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糖尿病と肥満

肥満

 

肥満は過剰な体脂肪の蓄積に伴う長期の疾患です。この病気は先進諸国の多くに蔓延しています。米国では、国立健康統計センター(NCHS)が身長と体重の比率から計算される肥満度指数(BMI)の定義で成人の60%以上が体重超過、30%以上が肥満体と推定しています1。世界的には、肥満率は1980年以来75%以上増加しました1。特に懸念されるのは幼児肥満の急速な増加で、米国では1976年以降倍以上になっています1。その健康に及ぼす影響に加え、肥満は社会的にも深刻な財政負担を強いています。2002年、米国における肥満関連の医療支出は全医療費の9.1%(9260万ドル)に達しています2。肥満は遺伝的、環境的および精神的な要因の組み合わせの結果として発性し、過剰な食物摂取とエネルギー消費の減少が連関しておこるエネルギー代謝の不均衡を特徴としています3。この不均衡はエネルギー恒常性、すなわち体脂肪量に比例して循環し、食物摂取と脂肪蓄積を減少させるよう視床下部に作用するインスリンレプチンなどのホルモン調節過程を妨害します4。この疾患はインスリン抵抗性と密接に関連し、トリグリセリドのレベル上昇、低HDLおよび高LDLコレステロール血症、血圧上昇を伴って、代謝症候群と呼ばれる複雑な病状を生じます。肥満の合併症にはガン、睡眠時無呼吸症候群、うつ病、心筋梗塞、末梢血管障害、高血圧などがあり、最も多いのは2型糖尿病です5。肥満は2型糖尿病と循環器病の最大の危険因子であり、米国では成人のほぼ半数が肥満か糖尿病を患っています6。成人の20~25%は代謝症候群に陥っていると推定されています。肥満率の憂慮すべき増加には多くの理由があります。ここ数十年間、肥満を促進するような食生活の変化と身体的運動量の減少がおこっています7。デスクワーク中心の専門的職業やあまり運動しない生活習慣とともに、豊富な食物を選択できる入手経路が増加して文化の変遷に寄与してきました。しかし、食物貯蔵は何百万年もの間存続している生存の基本的なメカニズムです。実際、有史以前、食糧の備蓄が乏しかった時代には脂肪として効率的にエネルギーを貯蔵することが生存を促し、それ故進化の過程ではエネルギー貯蔵に適した“倹約遺伝子型”が保持されたのです7。従って、遺伝は体重決定に大きな影響を与えており、肥満の遺伝性は50~90%と見積もられています1。“肥満回避”と“飢餓回避”の反応はともにエネルギー貯蔵のホメオスタシスにより制御されており7。、これらの反応系からのシグナルは、視床下部により解釈されて適切な応答が決定されます。残念なことに、食物摂取を抑制してエネルギー消費を増加させる生理的なメカニズムは、肥満を助長する環境的、精神的圧力に対抗できるほど強固なものではありません。

