ナノ材料

単層カーボンナノチューブの構造と応用

カーボンナノ材料製品リスト

 

単層カーボンナノチューブ(SWNT)の構造と特性、応用

Professor Daniel Resasco
School of Chemical, Biological and Materials Engineering, University of Oklahoma

構造

単層カーボンナノチューブ(SWNT:Single-walled carbon nanotube)特有の性質は、ダイヤモンドというよりもグラファイトに近いC-C結合からなる特徴的な構造を直接反映したものです。すなわち、ダイヤモンドではsp3 混成により配位数が4となるのに対し、グラファイトの場合は3配位の炭素であり、3つの電子によってsp2 混成軌道が形成され、残り1つの電子が非局在化した状態をとります。フラーレンやナノチューブも、グラファイトと同様にsp2 混成による炭素結合を持っていますが、平面的なハニカム構造からなるグラファイトとは異なり、フラーレンやナノチューブの構造は大きく湾曲しています。

sp2 C-C結合が元来持つ強度およびナノチューブの特別な構造によって、高い機械的強度と非常に大きなヤング率(個々のナノチューブでは、鋼のヤング率の約50倍となる1,000 GPa近くの値が予想または実測されています)をナノチューブは有しています。ナノチューブは、わずかな幾何学構造の違いによって電子構造が著しく変化するため、幾何学構造に応じて金属または半導体の性質を持ちます。そのため、特定の用途に最適な材料をナノスケールで設計することが原理的に可能です。

図1に示すように、単層カーボンナノチューブはナノメートル領域の直径を持つ継ぎ目のない円筒状で、グラフェンシート(2次元のグラファイト平面)が丸まった状態としてイメージすることができます。ナノチューブの構造は、直径と、チューブの軸に対する炭素の6員環の相対的な方向で規定されます。したがって、個々のSWNTは、炭素の6員環の基本ベクトル(a1およびa2)で表されるカイラルベクトル(ラッピングベクトルとも呼ばれる)を決定する整数である、2つの指数nmで一意的に特定されます。グラフェンシート上の結晶学的に等価な位置を結ぶカイラルベクトルCh = na1 + ma2によって、ナノチューブの円形断面の円周が決定します。

SWNTのカイラリティー

図1 ナノチューブの長さ方向に対する炭素6員環の相対的な方向に基づく、SWNTのカイラリティーを示す図(カイラリティマップ)

この平面の(0, 0)を出発し、a1方向にn単位、a2方向にm単位移動すると(n, m)点に移動します。(0, 0)と(n, m)をつなぐとカイラルベクトルChになり、Chをベースとする半無限の長方形を切り出して丸めると、(n, m)ナノチューブが得られます。ベクトルCha1の間の角度はカイラル角(図1ではΘで表示)と呼ばれます。カイラル角は、ジグザグ型(m = 0、角度 = 0°)からアームチェア型(n = m、 角度 = 30°)まで変化する、考え得るあらゆる構造に対して0°~30°の間の値を取ります。カイラル角が0°~30°の間であるその他のナノチューブは、すべてカイラルナノチューブと呼ばれます。なぜなら、それらの鏡像が同一でないために鏡像異性の対を持つためです。ナノチューブの直径d は、次の式によってその(n, m)指数から計算できます。

d = a0 • (m2 + mn + n2)1/2/ π(1)

ここで、a0は原子格子定数(= 0.246 nm)です。同様に、カイラル角Θは、次の式によって(n, m)指数から計算できます。

tanΘ = (n √3) / ( 2m + n )(2)

電子的および光学的特性

単層カーボンナノチューブの電子バンド構造に対する理論計算によって、ナノチューブは(n, m)指数によって金属または半導体の性質を持つと予想されています。ナノチューブは、フェルミレベルでの状態密度(DOS)がゼロでない場合は常に金属的な性質を持ち、このエネルギーレベルにバンドギャップがあれば半導体的な性質を持ちます。グラフェン平面では、各炭素原子がsp2 平面結合によって他の炭素原子と結合しています。sp2 平面結合は、2s、2px、および2py 軌道が混成した3つのσ結合からなり、残った2pz 軌道はグラフェン平面に対して垂直方向を向き、近傍の炭素原子の2pz軌道と重なり合って共有π結合を形成します。より安定性の高いσ結合が形成する系のエネルギーは、π結合が形成する系のエネルギーより低くなります。その結果、π系のエネルギーバンドはフェルミレベル領域に存在します。したがって、π系は電子輸送特性を決定する上で主要な役割を果たします。

