糖尿病と肥満

糖尿病

 

糖尿病は高血糖値(高血糖症)が特徴であり、インスリン作用の低下とともに膵臓のインスリン分泌の減少によって引き起こされる病状です1, 2。この疾患は二種類に分類され、それぞれ1型、2型と呼ばれています2, 31型糖尿病(若年発症糖尿病あるいはインスリン依存性糖尿病)はあまりみられないタイプで、インスリンを産生する自己の膵島細胞に対する抗体が体内で産生され、それらの細胞が破壊されるという自己免疫疾患です2, 4。この疾病の患者は概して痩身で十分にインスリンを産生することができず、ケトーシスとして知られる代謝失調の傾向があります22型糖尿病(成人発症糖尿病あるいは非インスリン依存性糖尿病)は、インスリン作用に対する抵抗性とインスリン分泌が変化した結果生じます2, 4。ここでは主に2型糖尿病についての研究をご紹介します。

2型糖尿病は全糖尿病の90~95%を占め、世界的な患者数は1億5000万人を示しており、2010年には2億2500万人、2025年には3億人まで増加すると予測されています2-6。この驚異的な伸び率は、主に体重超過や肥満者数の大規模な増加から予想されます。肥満は2型糖尿病にともなう消耗性の病状の主な原因です4。2型糖尿病は米国の年間医療費の1000億ドル以上を占めています2。一般に、糖尿病に関連した合併症を治療する医療費が高額なために、糖尿病患者は非糖尿病患者の処置に比べて2倍以上の費用がかかります。西欧諸国では、糖尿病治療のための費用が既に国家医療総予算の2~7%に相当しています5。2型糖尿病に伴う長期的な合併症は、失明、腎不全、神経損傷(ニューロパシー、神経障害)の主たる要因となっています2, 3, 7。また、アテローム性動脈硬化発病の促進ならびに心筋梗塞、脳卒中、四肢喪の危険増加を伴います7, 8。さらに憂慮されるのは、従来、2型糖尿病は成人のみにみられていましたが、2型糖尿病と診断される幼児・青少年数が増加していることです2, 5, 9, 10

2型糖尿病の原因についてはいま様々な議論がなされています。地理的にみると他の地域より多く発症している人口集団があり、近年ではアジア系インド人、中国人、日本人、先住系オーストラリア人、スペイン系アメリカ人、アフリカ系アメリカ人の間で発生率が増加していますが2、ヨーロッパ系の人々で予想外に増加がみられないのは驚くべき謎です2。遺伝的には、2型糖尿病と診断される一卵性双生児両者の有病率は100%ですが、二卵性双生児か、双子以外の兄弟姉妹の場合はわずか20%です2。環境要因や生活習慣の影響も重要な要素です。Zimmetの説を要約すると、”2型糖尿病は・・・高度の遺伝的感受性をもった人々に見られる最も有病率の高い生活習慣病であり、生活様式に伴った環境要因がこの疾患の正体を暴露する”・・・・・・・”主としてカロリーの高摂取と運動量の低下”であると記述しています2。”倹約遺伝子”説は、ある遺伝子が食物を効率よく活用し、脂肪沈着と体重増加を促進して飢餓の時代から身を守っているという役割によって、生物進化に寄与しています2。そうであれば、食物が豊富で容易に得られ、それを獲得すべく必要なエネルギー消費がほとんどない社会では、これらの遺伝子が肥満や糖尿病を促進するだけです。多くの人々が身に付けているこの種の生活様式は、時として”コカ・コロナイゼーション”(コカ・コーラの世界進出)と称されます2, 11, 13

2型糖尿病では、細胞はインスリン抵抗性になります。その結果生じる病態生理には、細胞シグナリング経路の複雑なネットワークが関与していますが、それはインスリンがインスリンレセプターに結合することで始まり、インスリン作用に対する抵抗性を生じるその他のシグナル伝達の事象が含まれています。

 

【インスリンシグナル伝達経路】

アナボリックペプチドホルモンであるインスリンは、膵島β-細胞により産生されます。グルコースの腸管吸収、肝臓産生および細胞取り込みと、末梢組織における代謝の相互間のバランスを維持することにより、血漿グルコースの重要な調節因子として働いています。インスリンは脂肪、筋、肝臓における糖質、脂質、タンパク質の合成と貯蔵を制御し、それらの分解と血中への放出を阻害します15, 16

