バイオマテリアル

樹枝状ポリエステルを用いた薬物送達用足場

Sandra García-Gallego1, Michael Malkoch2

1. Marie Sklowdoska-Curie Researcher at KTH Royal Institute of Technology
2. Associate Professor at KTH Royal Institute of Technology and Chief Executive Officer at Polymer Factory Sweden AB

はじめに

デンドリマーおよびデンドロンは高度に分岐したポリマー構造体で、官能基を精密に分布させることができます。直鎖状構造体とは対照的に、デンドリマーとデンドロンは本質的に単分散であり、バッチ間に分散のばらつきが生じません。触媒、光学、ナノ医薬品などの複雑かつ精密な用途において、これら樹枝状材料が幅広く利用されています1。特にナノ医薬品の分野では、選択性に優れた薬物送達システムおよび高効率イメージングプローブの設計に関する多くの研究が行われています2。この用途において、デンドリマーには直鎖状ポリマーに対して以下のような大きな利点があります。(1)精密合成および単分散性により、高精度ナノ医薬品として正確な量の薬物を搬送できます。(2)予測可能かつ再現可能な薬物動態的特性を示します。(3)生分解性、低毒性、水溶性などの特性を最適化できます。(4)薬剤担持量が多く、(5)多目的用途(例:治療、診断、標的化など)に適した設計できます。

材料の選択

生物医学用途において注目されている樹枝状高分子は、2,2-bis(methylol)propionic acid(bis-MPA)ビルディングブロックを用いた化合物です3,4。これらの高度に分岐した脂肪族ポリエステルは複数の官能基を表面に持ち、in-vitro 毒性が低いかまったく無い、in-vivo で特定器官への蓄積がない、免疫原性プロファイルがない、生理条件下での生分解性といった、生物医学用途で非常に重要となる特性を備えています5,6。さらに、多様な構造のbis-MPAモノマーや樹枝状高分子(超分岐ポリマー、デンドリマー、デンドロン、超分岐ポリエチレングリコール(PEG))が市販されており、生物医学用途に使用される機会が増加しています。樹枝状bis-MPAを用いた足場は、物理的および共有結合的に薬物を付着させて送達する有効な手段であることが明らかになっています。ここでは、bis-MPAポリエステル足場をベースとした単分子薬物担体の調製について説明します。

単分子薬物担体の調製手順

例1 – FPEプロトコールによるイブプロフェンのbis-MPAデンドリマー表面への修飾

現在市販されている様々なbis-MPA樹枝状ポリエステルを用いて、官能基の修飾を一段階で行う簡易なプロトコールにより、複雑かつ精巧で生物活性を有する樹枝状プローブの開発を容易に行うことができます。イミダゾリドで活性化した化合物によるFPE(Fluoride-Promoted Esterification)は、穏やかで環境に優しい条件下で高機能ポリマーの修飾を行う強力な手法です7。このプロトコールにより、樹枝状足場のヒドロキシ基4またはカルボキシ基8末端に対して、大量の成分(薬物、標的部分、色素など)を容易に修飾できます。

ここでは、第3世代bis-MPAデンドリマーのイブプロフェン修飾をご紹介します。

  • 手順1 – 活性化:まず初めに、カルボキシ基を持つ対象分子(この例ではイブプロフェン)を、1当量の1,1'-carbonyldiimidazole(CDI)を用いて50℃で1時間、酢酸エチル中で活性化します。イミダゾールで活性化された化合物のシグナルが、1H-NMRの7.00、7.40および8.10 ppm付近の3か所に新たに現れるので、活性化の進行状況を容易に観測することができます(図1A)。さらに、この段階で一つのイミダゾール分子が放出されるため、シグナルが7.10および7.67 ppmに現れます。
  • 手順2 – FPE:第2段階では、CsFを補助剤に用いて、ヒドロキシ基を持つデンドリマーのFPEを、in situ、50℃で行います。反応条件を表1に要約します。このステップの完了は、MALDI-TOFスペクトルに見られる特有のピークで観測します(図2A)。イミダゾールで活性化された化合物のシグナルが消えるまで水を加えて撹拌し、活性化された余剰の酸をクエンチします(図1B)。
  • 手順3 – 精製:第3段階として、10%のNaHCO3で副生成物を洗い流し、修飾された純粋な樹枝状分子か、95%の収率で得られます(図1Cおよび図2A)。