第一近似によってナノチューブの電子状態を計算すると、n = m (アームチェア)であるか(n - m)が3の倍数であれば、フェルミレベルでのDOSがゼロにならず、ナノチューブは金属的性質を持つことが示されます。実際、チューブの湾曲を考慮したさらに詳細な計算によれば、結合性軌道と反結合性軌道の両方に対してσ系とπ系を混合させると、元のバンド構造がわずかに変化し、フェルミレベルにおいてDOSはゼロにならずに小さなエネルギーギャップが存在することが明らかになっています1。なお、チューブ径が大きくなるにつれて、このギャップは小さくなります。ただし、(n, n)チューブではエネルギーギャップがナノチューブのサブバンド内に位置するため、このチューブは金属型であると考えられます。

単層カーボンナノチューブ特有の性質

  • 機械的特性:

    個々の単層カーボンナノチューブは、スチール(鋼)よりも格段に高い強度を有しています。SWNTの引っ張り強度の計算値は、同じ重さでは(重量は1/16)スチールの約100倍に達します。これまで測定された最大値は予測理論値の約半分であり、おそらく構造欠陥が原因と考えられます7

  • 電気的特性:

    各単層カーボンナノチューブの電流容量は109 amp/cm2で銅または金より高く8、半導体性SWNTの電子移動度は、シリコンより高い値を示します。

  • 光学的特性:

    単層カーボンナノチューブは特異的な光吸収応答性および蛍光応答性を持ち、カイラリティごとに特有の吸収および蛍光スペクトルを示します。

  • 熱的特性:

    単層カーボンナノチューブの室温における熱伝導度は、既知の材料の中でも熱伝導度が最も高いと一般に考えられているダイアモンドまたは面内方向のグラファイトの値に匹敵します。

単層カーボンナノチューブの課題

これまで、純度、選択性、分散性における技術的課題のために、単層カーボンナノチューブの応用範囲は限定されていました。現在、これら課題の解決に向けた多くの進展が見られています。

  • 純度:

    単層カーボンナノチューブの製造にはさまざまな反応工程が含まれるため、生成物には残留触媒や他の形態の炭素がさまざまな割合で混入します。多くの場合、これら不純物を除去して純度を高めるための精製プロセスが必要となります。近年では、製造の際に生じる不純物を最小限に抑える合成法が商業的に可能となっています。

  • 選択性:

    先に述べたように、単層カーボンナノチューブはカイラリティの異なるチューブの混合体であり、中には導電性のものもあれば、半導体性のものも含まれます。多くの分野では、たとえば半導体性と金属性に関してチューブのタイプを分離することが望まれます。またある分野では、明確に定義された異なるカイラリティを持つチューブの分離が望まれる場合があります。実験室規模では非常に高度な選択性を持つ合成方法が報告されており5、現在では、大量生産の可能な分離プロセスが実現しつつあります。特にCoMoCAT®触媒CVD法のような製法の場合、製造後(未処理)のSWNTにおいて特定のカイラリティに対する高い選択性が得られるため、二次精製プロセスの収率が大幅に向上(もしくは精製プロセス自体が不要)します。

  • 分散性:

    単層カーボンナノチューブを分散させることは難しく、その一因としてチューブ間のファンデルワールス力によってロープ状または束状(バンドル)になる傾向があることが知られています。しかし、適切な界面活性剤を用いることで小さな束もしくは個々のチューブとして水溶液中に分散させることが可能であり、あるいは官能基化によっても低濃度で分散させることができます。SWNTの水溶液にDNAやデオキシコール酸ナトリウム(D6750)、コール酸ナトリウム(C6445)のような表面活性分子を加えて超音波処理すると、バンドル状のSWNTを剥離することができます。分散溶液中のナノチューブの剥離の程度を定量化するために、TanおよびResascoは、光吸収スペクトルから共鳴吸収比率(resonance ratio)の概念を定義しました6。共鳴吸収バンド面積を非共鳴吸収バックグラウンド面積で割った比率を求めることで、絶対吸収にかかわらず結果を容易に比較することができるようになります。このパラメータを用いて分散剤の有効性を評価することができます。

