神経変性における炎症の役割

By: Scott Hauser, Technology Transfer Specialist, Sigma® Life Science, Biofiles, Vol. 8, No. 19


 

感染や組織損傷などの事象に応えて、脳は末梢部の傷害を感知し、速やかな発熱の誘導とその他の神経内分泌の変化を通じて反応できることが、十分に確立されています。かつて脳と中枢神経系(CNS)は、免疫特権部位であり、全身性炎症反応と免疫応答の対象にはほぼならないと考えられていました。これは、抗原とリンパ球細胞が血液脳関門(BBB)をほとんど通過できず、損傷や炎症に対する細胞性/体液性免疫応答を惹起できない、という観察に基づいていました。しかし近年、脳とCNSが免疫を介した炎症プロセスを開始することができ、それが多くの神経変性疾患の進展に、またおそらくはその他の精神と認知障害の進展にも寄与する可能性がある、というエビデンスが増えつつあります。

健康な脳とCNSの組織では、炎症促進性サイトカインは検出されないか、又は非常に低濃度で存在しています。常在性ミクログリアとアストロサイトは、脳の恒常性を維持する先天性の神経保護的な免疫応答を調節していますが、最終的に神経障害に至ることもある適応応答を開始することもできます。例えば、神経保護は、ウイルス感染やストレスから生じた壊死組織片と壊死細胞をミクログリア細胞が除去することで、更に、浸潤T細胞の増殖とエフェクター機能はアストロサイトに抑制されることで維持されています。しかし、活性化されたミクログリアとアストロサイトは、ケモカイン及び炎症メディエーター(プロスタグランジン、一酸化窒素[NO]など)に加え、腫瘍壊死因子(TNF-a)やインターロイキン-1β(IL-1b)などの炎症促進性サイトカインを産生します。このような分子の産生は、BBBに沿った接着分子の発現を誘導することがあり、結果的に神経障害を媒介する炎症細胞や細胞障害性T細胞の浸潤に至らしめます。

サイトカイン(特にIL-1β)の産生と神経変性の間の強い関連性が、動物モデルにおいて確立されています。CNSの損傷に続き、ミクログリアにより産生されるIL-1βはGABAとNMDAのシグナル伝達に変化をきたし、NOとプロスタグランジンの濃度を増加させます。げっ歯動物の脳卒中/虚血モデルでは、遺伝子組換えインターロイキン-1受容体アンタゴニストタンパク質(IL-1ra)又はIL-1βの中和抗体の投与は、虚血性損傷を著明に抑制することができます。更に、IL-1βノックアウトマウスは野生型動物に比べ、梗塞体積が減少しています。ラットてんかんモデルでは組換えIL-1βの投与が誘発痙攣の強度を増大させますが、IL-1raを過剰発現するよう遺伝子操作されたマウスでは、化学的に誘発される痙攣の発症と範囲の低下が認められます。更に、外傷性脳損傷(TBI)後のマウスにおけるIL-1raの過剰発現又は遺伝子組換えIL-1raの注射は、組織損傷の程度を低下させ、回復を改善します。

この10年間に実施された研究により、CNS内でのサイトカイン及びその他の炎症性メディエーターの産生が開始される機構について、理解が深まってきました。ミクログリア、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ニューロン、そしてBBBに沿って発現するToll 様受容体(TLR)が、CNSにおける自然免疫応答の開始の主な原因です。Toll様受容体がサイトカイン、プロスタグランジン及びNOの、NF-κBを介した産生を活性化できるためです。短期的なTLRシグナル伝達は神経保護修復の機構を媒介しますが、アルツハイマー病とパーキンソン病の動物モデルでは、TRL発現レベルの増加と合わせ、慢性的なTLRの活性化が観察されていました。アミロイドβ原線維(アルツハイマー病[AD]の顕著な特徴)とαシヌクレイン(パーキンソン病で認められる封入体・レビー小体の成分)の両方が、TLRを介したミクログリアの活性化によって生じることが報告されています。同様に、IL-1βの放出に不可欠なプリン受容体P2X7は、CNS内に広く、主にミクログリアで発現されています。更にTLRと同様にP2X7の活 性化も、虚血-再灌流傷害、神経変性障害(ADなど)、多発性硬化症及びてんかんとの関連性が、動物試験から明らかにされています。神経障害性疼痛におけるP2X7の役割も、神経性のP2X7を介したグルタミン放出を介して報告されています。神経変性障害におけるTLRとP2X7の役割を示唆する強力なエビデンスは得られていますが、病勢進行における実際の役割は、まだ完全には理解されていません。

最後に、慢性外傷性脳症(CTE)などTBI後に生じることがある遅延性脳損傷に対して炎症カスケードが与えている影響を調べた研究が増えているようです。これはフットボールやその他の身体接触が多いスポーツへの参加と、TBI及びCTEの発現頻度の増加との関係性について、意識が高まってきたためです。

CNS 内の常在細胞が炎症促進性免疫応答を開始できること、また炎症性サイトカインとその他の重要なメディエーター(プロスタグランジン、NO、補体成分)が神経障害、神経変性疾患及び認知障害の進展において働くことを裏付けるエビデンスが増えていることから、これら疾患の治療のために炎症経路を標的とする新たな治療アプローチが導かれるものと考えられます。

 

Materials

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References

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