多項目同時解析(MILLIPLEX MAP キット、装置)

アプリケーション

アプリケーション1:
ヒト代謝ホルモンの血清および血漿サンプルからの多項目同時定量

要約

代謝疾患として分類される肥満、糖尿病、心疾患やそれらに近い生理状態は、健康な生活を意識する上でとりわけ関心を集めやすい事象です。代謝関連ホルモンは、脂肪細胞、膵臓、胃および腸管を含む各器官において生産、分泌され、エネルギーの産生と消費、食物の摂取、および体組織中の代謝において統合的な役割を果たしています(図1)。小児及び若年においてもII 型糖尿病の発症が増えている事実や、代謝シグナルと発がんの結びつきから、ホルモンと代謝性疾患がどのような関係を持っているかという研究は疾患の治療および予防において重要だと考えられています。
代謝バランスの維持には複数のホルモンによるシグナル制御が関与しているので、単一のバイオマーカーの測定は代謝系の理解にはほとんど意味がありません。一方、複数の因子を同時に測定するには、サンプル量が大きな制限要因となります。これらの課題を克服するために、メルクはLuminex 社のxMAP テクノロジーに基づいた測定系で使用可能な多項目同時測定パネルを開発しました。このパネルを用いれば、ヒト代謝に関連した複数の測定項目が同時に定量可能です。
このアプリケーションノートでは、膵臓、消化管および脂肪細胞が分泌する15 の因子の多項目同時定量を可能にするアッセイパネルを用いて測定した、食事前後のヒト代謝ホルモン分泌量の比較データを紹介します。

図1

図1 代謝関連ホルモンの連関
体重および代謝を制御するためのエネルギー摂取とエネルギー消費のバランスは、各臓器から分泌されるホルモンによる脳(ここでは特に間脳視床下部)への信号伝達が調節している。

おもな実験手法

マルチプレックスアッセイ

MILLIPLEX MAP Human Metabolic Hormone Magnetic Bead Panel (カタログ番号HMHEMAG-34K)を、同梱プロトコルに従って使用した。

ヒト由来サンプルの調製

健康なヒト集団(n = 20)から、朝食摂取1時間後あるいは夜間絶食後の血液を採集し、ただちにプロテアーゼ阻害剤カクテルおよびDPP-4 阻害剤(カタログ番号DPP4)を混和後、血清および血漿に分離してマルチプレックスアッセイを実施した。同じサンプルに対して高感度活性型GLP-1 ELISAキット(カタログ番号EGLP-35K)で活性型GLP-1 を定量した。

結果

A.

図2

B.

図2

図2 代謝関連ホルモンのマルチプレックスアッセイ
各因子を段階希釈してMILLIPLEX MAP Human Metabolic Hormone Magnetic Bead Panel によって作成した検量線(A)およびそこから算出した検出感度データ(B)。

A.

図3

B.

図3

図3 ヒト血清および血漿中の代謝ホルモンのマルチプレックスアッセイ

A. MILLIPLEX MAP Human Metabolic Hormone Magnetic Bead Panel を用いて実施した、夜間絶食後(Fast)ならびに朝食摂取1時間後(Post)のヒト血清(Serum)および血漿(Plasma)におけるC-Peptide、GIP、活性型GLP-1、Insulin の定量結果。いずれも予想される量の増加が観察された。

B. 血清および血漿中の各因子の含有量比較。いずれも、高い相関を示していることが、一次近似式の傾き(Xの係数)ならびに相関係数(R)の値から判断できる。

図3

図4 活性型GLP-1 を利用したMILLIPLEX MAP アッセイとELISAの比較

A. MILLIPLEX MAP パネルとELISA それぞれの活性型GLP-1 に対する検量線。
HMHE: MILLIPLEX MAP GLP-1 (active)アッセイキット。
ELISA:高感度活性型GLP-1 ELISA キット。

B. 血清サンプル中の活性型GLP-1 をMILLIPLEX MAP アッセイとELISAで定量した結果の相関。
縦軸: MILLIPLEX MAP GLP-1(active)アッセイキット。
横軸:高感度活性型GLP-1 ELISA キット。