【エネルギー恒常性のメカニズム】

エネルギー恒常性は摂取し消費される熱量の平衡を保ってを体重を調節する生理過程です。この調節には、体脂肪の貯蔵量の変化が脳に伝達されるメカニズムが含まれています。恒常性の反応は、脂肪貯蔵に比例して血流に放出され、食物摂取を減らすよう脳を誘発する因子を通じて効果が発揮されます。重要な因子は二種類のペプチド、レプチンとインスリンです。脂肪貯蔵は、グリセロールとエステル結合した三つの脂肪酸(長鎖炭化水素)から成る複合分子であるトリグリセリドで構成されています8。トリグリセリドは糖質の2倍以上のエネルギーがあり、ヒトのエネルギー貯蔵の主たる様式です8。脂肪を含有する脂肪組織にはトリグリセリド、ステロイド、コレステロールが含まれ、エネルギー要求の変化に応答してトリグリセリド貯蔵と遊離脂肪酸(FFA)/グリセロール放出を行う場所として機能します9。さらに、脂肪組織は食欲、体内エネルギー消費(熱産生)、インスリン感受性を調節する因子を分泌します8。肥満マウスを用いた研究から、脂肪細胞の重要なホルモンとしてレプチンが同定されました10。その後、脂肪細胞はプラスミノーゲンアクチベータインヒビター1(PAI-1)レジスチン、腫瘍壊死因子α(TNF-α)など他の生理活性物質も放出していることが確認されました9。二種類の脂肪組織が存在し、白色脂肪組織および褐色脂肪組織と呼ばれています。褐色脂肪組織はヒトでの発現レベルが低く、あまり多くの機能がないと思われます。白色脂肪組織は上半身(内臓)と下半身/皮下(腹部、臀部、大腿部)の二つの脂肪型に分類されます。この二つには機能的な違いがあり、内臓領域の脂肪貯蔵が蓄積した人は代謝病や循環器病になる可能性が高いと考えられます。内臓の脂肪過多症が深刻化すると、非エステル化脂肪酸(NEFA)循環の上昇、高インスリン血症の原因となる肝臓のインスリンクリアランスの阻害、インスリン感受性組織におけるインスリン作用の阻害を引き起こします11。インスリンはNEFAの除去において大きな役割を果たし、脂肪分解を抑制します。さらに交感神経系は、最近発見されたアディポカインのTNF-α、レプチン、インターロイキン-6(IL-6)、アディポネクチン、レジスチンが行うような脂肪分解の調節に影響を及ぼしています11。二つの脂肪型の脂肪組織における、タンパク質、ホルモン産生レベルに違いがあります。脂肪沈着によるインスリン抵抗性に貢献している内臓脂肪組織では、プロテインチロシンホスファターゼ(PTPase)のようなインスリンカスケードの成分の活性が上昇していると立証されています11。大腸、乳房、子宮内膜、腎臓および食道のガンは過度の肥満症に伴って発症しています。エストロゲン、インスリン、インスリン様成長因子など内在性ホルモンの代謝変化は、細胞の増殖、分化、アポトーシスの不均衡を引き起こす可能性があります。肥満における脂肪組織の成長とそれに続く成長因子放出の増加は、ガンの成長を促進することもあり得ます。脂肪組織の成長には循環器系がもたらす機能が必要であり、従って、脂肪生成と血管形成の間には密接なつながりがあります。in vivoにおいて、血管内皮増殖因子(VEGF)の遮断は脂肪組織の形成を阻害します12

【食物摂取と肥満におけるペプチドの作用】

  1. レプチン

    レプチンは肥満(ob)遺伝子産物であり、白色脂肪組織において主に産生されます13。発現クローニングにより単離されたレプチンレセプター(Ob-R)は糖尿病(db)遺伝子にコードされており、選択的スプライシングによって六つのレプチンレセプター(Ob-Ra-f)アイソフォームが生じます13。長鎖型のOb-Rbアイソフォームは肥満制御に極めて重要な役割を果たしており、視床下部の主要なレプチン作用部位に高レベルで存在しています13。このアイソフォームが欠如した結果、db/dbマウスの表現型は肥満型となります13。レプチンレセプターはクラスⅠサイトカインレセプターサブファミリーの一員です。その他のファミリー分子のように、レプチンレセプターの活性化はin vitroSTAT1, STAT3, STAT5のチロシンリン酸化を促進し、in vivoではSTAT3のチロシンリン酸化を促進します13。実際、Ob-RbアイソフォームはJAK/STATシグナリングの強力なアクチベーターとして作用しており、高脂肪食を与えられたマウスでは、視床下部においてSTAT3を活性化するレプチンの能力が低下しています7。レプチンの作用不全は、血液脳関門を通過するレプチン輸送の欠陥、あるいはレプチンシグナル伝達の抑制のいずれかのメカニズムによって生じます7。レプチンシグナルの伝達はサイトカインシグナル抑制因子3(SOCS-3)、あるいはプロテインチロシンホスファターゼ1Bによる脱リン酸化で遮断されます。SOCS-3とPTP-1Bの欠損マウスでは、レプチン感受性と肥満抵抗性の上昇がみられます7。さらに、レプチンレセプターの活性化は、JAKの下流にあるホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)とRas-マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)の両方のシグナル伝達経路を刺激します13。視床下部の弓状核(ARC)はレプチンシグナル伝達の中心として機能します。レプチンはOb-Rb型レプチンレセプターを経由してARC内に隣接する二つの経路、すなわちニューロペプチドY(NPY)およびアグーチ関連タンパク質(AgRP)が仲介する食欲促進(摂食刺激)経路と、プロオピオメラノコルチン(POMC)およびCART(cocaine- and amphetamine-regulated transcript)ペプチドが仲介する食欲減退(摂食抑制)経路を標的としています7, 13。レプチンのレセプター結合によりシグナル伝達カスケードが開始し、PI3Kや複数の脂質中間体が活性化されます。これによりF-アクチンはG-アクチンへと変換し、続いてKATPチャネルが開口します13。このカスケードは肥満Zucker(fa/fa)ラットで欠如しており、レプチンおよびインスリン抵抗性を示します。インスリンに関する詳細は、後述の「Diadete」の項を参照して下さい。

