リチウムイオン電池材料

高性能リチウムイオン電池用シリコン負極材料の進展

Xuefeng Song,1 Xiaobing Wang,2 Zhuang Sun,1 Peng Zhang,1 and Lian Gao1

1 State Key Laboratory for Metallic Matrix Composite Materials, School of Materials Science and Engineering, Shanghai Jiao Tong University
2 Baoshan Iron & Steel Co., Ltd. Tube, Pipe and Bar Business

Material Matters, 2014, 8(4), pp. 10. → PDF版

はじめに

リチウムイオン電池(LIB:lithium-ion battery)は、電気自動車やハイブリッド自動車向けの需要が近年活発であることや、低価格化により、充電式電池技術としてますます一般的なものになっています。最新の「IHS Isuppli Rechargeable Batteries SpecialReport 2011」)によれば、世界的なリチウムイオン電池の売上は、2010年の118億ドルから2020年には537億ドルに拡大すると予測されています1。しかし、典型的なリチウムイオン電池用負極材料であるグラファイトは、その理論的な比容量が約370 mAh g-1と限られているため、最先端の電気自動車やハイブリッド自動車市場における高いエネルギー需要を満たしてはいません2。そのため、過去10年以上にわたり、高い貯蔵容量、高いエネルギー密度、改善されたサイクル特性を有する数多くのリチウムイオン電池用負極材料が報告されています3–7。いくつかの負極材料の特性を表1にまとめました。これら最先端の負極材料のなかで、Si はリチウムイオン電池用の代替材料として、主に以下の理由から大きな注目を集めています。1)比容量が4,200 mAh g–1、容積容量が9,786 mAh cm–3であり、LIB負極材料として最もよく知られていること、2)比較的低い作動電位(0.5 V vs. Li/Li+)を有すること、3)Si 元素は天然に豊富に存在し、環境に優しいことが挙げられます8-10

表1. 様々な負極材料の特性比較

Anode Materials C Li Si Sn Sb Al Mg Li4Ti5O12 Bi
Lithiated phase LiC6 Li Li4.4Si Li4.4Sn Li3Sb LiAl Li3Mg Li12Ti5O12 Li3Bi
Theoretical specific capacity (mAh g-1) 372 3,862 4,200 994 660 993 3,350 175 385
Theoretical volume capacity (mAh cm-3) 837 2,047 9,786 7,246 4,422 2,681 4,355 613 3,765
Volume change (%) 12 100 320 260 200 96 100 1 215
Potential vs. Li (~v) 0.05 0 0.4 0.6 0.9 0.3 0.1 1.6 0.8

しかし、Si負極の実用化にあたっては、次の3つの大きな課題を解決しなければなりません。第一に、リチウムイオンのインターカレーション(挿入)と脱離に伴って起きる大きな体積変化(> 300%)によって分解が進むため、シリコン材料のサイクル寿命が短いことです。第二に、合金化/脱合金化プロセスでのSi負極の機械的破砕によって、急激かつ不可逆的な容量減少および低いクーロン効率が引き起こされることです。最後に、リチウムの脱離によるナノ構造の収縮に伴って固体電解質界面(SEI:solid electrolyte interphase)が破損することです。そのため、シリコンの新しい表面が電解液に露出してSEIが形成され、SEIは充放電を繰り返すごとに厚くなります(図111,12

SEI形成の概略図

図1. 充放電サイクル中に新たなシリコン表面上で起きるSEI形成の概略図

ナノ構造シリコン負極材料

これら大きな体積変化に関する課題の解決のために、いくつかの手法が開発されています。効果的な方法の一つに、活物質粒子のナノサイズ化があります。ナノ粒子は大きなストレスに対して亀裂を生じることなく適応可能であり、また、電子やイオンの輸送距離が短縮されます。さらに、ナノ材料の高密度結晶粒界が、Liイオンの高速拡散を可能とし、かつ付加的なLi貯蔵サイトとしても機能します13–16。Huangらは、構造的ストレスの解放に与えるSiナノ粒子のサイズ効果をin situでの透過型電子顕微鏡(TEM)によって確認し、粒径が<150 nmの場合、電気化学反応によって蓄積された歪みエネルギーは、Siナノ粒子中の亀裂伝搬を引き起こすには不十分であることを明らかにしました(図217。最近では、Kimらが380℃、高圧下で様々な界面活性物質を用いることにより、5、10、20 nmサイズのSi ナノ粒子を合成したことを報告しています18。これらの材料を0~1.5 Vの範囲で、0.2 Cレートで充放電を繰り返した場合、40回を超えるサイクルの間で2,500 mAh g–1の容量が得られ、容量維持率はそれぞれ71、81、67%でした。

