自己組織化材料

溶液からの自己組織化に関する実験手順ガイド

Dr. Dan Graham, Asemblon; Dr. Sean Dingman, Sigma-Aldrich

チオールの自己組織化膜(SAM:self-assembled monolayer)を作製するには、目的のチオールの希薄溶液に清浄な金基板を浸漬します。自己組織化は非常に速やかに起こりますが、配向性の高い薄膜を作るには適切な実験手順に従う必要があります。ここでは、SAM作製に推奨されるプロトコールの概要を示します。

器具と材料

器具のチェックリストと留意事項

  1. 金被覆基板
  2. チオール化合物
  3. 未使用の新しい100%エタノール(または適切な溶媒)
  4. 較正済みマイクロピペット
  5. チオール溶液混合用容器(溶液容器)
  6. サンプル取り扱い用ピンセット
  7. 溶媒エタノール用専用ボトル(他の用途に使用しないこと)
  8. 容器密封用パラフィルム
  9. サンプル調製用容器(サンプル容器)
  10. SAMの移動用および保管用シャーレ
  11. 乾燥窒素ガス
  12. 分析用天秤
  13. 超音波処理器
  14. pH試験紙

環境:高品質のSAMを作製するには清浄な環境が重要です。低濃度でも不純物があれば、単分子膜の品質に影響することがあります。シランまたはポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)を使ったことのある部屋またはドラフトの使用は避けてください。これらの化合物は容易にさまざまな表面を交差汚染します。また、ヨウ素は金に直ちに吸着するため、近づけないようにしてください。

チオール類はすべてドラフト内で取り扱います。ほとんどのチオール類は不快な臭気があり有毒です(使用前にSDSを確認してください)。

容器:ガラス製またはポリプロピレン製の容器が適しています(例:シンチレーションバイアル、ポリプロピレン製の試験管および遠心管など)。溶液の汚染を防ぐため、ガラス容器は完全に洗浄してください*

簡単に密閉できる容器の利用をお勧めします。最高品質の薄膜を得るために、組織化プロセス中はなるべく溶液が酸素に触れないようにしてください。そのためには、チオール溶液の上にできる空間を小さくし、さらに不活性ガスで置換します。各基板はそれぞれ専用の容器に入れ、相互作用によって薄膜の品質が損なわれないようにします。

容器は再利用することができますが、使用のたびに溶媒で十分にすすぎ、交差汚染を防ぐために同一のチオール専用としてください。

*ガラス容器洗浄方法のひとつとして、ピラニア溶液(30%過酸化水素(H2O2)と濃硫酸(H2SO4)の30:70(v/v)溶液)を利用する方法があります。ピラニア溶液を使用する際は厳重な注意が必要です。これは非常に強い酸化剤であり、有機物と激しく反応します。

溶媒:ほとんどのチオールの場合、自己組織化を成功させるには純粋なエタノール(100%)が必要です。代替品としては、変性アルコール(5%以下のイソプロパノールまたはメタノールを含む)も適しています。銅による汚染の可能性があるため、溶媒の純度を確認してください。銅はチオールの組織化を阻害するため、生成するSAMの機能に影響することがあります。

サンプルスライド:金蒸着スライドは、金の層の下にクロム(Cr)またはチタン(Ti)の接着層のあるものを使用してください。この層がないと、超音波処理中に金が剥離して単分子膜が壊れてしまいます。

専用の洗浄瓶:容器や基板、SAMのすすぎのため、専用の溶媒入り洗浄瓶を使用されることを強くお勧めします。洗浄瓶は空の状態で保管し、必要なときだけ新しいエタノールを入れます。

実験手順

この一般的な手順はほとんどのチオールに適しています。アミン、カルボキシル基を含むチオールの場合は一部の手順を変更する必要があります。その箇所は赤色で示しています。また、PEGチオール単分子膜の特性は自己組織化の方法に左右されます。こうした材料を使用する前には参考文献5~7を参照してください。

  1. チオール溶液の必要量および濃度を決定します。
    1. 目的の数のサンプルを作製するのに必要なチオール溶液の総体積を計算します。

      [溶液の総体積(mL)]=[サンプルの総数]×[サンプル溶液の体積(mL)]

    2. 目的の量の溶液を調製するのに必要なチオールの総量を計算します。(C=1~5 mMの溶液)

      [チオールの質量(g)]=[総体積(mL)]×[C×10-6 mol/mL]×[分子量(g/mol)]

