ナノ材料

銀ナノ粒子

Steven J. Oldenburg, Ph.D.

President - nanoComposix, Inc.

はじめに

銀ナノ粒子は他の物質には見られない光学的、電気的、熱的特性をもち、太陽電池からセンサーにいたる幅広い製品で利用されています。これら製品では導電性インクやペースト、充填剤に銀ナノ粒子が用いられており、その高い電気伝導率や安定性、低い焼結温度などの性質が利用されています。その他の用途には分子診断や光学デバイスがあり、これらはナノ材料の新規光学特性をうまく利用した事例です。一般的な用途として、銀ナノ粒子を抗菌性コーティングに利用することが増えており、いまや、多くの繊維やキーボード、創傷被覆材、生物医学デバイスには、細菌からの保護のために、銀イオンを低い濃度で持続的に放出する銀ナノ粒子が含まれています。

銀ナノ粒子の透過電子顕微鏡

図1 銀ナノ粒子の透過電子顕微鏡(TEM)画像。左から直径20 nm(730793)、60 nm(730815)、100 nm(730777)。バーの長さは50 nmに相当します。

銀ナノ粒子を目的の用途に使用した際に、どのようにその大きさや形、表面や凝集状態が変化するのかを理解することは、その性能を最適化するのに非常に重要となります。アルドリッチでは研究開発に最適な、凝集のない単分散銀ナノ粒子を販売しています(図1)。粒径の確認にはTEMや動的光散乱法(DLS:dynamic light scattering)を使用し、その他にもゼータ電位測定やUV-Visスペクトル分析によってその品質を確認しています。

銀ナノ粒子の光学特性

銀ナノ粒子は他の多くの色素や顔料と異なり、光の吸収や散乱が極めて効率的であり、粒子の大きさや形状に応じて異なる色を示します。光と銀ナノ粒子との強い関係は、特定波長の光で励起された際に金属表面の伝導電子が集団的な振動を起こすためです(図2左)。表面プラズモン共鳴(SPR:surface plasmon resonance)として知られるこの振動は、通常にはない散乱や吸収特性の原因となります。実際、銀ナノ粒子は物理的断面積の10倍までの有効な消光(散乱+吸収)断面積を示します。強い散乱断面積は、100 nm以下のナノ粒子でも一般的な顕微鏡で容易に確認することが可能です。60 nmの銀ナノ粒子に白色光を照射した場合、暗視野顕微鏡で明るい青色の散乱を見ることが出来ます(図2右)。SPRによるこの明るい青色の波長のピークは450 nmです。また、球状の銀ナノ粒子に特徴的な性質として、粒径や表面近傍の局所的な屈折率を変えることで、このSPRのピーク波長を400(紫)~530(緑) nmに調整できる点があげられます。さらに、ロッドや板状の銀ナノ粒子であれば、SPRピーク波長を赤外域まで大きくシフトさせることも可能です。

SPRによる自由電子の振動の模式図と銀ナノ粒子の暗視野顕微鏡写真

図2)照射光の特定の波長との強いカップリングによって、金属ナノ粒子の自由電子が振動を起こす現象を表面プラズモン共鳴と呼びます。()60 nm銀ナノ粒子(730815)の暗視野顕微鏡写真。

銀ナノ粒子の特性評価

金属ナノ粒子の大きさや形は、一般的にはTEMや走査型電子顕微鏡(SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)などの方法を用いて測定します。粒子の凝集状態の測定にはDLSやディスク遠心沈降法(analytical disc centrifugation)などの方法で、溶液中の粒子の有効サイズを測定します。また一方で、銀ナノ粒子に特有の光学的性質によって、ナノ粒子の物理的状態についての非常に多くの情報を、溶液中の銀ナノ粒子のスペクトル分析から得ることができます。図3左に銀ナノ粒子のスペクトルと直径との関係を示しました。直径が大きくなるにつれ、プラズモン吸収のピークが長波長側にシフトし、ブロードになります。直径が80 nmを超えると、メインピークより短波長側に2次ピークが見られるようになります。この2次ピークは四極子共鳴によるものであり、双極子共鳴とは異なる電子振動パターンを持ちます。ピーク波長やピーク幅、2次共鳴効果は、特定の粒径や形のプラズモンナノ粒子に特有の分光学的特徴として現れます。さらに、UV-Visスペクトルからは時間と共にナノ粒子がどのように変化するのかを観測することが出来ます。銀ナノ粒子が凝集すると、金属粒子は電気的にカップリングするようになり、個々の粒子とは異なるSPRを示します。複数のナノ粒子が凝集した場合は、プラズモン共鳴は個々のナノ粒子の共鳴よりもより長波長にレッドシフトするため、粒子の凝集は赤の可視域もしくは赤外領域のスペクトル強度の増加として観測されます。この効果は図3右のスペクトルに見られており、塩類を加えたことによって銀ナノ粒子溶液が非安定化されたことを光学的応答によって確認することが出来ます。銀ナノ粒子のUV-Visスペクトルを時間経過と共に注意深く観測することは、ナノ粒子の凝集が起きているかどうかを判断するのに有効な方法です。

