熱電材料

ホウ素系の高温熱電材料

Takao Mori

International Center for Materials Nanoachitectonics (MANA)
National Institute for Materials Science (NIMS)

Material Matters 2009, 4(2), 9 → PDF版

はじめに

現在、これまで人類が利用してきたエネルギー源やその使用方法は急激な速さでその限界に近づいています。未利用エネルギーを有効活用できる例として、廃熱を有用な電気へ変換できる熱電材料は希望を持たせ、近年その実用化に向けた開発に弾みがついています。特に、工場や発電所や焼却炉での使用や、ラジオサーマル発電用1として、高温での動作が可能で大きな温度差に耐えうる材料を開発する必要があります。

一般的に、ホウ素を多く含むクラスター化合物は融点が2200 Kを超えることから、高温用途には優れた物質です。これらの化合物は毒性がなく軽量で、腐食性および酸性の環境でも際立った安定性を示します。合成方法は比較的簡単で、希土類とホウ素(RE-B)の組み合わせに少量の炭素、窒素、またはケイ素を添加することで、それがクラスターのネットワークをつなぐ架橋サイトの役割を果たして、新規ホウ素クラスター構造が形成されます2

ホウ素を多く含むクラスター化合物は、単結晶の場合でも一般に固有の低い熱伝導率(≤0.02 W cm-1 K-1)を示すために、物質自体が熱電材料としての利点を内在していると言えます2-4。熱電材料の性能は、ZTα2σT/κ で表される無次元の性能指数ZT で評価されます。ここで、α はゼーベック係数、σ は電気伝導率、κ は熱伝導率です。したがって、κ が本質的に小さい系ではパワーファクター(power factor)Pα2σを最大化することに専念して、材料開発を行うことができます。

本稿では、最近発見された高温熱電用途に有望な2種類のホウ素系化合物に注目します。その化合物とは、ボロシリサイドのREB44Si2(RE=希土類)と、一連のREB17CN、REB22C2N、REB28.5C4のRE-B-C(N)ボロカーバイドです。

新規ホウ素系材料とその調製

ホウ素は意外に多面的な元素であり、化合物の中でクラスターや2次元の原子ネットといった原子ネットワーク構造を形成する傾向があります。その意味では、フラーレン、ナノチューブ、グラファイト関連物質などの原子ネットワーク構造系を形成できる炭素と似ています。しかし、材料科学におけるホウ素の潜在能力はまだ多くの部分が未開発のままです。最近、ホウ素を含む化合物について、MgB2およびホウ素ドープダイアモンドの超伝導5,6、磁性的に希薄な絶縁体中における強い磁気相互作用2、高圧下でのホウ素単体としての新規な構造の形成7など、特筆すべき性質がいくつか発見されています。

ホウ素は炭素より電子が1個少ないため、電子不足状態の多原子ネットワーク構造を形成します。こうしたホウ素ネットワーク構造は希土類元素との相性が良く、希土類元素はホウ素の骨格構造に電子を供給して安定化させ、新たな構造(新しいRE-B化合物)を形成します。一方、希土類元素のf 電子殻は磁気特性などの興味深い特性をもたらします2,8

応用という点から見ると、ホウ素クラスターの骨格構造は酸と腐食に耐性を示す軽量かつ強固な「よろい」を提供し、非常に高い温度に耐えることができます。さらに、「内側」から金属原子によって電子的、磁気的、およびその他の有用な特性を与えることができます。前述したように、炭素、窒素、ケイ素などの元素を少量添加することによって、作製できる新規なホウ素系化合物の数はさらに増加します2。REB44Si2化合物の結晶構造を図1aに示します。これは、結晶学的に独立した5個のB12二十面体と1個のB12Si3多面体で構成されています。この骨格構造の中で、希土類原子がc 軸方向にはしごを形成し、これに沿ってB12二十面体の中の1個が鎖を形成しています。

REB44Si2の構造・結晶

図1 REB44Si2の(a)構造、および(b)成長した結晶(目盛りはcm)

希土類ホウ素化合物のREB44Si2、REB17CN、REB22C2N、およびREB28.5C4は、いずれも同じような方法で合成できます2。まず、対応する希土類酸化物を真空中で加熱し、ホウ素で還元します。次に、所定量のケイ素、炭素、または窒化ホウ素を加えて再び加熱し、必要なRE-B-X化合物を生成します。REB44Si2の場合、図1bに示すような大きな結晶を成長させることができます9