インスリンレセプター(IR)インスリン様成長因子(IGF)-Ⅰインスリンレセプター関連レセプター(IRR)を含むレセプター型チロシンキナーゼ(RTK)のサブファミリーに入ります。IRは二つのαサブユニット(135kD)と二つのβサブユニット(95kD)で構成される糖タンパク質です。αサブユニットは細胞膜の外側に存在し、ジスルフィド結合によって形質膜に組込まれたβサブユニットと結合しています。インスリンはIR表面に結合して作用し、それによりレセプターが有するチロシンキナーゼ活性が作動します。この結果レセプターの自己リン酸化と複数の基質のリン酸化が起こり、四種類のインスリンレセプタータンパク質(IRS-1, IRS-2, IRS-3, IRS-4)やShcGrb2、p60dokCblなど下流にある多くのシグナリング分子の結合に必要なドッキング部位が次々と与えられます16。これらのタンパク質の結合は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)カスケードやその他プロテインセリン/スレオニンキナーゼ(Akt, GSK-3, mTOR, PKC)、ホスホイノシチド-3キナーゼ(PI3K)を含むさらに下流のシグナリング分子の活性化を導きます15-18。IRとその基質のセリン部位がプロテインチロシンホスファターゼにより脱リン酸化されると、さらなるインスリンシグナルの調節が起こります4, 16

2 型糖尿病の筋、脂肪、肝臓組織ではインスリン感受性の減弱がみられ、それはやがてインスリン抵抗性を引き起こします。従って、インスリンシグナリングの下流に起こる事象は有力な抗糖尿病薬の標的であり、以下のPI3K(ホスホイノシチド-3キナーゼ)、セリン/スレオニンキナーゼPKB/Akt、PTEN、PKC(プロテインキナーゼC)、GSK-3(グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3)もターゲット分子として浮上しています。

  1. PI3K

    PI3K(ホスホイノシチド-3キナーゼ)ホスホイノシチド-3キナーゼの活性化は、グルコース取り込みやグリコーゲン合成の増進など、インスリンが介在する代謝作用において必須です18。低分子物質によるPI3Kの阻害、またはドミナントネガティブなPI3Kの過剰発現により、グルコース輸送やグリコーゲン・脂質合成を含むインスリン誘導性の代謝機能の低下が認められます18-20。PI3Kはp110触媒サブユニットと二つのSH2ドメインを含むp85調節サブユニットから構成されており、SH2ドメインはIRSのチロシンリン酸化pYMXM、pYXXMモチーフと相互作用します16, 21。リン酸化されたIRSは、p85サブユニットのSH2ドメインとの結合によりPI3Kヘテロダイマー(p85/p110)とドッキングします。IRSの結合によりPI3Kの活性化とホスファチジルイノシトール3,4,5-三リン酸(セリン/スレオニンキナーゼカスケードのPDK1-PKB/Akt-p70 S6キナーゼを刺激する脂質セカンドメッセンジャー)の産生がおこり、細胞質から形質膜へこれらのキナーゼが特異的に補充されます18。形質膜に結合するとAktにコンホメーション変化が生じ、それがセリン/スレオニンキナーゼPDK1によるAktのリン酸化を可能にして、結果、Aktは完全な活性化状態になります18

  2. セリン/スレオニンキナーゼ PKB/Akt

    セリン/スレオニンキナーゼPKB/Aktはグルコーストランスポーター-4(GLUT4)複合体、プロテインキナーゼC(PKC)アイソフォーム、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK-3)、p70 S6キナーゼの成分を調節、リン酸化することが知られています18。PKB/AktはGLUT4のトランスロケーション、グリコーゲン合成、タンパク質合成を支配するインスリン作用の中心となっています。p70 S6キナーゼはインスリンの成長促進作用の重要な調節因子です18PKB β欠損マウスは高血糖、血中インスリンレベルの上昇、肝臓と多少、筋においてもインスリン抵抗性を示します19

  3. PTEN

    ホスファターゼPTEN(phosphatase and tensin homolog deleted on chromosome ten)はホスホチロシンあるいはホスホスレオニン含有基質を脱リン酸化します19, 22。PIP3の主なホスファターゼでもあり、インスリンシグナル伝達における負の調節が認められています。インスリンが引き起こすPI(3,4)P2 (PIP2)およびPI(3,4,5)P3 (PIP3)の産生とAktの活性化は細胞のPTEN過剰発現によって抑制されます18。抗PTEN抗体のマイクロインジェクションでは、インスリン刺激による場合は勿論、基礎レベルでのGLUT4トランスロケーションが増進されました18in vivoにおいてPTEN mRNAのアンチセンスオリゴヌクレオチドで処理したdb/dbマウスでは、血漿グルコースの正常化が認められました18。マウス肝臓におけるPTENの欠失は、脂肪酸合成の亢進とともに、肝臓インスリン作用が増強し、全身的な耐糖能の改善が確認されました23

