神経変性疾患

アルツハイマー病

 

クリアランス

LRPとRAGE(Receptor for AGE)はAβが血液脳関門を横断する際に関与する分子で、LRPは流出を仲介し、RAGEはAβがCNSへと戻るときに関わっています12。LRPによるAβクリアランスの最初のステップは、アポEまたはα2マクログロブリンとAβとの複合体形成です。次にそのAβ複合体は、アポEあるいはα2マクログロブリン上の結合部位を介してLRPと結合します10。Aβの分解には主としてZnメタロエンドペプチダーゼのインスリン分解酵素(IDEまたはインスライシン)とネプリライシンという二つの酵素が関与しています12

 

タウパスウェイ

過剰リン酸化したタウタンパク質の細胞内神経原線維変化は、アルツハイマー病において顕著に認められるもう一つの特徴です。タウは主に微小管の集合と安定化を促進する機能するリン酸化タンパク質で、単一遺伝子の選択的スプライシングによる六つのアイソフォームが存在します13,14。個々のタウアイソフォームの割合やリン酸化の程度がその適切な機能に重要です15。ADの異常タウには過剰リン酸化、糖化、ユビキチン化、酸化、切断などの分子修飾が認められますが、中でも過剰リン酸化は最も注目されてきました16。アルツハイマー病におけるタウリン酸化は、主にグリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK-3)とサイクリン依存性キナーゼ5(cdk-5)によって達成され、これにプロテインキナーゼPKAとPKCが付加的な役割を果たすと考えられています15。タウ過剰リン酸化現象のカスケード全体が明らかになっているわけではありませんが、現時点では、Aβ蓄積がかなりの神経毒性効果を引き起こし、その結果 Akt(PKB)/ GSK3β経路の活性化などキナーゼの活性化、活性酸素種の放出、カルシウムホメオスタシスの損失がおこるとされています6,13,17-19。過剰リン酸化したタウが脱離することで微小管は不安定化し、細胞骨格が破壊されます。また、重合化して最終的には進行性アルツハイマー病の特徴であるPHFやNFTのような神経原線維変化を形成します6

 

プロセシングに関る他のシステム・パスウェイ

APPプロセシングに関与する主要酵素に加え、治療ターゲットとして多くの反応系や経路が検討されています。低分子量Gタンパク質Rhoとそのエフェクター分子Rock(Rho-associated kinase)はAPPプロセシングの調節に関与すると考えられています20,21クラステリン(アポリポプロテインJ)は中枢神経系の可溶性Aβ量を調節する重要なレギュレーターで、おそらく神経突起斑のタウリン酸化を亢進しています22,23インターフェロン-γ、インターロイキン-1β、腫瘍壊死因子-αは、c-Jun N末端キナーゼ(JNK)-依存性MAPKの経路を介してγ-セクレターゼ活性を促進し、Aβ生成を増進していると考えられます24。タンパク質のミスフォールディングがAβやタウタンパク質蓄積の初期段階におこることから、タンパク質のフォールディングとミスフォールドタンパク質のクリアランスを仲介する分子シャペロンの役割が重要な研究対象となっています3,25,26。最近、コレステロールやその代謝・輸送に関係するタンパク質およびコレステロールのAβ量への関与が注目されるようになりました27-29

 