ボロシリサイド-新しい高温p型熱電材料

REB44Si2化合物は魅力的な高温熱電特性を示します10,11。そのゼーベック係数は温度とともに徐々に増加し、1000 K以上では200μV K-1を超えます(図2a10。また、約0.02 Wcm-1 K-1 という固有の低い熱伝導率も報告されています(図2b11。多くの熱電材料とは異なり、1000 Kを超える温度でREB44Si2 の性能指数は急な増加勾配を示し、ZT は約0.2と見積もられています。

REB44Si2の熱電特性

図2 REB44Si2(a)ゼーベック係数、および(b)熱伝導率の温度依存性

これらの化合物が未ドープでありしかも組成が最適化されていない状態で、この性能指数が得られて固有の低い熱伝導率を有していることを考えると、REB44Si2は新規な高温熱電材料を開発する上で優れた出発物質であるといえます。たとえば、良く知られている熱電材料である炭化ホウ素では、炭素対ホウ素の組成を制御することによってその特性を大幅に改善できることが知られています12。遷移金属のドーピングは、REB44Si2の特性を効率的に改良するもう1つの方法です。遷移金属原子は結晶格子内のホウ素クラスター間の空隙を占有することができ、我々の予備実験では、ドープした材料の性能指数が向上する結果が得られています。このようなドーピング手法については、さらに検討する必要があります。

もう1つのアプローチとして材料形態(モルフォロジー)の制御が挙げられます。これはREB44Si2化合物が異方性の高い結晶構造を持っているためであり、結晶方位の整った材料の調製は、その熱電特性を改善する強力な手段となります。

炭化ホウ素に対するREB44Si2のもう1つの利点は、融点が比較的低い(2200 K 対2700 K)ために処理が容易であることです。前述した特性に加えて、この利点から、REB44Si2は組成の最適化とドーピングによりさらに改良できる可能性を持った、高温p型熱電材料として炭化ホウ素の代替物になり得ることが示唆されます。

RE-B-C(N)ボロカーバイド-炭化ホウ素の対になりうる待望のn型熱電材料

一般的な熱電用途にはp型とn型の両方の化合物が必要です。このため、n型RE-B-C(N)化合物の発見は、p型炭化ホウ素に対する高温熱電材料として非常に期待されるため、大きな関心を集めています13,14

RE-B-C(N)化合物はc 軸に沿った層状構造を持ち、B12の二十面体とC-B-C 鎖の層がB6の八面体と希土類原子層との間に存在しています(図3)。層間のB12二十面体とC-B-C鎖の層の数は、REB17CN、REB22C2N、REB28.5C4の順に増加します。B12二十面体とC-B-C鎖の層の数が無限大(つまり希土類を含む層がない状態)に近づくと、炭化ホウ素に類似したものになります。

RE-B-C(N)系化合物の結晶構造

図3 c 軸に対して横から見たRE-B-C(N)系化合物

このように、RE-B-C(N)のブロック構造がB4Cと類似している点が、優れたp型高温熱電材料である炭化ホウ素に対応するn型物質と見なされている理由です。

RE-B-C(N)系化合物の最大の課題であり、また今後の可能性の1つとして挙げられるのが、効果的に緻密化させる手法の開発です。ホットプレス法やコールドプレス法では、理論値の約50%の密度を持つ材料しか得られません13。放電プラズマ焼結法(SPS:spark plasma sintering)を使用した最初の実験14では理論値の約70%まで改善されましたが、まだ十分な値ではありません。密度が50%から70%に増加したことで、性能指数は2桁近く改善されたことから、緻密化手法のさらなる開発が強く望まれます。

RE-B-C(N)材料の形態を制御する興味深い方法に、数パーセントの金属ホウ化物(REB6など)をシードする方法があります14。シーディングは密度には影響を及ぼしませんが、ドープした材料のゼーベック係数や熱伝導率があまり変化せずに、抵抗率が最大2桁低下するため、性能指数を改善する効果的な手段になります。ドーピングの割合は低いため、パーコレーション、つまり金属ホウ化物粒子による高い電気伝導率をもつチャネルの形成が、観測された効果の原因となった可能性は低いと考えられます。図4に見られるように、金属をシードした試料の粒子サイズは未ドープ試料より大きく、金属ホウ化物を添加することによってRE-B-C(N)中で結晶粒の成長が促進されることを示しています。従来の熱電材料では、一般に熱伝導率を下げるために結晶粒成長を抑制することが求められるのに対して、ホウ素クラスター化合物は固有の熱伝導率が低いために結晶粒成長が有効である点に我々は注目しています。このように、シーディングは試料の形態を制御してその熱電特性を改善するための効率的な方法になります。

