研究者インタビュー

樹状細胞の分化制御メカニズムを探る

小内 伸幸 講師 東京医科歯科大学 難治疾患研究所 生体防御学分野

血球細胞は、造血幹細胞から分化し、産生されます。しかしながら、その分化メカニズムは十分に解明されたとは言い難いのが現状です。近年は遺伝子改変マウスを用いた実験系が大きく発達し、従来の概念を覆す研究が多く報告されています。小内伸幸先生(東京医科歯科大学 難治疾患研究所 生体防御学分野)は、血球細胞の中でも樹状細胞の分化制御に関心をもち、研究を続けています。小内先生に、これまでの研究の背景や今後の展望について伺いました。

 

樹状細胞の分化制御に関心をもつ

 

――現在の研究概要を教えてください。

小内講師:
単核貪食細胞のうち、樹状細胞の機能や分化メカニズムの解明を研究テーマとしています。単核貪食細胞とは、免疫を担う単核の細胞群で、単球・マクロファージ・樹状細胞から構成されます。これらの細胞は免疫だけでなく、脂質代謝、老廃物や毒素の除去、骨形成や骨のリモデリング、脂肪形成など、生体内の恒常性維持に中心的な役割を担っています(図1)。  

これらの細胞の機能や制御が破綻すると、アレルギーや自己免疫疾患、さらには組織線維化や骨粗鬆症や白血病、肥満や糖尿病などを発症します。

図1 単核貪食細胞システムの役割。単核貪食細胞は単球・マクロファージ・樹状細胞から構成され、免疫や恒常性維持に機能する。



――研究対象である樹状細胞とはどのような細胞でしょうか。

小内講師:
その名のとおり、細胞表面に樹状突起をもつ細胞です。樹状細胞は生体内に侵入した病原性微生物由来の物質を貪食・分解し、抗原としてリンパ球に掲示することでT細胞を活性化させ、免疫反応を誘導します。



――樹状細胞に注目するきっかけは何だったのでしょうか。

小内講師:
樹状細胞は1973年にRalph M. Steinman博士によって発見され、その功績によりSteinman博士は2011年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。Steinman博士をはじめ、多くの研究は樹状細胞の機能に着目した研究を行っていました。このため樹状細胞がどこから分化してくるのか、また同細胞の分化にどのような分子が関与しているのか、不明点が多くありました。

さらに、樹状細胞の寿命は数日から1週間程度であり、常に造血幹細胞が分化して供給される必要があります。その分化を制御する分子に感心をもち、スイスに留学中の2003年から樹状細胞の分化の研究を始めました。

 

20種類以上の抗体を用いて共通前駆細胞を探索した

 

――これまでの研究成果を教えてください。

小内講師:
最初に行った研究は、樹状細胞分化に重要なサイトカインであるFlt3リガンドの受容体Flt3を、赤血球系細胞のみに分化する巨核球・赤芽球前駆細胞に過剰発現させると分化リプログラムが起こり、樹状細胞に分化するということでした(参考文献1)。

その次は、樹状細胞に分化する前駆細胞は何かという疑問に答えることでした。そして2007年に『Nature Immunology』、さらに2013年に『Immunity』において、樹状細胞サブセットに共通の前駆細胞であるCDP(common dendritic cell progenitor)をマウスの骨髄から発見しました(参考文献2、3)。

CDPは樹状細胞のみに分化し、単球やマクロファージ、リンパ球などの他の血球系細胞には分化しないという大きな特徴があります(図2)。造血幹細胞からの分化経路の中で、樹状細胞のみに分化するCDPを発見したことが大きなポイントであり、わたしの現在の研究の柱です。

 

図2 CDPは樹状細胞のみに分化し、他の血球細胞には分化しない特徴をもつ。

 

――どのようにしてCDPを発見したのでしょうか。

小内講師:
マウスの骨髄細胞を蛍光標識されたさまざまな抗体を用いて多重染色を行い、該当細胞をセルソーターで純化し、in vitro培養で各細胞への分化能を検証しながら探索しました。抗体は全部で20種類以上を検討したので、ここが最も大変な作業でした。

――使用する抗体はどのようにして絞り込んだのでしょうか。

小内講師:
Flt3リガンドのノックアウトマウスでは樹状細胞がほとんど存在しないので、Flt3を必須のマーカーと見なしました。それ以外に想定されるマーカーと組み合わせて実験しました。

また、樹状細胞の分化に関係ない細胞を取り除くことで、細胞の種類をさらに絞り込んでいきました。

 

国際学会で競合相手に冷や汗をかかされる

――CDPの存在を実験で確認してから論文が掲載されるまでに、苦労はあったのでしょうか。

小内講師:
2007年に『Nature Immunology』に発表したときには、この分野で有名なKen Shortman博士(オーストラリア)らの研究グループもCDPを同時に発表しています(参考文献4、彼らはpro-DCを呼んでいた)。実は、彼らもCDPを発見していたことを、事前に国際学会で知ったのです。

