神経変性疾患

ハンチントン病

 

メカニズム

ポリグルタミンリピートこの疾病の遺伝子欠陥は染色体4pに特定され、ハンチンチンというタンパク質をコードするHD遺伝子の異常型は、そのN末端領域にポリグルタミン鎖の伸長を惹起するシトシン-アデニン-グアニン(CAG)のトリヌクレオチドリピート配列を含んでいます。そしてその繰り返し数の増加が発症時期や疾患の重症度に影響しています(多くは36以上で、繰り返し数が11~34の間は正常範囲と考えられている)。世代を追うごとにリピート長が増加し発症時期が早くなりますが、70以上のトリヌクレオチドリピートはまだ確認されておらず、おそらく胎児の段階で死滅するものと思われます6。HDをはじめとするトリヌクレオチドリピート病の病理的な特徴として、線条体の中型有棘細胞(medium-sizedspinyneuron)の細胞質、核、軸索末端にβ-シート構造のユビキチン化されたポリグルタミン含有タンパク質凝集体の蓄積がみとめられます7。フォールディング異常により蓄積したポリグルタミンは、その後封入体を形成します。最近の報告によると、封入体の形成によって生存率の改善が予想され、かつニューロンの他の部分にあるハンチンチン変異体の量を低下をさせると言われており、これは封入体の形成が毒性を発揮するハンチンチン変異体への対処反応として機能する可能性を暗示しています8。HDによって最も影響を受けると思われる神経細胞としては、大脳皮質のニューロンに加えて基底核のGABA作動性、コリン作動性、エンケファリン作用性の中型有棘細胞があります。死んだ細胞は次第にアストロサイトに置き換わり側脳室前角が拡大して錐体外路運動系への抑制シグナルが減少することにより6、不随意運動が起こります。線条体グルタミン酸レセプターの減少はN-メチルD-アスパラギン酸(NMDA)レセプター、特にNR2B型を介したグルタミン酸作動性の神経伝達を亢進すると考えられており、興奮毒性がHDにみられる神経死に関与する可能性を支持しています9,10。よってグルタミン酸レセプターのアンタゴニストはHDの研究、そしていずれはその治療にも役立つと考えられます。ポリグルタミン伸長を含む変異型のハンチンチンはNMDA型・カイニン酸型のグルタミン酸レセプターとPSD-95(シナプス後肥厚部タンパク質-95)の結合を妨害することによりレセプターの過感受性とカルシウム流入の上昇をもたらし、多くのキナーゼ活性化を介して最終的にはアポソーシスに至る反応が生じると考えられます11。電位依存性ナトリウムチャネルの遮断によりグルタミン酸放出を阻害する抗てんかん薬の一種、ラモトリジンは、舞踏病の緩和に効果を発揮しましたが疾患の進行を変えることはできませんでした12。伸長リピートをもつハンチンチンタンパク質がβ-シート凝集体を形成することからポリグルタミン凝集のインヒビターにもHDの治療効果が期待されており、少なくとも既に二種類のペプチドインヒビターPGQ9P2およびPGQ9P2,3は細胞培養で毒性を阻止する効果が確認されています13

またポリグルタミン蓄積がカスパーゼ活性化を促進するので、あるいはカスパーゼインヒビターもHDをはじめその他ポリグルタミン病の治療手段となるかもしれません。今のところ、カスパーゼ1および3のインヒビターであるミノサイクリンとカスパーゼ3インヒビターのシスタミンがR6/2マウス(HD動物モデル)で延命効果と発症の遅延効果を示しています14,15。一方で、酸化ストレスとミトコンドリア障害によるエネルギー代謝異常も研究と治療法の発見において注目の的となっています。酸化型グルタチオンやヌクレオチド8-ヒドロキシデオキシグルタチオンのような活性酸素種のマーカーはHD患者の線条体で増加していることが知られていますが、活性酸素種生成の指標となるミトコンドリアのアコニターゼ活性は尾状核-被殻で低下しています16。ドーパミン代謝は脆弱性ニューロンのROS生成を亢進する可能性がありますが、HDの病因におけるドーパミンの関与をめぐっては意見がわかれています16。R6/2トランスジェニックマウスでは、クレアチン(フリーラジカルスカベンジャーの一種でHD患者で枯渇している)の食餌投与により生存率が改善し4、ラットではマロネート(コハク酸デヒドロゲナーゼインヒビター)および3-ニトロプロピオン酸(ミトコンドリア複合体Ⅱインヒビター)の神経変性作用が一部抑制されます4。また、ミトコンドリア複合体ⅠのエンハンサーであるコエンザイムQ10は、R6/2トランスジェニックマウスで有効効果(延命および運動障害の進行・体重減少・脳萎縮症・神経細胞核内封入体発達の遅延)が立証されていますが、ヒトではまだ認められていません6,17。ハンチンチンの伸長ポリグルタミンリピートは遺伝子発現中のヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性を低下させ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼとヒストンアセチラーゼのバランスを崩すことによりヒストンアセチル化を妨害します。よってヒストンデアセチラーゼのインヒビターも治療薬となる可能性があります。その中でスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)と酪酸はHDのトランスジェニックモデル動物に有効作用が認められています18。一方最近の報告で、インスリン成長因子-1が変異型ハンチンチンにより特異的に誘導される神経死をセリン/スレオニンキナーゼAkt/PKBの活性化を介して阻害し、変異型ハンチンチンの核内封入体の形成を減少させるといわれています19。また、HD患者でAktは低分子量型に変化しています。このデータは、IGF-1/Akt経路がこの疾病の治療法のターゲットとなる可能性を示しています。最新の知見ではp53のHD発症への関与が示唆されており、この致死的病症の有効な治療手段を探す手がかりとなることが期待されます20