    また、樹脂および熱可塑性プラスチックへの分散では、SWNTバンドルの絡み合い起因する粘性の著しい増大のために単層カーボンナノチューブの利用が制限されます。この問題に関しては様々な手法が独自開発されており、SWNTを用いた新しいハイブリッド材料の開発が進んでいます。

制御された構造を持つ単層カーボンナノチューブの合成

カーボンナノチューブを量産するには、粉体状の高表面積触媒を使用することが極めて有利です。一般的な担持触媒の場合、活性種(金属クラスターなど)は、アルミナ、シリカ、マグネシアなどの耐熱性担体の表面上に広く分散した状態で安定化されます。このタイプの触媒は、ポリマー、燃料、溶媒などを製造するときに化学業界や石油化学業界で使用されるものと類似しています。担持触媒を用いる重要な利点の1つは、用いられる反応器(流動床、固定床、輸送床、回転炉など)に関する工学的・技術的な特性がすでに明らかであり、スケールアップ技術が成熟したものになっているという点です。

レーザーアブレーション法などの場合、単層カーボンナノチューブの成長速度は少なくとも毎秒数ミクロンより大きいことが広く知られています。一方、高表面積触媒上で炭素含有分子が触媒的に分解してカーボンナノチューブが成長する場合、全体としての成長反応は分~時間の尺度で進行します。カーボンの析出量は時間とともに徐々にしか増加しませんが、このことはナノチューブの成長が遅いことを必ずしも意味していません。つまり、全体として観察されるカーボン析出速度が遅いのは、(速い)ナノチューブ成長の前に誘導期間が含まれているためです。したがって、新しい核生成サイトがまず高表面積材料上に出現し、それぞれの成長点で比較的速い速度でナノチューブが成長します。また、先に成長したナノチューブによって後から生成するナノチューブの成長は抑制されます。

単層カーボンナノチューブの高い選択性を得るには、金属粒子が焼結する前にナノチューブの元となる核生成が起こる必要があります。速く焼結することを防ぐための、いくつかの方法が取られています。CoMoCAT®法の場合、炭素含有化合物(CO)によって還元される前に、酸化モリブデン(MoO3)と相互作用させることで活性コバルト種(Co)を非金属状態で安定化しておく方法が用いられています。一酸化炭素に暴露されたCo-Moの酸化物は、炭素と反応して炭化モリブデンと微小な金属Coクラスターを生成します。これらは高い分散状態を保つため、その結果極めて小さな直径の高い選択性を持つ単層カーボンナノチューブが得られます。低温での合成と、微小な金属クラスターの安定化によって、他の合成方法と比較して平均直径が小さく、構造分布が狭いCoMoCAT®ナノチューブ製品を得ることができます2。CoMoCAT®法では、流動床反応炉(図2)を使用して温度と流量を高精度で維持するため、高い(n, m)選択性のナノチューブとなります3

流動床反応炉の図

図2 流動床反応炉の図。CoMoCAT®法によってSWNT製造のスケールアップが可能になります。

単層カーボンナノチューブの幾何学構造および電子構造の特性評価

ナノテクノロジー研究で一般的に利用されるTEM、SEM、AFMなどの通常の顕微鏡手法に加え、単層カーボンナノチューブの幾何学構造と電子構造の解析に最適な手法がいくつかあります。SWNTに関する構造情報、電子情報、および光学情報は、走査型トンネル顕微鏡/分光法(STM/STS)、ラマン分光法、光吸収分光法、およびフォトルミネッセンスから得られます。

光吸収分光法は、あるサンプルにおける(n, m)の分布を評価するのに使用されます。図3に示すスペクトルは、725℃の反応温度で標準的なCoMoCAT®法により製造したサンプルの結果で、(6, 5)型ナノチューブの含有率が高く、直径とカイラル角の分布範囲が狭い(それぞれ約0.76 nm、27度)ことを示しています。この製品の場合、半導体型ナノチューブの比率が90%を超えています2

