有機エレクトロニクス技術

有機薄膜トランジスタ用有機材料

Prof. Zhenan Bao

Department of Chemical Engineering, Stanford University

Material Matters 2007, 2(3), 4.

はじめに

有機活性材料を用いたフレキシブルな電子回路やディスプレイは次世代技術として注目されており、最終的にはエレクトロニクス市場の主流になると考えられています。有機活性材料の利点には、化学設計および合成によって電気的性質や加工特性を容易に調整できること、低温での加工およびreel-to-reel方式の印刷法によって製造コストを低く抑えられること、機械的柔軟性、フレキシブル基板に対する適合性などが挙げられます1,2

有機薄膜トランジスタ(OTFT:Organic thin film transistor)は、フレキシブル集積回路およびフレキシブルディスプレイの基本的な構成単位です。構造の模式図を図1に示します。トランジスタの動作中、ドレイン電極とソース電極の間の電流制御にはゲート電極が用いられます。通常、ゲート電圧を高くするとドレイン電極とソース電極の間の電流量が多くなります。高速スイッチングトランジスタのためには、半導体材料の電荷キャリア移動度とオン/オフ電流比が高くなければなりません。液晶ディスプレイのピクセルスイッチングトランジスタの場合、移動度は0.1 cm²/Vs以上、オン/オフ電流比は106以上が必要です。

有機薄膜トランジスタ構造の模式図

図1 有機薄膜トランジスタ(OTFT)構造の模式図 (S:ソース、D:ドレイン)

OTFTを作製するには、導電体(電極)、半導体(アクティブチャネル材料)から絶縁体(ゲート誘電体層)に至る材料が必要です。この論文では、これらの材料に必要な基本性能と、いくつかの代表的な化合物の例を示します。

有機半導体

有機半導体は、主要な電荷キャリアの種類に基づいて、p型(正孔が多数キャリア)とn型(電子が多数キャリア)の2種類に分けられます。電荷輸送を促進するため、有機半導体層は通常、π共役系オリゴマーまたはポリマー(π-πスタッキングの方向が電流の方向と一致することが理想)で構成されます。そのためには、気相または溶液からの堆積によって半導体化合物が自己組織化して、ある配向をとる必要があります。半導体薄膜が、密に充填され十分に相互接続された大きなグレインを含んでいることも重要です。低分子の高性能有機半導体のほとんどは、分子の長軸が誘電面に対して直角に近い方向を向き(図2a)、代表的なグレインサイズは少なくとも数μm程度である傾向をもちます。溶液処理した半導体ポリマーの場合、π共役面が表面上で真横を向いていることが望まれます(図2b)。

高性能有機半導体の分子配向

図2 高性能有機半導体の分子配向。(a) ペンタセン分子が、長軸を誘電面と垂直にして配向しています。(b) Regioregular型ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)が真横を向いて自発的に組織化し、配向構造を形成しています。ポリマー鎖間のπ-πスタッキングにより、電荷輸送が促進されます。

半導体膜の形態は、誘電体表面の化学的および物理的性質に大きく左右されます。誘電体表面のパターニングによって、所定の位置に有機半導体のパターンを選択的に作製できますが、これは、デバイス間のクロストークを低減するのに重要です。誘電体表面を適切に制御することで、高性能トランジスタに有機半導体単結晶配列パターニングを広い面積にわたって行うことができます3

有機半導体薄膜でのトランジスタの実現は、pチャネルのチオフェンオリゴマーとポリマーという限られたグループによるものが最初であり、報告された移動度は、0.01~0.1cm²/Vs程度でした4,5。この数年の間に、より広い範囲の分子固体やポリマーが開発されていますが、それらのすべてにおいて移動度は0.1 cm²/Vsを超えており、105を超えるオン/オフ比が得られています1。そのいくつかの代表的な材料の化学構造を図3に示します。このカテゴリーのpチャネル化合物には、置換チオフェンオリゴマー、ペンタセンおよびアセン、それらの誘導体、フタロシアニンおよびチオフェンベースの縮合環化合物、フルオレンオリゴマー誘導体などがあります。Regioregular型ポリ(3-ヘキシルチオフェン)は、ドロップキャスト法またはスピンコーティング法による溶液堆積時に自発的に組織化して高配向性構造を形成し(図36、0.1 cm²/Vsを超える移動度を持つ、数少ないポリマー半導体のひとつです7,8。最近になって、移動度と空気中での安定性が向上した、いくつかの新しいポリチオフェン誘導体が報告されています(図3、g、h9,10

代表的なp型有機半導体

図3 代表的なp型有機半導体の化学構造。(a) pentacene11,12、 (b) tetraceno[2,3-b]thiophene13、(c) TIPS-pentacene14、(d) α-sexithiophene(5946874,5、(e) oligothiophene-fluorene誘導体15、(f) regioregular(poly3-hexylthiophene)7、(g) poly(3,3’’’-didodecylquaterthiophene)16、(h) poly(2,5-bis(3-decylthiophen-2-yl)thieno[3,2-b]thiophene)10