C. 高感度GLP-1 活性ELISA キットによる夜間絶食後のヒト血清および血漿中活性型GLP-1 定量結果。Fast:夜間絶食後、Post:朝食摂取1 時間後。

D. MILLIPLEX MAP による夜間絶食後のヒト血清および血漿中活性型GLP-1 定量結果。Fast:夜間絶食後、Post:朝食摂取1 時間後。

結果および考察

MILLIPLEX MAP Human Metabolic Hormone Magnetic Bead Panel は代謝因子に対する多項目同時定量のための第二世代マルチプレックスパネルです。初代パネルからの改善点は、パネルに採用されている抗体の改善による活性型GLP-1検出感度の向上や活性型GLP-1と全GLP-1の同時定量であり、ELISA データとの相関も高く保たれていました。
今回は同一ヒト個体に由来する夜間絶食後のヒト血液(対照)と、摂食1時間後(実験区)の血液中の代謝ホルモンをMILLIPLEX MAP Human Metabolic Hormone Magnetic Bead Panel を用いて多項目同時定量し、測定値の相互比較およびELISA による測定データとの比較を実施しました。複数の要因が綜合的に関与する代謝ホルモンの研究においては、独立した単独因子の測定よりも、注目している系に関与する複数因子を同時に定量できる方が、現象の理解に役立つデータセットを獲得できると考えられています。
本アプリケーションノートの実験結果は、今まで知られていた各因子の摂食前後の変動をよく支持しており、本パネルが摂食やエネルギー消費を制御している代謝ホルモン系の研究において正確な実験データを得られることが支持されました。

参考文献

  1. Gibbons C. et al ., J. Clin. Endocrinol. Metab. 2013, 98(5), E847-855: Comparison of postprandial profiles of ghrelin, active GLP- 1, and total PYY to meals varying in fat and carbohydrate and their association with hunger and the phases of satiety. (PMID: 23509106)
  2. Unger R. H. et al ., J. Clin. Invest. 1970, 49(4), 837-848: Studies of pancreatic alpha cell function in normal and diabetic subjects. (PMID: 4986215)
  3. Marliss E. B. et al ., J. Clin. Invest. 1970, 49(12), 2256-2270: Glucagon levels and metabolic effects in fasting man. (PMID: 5480852)
  4. Felig P. et al ., J. Clin. Invest. 1976, 58(3), 761-765: Influence of physiologic hyperglucagonemia on basal and insulin-inhibited splanchnic glucose output in normal man. (PMID: 956401)
  5. Nishino T. et al., Clin. Chem. 1981, 27(10), 1690-1697: Glucagon radioimmunoassay with use of antiserum to glucagon C-terminal fragment. (PMID: 6169468)
  6. Aliberti G. et al ., Physiol. Res. 2001, 50(3), 231-235: Hormone metabolism in the pulmonary circulation. (PMID: 11521733)
  7. Zoladz J. A. et al ., J. Physiol. Pharmacol. 2002, 53(3), 409- 422: Effect of different muscle shortening velocities during prolonged incremental cycling exercise on the plasma growth hormone, insulin, glucose, glucagon, cortisol, leptin and lactate concentrations. (PMID: 12369738)
  8. Nauck M. A. et al ., J. Clin. Endocrinol. Metab. 2002, 87(3), 1239- 1246: Effects of glucagonlike peptide 1 on counterregulatory hormone responses, cognitive functions, and insulin secretion during hyperinsulinemic, stepped hypoglycemic clamp experiments in healthy volunteers. (PMID: 11889194)
  9. Broglio F. et al ., Clin. Endocrinol. (Oxf.) 2004, 61(4), 503-509: Ghrelin secretion is inhibited by glucose load and insulin-induced hypoglycaemia but unaffected by glucagon and arginine in humans. (PMID: 15473884)
  10. Hattori N. et al ., Endocr. J. 1995, 42(4), 455-460: Immunoglobulin G can crossreact with glucagon antisera and cause a spuriously high plasma immunoreactive glucagon level. (PMID: 8556050)
  11. Teixeira R. C. et al ., Clinics (Sao Paulo) 2008, 63(2), 267-270: Necrolytic migratory erythema associated with glucagonoma: a report of 2 cases. (PMID: 18438582)
  12. Okauchi Y. et al ., Intern. Med. 2009, 48(12), 1025-1030: Glucagonoma diagnosed by arterial stimulation and venous sampling (ASVS). (PMID: 19525592)
  13. Wang J., EMD Millipore In-House Assay Results.(未発表社内データ)

GLP-1 とは?

