研究者インタビュー

選択的オートファジーのメカニズムと生理学的意義を解明する

中戸川 仁 准教授 東京工業大学 生命理工学院

オートファジー(自食作用)は、細胞内成分を分解するしくみの一つとして知られています。従来、飢餓時の栄養供給や新陳代謝のために細胞内成分を非選択的に分解すると考えられてきましたが、近年では特定のオルガネラなどを狙って分解する「選択的オートファジー」にも注目が集まっています。中戸川仁先生(東京工業大学 生命理工学院 准教授)は、核と小胞体の選択的オートファジーのしくみを明らかにし、その成果は『nature』に掲載されました。選択的オートファジーの研究や今後の展望について、中戸川先生にお話を伺いました。

 

オートファジーの分子機構と生理機能を解明する

――現在の研究概要を教えてください。

中戸川准教授:
オートファジーの分子機構と生理機能の解明を目指しています。細胞内成分が小胞に包まれてリソソームまたは液胞と融合して分解される一連の過程をオートファジー、その小胞をオートファゴソームと呼びます。

私は特に、オートファゴソームの形成機構と、オートファジーによる選択的分解に関する問題に興味をもって取り組んでいます。

――最初の研究テーマであるオートファゴソームの形成機構について詳しく教えてください。

中戸川准教授:
オートファゴソームは、細胞内で脂質膜が伸展して形成されます。大きいものになると、バクテリア1個を丸ごと包み込めるほどの大きさになります。オートファゴソームは約10分で形成されるので、非常にダイナミックなプロセスといえます。

オートファゴソームの形成に必要なAtgタンパク質群の解析によってオートファゴソームの形成機構について多くのことがわかってきましたが、そのすべてが解明されたわけではありません。どのように膜が伸びるのか、球状になるためにどのように膜が湾曲するのか、そしてどのように閉じるのか。そもそも、オートファゴソームの材料である脂質膜は細胞内のどこから調達されるのか。さまざまな仮説が提唱されていますが、まだ誰もが納得できるような実験データは示されていません。

――もう一つのテーマである、オートファジーによる選択的分解について詳しく教えてください。

中戸川准教授:
オートファジーは、当初は飢餓時の栄養供給のしくみとして研究されました。細胞内成分をランダムに、つまり非選択的に分解していると長らく考えられていました。

ところが最近になって、損傷ミトコンドリアや過剰なペルオキシソームなどのオルガネラや病原体などをオートファジーは選択的に分解できることがわかってきました。選択的オートファジーはさまざまな疾患との関連が示唆されています。われわれは、選択的オートファジーの標的となる細胞内成分には何があるのか、標的に狙いを定めるメカニズムの解明にも興味をもっています。

 

核と小胞体の選択的オートファジーのしくみが明らかになった

―― 2015年に『nature』に掲載された論文は、選択的オートファジーに関するものでした(参考文献1)。どのような新規性があったのでしょうか。

中戸川准教授:
核と小胞体が選択的オートファジーの標的になるメカニズムを発見したことです。小胞体が選択的オートファジーの標的になることは過去に示唆されていたのですが(参考文献2)、この論文では核も選択的オートファジーの対象となることを示し、これらのメカニズムをクリアに示したことが評価されました(図1、2)。

図1 酵母の電子顕微鏡画像。右側の大きな白い部分が液胞。液胞内にある黒い部分は、取り込まれたオートファゴソーム由来の小胞(autophagic body(AB)と呼ばれている)。この酵母はABを分解できない変異株であるため、液胞内でABが蓄積している様子が観察できる。液胞内左下には核の断片(リング状)、左上には小胞体の断片(丸いシート状)を取り込んだABが見えている。

図2 酵母の蛍光顕微鏡画像。赤が液胞、緑が小胞体。緑色の円状に見えているのは、核周囲の小胞体≒核膜である。

――そもそも選択的オートファジーでは、どのように標的を認識するのでしょうか。

中戸川准教授:
分解される標的に結合する、レセプターと呼ばれるタンパク質が発現します。レセプターには多くの種類があり、各標的に特異的に結合します。このレセプターは、オートファゴソームの膜に存在するタンパク質Atg8と結合します。この結合を介して、オートファゴソームの膜が標的に沿って伸展します。これが標的認識の基本的なメカニズムの一つです。

現在までにわかっているレセプターは、すべてAtg8と結合します。そこで、Atg8に結合するタンパク質を網羅的に探索し、その中から新たなレセプターを探そうとしました。

――どのような方法で探したのでしょうか。

中戸川准教授:
飢餓状態の酵母からAtg8を免疫沈降で単離し、そこに含まれるタンパク質を質量分析で決定しました。すると、機能未知のタンパク質を2つ見つけることができました。それぞれAtg39とAtg40と命名し、更なる解析を試みました。そして、Atg39は核膜に、Atg40は小胞体に局在し、それらの一部をオートファゴソームに取り込ませるレセプターであることがわかりました。

Atg39をノックアウトした酵母では、野生型よりも飢餓時の生存率が低下します。核の一部の分解が、飢餓時の酵母にとって極めて重要だということです。ただ、核の一部を分解しなければならない理由は不明のままです。現在、核の構成成分のうち特に良く分解される成分を特定しようと解析を進めているところです。

―― Atg40も、ノックアウトすると影響が出るのでしょうか。

中戸川准教授:
Atg40をノックアウトしても、飢餓時の生存に変化は観察されませんでした。Atg40による小胞体のオートファジーが必要になる局面についても研究しています。

その一方で、Atg40は哺乳類のFAM134Bの機能的ホモログであることがわかりました。FAM134Bは、ヒトでは感覚神経障害の原因遺伝子の産物として知られています(参考文献3)。疾患との関連を示唆するものであり、非常に興味深いといえます。

