樹枝状 ビルディングブロック

生物医学研究に用いられる生体適合性樹枝状 ビルディングブロック

Dr. Michael Malkoch1 and Dr. Andreas M. Nyström2

1Associate Professor, Division of Coating Technology, Fibre and Polymer Technology, KTH Royal Institute of Technology, and Chief Technology Officer, Polymer Factory Sweden AB
2Associate Professor of Nanomedicine, Swedish Medical Nanoscience Center, Karolinska Institutet, Chief Executive Officer, Polymer Factory Sweden AB

Material Matters 2012, 7(3), 21. → PDF版

はじめに:クリック反応性をもつ樹枝状ビルディングブロック

デンドリマーおよびデンドロンは、対称的に分岐した高分子構造体で、官能基の空間分布が明確に規定されています。これらの樹枝状物質は、単分散性であり、その直鎖状の類似物に比べて溶解性が高く粘度が低いといったユニークな性質を持つため、高い注目を集めている材料です。薬物送達、画像診断、ヒドロゲル、触媒、光学材料など、幅広く多様な先端分野で、デンドリマーおよびデンドロンの利用が提案されています1

さまざまな利用が可能であるにもかかわらず、近年までのデンドリマーおよびデンドロンに関する研究活動のほとんどは、1)デンドリマー化学に精通した専門的な学術研究グループに限定され、さらに、2)樹枝状ビルディングブロックとして市販されているごく少数、主としてPAMAMデンドリマーに関するものに限定されてきました。最近になって、いくつかのポリエステルデンドロンや、bis-MPA(2,2-bis(methylol)propionic acid)ビルディングブロックをベースとしたポリ(エチレングリコール)(PEG)デンドリマーは、アルドリッチより入手することが可能となっています。Polymer Factory社は、超分岐高分子、デンドリマー、デンドロンを2006年から販売しており、高品質な樹枝状構造体や材料のメーカーとして広く知られています。本稿では、チオール-エン反応やアジド-アセチレン反応などのさまざまな種類のクリック反応を活用した、これら材料に関する最近の進展と応用について取り上げます2

クリックケミストリーは、2001年にK. B. Sharpless教授によって提唱され3、有機溶媒や水溶性溶媒を含めた幅広い種類の溶媒で進行し、目的化合物を短い反応時間で高収率に得ることのできる、非常に信頼性の高いシンプルな合成反応をさします。末端アルキン(-C≡CH)や有機アジド(-N3)、チオール(-SH)、不飽和ビニル(-CH=CH2)基などの、よく知られている「クリック反応性官能基」を樹枝状構造に導入することで、化学系以外の研究者でも比較的簡単に研究を進めることができるようになります。これらの官能基を用いることで、bis-MPAを基盤としたデンドリマーおよびデンドロンを、炭水化物、二糖類、蛍光色素などの生物活性構成成分へ結合することが可能となり、溶液中のほかに表面での評価も行われています。

樹枝状ビルディングブロック

スキーム1 クリック反応性をもつ樹枝状ビルディングブロック

生物学的用途

bis-MPAビルディングブロックを基盤とするポリエステルデンドリマーおよびデンドロンは、in vitro4な毒性研究や、放射性核種標識や光学イメージングによるin vivo5-10な研究など、生物学的分野において精力的に研究されています。免疫活性化や毒性についてのヒト初代マクロファージを用いた最近の研究から明らかになったように4、bis-MPAを基盤とする樹枝状物質およびビルディングブロックは毒性が非常に低いか皆無であり、生理条件下で分解され、免疫特性を示すこともありません。これらの特性は、生物医学用途において非常に重要です。高世代デンドロン(第7世代まで)の生体内分布(BioD:biodistribution)研究では、デンドロン焦点部(focalpoint)への放射性標識とsingle photon emission computed tomography(SPECT)により、in vivo 環境下において、健康なラットではこれらの物質が特定器官へ蓄積しないことがわかっています9。Fréchetとその研究チーム11は、デンドリマーの表面にPEG鎖を結合させることによって、化学療法薬を導入したbis-MPAデンドリマーの血液滞留時間を調整することに成功しています7。腫瘍特異的な取り込みが十分に高く、かつ隣接組織での取り込みが低くなるように、滞留時間に関してデンドリマーを最適化しました(スキーム2)。この文献で報告されている最も高い有効性と生存率を示したデンドリマーベースの薬物送達系は、有効性が高く、臨床的にもよく用いられている化学療法薬(例えばドキソルビシンなど)とデンドリマーとを組み合わせて開発されたものです7

