精神神経障害

双極性障害

 

双極性障害(双極性感情(気分)障害、あるいは躁うつ病)は、気分、活力、機能の極端な変化を特徴としています。この障害の躁病相とよばれる活動的な状態の間は、気分爽快で被刺激性や興奮を伴うことが多く、自尊心の肥大、睡眠欲求の減少、注意散漫、多弁、観念奔逸といった症状がみられます。衝動性、誇大性や判断力の低下により、過剰な性行動の抑制不能、金銭感覚異常といった危険な行動につながります。この障害のもう一方の相をあらわすのはうつ病症状です(大うつ病の解説をご参照ください)。双極性障害は再発性、循環性の疾患で、世界的有病率は1~5%の間にあります42, 52。女性は男性に比べてかなり発症率が高く、強い遺伝要素があるとも考えられています。双極性障害患者の70%~90%は、薬物療法を持続した場合でも4~5年内に再発します。従って、さらに効果的な新しい薬物治療が切望されています25

1970年代以来、リチウム塩は双極性障害に対する、最初に試みられる治療法となっています。リチウム療法は、健常者において目立った行動的影響を与えませんが、患者の約60%~80%に再発防止の効果があります13。通常、リチウムはクロザピンリスペリドン、オランザピンのような抗精神病薬との併用で急性躁病エピソードの治療に使用されます。一旦気分が安定化したら、その後のエピソードの重症度を軽減または防止するためにリチウムを維持療法として継続します。リチウムは治療指数が低いので、リチウムの血中レベルを慎重にモニタリングして毒性を回避しなくてはなりません。副作用は振戦、線維束攣 縮、多飲症、多尿症から中度の毒性症状(眩暈、筋力低下、嘔吐、頭痛、発語障害)、あるいは重度の中毒徴候(運動失調、昏迷、心不整脈、発作)までさまざまです。また、リチウムの長期療法は甲状腺機能の低下、座瘡、乾癬、腎毒性を伴います。このようにリチウムには短期的、あるいは長期的な副作用や、潜在的なリチウム中毒の危険が伴うため、より許容性に優れた双極性障害治療薬の探索が進められました。

近年、多くの抗けいれん薬が気分安定薬として有効性を示すことがわかってきました。双極性障害に最も頻用されるのはカルバマゼピンバルプロエートですが、ラモトリジン、ガバペンチンも治療法の選択肢に上がっています。リチウムと抗けいれん薬、またはリチウムと抗精神病薬の併用は、どちらかの単独処方と比較して双極性障害の躁病相に大きな改善をもたらします53, 54

現在の研究トレンド

双極性障害の神経化学的根拠を説明する広く認められている仮説は、まだありません。同様に、気分安定薬としてのリチウムと抗けいれん薬の使用に伴う作用メカニズムも、その多くは依然として不明です。リチウムが神経終末において脱分極誘起性のカルシウム依存性ドーパミンノルエピネフリン放出を阻害することを立証した研究があり、それはまた、セロトニン放出を過渡的に促進している可能性があります。さらに、リチウムはイノシトールモノホスファターゼを阻害してホスファチジルイノシトール経路を妨害しますが、この作用が双極性障害の効能に与える影響は明確ではありません25。また、プロテインキナーゼC(PKC)の発現もリチウムの影響を受けるとみられています。具体的に、ラットの前頭皮質と海馬ではリチウムの慢性投与によりα-およびε-PKCアイソザイムの発現が低下します。PKCの主な基質タンパク質であるMARCKSの発現も、リチウムによって低下します55, 56。Wntとその主たる酵素であるGSK-3β(グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β)などを含め、細胞生存と細胞死の調節にかかわるシグナル伝達経路も、リチウムとバルプロエートの長期療法の間接的なターゲットであると思われます57, 58。PKCとGSK-3βの選択的インヒビターは双極性障害の治療に実用できるかもしれません。CREB、BDNFBcl-2、MAPキナーゼが活性を発揮する経路も、薬物標的として関連付けられています。

現在、双極性障害の治療用として既存薬物の有効性の評価に重点を置いる研究もあります。例えば、片頭痛薬として広く使用されている5-HT1B/1Dセロトニンレセプターアゴニストのスマトリプタンは現在検討中の薬剤です59。同様に、ゾニサミド、ガバペンチン、オキシカルバゼピン、チアガビン、トピラメート、プレガバリン、ラモトリジンといった各種抗てんかん薬や、DP-VPA103、TV-1901102のようなバルプロエートのアナログも試験中です60-62

 

製品リスト

 

参考文献

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