CMOS(相補型金属酸化膜半導体、complementary metal oxide semiconductor)回路は、設計が容易で消費電力が小さいためによく使用される回路です。通常、CMOSインバーターはpチャネルトランジスタとnチャネルトランジスタで構成されます。C60、ペルフルオロ-銅フタロシアニン、ナフタレンおよびペリレンベースの化合物などの有機化合物群が優れたnチャネル動作を示します17,18,19,20図4に、空気中で安定な高性能nチャネル半導体の代表的な例を示します。最近になって、両極性の挙動を示す有機半導体が報告されました21。このタイプの物質を用いることで、pチャネルとnチャネルの半導体を別々にパターニングせずに相補型回路を作製することが可能となります。

代表的なn型有機半導体

図4 代表的なn型有機半導体の化学構造。(a) C6022、(b) hexadecafluoro copper phthalocyanine(F16CuPc44665320、(c) naphthalene diimide誘導体19、(d) perylene diimide誘導体18

誘電体材料

有機トランジスタの誘電体層はできるだけ薄くてピンホールの無いものであることが必要であり、また、低電圧で動作するよう誘電率の大きいものが理想的です。ゲート誘電体材料としては、無機、有機、および無機/有機ハイブリッド材料が研究されてきました。有望な材料には、ポリメチルメタクリラート(PMMA)、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、シルセスキオキサン、ベンゾシクロブテン(BCB164410)などがあります(図5a23,24,25。一般的に、架橋ポリマーは超薄膜誘電体材料としての利用した場合、より強度の高い膜が得られます26。誘電体材料の作製に使用される架橋剤の例を図5bに示します。配向性が高く密な構造を持つ自己組織化単分子層(SAM:self assemble monolayer)は、最も薄くかつ高品質な誘電体層となる可能性持っています27。高誘電率の無機ナノ粒子をポリマーマトリックス中に組み込んだ場合には、薄膜の比誘電率が全体的に押し上げられます28

誘電体材料および架橋剤の例

図5 誘電体材料および架橋剤の例。PVP(ポリビニルフェノール、436216436224)およびPS(ポリスチレン)ゲート絶縁膜の安定性を高めるために、シロキサン架橋剤(452246など)が使用されます21

誘電体層の表面処理は有機半導体の特性に大きな影響を及ぼします。半導体層中で誘導される電荷キャリアのほとんどは半導体/誘電体界面から5 nm以内の有機半導体層に限局されるため、誘電体表面の化学的・物理的特性は電荷キャリアの輸送において重要な役割を果たします。例えば、SiO2(典型的な誘電材料)表面上のSi-OH基は電子を捕捉することが知られています。SiO2表面をオクタデシルトリクロロシラン(OTS:octadecyl trichlorosilane、104817)分子でキャッピングすることで電子の捕捉を大幅に減らし、n型半導体(電子が主要な電荷キャリアである半導体)の移動度を改善することができます23

さらに、誘電体表面のSAM処理は有機半導体の結晶核生成と成長にも影響します6。例えば、ペンタセン薄膜はこれまででもっとも高い電荷キャリア移動度が報告されている有機半導体であり、その電荷キャリア移動度は疎水性SAMによる表面処理の種類によって大きく変化します。この違いは、それぞれの表面上に最初に形成されるペンタセン単分子層の形態の違いに関連しています29

電極材料

有機トランジスタがうまく機能するには、電極からの電荷注入が効率的である必要があります。そのためには、電極の仕事関数が有機半導体のエネルギーレベルに対して適切な値をもつことが必要であり、電荷注入のエネルギー障壁が低くなければなりません。有機トランジスタの場合、通常、pチャネル型有機半導体には仕事関数の高い電極材料(Au、Pd、または酸化インジウムスズ)が用いられ、注入された正孔は有機半導体中を移動します。また、電極表面を自己組織化単分子膜(SAM)で修飾することで、有機半導体への電荷注入を改善できることが見いだされています30。例えば、Au電極を用いる場合、さまざまなチオールSAMを用いて電極を官能基化することで仕事関数を調整することができます。さらに、SAM修飾Auを未処理のAuと比較した場合、堆積した有機半導体の形態は大きく異なることから、Au/有機化合物界面における有機半導体の形態を調整することで電荷注入の改善が図られています31

溶液処理の可能な電極材料によって、低コストでの製造か可能になります。そのため、いくつかの研究グループによって、低コストのプラスチック基板が利用できるように、200℃未満で処理できるAuまたはAgのナノ粒子インクが開発されています32。その他の有望な電極材料の候補には、カーボンナノチューブ分散液や導電性ポリマー溶液があります。

このように、有機材料はフレキシブル電子デバイスにおいて重要な材料であり、すでに大きな進歩を遂げています。それでもなお、合理的な材料設計によって望ましいデバイス性能を得るためには、構造と特性の関係についてさらに理解を深める必要があります。

     