デンドロンのもつ単分散性によって、直鎖状高分子と比べて分子量の変動が非常に小さい、樹枝状の独自の薬物複合体を創り出すことができます。また、-SH/-アリル、-N3/-アセチレン、-COOH/-NH2といった、デンドロン上の多様な官能基の組み合わせに合わせたさまざまな化学反応を用いることで、候補薬物をモジュール式に修飾することが可能です。

bis-MPAデンドリマーの薬物送達での利用

スキーム2 bis-MPAデンドリマーの薬物送達での利用。(左)樹枝状bow-tie(蝶ネクタイ)構造。一方には薬物動態を調整するためのポリ(エチレングリコール)鎖を、反対側には化学療法薬(ドキソルビシン)を有する構造をとっています。(右上)ドキソルビシンの構造、(右下)ヒドラゾンの結合したpH誘発放出薬剤の代表的な放出挙動7

多価表面およびゲルの構築と工学的利用

デンドロンビルディングブロックは、バイオセンサー用の多価結合系を創り出す足場として、また、高密度官能基が望まれる表面を構築するものとして、非常に興味深い材料です。Malkochらによる最近の研究では、銅触媒を用いたクリックケミストリーによって、アセチレン官能基化bis-MPAデンドロンを濾紙に結合させています12。デンドロンの表面基を後処理でマンノースによって官能基化することで、モノ-マンノシル化した表面に比べて感度の向上したレクチン結合センサーを得ました(スキーム3)。同様に、非対称デンドリマーは、異なる官能基を架橋する相補的なアジド/アセチレンデンドロンを用いて、Janus(ヤヌス)型構造にカップリングさせることができます13。チオール含有デンドロンは、銅触媒を用いないチオール/エンクリックケミストリーによって、チオールおよびエンの焦点を有する相補的なデンドロンを含んだ先端機能性ナノ材料を構築するのに用いることができます。また、チオールで金表面を強固に官能基化し、その高密度官能基を用いてさらに官能基化することも可能です14

他の応用例としては、焦点にアジドを有するbis-MPAデンドロンと基板にアセチレン官能基化シリコンウエハーを用いた、ディップペンナノリソグラフィーによるクリックケミストリーがあります15。このように、クリック反応は、研究初期の概念実証から、空間分解能の正確な制御と高い官能基密度の両方を実現可能な表面官能基化デンドロンのディップペンリソグラフィーまで、さまざまに用いることができます。これらの官能基化デンドロンは、親水性を調整可能な直鎖- 樹枝状ハイブリッド高分子の作製にも用いられ、大きさの揃った配向性の細孔を持つ膜を形成するための新規ブロック共重合体を得ることもできます16。最近、Gillesらは、表面にクリック反応可能な官能基を有する、ナノスケールのベシクル、高分子ミセル17、酸化鉄ナノ粒子18を後処理で効果的に官能基化する方法を報告しています17。彼らは、蛍光色素を有する官能基化bis-MPAデンドロンを用いてナノ構造を調製しました。このような応用が進むことによって、ナノ粒子官能基化に新たな手法が加わり、ナノメディシン用途における組織特異的な標的化にデンドロンの多価相互作用が用いられるようになるでしょう。

官能基化デンドロンに加えて、樹枝状PEGがもう一つのタイプのクリック反応性物質として現在市販されています。クリックケミストリーによるPEG ヒドロゲルの合成は、さまざまな添加剤の存在下でもヒドロゲルの架橋反応を行うことが可能な点で優れており、PEGコアの周囲に官能基化デンドロンが結合した化合物は、高い破断伸びや柔軟性などの優れた機械特性を示す先端ヒドロゲル材料の構築に用いられています19,20。また、Aidaらはこれら構造をエアロゲルの構築に用いています。PEG-bis-MPAデンドリマー上のグアニジン基とナノクレイとの相互作用によってPEG鎖を介した3次元網目構造が形成され、形状保持可能で自己修復性を有する、固体含有率がわずか2~3 重量%のゲルを得ることに成功しています21

bis-MPA デンドロンのクリックケミストリーの応用

スキーム3 bis-MPA デンドロンを用いた表面官能基化へのクリックケミストリーの応用12

展望

多様な官能基を有するさまざまなサイズのデンドロンおよび直鎖-樹枝状PEGハイブリッド材料が市販されたことにより、新規樹枝状物質の研究開発が容易になります。樹枝状高分子は、そのユニークな特性から、工学用および生物医学用のヒドロゲルからナノスケールでの表面改質、さらには新規バイオセンサーおよび分子イメージング剤まで、さまざまな先端分野で広く用いられています。さらに、bis-MPAを基盤とする物質は、in vitro 毒性を示さない点や、in vivo 適合性、薬物送達系における癌に対する高い有効性などの点において、非常に優れた性質を示します。

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References

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