  2. メラノコルチン

    メラノコルチン経路は食物摂取と自律神経の活性の調節に関わっています。ARCのニューロンはPOMCを発現し、そこからα-メラニン細胞刺激ホルモン(α-MSH)が切断されます。POMCニューロンはレプチンとインスリンの両方によって活性化され、負のエネルギーバランスの状態、またはレプチンのシグナル伝達が遺伝的に欠損した状態では抑制されます5。α-MSHはメラノコルチン4レセプター(MC4R)のアゴニストとして作用し、レプチンにより誘起されます7。興味深いことに、レプチンによって発現が活性化されるAgRPは、内在性のMC4Rアンタゴニストとして作用します。MC4R経路はレプチンにより制御されていますが、MC4Rは5-HT2Cセロトニンレセプターを調節し、その活性化は体重減少を引き起こします。また、MC4Rは視床下部の腹内側(VMH)領域で、TrkBレセプターを介して脳由来神経栄養因子(BDNF)を活性化します。db/dbマウスにおけるBDNFの中枢投与によって食物摂取の低下とエネルギー消費の増加がおこることから、食物バランスの調節におけるBDNFの関与と、それがおそらくMC4R経由であることが立証されています14, 15

  3. ニューロペプチドY

    ニューロペプチドYは、視床下部のY1およびY5ニューロペプチドYレセプターに選択的に結合する神経細胞のシグナル伝達ペプチドであり、食欲促進シグナルを誘導して食物摂取の増加とエネルギー消費の低下を引き起こします3。NPY/AgRPニューロンはARCにおけるレプチンの標的神経細胞として存在し1, 13、腹内側ARCに集中してPOMCニューロンにの近傍に位置しています。NPY/AgRPニューロンはレプチンとインスリンにより抑制され、負のエネルギーバランスの状態では活性化されます1。NPY/AgRPニューロンはメラノコルチンのシグナル伝達をアンタゴナイズし、一方NPY/AgRPニューロンから放出されるγ-アミノ酪酸(GABA)はPOMCニューロンを抑制します1。従って、NPY/AgRPニューロンは同化経路を活性化すると同時に異化経路を不活化します1

  4. グレリン

    グレリンは成長ホルモン分泌促進物質レセプターのリガンドとして最近発見されましたが、これは食欲刺激ホルモンとして作用し、短期的あるいは長期的な食欲と体重調節に関与しています1。胃で分泌されて血中を循環し、そのレベルは空腹度に応じて食前、食後でそれぞれ上昇、低下します。グレリンは、グレリンレセプターを発現するNPY/AgRPニューロンを活性化して食物摂取を刺激し、それによりインスリン、レプチン、ペプチドYYから受ける抑制シグナルとの均衡を図ります16。慢性的な空腹感とそれが原因の肥満を特徴とする遺伝性疾患のプラダーウィリ症候群にかかっている人は、血漿グレリンレベルが上昇しています1。肥満の治療標的の一つは、腸から脳への食欲促進シグナルを遮断するようなグレリンレセプターアンタゴニストの開発です。もう一つのターゲットはグレリンレセプターの活性を恒常的にブロックする逆アゴニストの開発であり、これにより抑制シグナルへの応答を増強させて、”間食”による食物摂取の防止を狙っています16