  4. PKC(プロテインキナーゼC)

    プロテインキナーゼC(PKC)アイソフォーム群は様々な細胞内標的タンパク質をリン酸化し、シグナル伝達を介した細胞調節において多彩な機能を発揮します。合計12のアイソフォーム(α, β1, βII, γ, δ, ε, η, θ, μ, ζ, ι/λ, ν)がクローニングされて特定されており24、多くはホスファチジルセリンの存在下で 1,2-ジアシルグリセロール(DAG)により活性化されます18, 24。PKCのアイソフォームは集団的にもインスリンレセプターをリン酸化し、IRS-1のようなIRSタンパク質のセリンリン酸化を促進することによりインスリンシグナルを阻害することがわかっています18。PKCの活性化は、in vivoにおいて哺乳類とヒトのインスリンレセプター自己リン酸化の低下と関連付けられています18。PKC活性の増加と並んで、DAGレベルの上昇が糖尿病動物の脈管構造など非神経性組織で観察されています25, 26。PKCβ選択的なインヒビターのLY 333531によって、βアイソフォームと複数の糖尿病性合併症の発症が関連付けられており18, 25, 27, 28、PKCβの阻害により糖尿病ラットの神経血流と神経伝導速度が改善されます25。また、PKCβは糖尿病性腎症の予防におけるターゲットですが27, 28、これは末期腎不全の主たる原因で、糖尿病治療の総費用に対して世界的に最も大きく影響しています27ストレプトゾトシン(STZ)ラット、レプチンレセプターdb/db(Leprdb/db)マウス、STZ-Ren 2ラットのような糖尿病動物モデルでは、選択的PKCβインヒビターで処理すると、糸球体過剰濾過の改善と尿中アルブミン排泄量の低下がみられます28

  5. GSK-3(グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3)

    グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3(GSK-3)はセリン/スレオニンプロテインキナーゼであり、αおよびβとよばれる二種類のアイソザイムとして存在します。両アイソザイムの触媒ドメイン(ATP結合部位)は90%前後のホモロジーがありますが、GSK-3αのN末端領域には約60アミノ酸残基の追加があります。アイソザイム間の機能的な違いはまだ立証されていません29。GSK-3はPKB/Aktに対する主な生理的基質で、GSK-3の活性は成長因子の刺激に応答したPKB/Aktによるリン酸化によって阻害されます29-31。インスリンおよび神経成長因子(NGF)グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)のようなある種の成長因子は、PI3Kとその下流エフェクターであるPKBを活性化し、順にリン酸化がおこってGSK-3を不活性化します。GSK-3を抑制すると、骨格筋グリコーゲン合成32、神経細胞の生存30のほかインスリン抵抗性細胞でさえグリコーゲン合成を増加させ高血糖を緩和する31, 32など、GSK-3が制御する複数の細胞過程が調節されます。

     

【プロテインチロシンホスファターゼ(PTP)】

プロテインチロシンホスファターゼ群(PTPs)は、PTPαPTPε33PTP-LAR34, 35PTP1B36, 37SHIP-238などを含めインスリンシグナル伝達の負の調節因子とみられています。PTP群はIRとIRSタンパク質をともに脱リン酸化することが知られており、PTP1Bは、IRとIRSタンパク質両方からリン酸化チロシンを脱リン酸化します39。最近、PTP1Bノックアウトマウスが開発されて、PTP1Bがインスリンシグナル伝達の重要な調節因子であるという証拠が与えられました。PTP1Bを欠乏したマウスは、インスリン感受性と肥満抵抗性の増大を示しました40。脂肪組織や骨格筋を含む多くの組織でPTP1Bが発現していますが、不思議なことに、PTP1Bノックアウトマウスにおいてグルコース取り込みの増加は骨格筋に限定されていました41。この理由は不明ですが、PTP1Bの機能はおそらく細胞の種類に依存していると指摘されています。PTP1Bのアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて、インスリンレセプターシグナリングとグルコース恒常性に中心的役割を果たしていることが確認され42、糖尿病治療における有力な治療薬としてPTP1Bインヒビターの使用が脚光を浴びています。