 GLP-1 は、Glucagon-like Peptide 1 の略称です。小腸下部の L 細胞から産生される GLP-1は GIP(Glucose-dependent Insulinotropic Polypeptide)と共に膵臓ランゲルハンス島の β細胞からのインスリン分泌を促進して血糖値の低下を誘導するため、消化管ホルモン(インクレチン)に分類されます。
 GLP-1 は分解酵素であるセリンプロテアーゼ DPP-4(Dipeptidyl Peptidase 4)によってすみやかに不活性化されるため、糖尿病治療薬として DPP-4 阻害剤や GLP-1 アゴニストが使用されています。

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アプリケーション2:
15種類のヒト補体因子に対する多項目同時測定

要約

補体系は様々な血漿中のタンパク質から構成され、貪食細胞や抗体による病原体排除を補う機能を持っています。補体系は、一度活性化されると免疫応答の増幅を経て、標的細胞(病原体)の細胞膜を穿孔して浸透圧性の溶菌を引き起こす「細胞膜障害性複合体」(Membrane-attack Complex:MAC)の活性化に達します。補体系は、古典経路(Classical Pathway)、レクチン経路(Lectin Pathway)、副経路(Alternative Pathway)の3経路に大分類されます。
MAC が自己細胞に作用すると体組織を激しく損傷する可能性があるため、補体経路の活性化は厳密に制御されている必要があります。補体系は、喘息、敗血症だけでなく、全身性エリテマトーデス(Systematic Lupus Erythematosus:SLE)、炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)、関節リウチ(Rheumatoid Arthritis:RA)、多発性硬化症(Multiple sclerosis:MS)等の自己免疫疾患においても、重要な役割を持っていると考えられています。その上、補体系はアルツハイマー病(Alzheimer's Disease:AD)や脊髄損傷といった中枢神経系の疾患や損傷とも関連を持っていることが明らかになってきています。
疾患との高い相関から、患者の血清あるいは血漿中の各補体系構成因子を一度に定量する「補体プロファイリング」には大きな価値があると考えられていますが、いままでに有効な補体系定量法は、単一因子を対象にしたELISAのみでした。
本アプリケーションノートでは、患者の血清あるいは血漿中の標的タンパク質に対する多項目同時測定技術を応用した、補体系に対するMILLIPLEX MAP 技術の適用(MILLIPLEX MAP ヒト補体パネル、表1、図1)の適用例をご案内します。

おもな実験手法

※ 本アプリケーションノート掲載データを取得した際の実験プロトコルは、MILLIPLEX MAP ヒト補体パネルの推奨実験プロトコルと一部異なっています。

サンプル調製

96ウェルプレートに洗浄バッファーを150 μL 加えて10分間インキュベートし、バッファーを取り除いた。各ウェルに、患者由来サンプルまたは標準タンパク質25 μL を分注し、アナライト測定ビーズとアッセイバッファー各25 μL を添加後、4℃で一晩反応させた。3回洗浄したビーズ懸濁液にビオチン化抗体カクテル50 μL を添加し、室温で1 時間処理してから、50 μL のストレプトアビジン-PE 溶液を添加して室温のまま30分間追加のインキュベーションを行った。ビーズは測定前に3回洗浄し、150 μL のシース液に懸濁した。

測定系

Luminex® 200システムを使用した。

表1  MILLIPLEX MAP ヒト補体パネル

表1  MILLIPLEX MAP ヒト補体パネル
パネルI はC2、C4b、C5、C5a、C9、D 因子、マンノース結合レクチン(MBL)およびI 因子(合計8 因子)を、パネルII はC1q、C3、C3b、C4、B 因子、H 因子およびProperdin(合計7 因子)を多項目同時測定の標的にしている。
*2017 年1 月現在の製品です。

図1  ヒト補体パネルの特性

図1  ヒト補体パネルの特性
MILLIPLEX MAP ヒト補体パネル(I A)とヒト補体パネル I(I B)を用いた、それぞれのパネルが標的とする補体系因子に対する検量線(本パネルの販売を開始した2016年当初のデータを引用しています)。

測定サンプル

SLE:全身性エリテマトーデス
(Systematic Lupus Erythematosus)患者血液由来サンプル
JIA:若年性特発性関節炎(Juvenile Idiopathic Arthritis)患者血液由来サンプル
Sepsis:敗血症患者血液由来サンプル
Control:健常者血液由来サンプル