  5. アディポネクチン

    もう一つの脂肪細胞由来ホルモンであるアディポネクチンは、エネルギー恒常性とインスリン感受性の調節において重要な役割を果たしています。アディポネクチンは肝臓のグルコース産生を抑制することが認められており、in vivoで抗アテローム生成的な特質があると報告されています9。最近の研究では、リコンビナントアディポネクチンを用いた肥満マウスの処置で脂肪酸代謝が増進し、インスリン抵抗性が改善されることが立証されています17。さらに、生理的用量のレプチンとアディポネクチンの併用により脂肪萎縮性マウスのインスリン抵抗性が全面的に改善したことから、レプチンとアディポネクチンはともに脂肪細胞から分泌される重要なインスリン抵抗性改善ホルモンであると示唆されています17。アディポネクチンはAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の活性化とリン酸化を通じて作用すると考えられ、それは脂肪組織のAMPKの下流酵素であるアセチルCoAカルボキシラーゼを活性化してリン酸化します18

  6. メラニン凝集ホルモン

    メラニン凝集ホルモン(MCH)は、それより大きなMCHホルモン前駆体(Pmch)から切り出される19アミノ酸から成るニューロペプチドで、主に視床下部外側野と不確帯に発現しています。MCHレセプターは、当初はGタンパク質共役型のオーファンレセプターとして発見され、その後MCHR1およびMCHR2と呼ばれる二つのサブタイプが同定されています。MCHはMCHR1と高親和性で結合し、MCHを過剰発現させたマウスは肥満を発症します。反対に、MCHR1欠損マウスはMCHの食欲促進作用に対する抵抗性があり、痩身とエネルギー消費増加を維持します19。面白いことに、MCHの投与は副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)のレベルを低下させてグルココルチコイド産生を制御し、一方でMCH欠損マウスではグルココルチコイドレベルの上昇を示すことから、MCHR1の副腎機能における役割が示唆されています19。NPY、AgRPおよびMCHを過剰発現するレプチン欠損ob/obマウスと比較して、レプチンとMCHの両方を欠如したマウス(二重-ヌル)では耐糖性が改善され、体脂肪と血漿グルココルチコイドレベルの低下を示します20

  7. オレキシン

    近年、ラット視床下部から単離されたオレキシン-Aおよびオレキシン-Bはヒポクレチンとしても知られており、130アミノ酸の前駆体であるプレプロオレキシンに由来するペプチドです。これらのリガンドはOX1RならびにOX2Rと呼ばれる二つのGタンパク質共役型レセプターに作用します。オレキシンは覚醒とエネルギーバランスを制御し、その機能破壊はナルコレプシー(睡眠発作)と肥満を引き起こします。オレキシンは後腹側ARCを通じて作用し、そこでおこるOX2Rオレキシンレセプターの活性化はGABA作動性ニューロンのNa+/Ca2+交換電流を刺激して細胞の脱分極を引き起こし、発火率が上昇します21。GABAが強力な摂食刺激剤として作用するため、オレキシンはこのメカニズムを利用して食欲を調節しているとも考えられます。内在性カンナビノイドのアナンダミド2-アラキドニルグリセロールは、視床下部に存在するCB1カンナビノイドレセプターに作用して食欲を刺激し、マリファナ様の作用を示します7。これらの内在性カンナビノイドはレプチンにより抑制されており、エネルギーバランスの調節に関与しています7。CB1カンナビノイドレセプターとOX1Rオレキシンレセプターは、視床下部外側野においてヘテロオリゴマーを形成できるような近接した位置にあります。CHO細胞中でCB1カンナビノイドレセプターとOX1Rオレキシンレセプターを同時発現させると、オレキシンによるMAPKの活性化が100倍上昇し、その効果はCB1カンナビノイドレセプターアンタゴニストのSR141716によりブロックされました22。従って、カンナビノイドレセプターのアンタゴニストは、肥満の治療薬として有用性が認められるかもしれません。

  8. その他のペプチド類

    グルカゴン様ペプチド(GLP)はインスリン分泌を刺激するペプチドホルモンです。ペプチドYYコレシストキニン類(CCKs)とともに、GLPは食物摂取後に消化管下部から放出されます。肥満対象者は、内在性PYYの血漿レベルが顕著に低下しています3。PYYは、ARCのPOMCニューロンの調節とNPY/AgRPニューロンの抑制を通じて満腹を指示する代謝シグナルとして作用しますが、それはおそらくシナプス前Y2ニューロペプチドYレセプターを介しています。CCKsは食事量を減らすようなシグナル伝達を行って、生理的な満腹因子として作用します23CCKAコレシストキニンレセプターは胃排出を遅らせて視床下部へシグナルを伝達し、摂食を阻止します23ボンベシン様ペプチドは中枢神経系と消化管に広く分布しています。BB3ボンベシンレセプターを欠乏したマウスでは肥満、過食症、グルコース代謝障害がおこることから、エネルギーバランスにおけるこのレセプターの関与が示唆されています7