学術系の研究グループは勿論、多くのバイオ企業、製薬会社が、動物モデルで効果を示したPTP1Bの選択的な化学インヒビターを開発しています。異なった種類の化学インヒビターが複数開発されており、それらの誘導体はさらに優れた糖尿病の治療法をもたらすかもしれません。Burkeらのグループは43-45、偽リン酸化物としてジフルオロメチレンホスホン酸の使用を先駆けて行いました。ストラクチャーベースドラッグデザイン(SBDD)により開発された偽リン酸化物のオキサリルアミノ安息香酸の修飾体もまた、多くのPTP1Bインヒビターを生み出しました46, 47。その他多くのPTP1B選択的化学インヒビターが肥満治療の有力なリード化合物として報告されており48-52、PTP1Bインヒビターの治療的可能性に関して、最近の三つの総説にさらに詳細な情報が記述されています53-55。この他に、糖尿病マウスにおいて血糖値の正常化が認められたPTP1Bアンチセンスオリゴヌクレオチドを、ヒトの治療法に使用できる可能性があります42 。これらの化合物のうちいくつかの誘導体は現在臨床開発中です。

  1. SHIP-2

    脂質ホスファターゼSHIP-2(SH-2-containing inositol 5'-phosphatase 2)は、インスリンシグナル伝達の負の調節でPI3Kの生成物PI(3,4,5)P3をPI(3,4)P2へと加水分解します56。SHIP-2は糖尿病db/dbマウスの骨格筋と脂肪組織でレベル上昇を示し、これらの動物モデルではSHIP-2の発現増加によって、インスリンが活性化するPI3K経路の下流効果に減少が認められています56。インスリン抵抗性改善薬でPPARγアゴニストのロシグリタゾンによる処理で、db/dbマウスの骨格筋と脂肪組織におけるSHIP-2の発現増加が低減されています56

 

【PPARγ(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体)】

ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPARs)は核レセプターファミリーの一つで、食餌性脂肪の貯蔵と異化作用を制御する役割を果たしています57-60。PPARの三種類のサブタイプ(αδγ)は脂肪酸とその代謝物に結合し、細胞内でこれらの分子の輸送、代謝、緩衝に関与する遺伝子の発現を調節します。PPARγアゴニスト類は有効な抗糖尿病薬であり、総称グリタゾンとして市販されている糖尿病薬の新しい薬物群です。PPARγアゴニストはアテローム性動脈硬化やガンのような他の病態治療においても治療的に有用性があります57。2型糖尿病の治療は、PPARγアゴニストにおいて最も広く研究されている使用法です。PPARγアゴニストは、2型糖尿病患者の血漿グルコース、脂質、インスリンレベルを低下させます61, 62。グリタゾン系薬は骨格筋のグルコース利用率を改善することがわかっていますが、主として脂肪組織で発現するレセプターが筋組織のグルコース代謝をどのようにして改善できるのか?という相反した問題が提起されています。その上、肥満が2型糖尿病進行の大きな危険因子であるとすると、脂肪細胞の分化を促進するレセプターが糖尿病の有効なターゲットだというのは理解に反しているように思えます。これにはいくつか仮説があります。第一は、脂肪細胞におけるPPARγの活性化がインスリン抵抗性に影響を与えるTNFαレプチンのようなエンドクリンのシグナル分子の分泌を抑制しているという説です63。第二は、PPARγアゴニストは血中の遊離脂肪酸濃度を低下させ、それにより炭水化物と脂肪の代謝を結ぶ経路(Randleのglucose-fatty acid cycle説)が回転して、間接的にグルコースレベルに影響を与えるというものです73。加えて、齧歯類ではPPARγの活性化によって小型脂肪細胞数の増加と同時に大型脂肪細胞数の減少が認められています74, 75

一般に小型の脂肪細胞はインスリン感受性が高く多くのグルコース利用があり、大型脂肪細胞と比較して脂肪分解率が低くなります。インスリン抵抗性ZDFラットでは、PPARγアゴニスト処理によって脂肪組織の脂質生成と脂肪酸の輸送、貯蔵および酸化にかかわる多数の遺伝子の発現が増加します76。これに対し、骨格筋では同じ脂肪酸代謝系遺伝子の多くの発現が低下します。肝臓では糖新生に必要な遺伝子発現の低下がおこります。これは、PPARγアゴニストが筋組織から離れて脂肪組織中のグルコースと脂肪酸の流量を促進し、最終結果として筋におけるグルコース利用を増加させ、肝臓糖新生を減少させるということと一致します。最後に、脂肪組織よりかなり低いレベルですが、PPARγは骨格筋と肝臓にも発現しています77, 78。従って、PPARγアゴニストの抗糖尿病作用の中には筋と肝臓のレセプターの活性化に由来するものがある、と言えるかもしれません。

 