注記1:FPEは短時間・高収率で進行する確実性の高い手法で、表面に96個の成分を持つTMP[G6](acet)96の合成で示されているように、非常に密な樹枝状分子を修飾することができます(図2B)。

注記2:イミダゾールによる活性化およびその後のFPE反応には、酢酸エチル、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミドなどの乾燥有機溶媒が最適です。

ホモ官能基性デンドリマーTMP[G3](ibu)24のNMRスペクトル

図1 イブプロフェン24分子を担持する、ホモ官能基性デンドリマーTMP[G3](ibu)24のFPEプロトコールによる調製を1H-NMRで観測した例。

ホモ官能性デンドリマーのMALDI-TOF

図2 MALDI-TOF測定の結果。(A)24個のイブプロフェン成分でTMP[G3](OH)24805947)デンドリマーを修飾した、ホモ官能性TMP[G3](ibu)24の調製。(B)TMP[G5](OH)96から開始した、アセトニド保護された96個のbis-MPAで修飾した、ホモ官能性デンドリマーTMP[G6](acet)96の調製7

例2 – クリック反応を用いたデンドロンのカップリングによる2官能性デンドリマー

アジド(-N3)とアセチレン(-C≡CH)、チオール(-SH)とアルケン(-CH=CH2)などの互いにクリック反応できる成分をコアに持つ2個のデンドロンを共有結合的に接続することで、ヘテロ官能性デンドリマーHFD(e):Gx(B)m-b-Gy(C)nを容易に合成することができます9。クリックケミストリーの基礎となる一連の化学反応は、信頼性が高く、単純な合成であり、有機溶媒や水を含む幅広い種類の溶媒中にて高い変換効率と短い反応時間で進行することが知られている反応です。樹枝状bis-MPAを用いた足場の場合、クリック反応を利用して、PEG10、糖類11,12、ペプチド、および抗生物質12などの生物活性成分を結合することに成功しています。ここでは、ヘテロ官能性bis-MPAブロックデンドリマー(HFD:heterofunctional dendrimer)の合成について、クリック反応で最も一般的に使用されているプロトコールの例を示します。

アセチレンおよびアジドのクリック反応(CuAAC)

ブロックHFDは、中心部(focal point)にアジド基とアルキン基を持つbis-MPAデンドロンの銅触媒によるクリック反応によって合成することができます。

  • 手順1 – CuAAC反応:上記デンドロンを含むTHF水溶液に、アスコルビン酸ナトリウムおよび新たに調製したCuSO4∙5H2O水溶液を加えます。反応条件を表1に要約しました。反応の完了を1H-NMRおよびMALDI-TOFでモニターしながら、室温で反応を進行させます(図3)。このスペクトルでは、アセチレンの2.57 ppmのピークが消失し、トリアゾールのピークが8.08 ppmに現れ、–CH2-Nのシグナルが3.28 ppm(アジドの窒素)から5.29 ppm(トリアゾールの窒素)へ移動していることが示されています。
  • 手順2 – 精製:カラムクロマトグラフィーで精製した後、2官能性デンドリマーHFD(e):G4(OH)16-b-G4(acet)8が91%の収率で単離され、MALDI-TOFでは4026.1に1本のピークを示します13

注記1:有機溶媒中で[Cu(PPh3)3Br]をはじめとする他の銅触媒を用いる別のプロトコールの使用が可能です。

ブロックヘテロ官能性デンドリマーの合成経過

図3 第4世代デンドロンのCuAACカップリングによる、ブロックヘテロ官能性デンドリマーHFD(e):G4(OH)8-b-G4(acet)4の合成。反応経過を(A1H-NMRおよび(B)MALDI-TOFで測定13

チオールとアルケンのクリック反応(UV開始チオール-エン反応)

生体システムにおいて通常は毒性に関与する銅の使用を避けるため、中心部にチオール基とアリル基を持つbis-MPAデンドロンを用いた選択的UV開始TECクリックケミストリーにより、類似のブロックHFDを合成することができます。