【食物摂取と肥満におけるサイトカインの作用】

サイトカインとレプチンおよびインスリンの間には関連性があります。炎症誘発性サイトカインはレプチンレベルを上昇させ、一方ではレプチンが炎症誘発性、あるいは抗炎症性サイトカインの産生を制御しています。インターロイキン-1(IL-1)は、摂食行動を抑制するコルチコトロピン放出因子(CRF)の遊離を促進する炎症誘発性サイトカインです。レプチンにより引き起こされる過剰なIL-1のシグナル伝達は、メラノコルチンレセプターを介して摂食行動を抑制します26。さらにIL-1は、体内の貯蔵脂質の除去を制御する酵素、リポタンパク質リパーゼ(LPL)を抑制して脂質代謝を調節すると考えられます26インターロイキン-6(IL-6)は脂肪細胞から分泌される別の炎症誘発性サイトカインで、肥満の人はその血中レベルが上昇しています。IL-6は、肥満と2型糖尿病のインスリン抵抗性に関与しています27腫瘍壊死因子-α(TNF-α)もまた脂肪細胞から分泌される炎症誘発性サイトカインで、その過剰産生は、脂肪細胞のグルコース輸送を促進するインスリン作用に悪影響を与える要因と考えられます11毛様体神経栄養因子(CNTF)は毛様体神経節で最初に同定された栄養因子で、レプチンに類似した作用が考えられます。レプチン欠損ob/obマウスにCNTFを投与すると、レプチンと同じように肥満症、過食症、高インスリン血症が軽減されます28。CNTFの全身投与はARCのJAK/STAT経路を活性化しますが、それはレプチンが活性化する経路と重複しています7。残念ながら、CNTFの改変型であるアクソカインは、肥満治療のフェーズⅢの試験の結果が思わしくありませんでした。

【食物摂取と肥満における生体アミンの作用】

1930年代のエフェドリンの発見は、アンフェタミン類の合成を導きました。最初は刺激剤として使用され、間もなく食物摂取と食欲を抑制する性質を示すことが分かりました。アンフェタミンの乱用性を理由に、1960年代には他の薬剤が探索、合成されましたが、その中にはフェンテルミンマジンドールのように視床下部でノルエピネフリンを遮断するものがありました。乱用性は低いもののやはりこれらの薬剤には覚醒剤の属性があり、この性質を改善したフェンフルラミンが合成されるにいたりました。フェンフルラミンは、アンフェタミンと構造的には類似していますが、興奮作用は示さず、また、視床下部傍室核内のシナプス前ニューロンにおいてセロトニンの再取り込みを阻害しました23デキシフェンフルラミンはフェンフルラミンの活性型アイソマーであり、それがラセミ体より強力で選択的であると示されたことを経て、1970年代に開発されました。1996年、FDAは体重減少の維持を目的としてデキシフェンフルラミンを認可しました。しかし1997年、デキシフェンフルラミンとフェンテルミン(Fen- Phen)の調合あるいは併用療法(Fen-Phen)を受けた患者が心臓弁膜症にかかり、デキシフェンフルラミンとフェンフルラミンは自主回収されました23。その他の有力な治療薬も期待を裏切るものでした。フルオキセチン、フルボキサミンセルトラリンのような選択的セロトニン再取り込みインヒビター(SSRI)は、当初うつ病治療のために開発されましたが、抗肥満治療薬として評価されました。これらの薬剤は、初期には体重減少しますが、薬の投与を継続するにもかかわらず顕著な体重の再増加がおこります23。さらに最近、出血性脳卒中の危険性を理由にFDAは全製剤からノルエフェドリンを排除するよう要請しました23。エフェドリンも有害な副作用を理由に減量の一般医薬品として削除されました。肥満の人の多くは心疾患と高血圧を患っている傾向が高く、心拍数または血圧の上昇がなく、安全に代謝率を増加させるような熱産生促進薬の開発は困難です。非定型のアドレナリンレセプター、いわゆるβ3-アドレナリンレセプターは、心刺激あるいは平滑筋収縮といった定型β1-, β2-アドレナリンレセプターの反応を生じることなく交感神経刺激薬の熱産生促進効果を仲介します23セロトニンはARCのPOMCニューロンを制御する代謝シグナルとして作用します。5-HT2Cセロトニンレセプターの欠損はマウスにおいて成人発症型の肥満を引き起こしますが、その活性化は体重減少をもたらします7。これらの知見から、β3-アドレナリンレセプターや5-HT2Cセロトニンレセプターのアゴニストは抗肥満治療薬として今後も期待されます。