銀ナノ粒子の消光スペクトル

図3)銀ナノ粒子溶液(直径:10 ~ 100 nm、濃度:0.02 mg/mL)の消光(散乱+吸収)スペクトル。()塩溶液を加えた後の、銀ナノ粒子の消光(extinction:減光、消失)スペクトルの推移。

凝集していない銀ナノ粒子溶液については、そのスペクトル形状が調製したばかりの懸濁液のものと同じである場合、UV-Visスペクトルを用いてナノ粒子の濃度を定量することが可能です。銀ナノ粒子溶液の濃度はLambert-Beerの法則によって計算され、光学濃度(OD:optical density、溶液を透過した光の量の尺度)と濃度に関連します。ODと濃度は比例するため、ナノ粒子溶液の定量に用いることが可能です。

銀ナノ粒子の表面化学

ナノ粒子が溶液中に存在する場合、ナノ粒子表面には粒子を安定化させ凝集を防ぐ電気二重層が形成されます。アルドリッチでは希薄クエン酸緩衝溶液中に分散させた銀ナノ粒子を取り扱っており、ナノ粒子表面にはクエン酸が弱く結合しています。クエン酸化合物を用いたのは、弱い結合のキャッピング剤であるために粒子が長期間安定であり、また、チオールやアミン、ポリマー、抗体、たんぱく質などのさまざまな化合物で置換することが容易であるためです。

銀ナノ粒子の応用例

銀ナノ粒子は数多くの技術で用いられており、その光学特性、導電性、抗菌性といった特長を利用した幅広い市販製品があります。

  • 診断薬: 定量的検出のための生物学的タグとして、バイオセンサーや多くの分析法で利用されています。
  • 抗菌: 衣服や靴、塗料、創傷被覆材、電化製品、化粧品、プラスチックなどに、その抗菌作用が利用されています。
  • 導電性: 導電性インクに用いられたり、熱的特性や電気伝導度の向上のために複合材料の成分として利用されています。
  • 光学性: 効率的な集光のために、また、金属増強蛍光(MEF:metal-enhanced fluorescence)や表面増強ラマン散乱(SERS:surface-enhanced Raman scattering)などの光学分光法の性能向上に用いられています。

ナノ毒性学(Nanotoxicology)研究における銀ナノ粒子

近年注目が集まっているのはナノ材料の物理的、化学的性質と環境や人体に対するその潜在的危険性との関係についての研究です。ナノ粒子の大きさや形、表面を精密に制御できると、ナノ粒子の性質とその毒性学的効果の間の相関関係をより理解することが出来るようになります。単分散で凝集していない、物理的、化学的な性質が正確に定義されたナノ粒子によって、初めて生体系や環境との相互作用についての研究が可能となります。最近では一般消費財に銀ナノ粒子が広く使われるようになったため、その安全性の確認と抗菌作用のメカニズムの理解についての国際的な取り組みが進んでいます。銀コロイドはその健康への効果が認められてこの数十年の間利用されていますが1、環境に対する影響についての詳しい研究は始まったばかりです。初期の研究では、細胞や微生物への影響はナノ粒子表面からの低濃度の銀イオンの放出が主な要因であることが示されています2。イオン放出速度はナノ粒子の大きさ(粒径が小さいほど速い放出速度)や温度(より高温で溶解が促進)、酸素や硫黄、光への暴露などに影響されます。これまでの研究成果から、銀ナノ粒子の毒性は同量の銀塩化合物よりも非常に低いことがわかっています。

銀ナノワイヤー

銀ナノワイヤーは、銀ナノ材料の中でも注目されている材料であり、下記のような最先端用途での研究が進められています(参考アプリケーションノート:銀ナノワイヤの合成)。

  • 導電性コーティング:銀ナノワイヤーは、透明導電性膜やフレキシブルエレクトロニクス用途での導電性コーティングに用いられています。
  • プラズモンアンテナ:銀ナノワイヤーに金属性ナノ粒子を付与することで、高いプラズモン効果をもつ、センサーやイメージング用のアンテナとして機能します。
  • 分子センサー:銀ナノワイヤーの単層は、ラマン分光法と組み合わせた特定分子の検出の可能なセンサー用アレイの作製に用いられています。
  • ナノコンポジット:銀ナノワイヤーはナノコンポジット用材料として研究されており、これらシステムにおいて高い誘電率を示します。

アルドリッチでは100種類を超える銀ナノ材料を販売しています。

銀ナノ粒子・ナノワイヤについては左記のページもご参考ください。

References

  1. Li, W. R.; Xie, X. B.; Shi, Q. S.;, Zeng, H. Y.;, Ou-Yang, Y. S.; Chen, Y. B. Appl Microbiol Biotechnol. 2010, 85(4), 1115.
  2. Lubick, N. Environ. Sci. Technol., 2008, 42 (23), 8617.
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