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(※本記事は2004年に発行された弊社「Materials Scienceカタログ(英語版)31」に掲載された内容を修正したものです。) 磁性材料すべての物質は電子の動きに起因した磁気特性を有しています。変動する電場は磁場を誘起するため、電子の軌道運動によって磁場が発生します。磁場を加えた場合、外部磁場とは反対方向に原子スケールの磁場が発生します。これは電子対を持つ場合に起こる磁気効果であり、磁場を印加したときに結果として物質がこの性質を示す場合、この物質を「反磁性(diamagnetic)」材料と呼びます。 反磁性はすべての物質に存在しますが、それ以外の磁気特性は不対電子の存在に起因します。これらの特性は遷移金属、ランタノイド金属、またはこれら金属の化合物に見られることが古くから知られており、金属中の不対d電子やf電子がその要因です。一般的に磁気的挙動には大きく分けて、常磁性(外部磁場がない場合に不対電子が無秩序に配向している)、強磁性(不対電子がすべて同じ向きに整列している)、および反強磁性(不対電子が交互に反対向きに整列している)の3種類があります。強磁性材料は全体として磁気モーメントを持ちますが、反強磁性材料の磁気モーメントは0です。電子スピンが互いに逆平行になっていても、それぞれの向きの磁気モーメントの大きさが異なるために全体としてゼロにならず、磁気モーメントが存在する化合物を「フェリ磁性体」と呼びます。また、Enforced Ferromagnetism(spin-glass-like、スピングラス様)では、スピンの整列した小さな領域が反強磁性材料中に存在します(図1)。
図1 磁性タイプ:(A)常磁性、(B)強磁性、(C)反強磁性、(D)フェリ磁性、(E)Enforced Ferromagnetism 一般に、材料の磁気特性は磁化率(Χ)を用いて説明されます。磁化率は磁化(M)と磁場(H)の比であり、化合物の磁気的挙動はΧにより分類されます(磁性タイプとΧの関係は表1を、よく使用される常磁性材料の磁化率は表2を参照)。
※emu = 電磁単位(10-3 A・m2)、Oe = Oersted、(1/4π)×103 A・m-1 反強磁性材料と常磁性材料の区別は、温度の上昇とともに磁化率(X)が上昇もしくは減少(変化しない)するかどうかを基準とします。強磁性材料と反強磁性材料は十分に熱すると磁気特性を失い、常磁性になります。この現象が起こる温度は強磁性化合物の場合はキュリー温度(TC)、反強磁性化合物の場合はネール温度(TN)と定義されています。いくつかの物質、特にランタノイド(反強磁性材料)は温度を下げると常磁性から反強磁性を経て強磁性になります(表3)。
前述のように、磁性材料は磁場を変化させることで電場が誘起されるため、ほぼすべての発電機に用いられています。磁性材料はまた、コンピュータにおける情報ストレージ、センサー、アクチュエータ、電話から衛星にいたる各種電気通信デバイスにとっても必須の材料です。 軟磁性(soft magnetic)材料として知られる材料は、変動する電場などの磁化力にさらされた場合にのみ磁気特性を示します。軟磁性材料は、直流と交流回路のいずれにおいても電流増幅のために最もよく使用されている磁性材料であり、磁性ナノ粉末は軟磁性先端材料として非常に期待されています。また、磁気熱量(magnetocaloric)材料は磁場の存在下で熱を発し、磁場から取り除くと温度が下がるという性質を持つ材料です。例えば、純粋な鉄は0.5~2.0℃ / Teslaの温度変化を示し、近年ではGd5SixGe1-x(x = 0~5)合金の温度変化が3~4℃ / Teslaであることが報告されています3, 4。なお、ナノ磁性材料の中には著しい磁気熱量特性を示すものもあります。アルドリッチでは「Gd5Si2Ge2(693510)」、「Gd5Si0.5Ge3.5(693502)」、「Dy0.8Er0.2Al2(693499)」の磁気冷凍効果材料を取り扱っております。 超伝導体超伝導体は、臨界温度(TC)以下になると電気抵抗が0になる材料です。1986年までに報告された最高のTCはNb3GeとNb3Snの20 Kでした5。1986~87年にはJohannes Bednorz(ヨハネス・ベドノルツ)とKarl Müller(カール・ミュラー)らのグループにより、セラミック酸化物のLa2-xBaxCuO4-xとYBa2Cu3O7(328626、357464)が窒素の沸点(77 K)以上の温度で超伝導を示すと報告されました6, 7。現在、TCが窒素(広く使用され、簡単に入手可能な低温冷却剤)の沸点より高い材料は、高温超伝導体(HTS:High-Temperature Superconductor)と呼ばれています。この成果により、ベドノルツとミュラーは1987年にノーベル物理学賞を受賞しました8。 酸化物系化合物のほかに、Ax@C60 (A=K, Rb, Cs)で表されるアルカリ金属をドープしたフラーレンにも超伝導特性があることが報告されています9。また、超伝導化合物が知られるようになってほぼ1世紀がたちますが、つい最近になって、比較的ありふれた化合物であるホウ化マグネシウム(MgB2、553913)が、超伝導性を持つことが明らかになりました。ホウ化マグネシウムは超伝導性を有するだけでなく、単純なセラミック材料にしては驚くほど高い臨界温度(TC =39 K)を持っています10。図2に、ホウ化タングステンを核とするMgB2ワイヤの断面の画像を示しました。このワイヤは、マグネシウム蒸気とホウ素フィラメントとの反応によって作製されています。偏光を当てることで結晶粒の構造(粒界)を確認することができます11。表4は代表的な化合物の臨界温度です。