【JNK Kinase(Jun-N末端キナーゼ)】

Jun-N末端キナーゼ(JNK Kinase)はストレス活性化プロテインキナーゼで、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)ファミリーの一つです。79遊離脂肪酸(FFA)、サイトカイン、マイトジェン、浸透圧ストレス、UV照射を含む様々な刺激により活性化されると、JNKは細胞増殖、細胞ストレス応答、アポトーシス性細胞死の調節に関与する種々の転写因子や細胞のタンパク質をリン酸化します79, 80。最近の遺伝的証拠と薬理データから、活性化JNKはおそらく、2型糖尿病、インスリン抵抗性、肥満の一因であると示唆されています80。インスリンレセプター(IR)とインスリンレセプター基質(IRS)に関する最近の研究では、IRSの特定のセリン部位のリン酸化がインスリンシグナリングを阻害し、インスリン抵抗性を促進すると指摘されています79。IRSタンパク質にはJNKのドッキングドメインへの結合部位があり、in vitroにおいてJNKによるIRS1のSer307のリン酸化が確認されました79。肥満の動物モデルでJNK活性の異常な上昇が認められ81、遺伝性(ob/ob)および食餌性肥満マウスにおけるJNK1の不活性化はインスリン感受性の改善とインスリンレセプターシグナルの増加を示しました。これは、JNKがインスリン抵抗性を防止するためのターゲットであることを示唆しています79, 81。また、JNKは低分子インヒビターの治療標的になっています。そのような分子の一つであるCS105は、糖尿病と肥満のレプチンレセプター欠損モデル(db/dbマウス)に経口投与した場合、血漿インスリンの増加と、経口グルコース負荷に反応したグルコース調節の改善が認められました80。炎症誘発性サイトカインの腫瘍壊死因子-α(TNF-α)もJNKシグナル伝達経路を活性化して80、IRSのセリンリン酸化を増強するとともにチロシンリン酸化レベルを減少させて、インスリンシグナルを抑制します80

【要約】

近年、2型糖尿病の病態生理の原因となるタンパク質やシグナル伝達経路の基本的な理解が飛躍的に進んでいます。そのようにして、本文で取り上げたターゲットとともに疾患をモニタリングする有力な臨床マーカーや新たな薬物標的が、我々共通の知識基盤に次々と加わっています。これらをもとにその一つ、あるいはより多くが治療介入の新たな方法を導くと期待されます。さらに、2型糖尿病の環境的・遺伝的基礎である多因子性の本質は特異的遺伝マーカーの同定につながり、それは患者別の亜型や疾患進行の危険性に対し特異的に設計された、より選択的な治療法をもたらすでしょう。

 