その国際会議の時点で、われわれはすでに主要データをそろえており、一部のデータをポスターセッションで発表しました。ところが初日のシンポジウムにKen Shortman博士が登壇し、樹状細胞のみに分化する共通前駆細胞を発見したと話し始めたのです。

―― CDPと完全に同じ内容だったのですね。

小内講師:
途中からShortman博士の発表が耳に入らなくなり、冷や汗をかきました。博士のグループもポスター発表していることを抄録集で確認すると、慌ててポスター会場に向かいました。すると、わたしのポスターを真剣に見ている人がいました。後に『Nature Immunology』で同時掲載される論文の筆頭著者Shalin H. Naik博士でした。

その日の夜に両グループで話し合い、どうやら同じものを発見しているという結論に至り、同時投稿を目指そうという話になりました。

――今、当時を振り返っていかがでしょうか。

小内講師:
当時は焦りやプレッシャー、さらに2つのグループの論文が投稿したNature Immumologyに無事採択されるかどうか不安でしたが、わたしの発見が他のグループによっても証明されていたという意味では、喜ばしいと思っていました。

 

単核貪食細胞の新たな分類方法と命名方法の提案へ

 

――論文掲載後の反響はいかがでしょうか。

小内講師:
賞賛の声が多く寄せられました。また、この発見をきっかけに、世界中の同世代の研究者と共同で、単核貪食細胞の新たな分類方法と命名方法を提案しました(図3)(参考文献5)。メンバーにはNaik博士も参加しています。こういった仲間から声を掛けていただいたことはうれしく思います。

図3 新しく提案されている単核貪食細胞の分類と名称。ここ10年間の知見をもとに作成されている(参考文献5をもとに改変)。



――今後の展望についてお聞かせください。


小内講師:
これまではマウスを対象にした研究がほとんどでした。今後は、私の研究成果を創薬や治療へと応用していきたいと考えているため、ヒトを対象にした研究にも取り組み始めています。


マウスでは樹状細胞の分化マーカーとしてFlt3を用いてきましたが、ヒトでは別のマーカーを用いないとうまくいかないことがわかっています。それでも、マウスと似た樹状細胞の分化のしくみがヒトにもあると考えて研究を続けています。


―ありがとうございました。

写真左から: 小内 伸幸 先生、樗木 俊聡 先生

シグマ の製品について一言

組織から樹状細胞やマクロファージなどを取り出す処理に必要なコラゲナーゼは週に2、3回は使っています。コラゲナーゼ処理を行わないと、樹状細胞などの回収率が3分の1程度になってしまいます。いいロットがあるとまとめて購入するほどです。また、細胞増殖の結果が良好な培地(IMEM、DMEMやRPMI-1640など)と、死細胞を除去するためのPIも使っています。

プロフィール

小内 伸幸 講師
東京医科歯科大学 難治疾患研究所 生体防御学分野

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。2000年より東京大学大学院医学系研究科分子予防医学教室(松島綱治教授)助手、2001年からスイス生物医学研究所にポスドクとして留学。2006年秋田大学大学院医学系研究科生体防御学分野(樗木俊聡教授)に助手、2007年同助教、2008年同講師、2009年東京医科歯科大学難治疾患研究所生体防御学分野講師、現在に至る。

参考文献:

  1. Onai N, Obata-Onai A, Tussiwand R, Lanzavecchia A, Manz MG.: Activation of the Flt3 signal transduction cascade rescues and enhances type I interferon-producing and dendritic cell development. J Exp Med. 203 (1), 227−238, 2006
  2. Onai N, Obata-Onai A, Schmid MA, Ohteki T, Jarrossay D, Manz MG.: Identification of clonogenic common Flt3+M-CSFR+ plasmacytoid and conventional dendritic cell progenitors in mouse bone marrow. Nat Immunol. 8 (11), 1207−1216, 2007
  3. Onai N, Kurabayashi K, Hosoi-Amaike M, Toyama-Sorimachi N, Matsushima K, Inaba K, Ohteki T.: A clonogenic progenitor with prominent plasmacytoid dendritic cell developmental potential. Immunity 38 (5), 943−957, 2013
  4. Naik SH, Sathe P, Park HY, Metcalf D, Proietto AI, Dakic A, Carotta S, O'Keeffe M, Bahlo M, Papenfuss A, Kwak JY, Wu L, Shortman K.: Development of plasmacytoid and conventional dendritic cell subtypes from single precursor cells derived in vitro and in vivo. Nat Immunol. 8 (11), 1217−1226, 2007
  5. Guilliams M, Ginhoux F, Jakubzick C, Naik SH, Onai N, Schraml BU, Segura E, Tussiwand R, Yona S.: Dendritic cells, monocytes and macrophages: a unified nomenclature based on ontogeny. Nat Rev Immunol. 14 (8), 571−578, 2014