サンプル希釈倍率

ヒト補体パネルI (カタログ番号HCMP1MAG-19K):200倍希釈サンプルを使用
ヒト補体パネルII(カタログ番号HCMP2MAG-19K):40,000倍希釈サンプルを使用

結果

図2 患者由来サンプルに対するヒト補体系の多項目同時測定結果(1)

図2 患者由来サンプルに対するヒト補体系の多項目同時測定結果(1)
SLE、JIA、Sepsis それぞれの患者から採取したサンプルに対するヒト補体パネルI の測定結果。SLE およびJIA ではC1q、C4 およびC2 が増加、 C4b およびC3 が低下する傾向がみられた。ただし、C3 の低下傾向に健常者との有意な差が確認できたのはJIA のみであり、SLE におけるC3b の増加傾向にも健常者との有意差は認められなかった。一方、Sepsis ではC4、C2、C3b の増加傾向がみられた。

図3 患者由来サンプルに対するヒト補体系の多項目同時測定結果(2)

図3 患者由来サンプルに対するヒト補体系の多項目同時測定結果(2)
SLE、JIA、Sepsis それぞれの患者から採取したサンプルに対するヒト補体パネルII の測定結果。自己免疫疾患と感染症で補体プロファイリングの結果が異なるように見える。

表2 患者由来サンプルに対するヒト補体系の多項目同時測定結果

表2 患者由来サンプルに対するヒト補体系の多項目同時測定結果
図2 および図3 の12 因子に対する多項目同時測定結果のうち、有意差のあるシグナルの増加あるいは減少を疾患ごとにまとめた。

(A)

(A)

(B)

(B)

(C)

(C)

図4 患者由来サンプル中の補体経路因子の相関

(A) SLE、JIA、Sepsis それぞれの患者におけるC4 とC4b の存在量の相関。健常者ではC4 濃度とC4b 濃度に線形の相関がみられないが、患者では相関が確認された。

(B) SLE 患者におけるC1q とC9 の存在量の相関。SLE 患者においてはC1q 濃度とC9 濃度の間に相関が確認された。

(C) SLE、JIA それぞれの患者におけるC3 とC3b の存在量の相関。健常者ではC3 濃度とC3b 濃度に線形の相関がみられるが、患者では相関が喪失していた。

考察

本アプリケーションノートでは、今まではELISAによる単一項目測定に頼るしかなかった補体経路15 因子の同時測定が、MILLIPLEX MAP キットの利用で実現することが示されています。
図2および図3ではSLE、JIAおよびSepsis患者由来サンプル中の12因子の濃度分布が示され、表2にはそれぞれ項目のうち統計的な有意差が認められた変化がまとめられています。それらの結果から、本アッセイでは3種類の疾患患者における補体経路因子の濃度に関して、健常者との差を検出できることが分かりました。そこで、補体経路中の上流下流の関係を、注目する1対の因子をそれぞれ縦軸、横軸にとって比較(図4)したところ、次の3つの特徴が明らかになりました。

  1. (1) 今回測定対象とした3疾患では、C4濃度とC4b濃度に線形の相関が認められる(図4A)。
  2. (2) SLEにおいてはC1q濃度とC9濃度にも、健常者よりも高い相関が認められる(図4B) 。
  3. (3) SLEとJIAでは、健常者では確認されるC3濃度とC3b濃度の相関がみられない(図4C)。

このうち(1) と(2)からは、SLE、JIA、Sepsis においては、古典経路が強く関与している可能性が示唆されます。また、(3)からは、自己免疫疾患においては副経路の機能が十分に発揮されにくいか、または健常者では副経路が活性化されやすい環境にあることが推定されます。
本アプリケーションノートから、SLE とJIA の間で補体経路プロファイリングパターンの類似点が多かった(表2 および図4)ことが分かります。この結果は、自己免疫疾患とその他の感染症が、補体経路プロファイリングによって区別されうる可能性を示唆しています。単一項目の測定では十分な解析ができない生命現 象、特に複数の因子が複雑に関与し合うシグナル伝達系や細胞間情報伝達の解析には、本アプリケーションノートで紹介したような多項目同時解析が有効です。

ウェビナー(英語)

肺腺がん患者由来の血清による受容体型チロシンキナーゼの誘導

スピーカー: Dr. Jeffrey A. Borgia, Rush University Medical Center

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