【参考文献】

  1. Bell, G.I. and Polonsky, K.S., Diabetes mellitus and genetically programmed defects in beta-cell function., Nature, 414, 788-791 (2001).
  2. Diamond, J., The double puzzle of diabetes., Nature, 423, 599-602 (2003).
  3. Hirsch, I.B., The changing faces of diabetes., Prim. Care,. 30, 499-510 (2003).
  4. Moller, D.E., et al., New drug targets for type 2 diabetes and the metabolic syndrome., Nature, 414, 821-827 (2001).
  5. Zimmet, P., The burden of type 2 diabetes: Are we doing enough?, Diabetes Metab., 29, (4 Pt 2):6S9-18 (2003).
  6. Quinn, L., Type 2 diabetes: epidemiology, pathophysiology, and diagnosis., Nurs. Clin. North Am., 36, 175-192 (2001).
  7. Kanaya, A.M. and Narayan, K.M., Prevention of type 2 diabetes: Data from recent trials., Prim. Care, 30, 511-526 (2003).
  8. Brownlee, M. Biochemistry and molecular cell biology of diabetic complications., Nature, 414, 813-820 (2001).
  9. Gahagan, S., et al., Prevention and treatment of type 2 diabetes mellitus in children, with special emphasis on American Indian and Alaska Native children. American Academy of Pediatrics Committee on Native American Child Health Pediatrics, 112, e328 (2003).
  10. Wei, J.N., et al., National surveillance for type 2 diabetes mellitus inTaiwanese children., JAMA, 290, 1345-1350 (2003).
  11. Zimmet, P. in The Medical Challenge: Complex Traits (eds Fischer, E. &Moller, G.) 55-110 (Piper, Munich, 1997).
  12. Santeusanio, F., et al., Diabetes and exercise., J. Endocrinol Invest, 26, 937-940 (2003).
  13. Zimmet, P., J. Intern. Med., 247, 301-310 (2000).
  14. Willi, S.M., et al., Treatment of type 2 diabetes in childhood using a very low-calorie diet., Diabetes Care, 27, 348-353 (2004).
  15. Pirola, L., el al., Modulation of insulin action., Diabetologia, 47, 170-184 (2004).
  16. Saltiel, A.R. and Kahn, R., Insulin signalling and the regulation of glucose and lipid metabolism., Nature, 414, 799-806 (2001).
  17. Harris, T.E. and Lawrence, J.C., Jr., TOR signaling., Sci. STKE 212, re15, 1-17 (2003).
  18. Jiang, G. and Zhang, B.B., PI 3-kinase and its up- and down-stream modulators as potential targets for the treatment of type II diabetes., Front. Biosci,. 7, d903-d917 (2002).
  19. Lawlor, M.A. and Alessi, D.R., PKB/Akt: a key mediator of cell proliferation, survival and insulin response?, J. Cell Sci., 114, 2903-2910 (2001).
  20. Shepherd, P.R., et al., Insulin stimulation of glycogen synthesis and glycogensynthase activity is blocked by wortmannin and rapamycin in 3T3-L1 adipocytes: evidence for the involvement of phosphoinositide 3-kinase and p70 ribosomal protein-S6 kinase., Biochem. J, 305, 25-28 (1995).
  21. Pirola, L., et al., Phosphoinositide 3-kinase-mediated reduction of insulin receptor substrate-1/2 protein expression via different mechanisms contributes to the insulin-induced desensitization of its signaling pathways in L6 muscle cells., J. Biol. Chem., 278, 15641-15651 (2003).
  22. Su, H., et al., PTEN modulates cell cycle progression and cell survival by regulating phosphatidylinositol 3,4,5,-trisphosphate and Akt/protein kinase B signaling pathway., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 6199-6204 (1999).
  23. Stiles, B., et al., Live-specific deletion of negative regulator Pten results in fatty liver and insulin hypersensitivity., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 101, 2082-2087 (2004).
  24. Webb, B.L.J., et al., Protein kinase C isozymes: A review of their structure, regulation and role in regulating airways smooth muscle tone and mitogenesis., Br. J. Pharmacol., 130, 1433-1452 (2000).
  25. Eichberg, J., Protein kinase C changes in diabetes: is the concept relevant to neuropathy? Int. Rev. Neurobiol., 50, 61-82 (2002).
  26. Curtis, T.M. and Scholfield, C.N. The role of lipids and protein kinase Cs in the pathogenesis of diabetic retinopathy., Diabetes Metab. Res. Rev., 20, 28-43 (2004).
  27. Chiarelli, F., et al., Kidney involvement and disease in patients with diabetes., Panminerva Med., 45, 23-41 (2003).
  28. Tuttle, K.R. and Anderson, P.W., A novel potential therapy for diabetic nephropathy and vascular complications: Protein kinase C beta inhibition., Am. J. Kidney Dis., 42, 456-465 (2003).
  29. Smith, D.G., et al., 3-Anilino-4-arylmaleimides: potent and selective inhibitors of glycogen synthase kinase-3 (GSK-3)., Bioorg. Med. Chem. Lett., 11, 635-639 (2001).
