有機エレクトロニクス技術

発光ポリマー

Prof. Qibing Pei
Department of Materials Science and Engineering,
California NanoSystems Institute, and Henry Samuli School of Engineering and Applied Science, UCLA

Material Matters 2007, 2(3), pp 26-28

はじめに

π電子が広い範囲にわたって非局在化した共役ポリマーは、ドープ状態では処理可能な「organic metal」として、非ドープ状態では半導体材料として振る舞います1-3。多くの非ドープポリマーは、可視および近赤外領域で強いフォトルミネセンス(PL:photoluminescence)を示します。ドープ状態と非ドープ状態を切り替えることで、ポリマー体積、吸収色、フォトルミネセンスの可逆的消光など、発光ポリマー(LEP:light emitting polymer)の多くの特性が変化します。このように特性の制御が可能なため、LEPはさまざまな用途への利用が想定される材料です。例えば、吸収色の変化はエレクトロクロミックディスプレイに利用できる一方で、体積変化は電気的に活性な人工ポリマー筋肉に利用できる可能性があります4-5。また、その半導体性と強いフォトルミネセンスを組み合わせることによって、LEPによるエレクトロルミネセンス(EL:electroluminescence)が発生することから、高分子発光ダイオード(高分子有機EL、PLED:polymer light emitting diode)に利用できます。さらに、PL消光がドーピングや電荷移動に対して非常に敏感であることを利用して、生物学的もしくは爆発性の物質を検出できます。このように、発光ポリマーは、多くの科学的にも技術的にも有用な、低温で処理可能な材料として重要な化合物です。

高分子有機ELは、フラットパネルディスプレイや照明への応用を視野に現在開発が進められており、発光ポリマーの特性理解と効率向上が急がれています。例えば、図1に示すように高分子有機ELは比較的単純な薄膜デバイス構造を持っていますが、高性能PLEDには次のようないくつかの厳しい要件を満たす発光ポリマー層が必要となります。

  1. 色純度(ポリマーのバンドギャップと膜の形態に依存)
  2. 発光ポリマーとさまざまな電極材料の間のイオン化ポテンシャルと電子親和力の調整
  3. 高いPL量子効率
  4. 化学的および熱的安定性
  5. 溶解度や溶液粘度、溶媒-基板の親和性をはじめとする加工性

これらの特性は、共役ポリマー鎖の化学構造、側基、ヘテロ原子の導入、分子量、構造の規則性もしくは共重合体の組成の変化によって調整できます。本稿では、さまざまな用途に利用可能な代表的なLEP化合物を解説します。LEPには、完全に共役した主鎖をもつポリマーと、主鎖または側基に共役部分を持つポリマーの両方があることに注意が必要です。ほとんどの共役オリゴマーは、対応するポリマー化合物と類似した加工性および発光特性を示します。

高分子有機ELデバイスの模式図

図1 高分子有機EL(PLED)デバイスの模式図。HIL(hole injection layer、正孔注入層)は、一般に導電性ポリマー(PEDOTやポリアニリンなど)のスピンキャスト膜です。

図2 代表的な発光ポリマー。各数字は本文中の数字と対応しています。

ポリ(1,4-フェニレンビニレン)(PPV)

poly(1,4-phenylene vinylene)(PPV、1)およびその可溶性誘導体は、もっとも広く研究されている発光ポリマーです。PPVは一般に、水およびメタノールに可溶な前駆体であるpoly(xylylidene tetrahydrothiophenium chloride)を経て調製されます。PPVは、もっとも初期の共役系高分子を用いたLEDの作製に使用されましたが、PL量子効率が比較的低く、前駆体からPPVへの変換に高温が必要であったため、一般的な有機溶媒に可溶な新規PPV誘導体に関する研究が進みました。MEH-PPV(2541443)は、対応するモノマーである1,4-bischloromethyl-2-methoxy-5-(2’-ethylhexyloxy)benzene(536250、スキーム1a)から容易に合成されます6。また、ジアルコキシ側基によってポリマーのバンドギャップが変化するため、発光色が非置換PPVの黄緑色からオレンジ色へ色が深くなる方向にシフトします。なお、MEH-PPVは最初の高効率ポリマーLEDの作製に使用されたポリマーです。2’-エチルヘキシルオキシ側基を3’,7’-ジメチルオクチルオキシ基で置き換えることで(MDMO-PPV、546461)、発光色はわずかに長波長側(赤)にシフトします。かさ高い(2,5-ビス(コレスタンオキシ))側基を持つBCHA-PPV(3)の場合、色は反対に橙黄色にシフトします。このように、発光色の調整に多くの側基が使用されており7,8,9、PPVのビニル部分にも導入することが可能です。例えば、poly[(1,4-phenylene-1,2-diphenylvinylene)](4)は、PL効率と安定性の高い緑色の発光ポリマーです。

