研究者インタビュー

オートファゴソーム膜の起源を探る

濱﨑 万穂 准教授 大阪大学大学院 生命機能研究科 細胞内膜動態研究室

オートファジー(自食作用)は、標的を包むオートファゴソームの形成から始まります。しかしながら、オートファゴソームの形成機序については不明点が多く、形成場所についても長らく議論が続いていました。濱﨑万穂先生(大阪大学大学院 生命機能研究科 細胞内膜動態研究室 准教授)は、オートファゴソームの形成誘導が小胞体とミトコンドリアの接触部位で起きることを明らかにし、細胞生物学に大きなインパクトを与えました。オートファゴソームの研究や今後の展望について、濱崎先生に伺いました。

 

3色同時のライブイメージングで解明した

――現在の研究概要を教えてください。

濱﨑准教授:
オートファゴソームの脂質膜(オートファゴソーム膜)の起源について研究しています。オートファジーは、標的を脂質膜で包むオートファゴソームの形成から始まります。ところが、ここで大きな疑問が生じます。オートファゴソーム膜は、いつ、どこで、どのようなタイミングで形成されるのか、ということです。これらを知ることで、オートファゴソーム膜の起源を明らかにしたいと考えています。

――現在は、どこまでわかっているのでしょうか。

濱﨑准教授:
われわれは2010年に、小胞体に局在するタンパク質Atg14Lがオートファゴソームの形成誘導に必要であることを示しました(参考文献1)。ところが、小胞体の膜と、オートファゴソーム膜は異なる特性をもちます。これは、電子顕微鏡の観察から明らかです。

当時、オートファゴソームの形成場所として、小胞体説と、ミトコンドリア説がありました。そこでわれわれは、小胞体とミトコンドリアの両方に注目して、より詳細に解析しました。

――その成果は2013年に『nature』に掲載されましたが(参考文献2)、どのようなことが明らかになったのでしょうか。

濱﨑准教授:
小胞体とミトコンドリアの接触部位(contact site)でオートファゴソームが形成されることを明らかにしました。contact siteに、Atg14LとⅢ型フォスファチジルイノシトール 3キナーゼ(PI3K: phosphatidylinositol 3 kinase)の複合体が移動すると、PI3KがPI3リン酸(PI3P)を産出します。PI3Pはオートファゴソーム膜に含まれるリン脂質です。この過程を経てオートファゴソームが形成されます(図1)

図1 オートファジーが誘導されると、小胞体とミトコンドリアのcontact siteにPI3K複合体が集まる。PI3KはPI3Pを産出し、オートファゴソーム膜の形成が誘導される。なお、PI3Kはオートファゴソーム形成に必須であることがわかっている。

――どのような手法でcontact siteを明らかにしたのでしょうか。

濱﨑准教授:
ライブイメージングです。オートファゴソームの形成は6〜10分程度の間で起きるのですが、どこで形成されるのか予測できません。詳細に観察するには、ライブで見る必要がありました。

さらに、小胞体・ミトコンドリア・オートファゴソームの3種類を同時にとらえるため、3色同時にライブイメージングする必要がありました。このイメージングの工夫に一番苦労しました。

――なぜ小胞体とミトコンドリアのcontact siteでオートファゴソームの形成誘導が起きるのでしょうか。

濱﨑准教授:
仮説の一つが脂質輸送です。小胞体とミトコンドリアを介して脂質化が起きるのではないかと考えられます。contact siteで何が起きているのか、因子の探索も含めて、現在取り組んでいるテーマです。

 

ジャーナル編集部ともっと交渉すべき

――『nature』に掲載されるときのやり取りはスムーズだったのでしょうか。

濱﨑准教授:
いいえ、実は最初に投稿したときのバージョンとは大きく変わっています。最初の査読で3色同時のライブイメージングを要求され、それが先ほどの苦労につながりました。
それだけではなく、レフリーのアンフェアなコメントをエディターが認めてしまったので、エディターと電話や対面でなかなかタフな交渉もしなければなりませんでした。

――抗議したのですか。

濱﨑准教授:
はい、断固抗議しました。こういった交渉を、海外の研究者はよくやっているようなので、必要なことだと思います。

――日本人はなかなか言い出せないですね。

濱﨑准教授:
抗議や交渉は当たり前だということは、海外で生活した経験から学びました。日本の皆さんは、有無を言わさず通すのが清くきれいとするところがあるように思えます。ただ、競争は激しいので、そうも言っていられないのが実情です。そういう意味では、トップジャーナルを逃している方は少なからずいるのではないでしょうか。

