかっており、これまでほかの発現系で上手く発現精製できなかったタンパク質も、カイコ‐バキュロウイルス発現系であれば生産できる可能性を秘めています。

カイコを用いたタンパク質発現系でこれからの医療に貢献する

カイコを用いた発現系によるタンパク質受託生産サービスは、私が以前在籍していた片倉工業株式会社の生物科学研究所で始まりました。片倉工業株式会社は旧来より製糸事業で発展した会社ですが、1990年代後半からはバイオテクノロジー発展という時代の流れにのり、長年培ってきたカイコの飼育技術をバイオ事業へ応用する技術として、短期間で高効率にタンパク質を生産できるカイコを用いた発現系に着目し、タンパク質受託生産のプロジェクトを立ち上げました。それまで植物の天然化合物の抽出および分析を専門としていた私は、このプロジェクトの発足メンバーとして、当時は未経験であったタンパク質精製の分野に足を踏み入れました。カイコに関する技術を専門とするほかの発足メンバーたちとともに試行錯誤を重ね、ついに開発に成功、2002年からタンパク質受託生産サービスとしてお客様に提供してきました。

一方、シスメックス株式会社は、主に臨床検査用の機器や試薬の研究開発から製造・販売を一貫して行っています。診断薬の製造では、原料となるタンパク質の安定供給と品質安定が求められており、それらを満たす生産技術として片倉工業のカイコ‐バキュロウイルス発現系が着目されていました。両社の技術を組み合わせることでさらなる医療への貢献を目指し、2011年に診断薬の原料となるタンパク質の生産業務と、タンパク質受託生産サービス事業が片倉工業からシスメックスへ譲渡されました。

片倉工業でのプロジェクト発足から現在に至るまで、私は15年以上に渡ってカイコ‐バキュロウイルス発現系を用いたタンパク質受託生産に携わり、これまでに約3,000種類のタンパク質生産を行ってきました。タンパク質生産は、いわばプラットホーム事業です。世界的にもユニークなこの技術を国内外でより多くの方に知ってもらい、これからの新しい科学に対してカイコを用いて生産したタンパク質を提供することで、医療のみならず世の中全体へ貢献していきたいと考えています。

どんなタンパク質生産の依頼も、まずはFLAGシステムをおすすめする

タンパク質生産において目的タンパク質の発現量や精製純度は、目的タンパク質の遺伝子の種類、タグシステム、タグの挿入部位などによって決まります(図1)。そのなかでも大きく影響をおよぼすのがタグシステムです。一般的にタンパク質生産で用いるタグには、His、FLAG、GST、MBPなどがありますが、そのなかで我々は、目的タンパク質にFLAGタグをフュージョンさせ、抗FLAG抗体が固定されたアフィニティービーズを用いて精製を行うFLAGシステムを採用しています。FLAGシステムを用いる最大の理由は、カイコを用いた発現系との相性がよく、目的タンパク質の発現量が高いことです。また、FLAGタグは8つのアミノ酸からなる小さなタグであるため、目的タンパク質の機能や活性への影響が少ないと考えられています、そのため、さまざまな種類のタンパク質生産に使用することができることも特徴です。

これまでの検討で、GSTタグのシステムではタンパク質の発現量があまり多くないこと、Hisタグのシステムではタンパク質の精製効率があまり高くないことを確認しています。そのため、当社では、お客様からタンパク質生産の依頼があったときには、これまでの実績を踏まえて、まずFLAGシステムをおすすめしています。ただFLAGシステムは高額なため、生産規模を拡大する場合は安価なHisタグのシステムへ変更するなど、その目的に応じて最適なタグシステムをご提案することもあります。

図1 タグの種類・位置の違いによる発現量の違い

「精製純度の高さ」が選択のポイント

FLAGシステムのなかで我々は当初からシグマのFLAG発現システムを使用しており、その精製純度の高さに非常に満足しています。我々はカイコを用いた発現系で行っていますが、大腸菌や哺乳動物細胞など、そのほかのタンパク質発現系を使っている場合でも、目的タンパク質の精製純度が得られないときには、シグマのFLAG発現システムを試してみるとよいかもしれません。純度が得られにくいタンパク質の場合には、発現システムを変更するのではなく、経験上、アフィニティービーズへの結合効率が上がるようN末端とC末端の両方にFLAGタグをフュージョンさせたり、アフィニティービーズによる精製の後にゲルろ過やクロマトグラフィーを行ったりするなどの工夫をすると改善されます。

研究で用いる抗体やタンパク質発現システムの選択は、結果そのものを左右するといえるでしょう。当社の提供しているサービスでは、これまでの経験や実績からシグマのFLAG発現システムが最適だと判断しています。初めて扱うタンパク質を発現精製するときにも、今後もシグマのFLAG発現システムをまず選択していきたいと考えています。