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LentiPlexライブラリーを用いたgenome-wide shRNA
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近年、特異的な細胞間/分子間相互作用を網羅的に解析する方法として、RNA干渉法(RNAi)を用いたゲノムワイドスクリーニング法が用いられるようになってきた。ウイルス感染症においても、ウイルスと宿主との攻防を網羅的に解析する方法として導入されつつあるが、エイズウイルス(Human Immunodeficiency Virus: HIV)感染症も例外ではない。実際、2008年には、ヒト機能遺伝子群を標的としたsmall interfering RNA (siRNA)ライブラリーを用いた成果が3報報告された。しかしながら、これらの成果は、HeLa細胞や293細胞といった、本来のHIV感染標的細胞を用いたものではなく、これらの成果によって得られたHIV感染制御因子候補群から本当のHIV感染制御因子同定まで辿り着くまで超えなければいけない山は多い。そこで、HIV感染標的細胞であるTリンパ球を用いた機能遺伝子発現制御ライブラリーを、LentiPlex short hairpin RNA(shRNA)ライブラリーを用いて作製し、HIV感染に影響をおよぼす宿主因子群を探索した。その結果、siRNAライブラリーを用いた場合とは異なる宿主因子群を多数見出すことが出来、それら宿主因子群は、実際にHIV感染に影響をおよぼす能力を備えていることが明らかとなった。 |
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病原体が個体内に侵入すると、これに対する免疫防御反応が発動され、病原体を駆逐しようとする。世界的に流行しているエイズの原因であるHIVも例外ではない。現在までに、ヒト体内におけるHIVの増殖を抑制する方法として、HIV生活環を標的とした薬剤が開発されてきた。抗HIV剤は、ウイルス生活環において、(1)吸着・侵入、(2)逆転写、(3)組込み、(4)-(5)翻訳・粒子形成の各過程を標的としたものである(図1)。そして、これら異なる標的に対する薬剤を組み合わせて併用することで、より効果的なウイルス複製制御が可能となってきた[1,2]。しかし、薬剤併用化学療法による薬剤耐性株の出現や長期服用による副作用が認められること、更には、この方法をもってしても、体内からウイルスを完全に排除する事が出来ないのが現状である。感染拡大予防に必須と考えられているエイズワクチン開発研究においては、機能的かつ量的に十分なウイルス特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を誘導する方法が期待されているものの、有効なワクチン開発への戦略は未だ確立されていない[3]。HIV感染症の予防および治療法を開発するにあたり、個体レベルにおける宿主適応免疫系および細胞レベルでのウイルス増殖機構の更なる解明とその制御法の開発が急務となっている。そこで、HIV感染制御ヒト宿主因子(群)を同定することにより、新規エイズ治療法に向けての基盤確立に寄与することを目的とした研究を推し進めることにした。 現在までにヒトゲノム情報に立脚したHIV制御宿主因子探索法として、RNA干渉法によるgenome-wide screening法による研究成果が幾つか報告されているが[4-6]、HIV標的細胞であるTリンパ球およびマクロファージ等を用いたものではなく、そのため自然感染におけるHIV感染伝播での役割については不明な点が多い。本研究では、HIV標的細胞であるTリンパ球を用いて機能遺伝子発現抑制Tリンパ球ライブラリーを構築し、HIV感染制御抑制因子群を同定することを試みた。 RNA干渉法を用いた機能遺伝子発現制御Tリンパ球ライブラリーを構築する際には、幾つか問題点がある。一つ目は、「Tリンパ球へのsiRNA遺伝子導入効率が非常に低いこと」が挙げられ、HIV感染標的細胞を用いたgenome-wide screeningを困難なものとしている。二つ目は、「1細胞あたりのsiRNA導入量(種類)を制御出来ないこと」が挙げられる。このことは、目的の表現型を持つ細胞(群)が単離されても、その細胞内に多種のsiRNAが存在していることで、その表現型を反映する機能遺伝子に辿り着くまでに時間と労力を要する。そこで、これらの問題点を克服する為には、「Tリンパ球への遺伝子導入効率を上げること」、「導入される遺伝子量(種類)を制御すること」の条件が必要になる。現段階でこれらの条件を満たすことが出来る材料および方法の一つとして、レンチウイルスベクターを用いた遺伝子導入法が挙げられる。レンチウイルスベクターは、Tリンパ球を含む浮遊細胞や非分裂細胞等に遺伝子導入が可能であり、ゲノムDNAへの目的遺伝子の組み込みステップでは、遺伝子組み込み量がある程度制限されるというレンチウイルスの特徴が生かされている。そこで、レンチウイルスベクターによるgenome-wide shRNA screeningが可能なMISSION LentiPlex Human shRNA Librariesを用いて、機能遺伝子発現制御T細胞ライブラリーを構築し、HIV感染制御因子探索を行うことにした。 |
![]() 図1. エイズウイルスの複製様式 エイズウイルスはTリンパ球やマクロファージ等の免疫担当細胞の細胞膜表面上に発現しているCD4分子とケモカイン受容体とを利用して吸着し、標的細胞内に侵入する。侵入後は、逆転写反応によってウイルスRNAからDNAが合成され、細胞核内に移行した後、標的細胞の染色体DNAに組み込まれる。組み込まれたプロウイルスDNAは、細胞由来の転写複製機構を利用してウイルスRNAの転写およびウイルス蛋白質を合成し、細胞膜表面上にてウイルス粒子を構築し、子孫ウイルスとして細胞外へ放出される。 |