Reference

  1. Organic Field Effect Transistors; Bao, Z.; Locklin, J., Eds.; Taylor and Francis Group, LLC, 2007.
  2. Ling, M. M.; Bao, Z. N. Chemistry of Materials 2004, 16, 4824.
  3. Briseno, A. L.; Mannsfeld, S. C. B.; Ling, M. M.; Liu, S. H.; Tseng, R. J.; Reese, C.; Roberts, M. E.; Yang, Y.; Wudl, F.; Bao, Z. N. Nature 2006, 444, 913.
  4. Garnier, F.; Hajlaoui, R.; Yassar, A.; Srivastava, P. Science 1994, 265, 1684.
  5. Dodabalapur, A.; Torsi, L.; Katz, H. E. Science 1995, 268, 270.
  6. McCullough, R. D. Advanced Materials 1998, 10, 93.
  7. Bao, Z.; Dodabalapur, A.; Lovinger, A. J. Appl. Phys. Lett. 1996, 69, 4108.
  8. Sirringhaus, H.; Tessler, N.; Friend, R. H. Science 1998, 280, 1741.
  9. Pan, H.; Li, Y.; Wu, Y.; Liu, P.; Ong, B. S.; Zhu, S.; Xu, G. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 4112.
  10. McCulloch, I.; Heeney, M.; Bailey, C.; Genevicius, K.; Macdonald, I.; Shkunov, M.; Sparrowe, D.; Tierney, S.; Wagner, R.; Zhang, W. M.; Chabinyc, M. L.; Kline, R. J.; McGehee, M. D.; Toney, M. F. Nature Materials 2006, 5, 328.
  11. Klauk, H.; Jackson, T. N. Solid State Technology 2000, 43, 63.
  12. Kelley, T. W.; Baude, P. F.; Gerlach, C.; Ender, D. E.; Muyres, D.; Haase, M. A.; Vogel, D. E.; Theiss, S. D. Chemistry of Materials 2004, 16, 4413.
  13. Tang, M. L.; Okamoto, T.; Bao, Z. N. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 16002.
  14. Anthony, J. E.; Brooks, J. S.; Eaton, D. L.; Parkin, S. R. J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 9482.
  15. Meng, H.; Zheng, J.; Lovinger, A. J.; Wang, B. C.; Van Patten, P. G.; Bao, Z. N. Chemistry of Materials 2003, 15, 1778.
  16. Ong, B. S.; Wu, Y. L.; Liu, P.; Gardner, S. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 3378.
  17. Chikamatsu, M.; Nagamatsu, S.; Yoshida, Y.; Saito, K.; Yase, K.; Kikuchi, K. Applied Physics Letters 2005, 87.
  18. Jones, B. A.; Ahrens, M. J.; Yoon, M. H.; Facchetti, A.; Marks, T. J.; Wasielewski, M. R. Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 6363.
  19. Katz, H. E.; Lovinger, A. J.; Johnson, J.; Kloc, C.; Siegrist, T.; Li, W.; Lin, Y. Y.; Dodabalapur, A. Nature 2000, 404, 478.
  20. Bao, Z. A.; Lovinger, A. J.; Brown, J. J. Am. Chem. Soc. 1998, 120, 207.
  21. Yoon, M. H.; Kim, C.; Facchetti, A.; Marks, T. J. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 12851.
  22. Haddon, R. C.; Perel, A. S.; Morris, R. C.; Palstra, T. T. M.; Hebard, A. F.; Fleming, R. M. Appl. Phys. Lett. 1995, 67, 121.
  23. Chua, L. L.; Zaumseil, J.; Chang, J. F.; Ou, E. C. W.; Ho, P. K. H.; Sirringhaus, H.; Friend, R. H. Nature 2005, 434, 194.
  24. Bao, Z. N.; Kuck, V.; Rogers, J. A.; Paczkowski, M. A. Adv. Funct. Mater. 2002, 12, 526.
  25. Liu, P.; Wu, Y. L.; Li, Y. N.; Ong, B. S.; Zhu, S. P. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 4554.
  26. Yoon, M. H.; Yan, H.; Facchetti, A.; Marks, T. J. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 10388.
  27. Halik, M.; Klauk, H.; Zschieschang, U.; Schmid, G.; Dehm, C.; Schutz, M.; Maisch, S.; Effenberger, F.; Brunnbauer, M.; Stellacci, F. Nature 2004, 431, 963.
  28. Maliakal, A.; Katz, H.; Cotts, P. M.; Subramoney, S.; Mirau, P. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 14655.
  29. Yang, H. C.; Shin, T. J.; Ling, M. M.; Cho, K.; Ryu, C. Y.; Bao, Z. N. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 11542.
  30. Gundlach, D. J.; Jia, L. L.; Jackson, T. N. IEEE Electr. Dev. 2001, 22, 571.
  31. Kymissis, I.; Dimitrakopoulos, C. D.; Purushothanman, S. IEEE Trans. Elec. Dev. 2001, 48, 1060.
  32. Wu, Y. L.; Li, Y. N.; Ong, B. S. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 1862.
Redi-Driのご案内