【脂質代謝】

1型および2型11β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(11β-HSD1, 11β-HSD2)はコルチゾンのコルチゾールへの変換に関与しています。11β-HSD1は脂肪組織に発現しています。この酵素の過剰発現とグルココルチコイドのレベル上昇の結果、脂質蓄積と内臓脂肪細胞の増加が起こります24。慢性的なグルココルチコイドレベルの上昇はクッシング症候群の原因となりますが、この疾患はコルチゾールの過剰産生に起因し、肥満、皮膚色素沈着、筋力低下、疲労といった症状が出ます。従って、脂肪組織の11β-HSD1を抑制することは、この疾患と内臓肥満の両方を治療できる方法となるかもしれません。アシルCoA:ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ1(DGAT1)は、脂肪中で過剰なカロリーを貯蔵する主要形式であるトリグリセリドの合成において、鍵酵素として作用します。DGAT1も脂肪組織に発現しており、その過剰発現はトリグリセリドのレベル上昇を引き起こします。DGAT1欠損マウスではエネルギー消費が増加することから、インスリンおよびレプチン感受性の上昇と、食餌誘発性肥満に対する抵抗性を示します25。食餌性脂肪はエネルギー摂取の35~45%に相当することから、肥満治療のアプローチとして脂肪の腸管吸収を阻害する方法があります。食餌性脂肪の分解は、胃で分泌される胃リパーゼと十二指腸で分泌される膵臓リパーゼの活性化によって起こります。胃・膵臓リパーゼのインヒビターで1999年にFDA認可されたオルリスタットは、摂取されたトリグリセリドの加水分解を減少させ、食餌性脂肪の吸収を減らします23。脂肪酸とその代謝は、脳の機能を介して食物摂取と代謝経路に影響を及ぼすと考えられます。脂肪酸合成酵素(FAS)インヒビターはNPY/AgRP、MCH、α-MSH、POMC/CARTのような視床下部のニューロペプチドの発現を変化させて、食物摂取、体重および体脂肪を減少させます。FAS基質はミトコンドリア酵素のカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼⅠ(CPTⅠ)を阻害し、長鎖アシルCoA誘導体レベルが上昇します7マロニルCoAはCPTⅠを制御し、その生成はアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)に制御されています。ACCを欠乏したマウスはマロニルCoAの産生が低下して、CPTⅠの増加と長鎖アシルCoA誘導体レベルの減少が次々と起こり、脂肪酸加率が上昇します7

【要約】

視床下部の複数の経路がエネルギーバランスの制御に関与していることは明らかです。ARCに存在するニューロンは、レプチン、グルコース、遊離脂肪酸のシグナルを統合して食物摂取とエネルギー消費を支配しています。これらの多角的なシステム全体を理解するためには、その経路を個別に研究するよりも協調的な効果を検討することが必要です。肥満の有力な治療法として最も期待される領域は、MC4レセプターβ3-アドレナリンレセプターおよび5-HT2Cセロトニンレセプターのアゴニスト、そしてMCHR1、グレリンおよびCB1カンナビノイドレセプターのアンタゴニスト、さらにβ-HSD-1、PTP1B およびSOCS-3のインヒビターです。肥満治療を目的としたより安全で有効な薬剤の開発が進められていますが、一方で、食餌消費を低減するよう文化的習慣を変えていくことが、肥満との闘いにおいて同様に有益であるはずです。

【製品リスト】

 

【参考文献】

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  • PDFカタログをダウンロードすることができます。
  • 製品検索には、「製品名・製品番号・CAS番号など」、もしくは「製品カテゴリ」の方法があります(製品検索方法)。
  • 規格書やSDS(安全性データシート)、ロットごとの分析表のほかに、日本円価格、国内在庫情報も確認することができます(製品情報の見方)。