CoMoCAT法によって725℃で合成したナノチューブの光吸収スペクトル

図3 CoMoCAT®法によって725℃で合成した際に得られたナノチューブの大部分が(6, 5)型であることを示す光吸収スペクトル

図4に示すスペクトルは、さまざまな圧力下、同じCo-Mo触媒を用いて850℃で得られたサンプルの結果で、直径とカイラル角の分布範囲が広い(直径:0.75~1.22 nm、カイラル角:19~30度)ことを示しています。このサンプルの場合、金属/半導体ナノチューブの比は、統計的な比である0.5に近くなっています4。単層カーボンナノチューブの特性評価方法については、「単層カーボンナノチューブの特性評価と品質保証パラメータ」もご参考ください。

さまざまな圧力下、CoMoCAT法によって850℃で合成したナノチューブの光吸収スペクトル

図4 さまざまな圧力下、850℃で合成しCoMoCAT®法による、ナノチューブの光吸収スペクトル。
さまざまなタイプの構造のナノチューブが含まれていることがわかります。

単層カーボンナノチューブの用途

この10~15年にわたり、ナノチューブの重要な用途に関する活発な研究が行われてきました。カーボンナノ構造がもたらす固有の特性とそれらに関係する用途を、図5にまとめました。商品化まで進んでいる用途もあれば、まだ開発段階のものもあります。

カーボンナノチューブのさまざまな特性を利用した幅広い用途(TFT、導電性複合材料、薬物送達、ガス貯蔵、スーパーキャパシタ、アクチュエータ、生体足場材料、ハードコーティング、繊維、組織工学用途など)

図5 カーボンナノチューブのさまざまな特性を利用した幅広い用途

商業化可能な一貫した品質を持つナノチューブが適切なコストでかつ安定的に供給されることが強く望まれており、その結果、商品化の開発ペースが大幅に加速すると考えられます。最も広く研究されている用途には、高強度の伝導性ナノチューブ/ポリマー複合材料、透明電極、センサ素子、ナノ電気機械素子、電池添加剤、電界放出ディスプレイおよび放射源、半導体素子(トランジスタなど)、インターコネクトなどがあります。

SWeNT® and CoMoCAT® are registered trademarks of Southwest Nanotechnologies, Inc.

CNT・グラフェン最新製品リスト

フラーレンも含めたカーボンナノ材料の製品リストはこちらのPDFもご覧ください → カーボンナノ材料製品リスト(PDF:0.7MB)

References

  1. "Electronic Properties of Single-Walled Carbon Nanotubes." Cao, J. X.; Yan, X. H.; Ding, J. W.; Wang, D. L.; Lu, D. J. Phys. Soc. Jpn. 2002, 71, 1339.
  2. "Tailoring (n,m) structure of single-walled carbon nanotubes by modifying reaction conditions and the nature of the support of CoMo catalysts," Lolli, G.; Zhang, L. A.; Balzano, L.; Sakulchaicharoen, N.; Tan, Y. Q.; Resasco, D. E. J. Phys. Chem. B. 2006, 110, 2108-2115.
  3. "A scalable process for production of single-walled carbon nanotubes (SWNTs) by catalytic disproportionation of CO on a solid catalyst," Resasco D. E.; Alvarez, W. E.; Pompeo, F.; Balzano, L.; Herrera, J. E.; Kitiyanan, B.; Borgna, A. J. Nanopart. Res. 2002, 4, 131-136.
  4. "Quantifying the Semiconducting Fraction in Single-Walled Carbon Nanotube Samples through Comparative Atomic Force and Photoluminescence Microscopies," Naumov, A. V.; Kuznetsov, O. A.; Harutyunyan A. R.; Green, A. A.; Hersam, M. C.; Resasco, D. E.; Nikolaev, P. N.; Weisman, R. B.; Nano Lett. 2009, 9, 3203-3208.
  5. Arnold, M.S., Green, A.A., Hulvat, J.F., Stupp, S.I., Hersham, M.C. Nature Nanotechnology, 2006, 1, 60.
  6. Tan, Y., Resasco, D.E., J. Phys. Chem. B, 2005, 109, 14454.
  7. Meo, M., Rossi, M., Composite Science and Technology, 2006, 66, 1597.
  8. Tans, S.J., Devoret, H., Thess, A., Smalley, R.E., Geerligs, L.J., Dekker, C., Nature, 1997, 386, 474.

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