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研究者インタビュー

ライブイメージングから細胞死の生理学的意義を探る

山口 良文 助教 東京大学 大学院薬学系研究科 遺伝学教室

 

アポトーシスを含む細胞死ではこれまでも多く研究されてきましたが、細胞死した細胞(死細胞)は廃棄されるだけであると考えられていました。ところが最近では、死細胞から周辺細胞にさまざまなシグナル因子が放出されることが明らかになり、細胞死の生理学的意義を探る段階となっています。細胞死研究が改めて注目されている中、ライブイメージングによって細胞死の意義の解明を目指す山口良文先生(東京大学 大学院薬学系研究科 遺伝学教室 助教)にお話を伺いました。

細胞死をライブイメージングする

―現在の研究概要を教えてください。

 

山口助教:
神経管形成におけるアポトーシスの生理学的意義と、炎症性細胞死であるパイロトーシスの制御機構や周辺細胞への影響について調べています。

神経管とは、将来脳や脊髄になる器官です。もともとは板状である神経板の左右が融合、閉鎖して、筒状の神経管を形成します。これは神経管閉鎖とよばれており、このとき大量のアポトーシスが発生します。しかし、アポトーシスの発生が神経管閉鎖にどう影響を与えているのか、そもそも細胞死する理由はすべて明らかになっていません。

私たちは、細胞死実行カスパーゼとよばれる酵素の活性をまだ生きている細胞で検出することで、in vivoでアポトーシスを可視化する一細胞ライブイメージングの系を構築し、アポトーシスがマウスの胚の神経管閉鎖に与える影響をより詳細に調べることに成功しました(図1)。

その結果、神経管閉鎖がスムーズに遂行されるためにアポトーシスが重要であることがわかりました(参考文献1)。

また、周辺細胞に形態形成や分化を誘導するシグナリングセンターと呼ばれる細胞集団での細胞死が発生に重要であることもわかりました。胚発生における形態形成や分化の際には、ある時点でシグナリングセンターが不要になれば、その細胞内で特定の遺伝子発現スイッチをオフにすればいいと考えられていましたが、細胞自体が死ぬというしくみもあることが示唆されたのです(参考文献2)。

図1 マウス8.75日胚の後脳。緑がVenusタンパク質単独の蛍光で、カスパーゼ活性が高いことを意味する。

―もうひとつの細胞死であるパイロトーシスとは何でしょうか。

 

山口助教:
アポトーシス以外の細胞死は広い意味ではネクローシスとよばれていました。アポトーシスは、細胞膜の破裂から始まらず、クロマチン凝集と核DNAの分解を経たカスパーゼ依存的細胞死と一般に定義され、それ以外の細胞膜のすみやかな破裂を伴う細胞死をネクローシスとしています。しかし最近では、ネクローシスはさまざまなタイプに分類できるのではないかと言われています。

パイロトーシスは、マクロファージなど免疫系細胞で起きる炎症性細胞死です。ネクローシスの特徴を持つ細胞死ですが、炎症性カスパーゼとよばれるカスパーゼ1の活性化を伴うのが特徴です。パイロトーシスについても一細胞ライブイメージングすることに私たちは成功しています(図2)(参考文献3)。一般的なアポトーシスではカスパーゼ1活性化から細胞膜破裂まで15分程度かかるのですが、パイロトーシスではわずか1分で細胞膜破裂が生じること、カスパーゼ1を活性化した細胞が死ぬ際に炎症性サイトカインであるIL-1βを放出することがわかりました。

―具体的にはどのような方法でライブイメージングするのでしょうか。

山口助教:
蛍光共鳴エネルギー移動(FRET: fluorescence resonance energy transfer)を利用します。蛍光タンパク質であるECFPとVenusが、カスパーゼによって切断されるリンカーで連結されています。その発現カセットをマウスに導入します。カスパーゼが活性化するとリンカーが切断され、FRETが変化するようすを観察します。アポトーシスは胚発生中の神経管閉鎖を観察し、パイロトーシスはマクロファージをマウス体内から取り出し観察しました。IL-1βの放出のようすは、理化学研究所の白崎先生(現・東京大学理学部)、小原先生が開発された一細胞分泌イメージングシステムにより観察しました。