図2 MgB2ワイヤの断面図(画像はアイオワ州立大学エームズ研究所、D.K. Finnemore、S.L. Bud¢ko、P.C. Canfield博士のご厚意によります。)
※1 単一元素で報告されている最高TC(2003年時点) 超伝導特性の評価には、臨界温度だけでなく、臨界磁場(HC)と臨界電流密度(JC)も用いられます。臨界磁場とは、印加された磁場が非常に大きい場合(HC以上)に、超伝導性が失われる印加磁場のことです。臨界温度と臨界磁場は反比例し、TC近傍では超伝導状態は非常に弱い磁場のときにのみ保持されますが、0 K付近ではより大きな磁場の印加が可能です(図2)。JCは、単位断面積当たりの超電導体に抵抗ゼロで流すことのできる最大電流を表します。
図3 超伝導状態に与える温度と磁場の影響 超伝導の歴史
分子性磁性体一般的に、分子性磁性体は従来の磁石と同等の磁気特性を有しており、また、分子であることで、デバイス製造に関して金属系の磁石よりも有利な点を多く持ちます。例えば、低温CVD(40℃)によって蒸着した分子性磁性体薄膜は低密度であり、透明です。このような利点のために、磁気イメージング、データ・ストレージ、磁気シールド、または磁気誘導に利用される先端デバイスの理想的な物質の候補の1つであり、光変調磁化などの特殊な性質を示すこともあります21。 電荷移動塩を分子性磁性体に例える理論は1963年にさかのぼります22。実際にこの現象が確認されたのは1985年23であり、また、1987年にミラーとその共同研究者によってdecamethylferrocenium tetracyanoethenide [Fe(Cp*)]2[TCNE]の強磁性が報告されています24。これ以降、デカメチルメタロセンのTCNE(tetracyanoethenide、T8809)またはTCNQ(7,7,8,8-tetracyano-p-quinodimethane、157635)(図5、表5)との電荷移動塩が多数報告されています。
図5 TCNQとTCNEの構造
分子性磁性体を従来の磁性材料と区別する1つの方法は「次元」です。分子性磁性体は多くの場合、単一方向にのみ、あるいは、1つの次元に沿ってのみ磁気を持ちます。例えば、hexylammonium trichlorocuprate(II)(CuCl3(C6H11NH3)またはCHAC)は、ヘキシルアミンカチオン水素結合の並行鎖を有するCuCl3単位の二重架橋鎖で構成されています(図6)。斜方晶系の結晶構造中で、鎖に沿って強磁性相互作用が存在しています。
図6 CHACのCuCl3核(塩素原子は非表示です) 相互作用パラメータ(J)のうち、図6のc軸に沿った成分(Jc)は100 cm-1であり強磁性です。これはb軸に沿った強磁性相互作用より約4桁大きく(Jb = 10-1 cm-1)、a軸に沿った反強磁性相互作用より5桁以上大きな値(Ja ≦ -10-2 cm-1)です26。これまでに、[MnCu(dto)2(H2O)3・4.5H2O](dto:ジチオオキサラト)27, 28をはじめとする、多くの強磁性鎖状分子が報告されています。 スピントロニクススピントロニクス(=スピン+エレクトロニクス)は、磁性エレクトロニクスと呼ばれることもあり、電子の電荷とスピンの利用に関する研究分野を指します。今日、最も一般的にスピントロニクスが利用されているのは、ハードディスクドライブの磁気ヘッドであり、スピントロニクス効果である巨大磁気抵抗(GMR:Giant Magneto Resistance)に基づいています。現在、磁気ランダム・アクセス・メモリ(MRAM)を市場へ投入するための研究が進められています。スピントロニクスに基づくMRAMは、従来のRAMと同等のスピードと上書性能を有し、さらに電源を落としても状態を保持(メモリ)します。2001年の半導体回路技術の国際会議であるISSCCでは、モトローラが単一の磁気トンネル接合およびシングルトランジスタをベースとした256KB MRAM(図7)の製造に成功したことを発表しました。このMRAMの読み書きサイクルは50ナノ秒未満です。2010年現在では、16MビットのMRAM(読み書きサイクル:35ナノ秒)が製品化されています。
図7 スピントロニクス技術に基づく256KB MRAM(画像はMotorola Corp.のご厚意によります。) スピントロニクスの分野では2つのタイプの材料が注目されています。現在、強磁性金属合金が磁気エレクトロニクス・デバイスに使用されていますが、その一方で、強磁性半導体材料に対してもより高い期待が集まっています。強磁性半導体の製造が現実すれば、現行のマイクロチップ産業はインフラストラクチャーをほとんど変えることなく、この新規デバイス製造へ転換することができるでしょう。強磁性半導体の合成に関する最大の問題は、半導体中へのスピン偏極した電流(スピン電流)の注入方法の確立です。 強磁性半導体の作製には、CdTe(256544、716669)やZnSe(244619)などのII-VI族半導体が多く用いられています。これら半導体に磁性原子(例えば、マンガン)をドープして磁気特性を持つ微小領域を作り、希薄磁性半導体(DMS:Diluted Magnetic Semiconductor)を作製します。より最新の研究では、GaAs(329010)などのIII-V族半導体へのドーピングによるDMSの作製が盛んです29。しかし、III-V族半導体では磁性元素がV族元素とより安定な物質を作る傾向があり、II-VI族半導体と比較して磁性不純物のドーピングがより困難です。分子線エピタキシー(MBE)法は、III-V族DMS材料を作製することの可能な技術として注目されています30。 References
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