 

参考文献

  1. Evers-Kiebooms, G., et al., DNA-testing for Huntington’s disease and reproductive decision making: A European collaborative study. Eur. J. Hum. Genet., 10, 167-176 (2002).
  2. Folstein, S.E., et al., Huntington’s disease in Maryland: clinical aspects of racial variation. Am. J. Hum. Genet., 41, 168-179 (1987).
  3. Margolis, R.L. and Ross, C.A., Diagnosis of Huntington’s disease. Clin. Chemistry, 49, 1726-1732 (2003).
  4. McMurray, C.T., Huntington’s disease: new hope for therapeutics. Trends Neurosci., 24 (suppl), S32-S38 (2001).
  5. Mendez, M.F., Huntington's disease: update and review of neuropsychiatric aspects. Int. J. Psychiatry Med., 24, 189-208 (2004).
  6. Hefti, F.F., Other neurodegenerative disorders. In Drug Discovery for Nervous System Diseases, Ch. 12., John Wiley & Sons, Inc., (2005).
  7. Vonsattel, J.P. and DiFiglia, M., Huntington disease. J. Neuropathol. Exp. Neurol., 57, 369-384 (1998).
  8. Arrasate, M., et al., Inclusion body formation reduces levels of mutant huntingtin and the risk of neuronal death. Nature, 431, 805-810 (2004).
  9. Li, L., et al., Role of NR2B-type NMDA receptors in selective neurodegeneration in Huntington’s disease. Neurobiol. Aging, 24, 1113-1121 (2003).
  10. Zeron, M.M., et al., Increased sensitivity to N-methyl-D-aspartate receptormediated excitotoxicity in a mouse model of Huntington’s disease. Neuron, 33, 849-860 (2002).
  11. Davies, S. and Ramsden, D.B., Huntington’s disease. J. Clin. Pathol. Mol. Pathol., 54, 409-413 (2001).
  12. Kremer, B., et al., Influence of lamotrigine on progression of early Huntington disease ? a randomized clinical trial. Neurology, 53, 1000-1011 (1999).
  13. Thakur, A.K., et al., Inhibition of polyglutamine aggregate toxicity by a structure- based elongation inhibitor. FASEB J., 18, 923-925 (2004).
  14. Lesort, M., et al., Cystamine inhibits caspase activity. Implications for the treatment of polyglutamine disorders. J. Biol. Chem., 278, 3825-3830 (2003).
  15. Thomas, M., et al., Minocyclidine in Huntington’s disease: a pilot study. Mov. Disord., 19, 692-695 (2004).
  16. Jakel, R.J. and Maragos, W.F., Neuronal cell death in Huntington’s disease: a potential role for dopamine. Trends Neurosci., 23, 239-245 (2000).
  17. Ferrante, R.J., et al., Therapeutic effects of coenzyme Q10 and remacemide in transgenic mouse models of Huntington’s disease. J. Neurosci., 22, 1592- 1599 (2002).
  18. Bates, G.P. and Hockly, E., Experimental therapeutics in Huntington’s disease: are models useful for therapeutic trials? Curr. Opin. Neurol., 16, 465-470 (2003).
  19. Humbert, S., et al., The IGF-1/Akt pathway is neuroprotective in Huntington’s disease and involves Huntingtin phosphorylation by Akt. Dev. Cell., 2, 831- 837 (2002).
  20. LaSpada, A.R. and Morrison, R.S., The power of the dark side: Huntington’s disease protein and p53 form a deadly alliance. Neuron, 47, 1-3 (2005).
 

 

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