図2 Salmonella Typhimuriumを感染させたマクロファージ。緑や青の蛍光はカスパーゼ活性が高いことを意味する。

―パイロトーシスに伴うIL-1β放出の映像は美しいですね

(参考文献3)(Cell Reports 8, 974–982, Movie S4)

山口助教:
私たちはIL-1β放出のようすを、バーストと表現しました。最初は超新星になぞらえスーパーノバと呼びたかったのですが、言い過ぎかと思ってバーストに落ち着きました。ただ、超新星では星が死ぬ瞬間に大量の物質やエネルギーなどを放出するため、特徴は似ているのかもしれません。

蛍光タンパク質の強制発現は難しい

―アポトーシスやパイロトーシスのバイオイメージングはスムーズにできたのでしょうか。

山口助教:
いいえ。最初はマウス体内で蛍光タンパク質がまったく発現しませんでした。配列がGCリッチであるため、メチル化によるサイレンシングを受けているからではないかと考えています。

そこでまず、配列の前後にニワトリ由来のHS4インシュレーターを置き、発現の安定化を試みました。アポトーシスのライブイメージングはこれで成功しました。

―パイロトーシスのライブイメージングも、それを応用したのでしょうか。

山口助教:
アポトーシスはカスパーゼ3依存性で、パイロトーシスはカスパーゼ1依存性です。リンカー領域をカスパーゼ1認識配列に変えるだけで、パイロトーシスのライブイメージングも成功するはずでした。ところが培養マクロファージに発現カセットを導入しても、蛍光がまったく観察できませんでした。理由はいくつか考えられますが、アポトーシスの例と同じようにサイレンシングを受けやすいことや、免疫系の細胞では外来遺伝子が導入されると細胞死することが多いことなどがあるでしょう。

そこで、マウスの過剰発現でよく利用されるRosa26領域にノックインするマウスを作製しました。そのノックインマウスから取り出したマクロファージでは、ライブイメージングに成功したのです。培養細胞ではうまくいかなくても、マウス個体ではうまくいく場合があるということを経験しました。

―コンストラクトの工夫やノックインマウスの作製など、成功までには多くの人が関わっていそうですね。

山口助教:
もちろんです。知り合いの知り合いというつながりで共同研究した方もいます。

パイロトーシスの場合、IL-1βが死んだ細胞から放出されるのか、細胞が生きたまま放出されるのか、その関係の証明が難しく、論文が採択されなかったことがありました。学会で知り合ったある方にその話をしたところ、一細胞イメージングに取り組んでいる白崎先生、小原先生を紹介してくださいました。彼らも、パイロトーシスとIL-1β放出の関係を知りたいということで、お互いのニーズが一致し、最終的には共同で発表できました。

それまで、お互いにどのような研究をしているのか知りませんでした。知り合いを通じて共同で取り組むことができたのは偶然ですが、出会うべきときに出会うべき人に会えたことに感謝しています。

―ライブイメージング以外では免疫染色もやられていると思いますが、免疫染色でも困難はあるのでしょうか。

山口助教:
私たちは胚の固定をよくやるのですが、固定が強すぎると免疫染色がうまくいかなかったり、逆に固定が弱すぎても反応しなかったりするので、固定胚の免疫染色では条件検討が欠かせません。論文に書かれた条件下でも、必ずしもうまくいくとは限りません。

抗体そのものについても、ウェブスタンブロッティングのメンブレンの種類や培養上清の濃縮など、ささいなtipsが関係することがあるので、条件検討は重要な作業です。

細胞死に伴う遺書を探る

―今後の展望についてお聞かせください。

山口助教:
アポトーシスについては、引き続き神経管閉鎖における生理学的意義を探っています。神経管閉鎖異常は形態形成の異常につながり、先天的奇形である無脳症などの原因のひとつであると考えられています。アポトーシスという側面から先天的奇形の原因を探り、医学に貢献できると考えています。