 

ドイツの研究チームと同時掲載で大きなインパクト

――その成果を発表した『nature』では、同時にゲーテ大学(ドイツ)のIvan Dikic氏らも小胞体のオートファジーに関する論文を発表しました(参考文献4)。関係はあるのでしょうか。

中戸川准教授:
2014年に中国の「Cold Spring Harbor Asia」で開催された学会でIvan Dikic氏と会話をし、お互いが同じような研究を進めていることを知りました。彼らは哺乳類での小胞体のオートファジーについて研究しており、彼らが『nature』に投稿するときに声をかけてもらいました。

彼らの論文は、哺乳類における小胞体の選択オートファジーのレセプターとしてFAM134Bを同定し、小胞体のオートファジーによる分解と疾患との関連を強く示唆するものでした。一方で、われわれの論文は酵母での研究であり、小胞体だけでなく核のオートファジーに関する内容も含む成果でした。お互いに補完し合いながらも異なる要素をもっていたので、単独で出すよりも大きなインパクトを与えられるのではないかと考えました。レビューも比較的スムーズに進み、同時掲載に至りました。

――最初から核のオートファジーも想定していたのでしょうか。

中戸川准教授:
そもそもこの研究は、論文の筆頭著者になっている持田啓佑君(大学院生)が小胞体のレセプターを同定したいと言って始めたものなので、核のオートファジーの発見にまで至るとは予想もしていませんでした。

――論文を発表してからの反響はいかがでしたでしょうか。

中戸川准教授:
国内では多くの新聞やテレビに取り上げていただきました。海外でも、一般向けの科学雑誌から専門誌まで、広く紹介していただきました(参考文献5、6)。海外の研究者からも学会などで直接高い評価がもらえています。

 

選択的オートファジーが起きる条件を探索する

――今後の展望についてお聞かせください。

中戸川准教授:
Atg40に対する哺乳類の機能的ホモログは見つかったのですが、Atg39のホモログはまだ見つかっていません。哺乳類でAtg39に相当するタンパク質を探したいと考えています。存在するのであれば、Atg40と同じく、何らかの疾患と関連している可能性も十分にあると思います。

――どのような条件で選択的オートファジーが起きるのか、その研究も重要になるのでしょうか。

中戸川准教授:
もちろんです。選択的オートファジーは多くの場合、特定の条件で起きると考えられます。すなわち、条件に応じてレセプターの発現量が変わり、レセプターの翻訳後修飾によってAtg8との結合の強さも変わる可能性もあります。今回は飢餓条件で解析をおこない、Atg39, Atg40を同定しましたが、条件を変えれば別のレセプターを発見できる可能性が残されていると考えています。

またAtg8は、哺乳類ではパラログが数種類あり、これらはレセプター対して異なる親和性を示すことがわかっています。どのパラログを使って免疫沈降するかによって、結合するレセプターが変わるかもしれません。このような点にも注意しながら解析を進めることで、詳細なメカニズムと生理学的意義を解明できるのではないかと考えています。

――ありがとうございました。

シグマ の製品について一言

現在、さまざまなAtgタンパク質を免疫沈降して質量分析をしていますが、そこではルーチンでシグマ アルドリッチの「FLAG M2抗体」を使用しています。ペプチドで溶出でき、GFPよりも短いという利点があります。共免疫沈降法(Co-IP)を行うには最適でしょう。また、免疫沈降の際にバッファーにBSAを加えることがありますが、種類が豊富なので、状況に応じて使い分けることができて便利です。

プロフィール

中戸川 仁 准教授
東京工業大学 生命理工学院

2002年 京都大学大学院理学研究科博士課程修了.日本学術振興会特別研究員、基礎生物学研究所助手/助教、JSTさきがけ研究者(兼任)、東京工業大学フロンティア研究機構特任助教、特任准教授を経て、2014年より現所属.オートファジーに関わる個々の因子の機能を分子レベルで理解しつつ、これと膜動態のようなマクロな事象とのギャップを埋めていくような研究を展開したい。

参考文献:

  1. Mochida K, Oikawa Y, Kimura Y, Kirisako H, Hirano H, Ohsumi Y, Nakatogawa H.: Receptor-mediated selective autophagy degrades the endoplasmic reticulum and the nucleus. Nature 522, 359−362, 2015
  2. Yorimitsu T, Klionsky DJ.: Eating the endoplasmic reticulum: quality control by autophagy. Trends Cell Biol. 17, 279−285, 2007
  3. Kurth I, Pamminger T, Hennings JC, Soehendra D, Huebner AK, Rotthier A, Baets J, Senderek J, Topaloglu H, Farrell SA, Nürnberg G, Nürnberg P, De Jonghe P, Gal A, Kaether C, Timmerman V, Hübner CA.: Mutations in FAM134B, encoding a newly identified Golgi protein, cause severe sensory and autonomic neuropathy. Nat Genet. 41, 1179−1181, 2009
  4. Khaminets A, Heinrich T, Mari M, Grumati P, Huebner AK, Akutsu M, Liebmann L, Stolz A, Nietzsche S, Koch N, Mauthe M, Katona I, Qualmann B, Weis J, Reggiori F, Kurth I, Hübner CA, Dikic I.: Regulation of endoplasmic reticulum turnover by selective autophagy. Nature 522, 354−358, 2015
  5. Ashley P. Taylor: Targeted ER Breakdown. The Scientist June 17,2015 http://www.the-scientist.com/?articles.view/articleNo/43278/title/Targeted-ER-Breakdown/
  6. Rubinsztein DC: Cell biology: Receptors for selective recycling. Nature 522, 291−292, 2015