毒性メカニズム

アルツハイマー病の発症機序には数々の反応系と現象が関係しています。多くのAD研究が、APPプロセシングとAβタンパク質に伴う毒性メカニズムに着目しています。その焦点は、近年、アミロイド斑から非線維性のAβオリゴマーへと移りつつあり、中でもAβ42を含むものが初期の神経毒性作用の主要な原因となっている可能性が示唆されています1,4。シナプス可塑性の消失でシナプスイオンあるいはグルコース輸送体の機能障害が示されたように、シナプスは特に可溶性オリゴマーの影響を受けやすいと考えられています28。また、Aβ42のオリゴマー形成とプロトフィブリル形成はミクロフィブリルの活性化や炎症反応をおこすアストロサイトーシスを伴い、その結果、神経毒性のあるサイトカインを放出します1,5。炎症性の成分の中には急性期反応物質ペントラキシンニコチン性アセチルコリンレセプターやペルオキシソーム増殖因子活性化レセプター(PPARs)があります30。また、グリア細胞からのグルタミン放出による興奮毒性も考えられます。その他、Aβの蓄積とオリゴマー形成はイオンホメオスタシスの変化、フリーラジカルを放出する反応性の酸化還元金属類の結合、ROS産生、膜脂質の過酸化、神経毒性物質4-ヒドロキシノネナール(4HNE)生成をもたらします。Aβ蓄積によるNMDAグルタミン酸レセプターの過剰活性化は細胞内カルシウムの上昇をもたらし、神経細胞のNOシンターゼなどのカスケードを活性化して酸化・窒素化ストレスやミトコンドリア損傷を引き起こします1,5,28。このようにAβ42が神経病理学的に主たる病的因子であることを示す証拠が次々と報告されていますが、一方で、他にも関与する分子が考えられています。例えば、Aβ40は脳血管壁の沈着形成において顕著に認められます4,7。さらに、C99やAICDなど多くのAPPのC末端ペプチドが神経毒性を示すことが知られています4

 

治療法研究

現在承認されているADの治療薬は、疾患の進行が標的というよりは症状の改善を目的とした薬剤です。コリン作動性ニューロンがかなりの影響を受けているため、ガランタミンやリバスチグミンのような抗コリンエステラーゼインヒビターがコリン作用神経の活性を増強するために使用されてきました1。Aβによって誘導されるNMDAレセプターを介したグルタミン酸興奮毒性がアルツハイマー病の神経死に関与していることから、NMDAアンタゴニストが治療薬として検討されてきました。メマンチンは最近になって承認された第二世代薬の一つです。NMDAアンタゴニストはAβの形成を阻止する薬物ではありませんが、神経変性の進行を回避する効果が期待されています31。その他、神経保護やAβ蓄積による損傷を回復させる効果を目的とした薬剤として、アンギオテンシンIVのような記憶改善が認められる様々な作用薬があります32

新規物質を含め多くの薬剤が動物モデルで神経保護作用を示しています。レスベラトロールは赤ワインに含まれる有効成分で、Aβ誘導性の細胞死を大幅に低下させます33。カンナビノイド類でも神経保護と抗炎症性の効果が認められたものがあり、アルツハイマー病治療薬として実用性が期待されています34。例えば非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、シクロオキシゲナーゼ活性と非依存的なメカニズムでアルツハイマー病に対する有効性があるとみられています35。これらは低分子量Gタンパク質RhoとそのエフェクターであるROCK(Rho-associated kinase)の活性を阻害する作用があり、APPプロセシングの調節に関与していると考えられます20,21。また、HMG-CoAレダクターゼインヒビター(スタチン類)とフラボノイドは、アミロイド形成性のγ-セクレターゼ活性の阻害を通じて脳のβ-アミロイド(Aβ)産生とアミロイド負荷を低下させる能力があるとともに、RhoとROCKの阻害による作用があるようです21。コレステロールからコレステロールエステルの形成を触媒するアシル-コエンザイムAコレステロールアセチルトランスフェラーゼ(ACAT)は、Aβ生成を低減します36PKCのアクチベータ-、特に抗ガン剤ブリオスタチンはα-セクレターゼの経路を介してAPPプロセシングを亢進し、sAPPα量の増加とAβ産生の低下をもたらすことがわかっています8。ZnとCuをキレートする抗生物質クリオキノールは、モデルマウスにおいて脳のAβ沈着の減少と記憶力の改善が認められ、現在治験中です5。その他、抗生物質Geldamycinはシャペロンタンパク質のレベルを調節し、上昇させます26

次世代薬として研究されている領域には、Aβ産生に関与する主要酵素のβ-およびγ-セクレターゼもあります。例えば、DAPT(LY-374973)はγ-セクレターゼの強力なインヒビターで、アルツハイマー病の変異マウスモデルでAβ負荷を減少させる効果が認められています38。さらに、Aβ-タンパク質に対する抗体の利用も疾病過程の研究と治療の両方において有望視されています。マウスでは抗体治療によってプラーク蓄積と学習障害の低減が認められています。しかし、ある種の抗体は脳アミロイドアンギオパチーに伴って微小出血を増大させる場合もあり、注意が必要とされています39,40

 

 

参考文献

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