充放電サイクル中のシリコンの安定性に与える粒径の影響

図2. 充放電サイクル中のシリコンの安定性に与える粒径の影響

さらに、Kimらは、強く相互接続した多孔質構造を有する、興味深い3DバルクSi構造も報告しています19。このSi構造は細孔の壁の厚さが40 nmであり、100サイクル後も粉砕なく大きな歪みに適応でき、1 Cレート(2,000 mA g–1)で2,800 mAh g–1を超える充電容量を維持しました。スタンフォード大学のCuiグループは、シリコンナノワイヤとナノチューブを負極に用いた場合、約3,200 mAh g–1(ナノワイヤ)と約3,247 mAh g–1(ナノチューブ)という高い可逆容量を持ち、数十サイクルの間、高い放電容量および安定性を示すことを報告しています20,21。ナノワイヤおよびナノチューブを基盤にした電極は、サイクル中に生じる材料膨張に適応できると同時に、集電体に直接成長させた際には電流パスを直接形成することができます10。加えて、Siナノチューブは電解液に接触する表面積が増加し、ナノチューブの内側および外側でのLiイオンのインターカレーションが可能となります。

ナノ構造Si負極のこうした利点にもかかわらず、ナノ粒子には、広い表面積、高い製造コスト、および取り扱いの難しさといった欠点もあります22。それでも、ナノ構造シリコンは、次世代リチウムイオン電池用シリコン負極材料の持つ課題を解決するための最も有望な手法の1つと考えられています。

Si系炭素複合負極材料

充放電中の体積変化の問題を解決するためのもう一つのアプローチとして、複合材料の利用があります23。マトリックス材料は顕著な体積変化を起こさないため、シリコンの凝集または電気化学的焼結が減少することで、シリコンの膨張を抑え、電極構造を維持し、安定性を向上できる可能性があります10

一つの手法としてシリコン系炭素複合材料があり、その利点として、電気伝導性の改善と炭素マトリックスの緩衝効果の向上が挙げられます24–27。加えて、炭素添加剤には、優れたイオン伝導性およびLi貯蔵能力という特長があります28,29。しかし、Si活物質にコンフォーマルな炭素コーティングを行うと、充放電サイクル中に亀裂が生じるため、Siが電解液に露出してさらなるSEIの堆積が起こります。そのため、Siの大きな体積変動に適応できる炭素コーティング手法が必要です。

コア/シェル構造型のSiハイブリッドの概略図

図3. コア/シェル構造型のSiハイブリッドの概略図。内部の空隙が、リチウムの吸蔵によるシリコン体積膨張の影響を緩和し、Siコアの表面をSEIの堆積から保護します。

その一つに、図3に示すようなSiと炭素シェルとの間に大きな空隙を導入する方法があります30。Liuらは、優れた容量(C/10で2,833 mAh g–1)、サイクル寿命(1,000サイクル後に容量維持率74%)、およびクーロン効率(99.84%)を有するコア/シェル構造型Si@Carbon(図4A)を報告しています31。Siナノ粒子を、最初にSiO2層、次にポリドーパミン(PDA:polydopamine)層でコーティングし炭化させることで、窒素ドープされた炭素被覆層が形成されます。その後、フッ化水素酸(HF)処理によりSiO2層を選択的に除去し、コア/シェル型Si@Void@C構造が得られました。ごく最近、Liらは100サイクル(電流密度:1 A g–1)の後、容量維持率86%に相当する可逆容量650 mAh g–1の中空コア/シェル型ポーラスSi–Cナノ複合材料について報告しています32

そのユニークな構造の利点は、以下の2つの側面にあります。1)Siコアと炭素シェルとの間の空隙により、リチウム化の際にSiナノ粒子がシェルを壊すことなく膨張することが可能となります。2)炭素シェルの電子伝導性およびイオン伝導性によってインターカレーションの速度が向上し、さらに、Si表面への電解液の接触を防ぎます。

もう一つの方法は、多孔質のSi–C複合材料を作製することです。Si–C多孔性複合材料は容量が大きく(可逆容量:1,950 mAh g-1)、サイクル寿命が長いことがMagasinskiらにより報告されています33。多孔性Si–C構造の作製には、階層的ボトムアップ組織化手法が用いられました。この構造体は樹枝状の不規則なカーボンチャネルを有するために、粒子バルク内部へのLiイオンの迅速なアクセスが可能となるパスを含み、また、内部の多孔性構造によって充放電中のSiの大きな体積変化に適応することができます。

また、グラフェンも、その優れた電気伝導性、高表面積(2,600 m2 g–1)、化学的安定性、および高い機械的強度により、体積変化を抑えて電子伝導性を改善するためにSi負極に使用されています34–38。Luoらは、「one-step aerosol-assisted capillary assembly technique」と呼ばれる手法で合成された、高い容量(250 サイクル後に940 mAh g–1)および良好なサイクル安定性(容量維持率:83%)を有する、潰れた形状のグラフェンで覆われたSiナノ粒子のナノカプセルを報告しています30。このつぶれたグラフェン層のひだやしわは、リチウム化の際、破砕を伴わずにSiの体積膨張に適応でき、絶縁性SEIの過剰な堆積からSiナノ粒子を保護します。さらに最近では、Wenらが、Siをアミノプロピルトリメトキシシラン(APS、281778)で処理し、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース(CMC)の代わりにアルギン酸ナトリウムを用いることで、グラフェンでカプセル化されたSi負極の電気化学的性能が向上することを報告しています。APS とアルギン酸ナトリウムの利用によって、グラフェンと結合し、カプセル化されたSiグループと集電体との間の相互作用の向上が見られました。このグラフェンカプセル化Siナノ粒子は、0.1 Cで2,250 mAh g–1、10 Cで1,000 mAh g–1の容量を示し、120サイクル後でも初期容量の85%を維持しています。