  • 手順1 – UV開始TEC反応:第3世代デンドロンを含む脱酸素したDMF溶液に、2,2-dimethoxy-2-diphenylacetophenone光開始剤を加え、この溶液に365 nmのUV光を60分間照射します。反応条件を表1に要約します。反応の進行状況を1H-NMRとMALDI-TOFでモニターします(図4)。このスペクトルでは、5.25~6.00 ppmのアルケンのシグナルが消失し、反応が完了すると-CH2-S-のシグナルが2.80 ppmから3.17 ppmへ移動していることがわかります。
  • 手順2 – 精製:カラムクロマトグラフィーで精製した後、得られた2官能性デンドリマーHFD(e):G3(OH)8-b-G3(acet)4 が76%の収率で単離され、MALDI-TOFでは1945に1本のピークを示します14

ブロックヘテロ官能性デンドリマーの合成経過

図4 第3世代デンドロンのUV開始TECカップリングによる、ブロックヘテロ官能性デンドリマーHFD(e):G3(OH)8-b-G3(acet)4の調製。反応経過を(A1H-NMRおよび(B)MALDI-TOFで測定14

修飾を1段階で行うこれらプロトコールを組み合わせることで、最新の樹枝状材料を簡便に開発できます。樹枝状足場のコアおよび末端を修飾するための典型的な反応条件を表1に要約します。

表1 市販されているbis-MPA系樹枝状構造の末端およびコアを修飾するための一般的な反応条件

  Reaction Conditions
Periphery -OH
-COOH
FPE7, 8 RCOOH, CDI
CsF
EtOAc, 50°C
1.5 eq./OH
0.2 eq./OH
-≡ CuAAC15 R-N3
CuSO4∙5H2O
NaAsc
THF:H2O, r.t.
1.1 eq./ck
0.1 eq./ck
0.3 eq./ck
Core -OH
-COOH
FPE7 RCOOH, CDI
CsF
EtOAc, 50°C
1.5 eq./OH
0.2 eq./OH
-N3
-≡
CuAAC15 R-N3 or R-≡
CuSO4∙5H2O
NaAsc
THF:H2O, r.t.
1.1 eq./ck
0.1 eq./ck
0.3 eq./ck
-=
-SH
TEC15 R-SH or R-=
DMPA
THF, r.t.
2.0 eq./ene
0.2 eq./ene
hν (365nm)

※ “ck”はクリック可能部位、“ene”はアルケン基を示します。

結論

単分散デンドリマーおよびデンドロンなどの樹枝状ポリマーは、その性質上、極めて精密なポリマーです。高度に分岐した樹枝状ポリマーは官能基の密度が高いため、大量の活性薬物を輸送する足場として使用できます。その優れた構造的特長から、バッチ間のばらつきが無い最先端薬物送達担体であるデンドリマーおよびデンドロンは、将来、治療上の飛躍的な進歩をもたらすことが予想されます。現在、樹枝状足場材料は多数存在しますが、その中でもbis-MPA系ポリエステルを用いた材料が生物医学用途に向けて最も注目されています。その主な理由は、構造の多様性や、官能基化プロトコールが単純なことに加えて、生物適合性、生分解性、および非毒性といった特性を有していることです。これらデンドリマーおよびデンドロンが容易に入手できること、およびクリックケミストリーやFPE反応などのポスト官能基化方法の進歩とが相まって、デンドリマーを専門としない研究者に対して、複雑かつ精巧な新世代薬物送達システムの開発を自在に行う手段が提供されるようになると予想されます。

表2 反応性ポリエステルbis-MPAデンドロン製品一覧

Core Prod. No. Generation No. of Surface Groups
Acetylene
-≡
767328
767301
686646
686638
686611
G1
G2
G3
G4
G5
2 (-OH)
4 (-OH)
8 (-OH)
16 (-OH)
32 (-OH)
Allyl
-=
767298
767271
767255
G3
G4
G5
8 (-OH)
16 (-OH)
32 (-OH)
Azide
-N3
767220
767212
767204
767190
767182
G1
G2
G3
G4
G5
2 (-OH)
4 (-OH)
8 (-OH)
16 (-OH)
32 (-OH)
Carboxylic Acid
-COOH
686670
686662
686654
G3
G4
G5
8 (-OH)
16 (-OH)
32 (-OH)
Thiol
-SH
767131
767123
767115
G3
G4
G5
8 (-OH)
16 (-OH)
32 (-OH)
Amine
-NH2
767263
767247
767239
767174
767166
767158
G3
G4
G5
G3
G4
G5
8 (-OH)
16 (-OH)
32 (-OH)
8 (-COOH)
16 (-COOH)
32 (-COOH)
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References

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