合成経路

スキーム1 ポリマー(2)、(7)、および(8)の合成経路

MEH- PPVの合成にGilch重合法が用いられ、分子量の大きなポリマーが得られています。1,4-bischloromethyl-2,5-bis(3’,7’-dimethyloctyloxy)benzeneのGilch反応では、PPV主鎖の欠陥は1.5~2.0%のtolane-bisbenzyl(TBB)のみであることが明らかになっています10。その重合反応において、p-キノジメタン中間体はかなり強い極性をもち、その後のラジカル重合はほぼ完全にhead-to-tail結合の置換PPV(0.5%のtolane-bisbenzyl(TBB)欠陥を含む)が生成されます。このように欠陥の少ないポリマーの合成は、高分子有機ELの効率化において有用です。比較的分子量の小さな置換PPVは、縮合重合反応(Wittig、Heck、Knoevenagel)によって合成することもできます11。Knoevenagel反応によるポリマーでは、シアノ基がdialkoxy-PPVの各ビニレン部分に導入されます。その結果得られるポリマーは、分子内のπ電子雲の「プッシュ・プル」効果によって、バンドギャップが小さくなり、発光色が濃赤色領域にシフトします。

置換PPVの発光色とPL量子効率は、異なる側基を含むPPV共重合体の組成を変えることで調整することができます。例えば、poly[(2-dimethyloctylsilyl-1,4-phenylenevinylene)-co-(MEH-PPV)]のコモノマーの比率によって、発光色をsilyl-PPVの緑色からMEH-PPVのオレンジ色まで体系的に変化させることができます。緑色から青色の範囲の発光色は、アルキレンジオキシ、オリゴ(エチレンオキシド)、ジメチルシランなどの非共役性官能基をもつPPVの短いセグメントからなる共重合体で得られると考えられます12。共重合体(5)は、効率の高い青色発光材料ではあるもの、これら共重合体の電荷キャリア導電率は一般に低い値を示します。poly(2,5-dialkoxy-1,4-phenyleneethynylene)(PPE、6636991)は、dialkoxy-PPVのデヒドロ化合物であり、その発光ピークは、対応するPPVと比べて狭く、青色にシフトしています13

ポリ(1,4-フェニレン)(PPP)

poly(1,4-phenylene)(PPP)とそのさまざまな誘導体から青色LEPが作製されています。可溶性PPPは、対応するジクロロ、ジブロモ、またはジボレートモノマーからGrignard反応やNi0 触媒による山本反応、または鈴木反応によって合成できますが14,15、得られるポリマーの分子量はかなり小さく、多くの場合10,000未満です。ベンゾイルなどの電子吸引基を含む分子量の大きな可溶性PPPは、対応するジクロロモノマーのNi0 触媒による山本カップリングによって得ることができます(スキーム1b)。置換PPPの発光は、その大部分が紫外領域にある濃青色です。poly(2-decyloxy-1,4-phenylene)(7)は、PLとELのいずれについても高い量子効率を示します。発光ピークは、410 nm付近にあります。

ポリフルオレン(PFO)

polyfluorene(PFO)は、フェニル環の各ペアが9位の炭素で平面内に固定されており、PPPよりやや小さいバンドギャップをもちます。そのPLのほとんどは、可視スペクトルの青色領域内にあります16,17。poly(9,9-dioctylfluorene)(8571652)の可溶化アルキル基は、2位および7位からかなり離れた9位の炭素に結合しているため、2位および7位でフルオレン基と結合した、対応するモノマーの重合をほとんど阻害しません。たとえば、Ni0 触媒による山本カップリングおよびPd0 触媒による鈴木カップリングによる重合で、Mw>100,000でPL量子収率が70%を超えるPFOポリマーが得られます17。界面活性剤(例えば、Aliquat® 336、205613)を使用して鈴木カップリングを用いた重合反応中の溶媒の混合を促進すると(スキーム1c)、最大100万まで分子量を増やすことが可能です18。また、鈴木カップリングによって、フルオレンを基盤とした交互共重合体も合成できます。トリフェニルアミンコモノマーの導入によって、ポリフルオレンの正孔輸送特性が向上し、一方、チオフェンと1,3,4-ベンゾチアジアゾールのコモノマーの場合、ポリフルオレンのバンドギャップが小さくなり、発光色が緑色さらには赤色までシフトします19。現在、PFOおよびPPVの可溶性誘導体は、LEDディスプレイおよび照明製品に使用されています。