    チオールが液体の場合は、チオールの密度を用いて質量を体積に換算できます。液体チオールの計量および分注には較正済みのマイクロピペットを用います。

  2. チオール溶液の調製

    すべてのサンプルについて十分な量のチオール溶液を調製し、サンプルセット間で溶液濃度が一定となるようにします。チオール混合溶液を調製する場合は、各チオールのストック溶液を別々に調製してからこれらを適切な割合で混合し、最終のストック溶液とします。

    1. 組織化用容器の内部全体に約3~5 mLの溶媒を吹き付けて、すべての容器をすすぎます。すすぎを2~3回繰り返し、各容器の蓋を閉めます。実験に使用するすべてのビーカー、ピンセットなども溶媒ですすぎます。容器すべてにラベルを貼ります。
    2. 清浄な溶液用容器に適量の溶媒を測りとります。
    3. 計算した質量(または体積)のチオールを溶媒に加えます。
    4. 容器を5~10分間超音波処理して、チオールを溶解させます。
    5. 溶解完了後、所定量の溶液を各サンプル用容器に分注します。
    • カルボキシル基を末端にもつチオールの場合:濃HClを数滴加えて溶液のpHを2前後に調節します。その後、このストック溶液を超音波処理します。
    • アミンを末端にもつチオールの場合:濃NH4Clまたはトリエチルアミンを加えて溶液のpHを12前後に調節します。その後、このストック溶液を超音波処理します。
  3. サンプルの自己組織化
    1. 金基板を容器中のチオール溶液に浸漬します。表面の汚染を減らすため、金基板はピンセットで扱い、空気にもなるべく触れないようにします。
    2. 各容器の空気を乾燥窒素ガスで置換して蓋を閉め、蓋の周りをパラフィルムで覆います。
    3. 24~48時間以上、サンプルを静置します。一般に、自己組織化時間が長いほど、密な単分子膜が得られる傾向があります。
  4. 自己組織化の終了

    (チオールの官能基によって自己組織化の終端処理が異なります。)

    単純なアルカンチオールの場合:

    1. サンプルを清浄なピンセットで取り出し、清浄な溶媒瓶から10~15秒間溶媒を流してすすぎます。
    2. 乾燥窒素ガス流でサンプルを乾燥させます。

    水素結合、極性基、かさ高い頭部基を有するチオールの場合:

    1. サンプルを清浄なピンセットで取り出し、清浄な溶媒瓶から10~15秒間溶媒を流してすすぎます(カルボキシル基およびアミンを末端にもつチオールのSAMの場合、溶媒のpHを調節しておく必要があります)。
    2. 新しい溶媒を入れた容器に各サンプルを入れ、蓋を閉めます(必要であれば、この溶媒のpHも調節してください)。
    3. サンプルを1~3分間超音波処理します。
    4. サンプルをそれぞれ取り出し、10~15秒間静かにエタノールを流してすすぎます(この段階ではpHの調節は必要ありません。純粋な溶媒を使用してください)。
    5. 乾燥窒素ガス流でサンプルを乾燥させます。
  5. サンプルの保存
    1. 清浄なシャーレにサンプルを入れます。
    2. シャーレの空気を乾燥窒素ガスで置換します。
    3. 長期保存する場合:乾燥窒素ガスで置換した広口容器にシャーレを入れて蓋を閉め、パラフィルムで密閉します。

単分子膜をその後の実験に用いる場合は、使用の直前にサンプルをすすぐことができるように実験計画を立ててください。SAMは時間とともに酸化するため、作製後はなるべく早く使用することをおすすめします。

自己組織化材料については左記のページもご参考ください。

References

  1. Love, C.; Estroff, L.; Kriebel, J.; Nuzzo, R.; Whitesides, G.; Chem. Rev., 2005, 105, 1103–1170.
  2. Arnold, R.; Azzam, W.; Terfort, A.; Woll, C.,Langmuir, 2002, 18, 3980–3992.
  3. Wang, H.; Chen, S. F.; Li, L. Y.; Jiang,S. Y., Langmuir, 2005, 21, 2633–2636.
  4. Noh, J.; Konno, K.; Ito, E.; Hara,M., Jpn. J. Appl. Phys. Part 1 2005, 44, 1052–1054.
  5. Li, L. Y.; Chen, S. F.;Zheng, J.; Ratner, B. D.; Jiang, S. Y., J. Phys. Chem. B 2005, 109, 2934–2941.
  6. Herrwerth, S.; Eck, W.; Reinhardt, S.; Grunze, M., J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 9359–9366.
  7. Harder, P.; Grunze, M.; Dahint, R.; Whitesides, G. M.;Laibinis, P. E., J. Phys. Chem. B 1998, 102, 426–436
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