YB22C2NなどのSEM画像

図4 (a)YB22C2Nおよび(b)ErB22C2N:ErB4のSEM画像

また、RE-B-C(N)ボロカーバイドは結晶構造に強い異方性(図3)を持つため、試料のナノ・ミクロ構造をより制御することがその熱電特性を改善、調整する上で重要な要素となります。今後もこの系の合成プロセス方法と緻密化手法についてより一層の研究が必要であり、炭化ホウ素に対する実用可能なn型材料として発展することが期待されます。

まとめ

ホウ素系の化合物は、高温熱電特性の点から有望な材料です。これらは、毒性がなく軽量な高温材料(一般に融点は2200 Kを超える)であり、腐食性および酸性条件下で際立った安定性を示します。現状では2つの新規ホウ素系化合物が特に有望です。まず、REB44Si2は、REB66などのよく知られたホウ素クラスター化合物が示す低い熱伝導率を保持しながら、電気特性と熱電性能指数が改善されたp型高温化合物です。この化合物は炭化ホウ素と比較してより融点が低いため、材料処理の点で有利と考えられます。希土類ボロカーバイドのREB17CN、REB22C2N、およびREB28.5C4は、ホウ素クラスター化合物の中で本質的なn型特性を備えた最初の化合物で、炭化ホウ素と高い適合性を示すカウンターパートとして興味深いです。いずれの化合物系も最近発見されたものであり、高温の廃熱を有効に電気に変換できる材料の発掘の社会的な恩恵は非常に大きいために、更なる開発が求められています。これらの化合物の最適化と合成プロセス法の研究はまだ始まったばかりです。組成制御、炭素ドーピング、およびクラスター空隙のドーピングによって、熱電特性が大幅に改善されるはずです。ボロカーバイドの緻密化処理および異方的な化合物である両化合物のナノ・ミクロ構造を制御する方法の確立が、高温熱電用材料の今後の開発に大きく役立つと考えられます。

熱電材料については左記のページもご参考ください。

References

  1. Chemistry, Physics and Materials Science of Thermoelectric Materials: Beyond Bismuth Telluride, Kanatzidis, M..G.; Mahanti, S.D.; Hogan, T.P., Ed.; Kluwer: New York, 2003.
  2. Mori, T. Handbook on the Physics and Chemistry of Rare Earths, Gschneidner Jr, K.A.; Bunzli, J.C.; Pecharsky, V., Eds.; Elsevier:Amsterdam, 2008; Vol. 38; p 105.
  3. Mori, T.; Martin, J.; Nolas, G. J. Appl. Phys. 2007, 102, 073510.
  4. Cahill, D.G.; Fischer, H.E.; Watson, S.K.; Pohl, R.O.; Slack, G.A. Phys. Rev. B, 1989, 40, 3254.
  5. Nagamatsu, J.; Nakagawa, N.; Muranaka, T.; Zenitani, Y.; Akimitsu, J.; Nature, 2001, 410, 63.
  6. Ekimov, E. A.; Sidorov V.A.; Bauer E.D.; Mel’nik, N.N.; Curro N.J.; Thompson J.D.; Stishov, S.M.; Nature, 2004, 428, 542
  7. Oganov, A.R.; Chen, J.; Gatti, C.; Ma, Y.; Glass, C.W.; Liu, Z.; Yu, T.; Kurakevych, O.O.; Solozhenko, V.L.; Nature 2009, 457, 863.
  8. Mori, T.; Tanaka, T. J. Phys. Soc. Jpn., 1999, 68, 2033.
  9. Mori, T. Z. Krist., 2006, 221, 464.
  10. Mori, T. J. Appl. Phys., 2005, 97, 093703.
  11. Mori, T. Physica B, 2006, 383, 120.
  12. Wood, C.; Emin, D. Phys. Rev. B, 1984, 29, 4582.
  13. Mori, T.; Nishimura, T. J. Solid State Chem., 2006, 179, 2908.
  14. Mori, T.; Nishimura, T.; Yamaura, K.; Takayama-Muromachi, E. J. Appl. Phys. 2007, 101, 093714.
Redi-Driのご案内