成膜グレードシラン化合物

ビニルトリエトキシシラン(VTEOS)およびゾル‐ゲル反応を用いた防湿バリア層の開発

Ariel Jackson, and Dr. Andrei Jitianu, Professor Lisa C. Klein

Department of Materials Science and Engineering,
Rutgers University

Material Matters 2006, 1(3), 11.

はじめに

防湿バリア層はマイクロエレクトロニクスや微小電気機械システム(MEMS:Micro Electro Mechanical System)、有機ELディスプレイに不可欠な要素です。これら用途で用いられるバリア層には低温での加工条件が必要になります。密封性を得るために、有機‐無機ハイブリッドバリア材料の作製には低温でのゾルーゲル反応を利用することができます。無機成分はバリア層となり、疎水性有機成分が撥水かつ多孔構造を充填します。

我々の目標は、電子および電気化学デバイスのための防湿バリア層を開発することです。バリア層には、水や水蒸気、ガスがコーティング層に浸透してデバイスと反応することを防ぐ性質が求められます。これまで、多数の低温ハイブリッド材料がゾル‐ゲル反応とメタクリル酸化合物を用いて合成され1,2、他のハイブリッド材料も詳細に検討されています3,4。そのコンセプトは、ゾル‐ゲル反応によって低温で酸化物を作製する点にあり、特にシリカ(ネットワーク構造もしくはナノ粒子の凝集体として)の形成に用いられます。このハイブリッド材料合成法では、有機成分と無機成分との重合を同時に、または逐次的に行なうことによって有機成分に酸化物を導入します。

一般的には、無機成分はテトラエチルオルトケイ酸(TEOS:tetraethyl orthosilicate)の加水分解と縮合重合から得られ、架橋酸素を含むシリカネットワークを形成します。本研究では、ビニルトリエトキシシラン(VTEOS:vinyl triethoxysilane)を用いて、重合可能なビニル基を有する酸化物ネットワークを作製しました。この場合、無機と有機の両方のネットワークを持つVTEOSのほうがTEOSよりも有利であるといえます。

我々は、疎水性バリア層の作製におけるVTEOSの有効性、および紫外線(UV)照射がVTEOS系に与える影響を分析しました。さらに、薄膜の特性を調べ、接触角を測定することで疎水性を評価しました。

合成方法

バリア層コーティングの合成フローチャートを図1に示します。まず前駆体ビニルトリエトキシシラン(VTEOS)を溶媒であるエチレングリコールモノブチルエーテル(EGMBE:ethylene glycol mono-butyl ether)と混合しました。脱イオン水および酢酸(CH3COOH)を添加した後、この溶液を20時間撹拌しました。フリーラジカル重合開始剤には過酸化ベンゾイル(BPO:benzoyl peroxide、0.1 wt%)を用いました。開始剤の添加から4時間にわたって溶液を撹拌した後、顕微鏡用スライドガラスおよびステンレス製試片を溶液に浸漬しました。スライドガラスの引き上げにはスクリュードライブ付きディップコーターを用いました。

得られた薄膜は室温で一晩乾燥させた後、70℃で30分間加熱しました。次にUV照射を行ない、その後NaOHで洗浄して過剰のBPOを除去しました。最後に薄膜サンプルを乾燥させ、評価を行ないました。

ガラス基板、ステンレス基板ともに、均一な薄膜が得られました。接触角の測定には脱イオン水を用い、接触角計(KSV CAM with Pendant Drop Surface Tension software 3.80)を用いました。AFM画像は、接触モードで走査型プローブ顕微鏡(Veeco Nanoscope IV)を用いて撮影しました。

ハイブリッドコーティングの作製フローチャート

図1 VTEOSを用いたゾル‐ゲル反応によるハイブリッドコーティングの作製フローチャート

結果と考察

2種類のサンプルを比較します。1 molのVTEOSに対して水4 molと6 molの割合の溶液からコーティング層をそれぞれ作製しました。一般に、四官能性シランの加水分解に必要な水の化学量論的な量は4 molであるため、6 molは過剰量といえます。これは、水1 molが1 molのエトキシ基を加水分解するという前提に基づいていますが、ある種の縮合重合ではより加水分解が進行する場合があります。

接触角の測定結果を図2aおよび図2bに示します。4 molおよび6 molの水で作製したコーティング層上の水滴の接触角はそれぞれ90.5°と118.4°です。図2bのように、接触角が90°よりもはるかに大きいことから、コーティング層は明らかに超疎水性であるといえます。

コーティング層の接触角

図2 (a) 4 molのH2Oを用いて作製したコーティング層の接触角θ:θ = 90.5°(b) 6 molのH2O を用いて作製したコーティング層の接触角θ:θ = 118.4°

目視ではサンプルは均一でしたが、AFMによる表面形態を確認したところ、4 molの水で作製したサンプルの表面粗さは約4.71 nmでした(図3)。表面粗さは、いわゆる「ハスの葉効果」によって疎水性を高めます。

コーティング層表面のAFM像

図3 4 molのH2Oで作製したコーティング層表面のAFM像(表面粗さは4.71 nm)

全反射‐フーリエ変換赤外分光法(ATR-FTIR)によって、ビニル基がコーティング層表面にあることがわかっています(スペクトルは割愛)。表面ビニル基の重合の模式図は、図4に示しました。

ビニル基の光重合の模式図

図4 VTEOSを用いて作製したコーティング層のビニル基の光重合の模式図

結論

VTEOSを出発物質として、ゾル‐ゲル反応を用いてハイブリッドコーティング層を作製しました。6 molの水を用いて作製したコーティング層の接触角は118.4°であり、表面は疎水性でした。この超疎水性は、ナノスケールでの表面粗さ、および表面に存在するビニル基によって説明されます。ゾル‐ゲル反応による無機成分の作製と光重合反応による有機成分ネットワークの作製を同時に行うことで、防湿用の疎水性高密度コーティング層の低温合成が可能であることを示しました。

     

References

  1. A. B. Wojcik, L. C. Klein, J. Sol-Gel Science and Technology, 1995,4, 57.
  2. A.B. Wojcik, L. C. Klein, J. Sol-Gel Science and Technology 1995, 5,77.
  3. A. B. Wojcik, L. C. Klein, Appl. Organometallic Chem. 1997, 11,129.
  4. D. Avnir, L. C. Klein, D. Levy, U. Schubert, A. B. Wojcik, The Chemistry of Organosilicon Compounds Vol. 2, Eds. Z. Rappoport, Y. Apeloig, 1998, Wiley, London, p. 2317.
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