  30. Cross, D.A., et al., Selective small-molecule inhibitors of glycogen synthase kinase-3 activity protect primary neurones from death., J. Neurochem., 77, 94-102 (2001).
  31. Coghlan, M.P., et al., Selective small molecule inhibitors of glycogen synthase kinase-3 modulate glycogen metabolism and gene transcription., Chem. Biol., 7, 793-803 (2000).
  32. Lochhead, P.A., et al., Inhibition of GSK-3 selectively reduces glucose-6-phosphatase and phosphatase and phosphoenolypyruvate carboxykinase gene expression., Diabetes, 50, 937-946 (2001).
  33. Moller, N.P., et al., Selective down-regulation of the insulin receptor signal by protein-tyrosine phosphatases alpha and epsilon., J. Biol. Chem., 270, 23126-23131 (1995).
  34. Kulas, D.T., et al., Insulin receptor signaling is augmented by antisense inhibition of the protein tyrosine phosphatase LAR., J. Biol. Chem., 270, 2435-2438 (1995).
  35. Ahmad, F. and Goldstein, B.J. Functional association between the insulin receptor and the transmembrane protein-tyrosine phosphatase LAR in intact cells., J. Biol. Chem., 273, 448-457 (1997).
  36. Byon, J.C., et al., Protein-tyrosine phosphatase-1B acts as a negative regulator of insulin signal transduction., Mol. Cell. Biochem., 182, 101-108 (1998).
  37. Kenner, K.A., et al., Protein-tyrosine phosphatase 1B is a negative regulator of insulin- and insulin-like growth factor-I-stimulated signaling., J. Biol. Chem., 271, 19810-19819 (1996).
  38. Marion, E., et al., The gene INPPL1, encoding the lipid phosphatase SHIP2, is a candidate for type 2 diabetes in rat and man., Diabetes, 51, 2012-2017 (2002).
  39. Xie, L., et al., Cellular effects of small molecule PTP1B inhibitors on insulin signaling., Biochemistry, 42, 12792-12804 (2003).
  40. Elchebly, M., et al., Increased insulin sensitivity and obesity resistance in mice lacking the protein tyrosine phosphatase-1B gene., Science, 283, 1423-1426 (1999).
  41. Klaman, L.D., et al., Increased energy expenditure, decreased adiposity, and tissue-specific insulin sensitivity in protein-tyrosine phosphatase 1B-deficient mice., Mol. Cell. Biol., 20, 5479-5489 (2000).
  42. Zinker, B.A., et al., PTP1B antisense oligonucleotide lowers PTP1B protein, normalizes blood glucose, and improves insulin sensitivity in diabetic mice., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99, 11357-11362 (2002).
  43. Burke, T.R., et al., Potent inhibition of insulin receptor dephosphorylation by a hexamer peptide containing the phosphotyrosyl mimetic F2Pmp., Biochem. Biophys. Res. Comm., 204, 129-134 (1994).
  44. Burke T.R., et al., Enantioselective synthesis of nonphosphorus-containing phosphotyrosyl mimetics and their use in the preparation of tyrosine phosphatase inhibitory peptides., Tetrahedron, 54, 9981-9994 (1998).
  45. Burke, T.R., et al., Small molecule interactions with protein-tyrosine phosphatase PTP1B and their use in inhibitor design., Biochemistry, 35, 15989-15996 (1996).
  46. Andersen, H.S., et al., 2-(oxalylamino)-benzoic acid is a general, competitive inhibitor of protein-tyrosine phosphatases., J. Biol. Chem., 275, 7101-7108 (2000).
  47. Andersen, H.S., et al., Discovery and SAR of a novel selective and orally bioavailable nonpeptide classical competitive inhibitor class of proteintyrosine phosphatase 1B., J. Med. Chem., 45, 4443-4459 (2002).
  48. Larsen, S.D., et al., Synthesis and biological activity of a novel class of small molecular weight peptidomimetic competitive inhibitors of protein tyrosine phosphatase 1B., J. Med. Chem., 45, 598-622 (2002).
  49. Malamas, M.S., et al., Novel benzofuran and benzothiophene biphenyls as inhibitors of protein tyrosine phosphatase 1B with antihyperglycemic properties., J. Med. Chem., 43, 1293-1310 (2000).
  50. Desmarais, S., et al., [Difluro(phosphono)methyl]phenylalanine-containing peptide inhibitors of protein tyrosine phosphatases., Biochem. J., 337, 219-223 (1999).
  51. Puius ,Y.A., et al., Identification of a second aryl phosphate-binding site in protein-tyrosine phosphatase 1B: a paradigm for inhibitor design., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 13420-13425 (1997).
  52. Sarmiento, M., et al., Structure-based discovery of small molecule inhibitors targeted to protein tyrosine phosphatase 1B., J. Med. Chem., 43, 146-155 (2000).
  53. Zhang, Z.Y., 53. Protein tyrosine phosphatases: prospects for therapeutics., Curr. Opin. Chem. Biol., 5, 416-423 (2001).
  54. Johnson, T.O., et al., Protein tyrosine phosphatase 1B inhibitors for diabetes., Nat. Rev. Drug Discov., 1, 696-709 (2002).
