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カスタム(シグマジェノシス)製品

選択反応モニタリングを活用したターゲットプロテオミクス研究

愛媛大学プロテオサイエンスセンタープロテオミクス研究部門 武森信暁

はじめに:選択反応モニタリングによるタンパク質定量

質量分析法の一種である選択反応モニタリング(selected reaction monitoring: SRM)が,新しいタンパク質定量法として現在脚光を浴びている.SRMとは,目的のイオンを選択的に通過させる四重極マスフィルタを活用することにより,サンプルに含まれる標的成分を高感度に検出するための手法である.従来は低分子化合物の分析法として用いられてきたSRMであるが,生体内高分子であるタンパク質もプロテアーゼを用いてペプチド断片レベルにあらかじめ消化してしまえば,その分析対象となり得る.複雑な生体サンプルからも,選択性の高いSRMを用いることで,目的のタンパク質成分に関する精度の高い定量情報を取得できる.ELISAなどのイムノアッセイと異なり抗体を必要としないことから,迅速なアッセイ開発が可能であり,マルチターゲット分析にも対応できる点もSRMを用いる大きな魅力となっている.

SRMを用いたタンパク質の定量アッセイには,他のアッセイ法と同様に,内部標準物質の利用は欠かすことができない.SRMアッセイでは,標的のペプチドと同じアミノ酸配列を有する安定同位体標識ペプチド(AQUA™ペプチド)が内部標準として広く用いられている(図1).目的タンパク質の絶対量を正確に計測するためには,アミノ酸分析で濃度が保障された,高純度AQUA™ペプチドが必要となる.一方,異なるサンプル間における発現比の解析であれば,粗精製グレードのAQUA™ペプチドでも内部標準として十分に機能する.定量解析の目的に応じて,精製グレードの異なるAQUA™ペプチドを使い分けることは,アッセイコスト削減のための重要なポイントである.

図1:AQUA™ペプチドとSRMを活用した定量アッセイのコンセプト

AQUA™スクリーンが可能にする大規模アッセイ開発

SRMによるタンパク質定量は,適切な質量分析システムが整備された研究環境であれば,誰でも気軽に取り組むことができる.100種類を超えるSRMアッセイも,個々の研究者レベルで比較的短期間に構築することが可能である.マルチプルSRMアッセイを活用して,関心のある生体内タンパク質成分の発現変動を網羅的に解析する試みは,ターゲットプロテオミクスと呼ばれ,Nature Methods誌のMethod of the year 2012にも選ばれている.

ターゲットプロテオミクスを実際に行う上で,多くの研究者が直面する課題は「大量の内部標準ペプチド試料をいかに迅速に調達するか?」ということであろう.我々は,シグマアルドリッチ社が提供する粗精製AQUA™ペプチドのハイスループット合成サービス「AQUA™スクリーン」を活用することで,この問題を解決している(図2).AQUA™スクリーンを用いれば,100種類を超えるペプチドも2か月程度で入手可能であり,さらに各種アミノ酸修飾にも対応しているため翻訳後タンパク質修飾の解析にも対応できる.また精製純度は低いものの,指定したアミノ酸残基の安定同位体標識効率は99%以上が保障されているため,微量タンパク質成分の定量解析にも安心して使用することができる.

図2:AQUA™スクリーンを活用した大規模SRMアッセイの実例

血中バイオマーカー探索への応用

SRMアッセイの導入に積極的な研究領域として,バイオマーカー探索研究があげられる.ショットガンプロテオミクスのような大規模解析により明らかになったマーカー候補群から信頼性の高い候補を絞り込む工程は,マーカー探索におけるボトルネックであった(図3).ターゲットプロテオミクスの技法を活用すれば,マーカー候補を網羅したSRMアッセイを迅速かつ低コストに構築できるため,マーカー開発のスピードアップにつながることが期待されている. 疾患の低侵襲的な診断を可能にする血中バイオマーカーの探索にも,SRMは活用されつつある.しかしながら、多くのバイオマーカー候補は血液中にng/mLレベルしか存在しない低含有量のタンパク質成分であるため,アルブミンに代表される高含有量の主要タンパク質成分の存在が分析の妨げとなり,SRMによるマーカー候補の直接解析は現在のところ難航している(図4).こうした問題を解決する上で,イムノアフィニティカラムを用いて主要タンパク質成分を除去する前処理法は一般に有効であることが知られている.しかしカラム処理後のサンプル中にも各種補体成分などの中含有量タンパク質成分が存在しており,微量成分の検出を依然困難なものにしている.

図3:疾患バイオマーカーの探索研究

図4:血清タンパク質の組成

我々は,主要タンパク質成分に加えて中含有量タンパク質成分の同時除去が可能なSeppro® IgY14/SuperMixカラムを用いることで,微量タンパク質成分の効率的な濃縮を試みた.ヒト血清サンプルの前処理に用いた結果,主要14タンパク質成分のみを除去するSeppro® IgY14カラムの結果と比較して,Seppro® IgY14/SuperMixカラムはより多くのタンパク質成分を一度の処理で効率的に除去できていることが明らかとなった(図5).前処理後のサンプルを用いたSRMアッセイでは,他成分による干渉ピークが減少したケースも見られることから,定量結果の信頼性向上にもつながることが期待できる.カラム処理に伴うオフターゲット効果の検証は必要となるものの,Seppro® IgY14/SuperMixカラムによる前処理は,微量な血中マーカー候補の定量解析をおこなう上で有効性の高いアプローチとなるであろう.

図5:Seppro® カラムを活用した血液サンプルの前処理

おわりに

質量分析ベースのタンパク質定量法であるSRMアッセイの普及により,抗体を用いることなく,気軽に目的タンパク質の定量情報を知ることができる研究環境が整いつつある.SRMを活用したターゲットプロテオミクス研究の推進にむけて,定量解析に適した標的ペプチド情報をプロテオームワイドに提供するオンラインデータベースが急速に整備されつつあり,さらにアッセイパラメータの設定やデータ解析を支援するためのオープンソースのソフトウェアも開発されたことにより,大規模アッセイ開発にかかる研究者の技術的負担は軽減された.さらに粗精製AQUA™ペプチドを内部標準として活用することで,イムノアッセイに比べてコスト的にも優れたタンパク質定量を実現できることから,今後の生命科学研究においてSRMアッセイは不可欠なツールとなるに違いない.

武森信曉(たけもり のぶあき) 愛媛大学プロテオサイエンスセンタープロテオミクス研究部門講師.博士(材料科学).

■ 略歴:
2002年北陸先端科学技術大学院大学材料科学研究科博士課程修了.同年オクラホマ大学医学部博士研究員.07年ショウジョウバエ遺伝資源センター博士研究員.10年愛媛大学プロテオ医学研究センター特任助教.13年より現職.

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