はしご型PPPにおいて、フェニル環をその共平面(coplanar)構造の中に組み込む試みが行われています。高い加工性を持ち、共役系が高度に発達した発光ポリマーを得るために、π共役系をはしご型ポリマーの強固な平面骨格に導入し、あわせて溶解性とプロセス加工性の向上のための側基も組み込まれました20。はしご型ポリマー(9、R=H)は、希薄溶液中で強い青色ルミネセンスを呈します。固体薄膜の場合、エキシマーの形成によって、そのPLは黄色にシフトします(10%の量子収率)。Rをメチル基で置き換えるとエキシマーの生成が抑えられるため、得られる固体薄膜は、希薄溶液と同様に青色の強いルミネセンスを呈します。

ポリ(チオフェン)

poly(3-alkylthiophene)は、サーモクロミズム(thermochromism)やソルバトクロミズム(solvatochromism)のほか、電界効果トランジスタへの応用について広く研究されています。regiorandom poly(3-octylthiophene)(10510831)は、希薄溶液中で比較的弱い赤色PLを呈し、高濃度溶液および固体薄膜では、発光の大部分が消光します。シクロヘキシルなどのかさ高い側基(11557625)の場合、ポリチオフェン主鎖の共平面がねじれるために発光色は緑色にシフトし21、poly(3-methyl-4-cyclohexylthiophene)は青色を発光します。一方、regioregularポリ(3-アルキルチオフェン)(P3HT:445703698997698989  P3OT:445711682799  P3DT:495344  P3DDT:450650682780など)は共平面のポリマー主鎖をもち、規則的に充填し、高い正孔移動度を持つナノメートルサイズの結晶ドメインを形成することから、薄膜トランジスタや太陽電池用p型半導体として研究が進められています。さらに、チオフェン、3-アルキルチオフェン、および3-アルコキシチオフェンは、PPP、PF、およびPPVのバンドギャップを小さくするためのコモノマーとしてもよく使用されています。

窒素含有ポリマー

イミノ窒素を含む複素環化合物は、炭化水素ベースのπ-システムと共役した場合、電子受容体になります。poly(2,5-pyridinevinylene)は、希薄溶液中で赤色を発光しますが、強い双極子相互作用によって凝集体の形成が促進されるため、比較的低いPL量子効率となります。ピリジンを含むポリマーは、N原子のプロトン付加またはアルキル化によって発光色と効率は複雑に変化します22。キノリンは、高い電子親和力を持つ、PPP型共重合体の有用なビルディングブロックであり、ポリキノリン(12)は高効率の青色発光材料です。また、同様に芳香族複素環化合物である1,3,4-オキサジアゾールをフェニル環と共重合した場合には、電子親和力の向上がみられます23。1,3,4-オキサジアゾールを含むポリマーおよび共重合体の中で、大きなバンドギャップを持つものは電子輸送材料として使用され、バンドギャップの小さい、可視域で発光するものはPLEDに使用されます。一方、第三級アミンやその誘導体ポリマーは、正孔輸送材料として使用されます。poly(9-vinylcarbazole)(PVK、182605)は、優れた光導電性材料であり、ペリレンやリン光ドーパントをはじめとする他の発光材料に対するワイドバンドギャップホスト材料としてよく知られています。

水溶性LEP

第四級アンモニウム塩やスルホン酸塩などのイオン性官能基をフレキシブルな構造を介して共役ポリマーに結合させると、水またはメタノールに可溶化できます。スルホナート置換ポリチオフェンは水中で自己ドーピング可能であり、ドーピングによって目立った発光は示しません。スルホン化したPPV(659894)、PPP、およびPFは希薄水溶液中で強いPLを示し24,25、発光色はスルホナート基を持たない類似のポリマーと同様の発光色を示します。これらの水溶性発光ポリマーは、メチルビオロゲン(856177)のような電子受容体によって高感度で消光するため、バイオセンシング用として研究されています。

まとめ

発光ポリマーは次のような特徴をもっています。

  1. 高い吸光係数(約105 cm-1
  2. 高いPL効率(固体薄膜において青色および緑色発光ポリマーの量子効率がしばしば50%を超えます)
  3. 大きなストークス・シフト(PL発光の自己吸収がほぼ見られません)

これらの特性の調整はポリマー合成の化学によって可能であり、図3のように可視スペクトル全体をカバーするさまざまな発光ポリマーを得ることが出来ます。発光ポリマーは、センサー、フレキシブルLEDディスプレイおよび照明器具、光励起レーザー、(潜在的には)半導体レーザーなど、広範囲の重要な用途の実現を可能とします。しかしながら、環境中の酸素や水分、および紫外線の影響を受けやすいために、何らかの制約が生じ、将来、商品化に際して問題となる可能性をもっていることに注意しなければなりません。

LEPの薄膜のエレクトロルミネセンススペクトル

図3 代表的なLEPの薄膜のエレクトロルミネセンススペクトル。(左から712432

発光ポリマーについては左記のページもご参考ください。
     

References

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