3Dグラフェン足場(図4B)に埋め込まれたSiナノ粒子がZhaoらにより報告されています。そのSiナノ粒子は、約3,200 mAh g–1(電流密度:1 A g–1)の可逆容量を示し、150サイクルの後で、理論容量の83%を維持しました39。この場合、3D導電性グラフェン足場は、簡便な湿式化学法による酸化グラフェンの剥離によって得られた配向したグラフェンシートを用いて作製されました。この負極材料が高い容量を維持できるのは、グラフェンの炭素欠陥を通してシートを横断してリチウムイオンが拡散可能であるためです。そのため、電極全体を通してLiの拡散パスが短縮され、構造体内部への十分なアクセスと、Siナノ粒子における迅速なリチウム合金化/脱合金化が可能となります。また、Xinらも、一連の化学的プロセスを通して、3D多孔性構造を有するSi/グラフェンナノ複合材料の合成を報告しています40。この構造は、1 A g-1の充電速度において30サイクル後にごくわずかな減少を伴う、900 mAh g–1の可逆容量をもたらします。3Dグラフェン系複合材料は、その3Dグラフェンネットワークによる電極の導電性向上のため、優れたサイクル安定性および高いレート特性を示し、2Dナノ構造を上回るレート特性が実証されています。

Si@Void@C粒子の概略図および複合電極材料の断片の略図

図4. A)個々のSi@Void@C粒子の概略図(上)、リチウム化および脱リチウム化の前後における、Si@Void@C粉末のin situ TEM像(下)。許可を得て参考文献31から引用。Copyright 2012 American Chemical Society。B)面内に炭素格子欠陥を有するグラフェン足場で構築された、複合電極材料の断片の略図(上)(Si:大きな球、Liイオン:小さな球)、およびSi–3Dグラフェン足場の断面のSEM像(下)。挿入写真は、グラフェンシートの間に一様に埋め込まれたSiナノ粒子を示しています。参考文献39から引用。Copyright 2011 Wiley–VCH。

将来展望

ごく最近、Wuらは、比較的安定した可逆容量(1,000サイクルの後で1,600 mAh g–1)、および非常に安定した性能(5,000回の充放電サイクル後も顕著な容量減少が見られません)を有する、理想的な3D多孔性Si/導電性ポリマー・ヒドロゲル複合電極について報告しました2。多孔性で階層的なヒドロゲル構造体には大きな利点があり、導電性ポリマーの3Dネットワークによって高速の電子輸送およびイオン輸送経路を可能とし、さらに、Si粒子の体積膨張のための多孔性空隙も得られます。図5に示すように、このin situ重合の作製手法によりスケールアップ可能性が示され、工業化に向けて有望であることが明らかとなりました。

多孔性Siナノ粒子/導電性ポリマー・ヒドロゲル複合電極の概略図

図5. 3D多孔性Siナノ粒子/導電性ポリマー・ヒドロゲル複合電極の概略図。(A)導電性ポリマーにより各Siナノ粒子表面はコーティングされ、さらに多孔性のヒドロゲル構造体に接続しています。写真(B~D)は、電極作製プロセス中の重要な工程を示しています。参考文献2から引用。Copyright 2013 Nature Publishing Group。

要約および課題

シリコンは、既知の材料の中で最も高い容量を有し、比較的低い作動電位を示すなどの利点があることから、リチウムイオン電池用の最も有望な負極材料の1つです。しかし、シリコン負極が実際のリチウム電池に利用されるには、極めて大きな体積変化の問題を解決しなければなりません。本稿では、電気化学的な性能が向上した様々なシリコン負極およびシリコン系複合負極について解説し、Si負極に関する課題を解決するための2つの実行可能な方法を示しました。Si負極に関する実用化に向けた条件、つまり高い出力密度、長期安定性、シンプルな製造方法および低コストなどに対処するためには、さらなる研究が必要です。

謝辞

上海市自然科学基金(the Shanghai Municipal Natural Science Foundation, 12ZR1414300)、中国国家自然科学基金委員会(the National Natural Science Foundation of China, NSFC, 51172142、51302169)、the Starting Foundation for New Teacher of Shanghai Jiao Tong University(上海交通大学, 12X100040119)、the Scientific Research Foundation for Returned Overseas Chinese Scholars, State Education Ministry, and the Third Phase of 211 Project for Advanced Materials Science(WS3116205007)による支援に深く感謝いたします。

     
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