―パイロトーシスについてはいかがでしょうか。

山口助教:
パイロトーシスは、IL-1βを放出するというのが特徴です。IL-1βが周辺細胞にどのような影響を及ぼすのか、その制御はどのようにして行われているのか、明らかにすることを考えています。死細胞からいろいろな因子が放出されていることが判ってきました。その点について包括的に理解するために、新学術領域研究「ダイイングコード 細胞死を起点とする生体制御ネットワークの解明」に参加し、「生体における多様な細胞死シグナルの可視化・検出系の開発」の観点から取り組んでいます。領域名のダイイングコードというのは、細胞死する細胞が、まるで遺書のように周辺細胞に何かを残すという意味から、名付けられました。

アポトーシスでは成長因子を放出、パイロトーシスではIL-1βを放出するなど、細胞死するときには何らかのシグナル因子を放出することが明らかになってきました。もちろん、未同定のシグナル因子も多くあるはずです。そういったシグナル因子の探索、その作用の解明、あるいはアポトーシス以外の細胞死様式の理解を目指し、多くの研究者が共同で研究しています。

―他にはどのようなことに興味をもっているのでしょうか。

山口助教:
実は冬眠に興味をもっています。冬眠状態では体温が4度になっても心臓が停止せず、臓器の機能も失われません。冬眠という現象を舞台に、細胞死という切り口から、細胞が生きるか死ぬかの制御について解明できれば面白いと考えています。

―冬眠のモデル動物には何があるのでしょうか。

山口助教:
冬眠できる動物にはリスやクマなどがおり、動物学、生態学、生理学の観点から盛んに研究されています。わたしは冬眠のしくみを遺伝子・分子のレベルで解明することに興味があるので、現実的に実験できるモデル動物としてハムスターに着目しています。冬眠のしくみでわたしが面白いと思っているのは、冬には低体温等のストレスに耐え冬眠できるこれらの動物でも、夏では低体温状態に置かれるといろいろダメージを受けてしまうという点です。おそらく細胞や組織の性質が季節によって変化するためだと考えられます。こうした季節依存性の細胞の性質変化による細胞死のしやすさ、しにくさなどを明らかにできれば、ヒトにおいても何らかの医学的応用ができるかもしれません。長期的なテーマですが、そのように考えながら研究を進めています。

―ありがとうございました。

シグマ の製品について一言

ロシュブランドで販売されている「in situ細胞死検出キット」はよく利用しています。決して格安ではありませんが、感度がいいので信頼できるキットです。シグマ アルドリッチの阻害剤や培地製品も使っており、それらのブランドイメージが強くあります。シグマは抗体のイメージはありませんでしたが、最近学生が抗体を購入していました。今後は、シグマの抗体を使った論文が増えるかもしれません。

プロフィール

山口 良文 助教

東京大学大学院薬学系研究科遺伝学教室(三浦正幸教授)・助教。京都大学理学部卒業、京都大学大学院生命科学研究科博士過程修了、博士(生命科学)、自然科学研究機構岡崎統合バイオサイエンスセンター研究員を経て現職。専門は発生生物学、細胞死の生物学、哺乳類の冬眠学。

参考文献:

  1. Yamaguchi, Y., Shinotsuka, N., Nonomura, K., Takemoto, K., Kuida, K., Yoshida, H., and Miura, M.: Live imaging of apoptosis in a novel transgenic mouse highlights its role in neural tube closure. J. Cell Biol., 195; 1047-1060, 2011
  2. Nonomura, K., Yamaguchi, Y. Hamachi, M., Koike, M.,, Uchiyama, Y., Nakazato, K., Mochizuki, A., Sakaue-Sawano, A., Miyawaki, A., Yoshida,H., Kuida, K., Miura, M.: Local Apoptosis Modulates Early Mammalian Brain Development through the Elimination of Morphogen-Producing Cells. Developmental Cell, 27, 621-634, 2013
  3. Liu, T., Yamaguchi, Y., Shirasaki, Y., Shikada, K., Yamagishi, M., Hoshino, K., Kaisho, T., Takemoto, K., Suzuki, T., Kuranaga, E., Ohara, O., Miura, M.: Single-Cell Imaging of Caspase-1 Dynamics Reveals an All-or-None Inflammasome Signaling Response. Cell Reports. 8, 974-982, 2014