 

イメージングを通じてオートファジーを観察する

――今後の展望についてお聞かせください。

濱﨑准教授:
まずは、contact siteのさらなる解明です。小胞体とミトコンドリアのcontact siteでどのような因子がオートファゴソームの形成に関与するのか、明らかにしたいと考えています。そのためには、小胞体・ミトコンドリア・オートファゴソームと合わせて、関与する因子等のさらなる多色同時ライブイメージングが必要になります。多色同時ライブイメージングをどう実現するか、今後の課題です。

以上のことを含めて、今後もイメージングを中心に、オートファジーの詳細なメカニズムの解明を目指します。

――やはりイメージングが重要になるのでしょうか。

濱﨑准教授:
オートファジーは、いつどこで起きるのかわかりません。一部で起きているものを見るには、イメージングが向いていると考えています。

――オートファジーがいつどこで起きるのかわからないところが、研究を難しくしているのでしょうか。

濱﨑准教授:
それに加えて、関連するタンパク質の多くが可溶性で細胞質に存在していることも研究を難しくしています。

また、遺伝子をノックダウンさせる手法もよく使われますが、オートファジーに反映されないことがしばしばあります。これも研究を難しくしている一因です。ただ、オートファジーが飢餓時などで起きることを考えれば、少量でも機能するタンパク質があればいいという意味ではリーズナブルなのかもしれません。

――最近、オートファジーは疾患との関連が多く示唆されています。臨床研究との連携も視野に入れているのでしょうか。

濱﨑准教授:
大阪大学では2015年に、当研究室と医学部診療科10教室が参加するオートファジーセンターが発足しました。すでに共同研究が行われています。臨床研究との組み合わせは、今後もやっていきたいと思います。

その一方で、基礎研究も忘れずに取り組んでいきたいです。オートファジーを標的とする治療薬が未だにないのは、やはり基礎研究が不足しているからだと考えています。

――臨床研究だけでなく、基礎研究も大事ですね。

濱﨑准教授:
今までの日本政府は、基礎研究にも潤沢に予算を出していたと思います。これからも続けてほしいです。

――他にはどのようなことに取り組んでいきたいとお考えでしょうか。

濱﨑准教授:
女性ならではのフィールドを立ち上げたいと思います。女性が興味をもちそうなテーマなどを絡めながら研究ができると、面白いのではないかと考えています。

――ありがとうございました。

シグマ の製品について一言

アルブミンを含めた培地関連製品、ジェネラル試薬をよく利用しています。歴史も長いので信頼できます。培地については、chemical screeningのときに薬物と血清が反応してしまうことがあるので、血清がない培地がデフォルトであると使いやすいと思います。また、オートファジーは飢餓時で起きやすいので、低栄養なオートファジー専用培地があるとうれしいです。

プロフィール

濱﨑 万穂 准教授
大阪大学大学院 生命機能研究科 細胞内膜動態研究室

カナダビクトリア大学卒業。医科研研究生1年弱(渋谷正史教授)、九州大学院大学理学部修士課程修了(藤木幸夫教授)、総合研究大学院大学博士課程修了(大隅良則教授)、日本学術振興会特別研究員、ドイツEMBL博士研究員、大阪大学微生物病研究所助教、同大学医学部助教を経て准教授(現職、現在JSTさきがけ研究員兼任)。専門:イメージングベースのメンブレントラフィック​研究​。趣味:綺麗なものを観ること。

参考文献:

  1. Matsunaga K, Morita E, Saitoh T, Akira S, Ktistakis NT, Izumi T, Noda T, Yoshimori T.: Autophagy requires endoplasmic reticulum targeting of the PI3-kinase complex via Atg14L. J Cell Biol 190, 511−521, 2010
  2. Hamasaki M, Furuta N, Matsuda A, Nezu A, Yamamoto A, Fujita N, Oomori H, Noda T, Haraguchi T, Hiraoka Y, Amano A, Yoshimori T.: Autophagosomes form at ER-mitochondria contact sites. Nature, 495, 389−393, 2013