  55. Van Huijsduijnen, R.H., et al., Selecting protein tyrosine phosphatases as drug targets., Drug Discov. Today, 7, 1013-1019 (2002).
  56. Hori, H., et al., Association of SH2-containing inositol phosphatase 2 with the insulin resistance of diabetic db/db mice., Diabetes, 51, 2387-2394 (2002).
  57. Willson, T.M. et al., The PPARs: From Orphan Receptors to Drug Discovery., J. Med. Chem., 43, 527-550 (2000).
  58. Kersten, S. and Wahli, W., New Approaches to Drug Development, P. Jolles, Ed. Birkhauser Verlag, Switzerland (2000).
  59. Jones, A.B., Peroxisome proliferator-activated receptor (PPAR) modulators: diabetes and beyond., Med. Res. Rev., 21, 540-552 (2001).
  60. Winegar, D.A., et al., Curr. Opin. Card. Pulm. Renal Invest. Drugs, 2, 233-243 (2000).
  61. Grossman, S.L. and Lessem, J., Mechanisms and clinical effects of thiazolidinediones., Expert Opin. Investig. Drugs, 6, 1025-1040 (1997).
  62. Ikeda, H. et al., Effects of pioglitazone on glucose and lipid metabolism in normal and insulin resistant animals., Arzneim.-Forsch., 40, 156-162 (1990).
  63. Hallakou, S. et al., Pioglitazone-induced increase of insulin sensitivity in the muscles of the obese Zucker fa/fa rat cannot be explained by local adipocyte differentiation., Diabetologia, 41, 963-968 (1998).
  64. Cooney, G.L., et al., Improved glucose homeostasis and enhanced insulin signalling in Grb14-deficient mice., EMBO J., 23, 582-593 (2004).
  65. Spranger, J., et al., Adiponectin and protection against type 2 diabetes mellitus., Lancet, 36, 226-228 (2003).
  66. Weyer, C., et al., Hypoadiponectinemia in obesity and type 2 diabetes: Dose association with insulin resistance and hyperinsulinemia., J. Clin. Endocrinol. Metab., 86, 1930-1935 (2001).
  67. Pankow, J.S., et al., Fasting plasma free fatty acids and risk of type 2 diabetes: The atherosclerosis risk in communities study., Diabetes Care, 27, 77-82 (2004).
  68. Pilon, G., et al., Inhibition of inducible nitric oxide synthase by activators of AMP-activated protein kinase: A new mechanism of action of insulin-sensitizing drugs., J. Biol. Chem. Feb 25, in press (2004).
  69. Stulnig, T.M. and Waldhausl, W., 11beta-Hydroxysteroid dehydrogenase Type 1 in obesity and Type 2 diabetes., Diabetologia, 47, 1-11 Epub Dec 03 (2003).
  70. Subauste A. and Burant, C.F., DGAT: Novel therapeutic target for obesity and type 2 diabetes mellitus., Curr. Drug Targets Immune. Endocr. Metabol. Disord., 3, 263-270 (2003).
  71. Sheu, L., et al., Regulation of insulin exocytosis by Munc13-1., J. Biol. Chem., 278, 27556-27563 (2003).
  72. Hu, F.B., et al., Inflammatory markers and risk of developing type 2 diabetes in women., Diabetes, 53, 693-700 (2004).
  73. Randle, P.J., Regulatory interactions between lipids and carbohydrates: the glucose fatty acid cycle after 35 years., Diabetes Metab. Rev., 14, 263-283 (1998).
  74. Hallakou, S. et al., Pioglitazone induces in vivo adipocyte differentiation in the obese Zucker fa/fa rat., Diabetes, 46, 1393-1399 (1999).
  75. Okuno, A. et al., Troglitazone increases the number of small adipocytes without the change of white adipose tissue mass in obese Zucker rats., J. Clin. Invest., 101, 1354-1361 (1998).
  76. Way, J.M. et al., Comprehensive messenger ribonucleic acid profiling reveals that peroxisome proliferator-activated receptor gamma activation has coordinate effects on gene expression in multiple insulin-sensitive tissues., Endocrinology, 142, 1269-1277 (2001).
  77. Vidal-Puig, A. et al., Regulation of PPAR gamma gene expression by nutrition and obesity in rodents., J. Clin. Invest., 97, 2553-2561 (1996).
  78. Vidal-Puig, A. et al., Peroxisome proliferator-activated receptor gene expression in human tissues. Effects of obesity, weight loss, and regulation by insulin and glucocorticoids., J. Clin. Invest., 99, 2416-2422 (1997).
  79. Manning, A.M. and Davis, R.J., Targeting JNK for therapeutic benefit: from junk to gold?, Nat. Rev. Drug Discov., 2, 554-565 (2003).
  80. Bennett, B.L, et al., JNK: A new therapeutic target for diabetes., Curr. Opin. Pharmacol., 3, 420-425 (2003).
  81. Hirosumi, J., et al., A central role for JNK in obesity and insulin resistance., Nature 420, 333-336 (2002).

 

おすすめ お役立ちツール

Sigma News

キャンペーンや製品情報をお届けするメールニュース(配信登録はこちらから

  • PDFカタログをダウンロードすることができます。
  • 製品検索には、「製品名・製品番号・CAS番号など」、もしくは「製品カテゴリ」の方法があります(製品検索方法)。
  • 規格書やSDS(安全性データシート)、ロットごとの分析表のほかに、日本円価格、国内在庫情報も確認することができます(製品情報の見方)。