ヒト機能遺伝子(約1万5千遺伝子)を標的としたshRNAライブラリーによる機能遺伝子発現抑制T細胞株を作製するため、HIV感染感受性細胞であるT細胞をライブラリー作製細胞として選択した。様々な感染条件を検討した結果、1 x 10^5個のT細胞にMOI=10に相当するshRNA-レンチウイルスライブラリーを48時間感染させた。shRNA発現カセットには、ピューロマイシン耐性遺伝子が含まれていることを利用して、shRNA発現カセットが組み込まれた細胞を選択する目的で、感染48時間後にピューロマイシン(1 µg/ml)を含む培地と交換し、更に2週間選択培養を行った後に、T細胞株ライブラリーを樹立した(図2)。
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図2. ヒトT細胞株ライブラリーの樹立およびHIV感染耐性細胞株の選択法 ヒト機能遺伝子(約1万5千遺伝子)を標的としたshRNAライブラリーによる機能遺伝子発現抑制T細胞株を作製するため、HIV感染感受性細胞であるT細胞をライブラリー作製細胞として選択した。様々な感染条件を検討した結果、1 x 10^5個のT細胞にMOI=10に相当するshRNA-レンチウイルスライブラリーを48時間感染させた。shRNA発現カセットには、ピューロマイシン耐性遺伝子が含まれていることを利用して、shRNA発現カセットが組み込まれた細胞を選択する目的で、感染48時間後にピューロマイシン(1 µg/ml)を含む培地と交換し、更に2週間選択培養を行った後に、T細胞株ライブラリーを樹立した。その後、樹立したT細胞株ライブラリーを用いて、HIV NL4-3株(MOI=0.001)を感染させた。感染12日後にHIV感染耐性細胞を限界希釈し、更に2週間培養することで、HIV感染耐性T細胞株を得た。 |
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樹立したT細胞株ライブラリーを用いて、HIV NL4-3株(MOI=0.001)を感染させた。感染12日後にHIV感染耐性細胞を限界希釈し、更に2週間培養することで、HIV感染耐性T細胞株を得た(図2)。次に、これら細胞株が保持しているshRNA配列を解析するために、(1)細胞からゲノムDNAを抽出、(2)shRNAを含む領域をPCRにて増幅、(3)その増幅産物を、プラスミドを用いてクローン化、(4)shRNA配列をGenetic Analyzerにて読み取る、といった4つの過程を経た後、shRNA配列が標的としている宿主機能遺伝子群を同定した。これら遺伝子群の機能解析を行うために、細胞内局在分布をINGENUITY社データベースによるYFG search (SIGMA-ALDRICH)を行った。その結果、細胞膜および細胞質に局在するものが50%前後を占める結果となった(図3)。 |
図3. HIV感染制御因子群の細胞内局在分布 |
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HIV感染耐性T細胞ライブラリーを希釈して再培養を行った後に得られた細胞集団(semi-clonal cell population)のウイルス既感染の有無、およびshRNAのoff-target効果によるウイルス感染必須レセプターであるCD4/CXCR4/CCR5の細胞膜表面発現レベルへの影響について、正常T細胞とともに比較検討を行った結果、HIV感染耐性細胞はHIV非感染細胞であり、かつHIV感染標的細胞としての性状を維持していることが判明した(data not shown)。これら各細胞集団に含まれるshRNAの配列は、4〜8種類含まれており、複数のshRNA発現細胞が混在していると考えられる。 次に、これらT細胞ライブラリーと正常T細胞とを用いてウイルス感染効率を比較検討するために、T細胞ライブラリー集団および正常T細胞とに、HIV(MOI=0.001)を感染させた。感染効率については、定期的に培養上清中のウイルス産生量を測定することにより検討した。その結果、HIV感染効率が顕著に低下したT細胞ライブラリー集団を複数確認した。その代表的なライブラリー集団3つの結果を示す(図4-1, 4-2, 4-3)。
図4. HIV感染増殖効率に対する感染制御機能遺伝子群の影響 (1)4種の機能遺伝子を標的としたT細胞ライブラリー集団(#4-H7) 、 |
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現在までに、ヒトゲノム情報に立脚したHIV制御宿主因子探索は既に幾つかの成果が報告されているが、HIV標的細胞を用いたものではなく、そのため自然感染におけるHIV感染伝播での役割については不明な点が多い。そこで当該研究では、HIV標的細胞であるTリンパ球を用いた機能遺伝子発現抑制ヒトT細胞ライブラリーを構築した。次に、これらライブラリーと正常T細胞との間でのウイルス感染効率を比較検討した結果、HIV感染制御宿主因子群とサルエイズウイルス(SIV)感染制御宿主因子群とを同定するに至った。これら宿主因子群は、shRNAにより発現抑制されることで、HIV感染耐性に至ったことから、HIV感染必須因子であることが推察出来る。細胞からこれら宿主因子群の中には、HIV感染必須因子として既に知られているTransportin-3[7]およびCyclophilin A[8]も含まれていたことから、本研究で樹立した機能遺伝子発現抑制T細胞ライブラリーおよびウイルス感染必須遺伝子群の探索法の妥当性が認められたと考えられる。
その上で、既知のHIV 感染制御因子だけでなく、未知の宿主因子群も多数含まれていることが判明したことからも、新たなHIV 感染制御因子探索にも使用可能であると考えられる。以上の成果から、Tリンパ球をはじめとする浮遊細胞や非分裂細胞等、遺伝子導入効率が低い細胞種を対象としたゲノムワイドRNAiスクリーニングに対し、Lentivirus vectorを用いたshRNA library導入システムを用いることは、大変有効なツールであると思われる。
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武内 寛明 (たけうち ひろあき)
受賞歴
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