有機エレクトロニクス技術

有機薄膜トランジスタにおける自己組織化

Professor Zhenan Bao

Department of Chemical Engineering, Stanford University

Material Matters 2006, 1(2), pp.11.

はじめに

有機活性材料を用いたフレキシブルな電子回路やディスプレイは次世代技術として注目されており、最終的にはエレクトロニクス市場の主流になると考えられています。有機活性材料の利点には、化学設計および合成によって電気的性質や加工特性を容易に調整できること、低温での加工およびreel-to-reel方式の印刷法によって製造コストを低く抑えられること、機械的柔軟性、フレキシブル基板に対する適合性などが挙げられます1

有機薄膜トランジスタ(OTFT:Organic thin film transistor)は、フレキシブル集積回路およびフレキシブルディスプレイの基本的な構成単位です。構造の模式図を図1に示します2

有機薄膜トランジスタ構造の模式図

図1.有機薄膜トランジスタ構造の模式図。(a)自己組織化単分子層の誘電体層として用いたシラン化合物の化学構造、(b)半導体層として用いたペンタセンの化学構造、(c)デバイス構造の模式図。(Nature Publishing Groupの許可を得て転載)

トランジスタの動作中、ドレイン電極とソース電極の間の電流制御にはゲート電極が用いられます。通常、ゲート電圧を高くするとドレイン電極とソース電極の間の電流量が多くなります。高速スイッチングトランジスタのためには、半導体材料の電荷キャリア移動度とオン/オフ電流比が高くなければなりません。液晶ディスプレイのピクセルスイッチングトランジスタの場合、移動度は0.1 cm²/Vs以上、オン/オフ電流比は106以上が必要です。デバイスの性能向上、およびデバイス作製時の低コスト加工の実現には、自己組織化材料と自己組織化プロセスの両方が重要な役割を果たします。本稿では、OTFTにおける自己組織化の応用について簡単に紹介します。

自己組織化単分子層(SAM)を用いた表面修飾

SAMを用いたドレイン電極およびソース電極の表面修飾

有機トランジスタがうまく機能するには、電極からの電荷注入が効率的である必要があります。そのためには、電極の仕事関数が有機半導体のエネルギーレベルに対して適切な値をもつことが必要であり、電荷注入のエネルギー障壁が低くなければなりません。有機トランジスタの場合、通常、pチャネル型有機半導体には仕事関数の高い電極材料(Au、Pd、または酸化インジウムスズ)が用いられ、注入された正孔は有機半導体中を移動します。また、電極表面を自己組織化単分子層(SAM:self assemble monolayer)で修飾することで、有機半導体への電荷注入を改善できることが見いだされています3。例えば、Au電極を用いる場合、さまざまなチオールSAMを用いて電極を官能基化することで仕事関数を調整することができます。さらに、SAM修飾Auを未処理のAuと比較した場合、堆積した有機半導体の形態は大きく異なることから、Au/有機化合物界面における有機半導体の形態を調整することで電荷注入の改善が図られています4

誘電体の表面修飾

誘電体層の表面処理は有機半導体の特性に大きな影響を及ぼします。半導体層中で誘導される電荷キャリアのほとんどは半導体/誘電体界面から5 nm以内の有機半導体層に限局されるため、誘電体表面の化学的・物理的特性は電荷キャリアの輸送において重要な役割を果たします。例えば、SiO2(典型的な誘電材料)表面上のSi-OH基は電子を捕捉することが知られています。SiO2表面をオクタデシルトリクロロシラン(OTS:octadecyl trichlorosilane、104817)分子でキャッピングすることで電子の捕捉を大幅に減らし、n型半導体(電子が主要な電荷キャリアである半導体)の移動度を改善することができます5

さらに、誘電体表面のSAM処理は有機半導体の結晶核生成と成長にも影響します6。例えば、ペンタセン薄膜はこれまででもっとも高い電荷キャリア移動度が報告されている有機半導体であり、その電荷キャリア移動度は疎水性SAMによる表面処理の種類によって大きく変化します。この違いは、それぞれの表面上に最初に形成されるペンタセン単分子層の形態の違いに関連しています6

誘電体層または半導体層としてのSAM誘電体層

誘電体層

有機トランジスタの誘電体層はできるだけ薄くてピンホールの無いものであることが必要であり、また、低電圧で動作するよう誘電率の大きいものが理想的です。配向性が高く密な構造を持つSAMは、最も薄くかつ高品質な誘電体層となる可能性を持っています。実際に、図1に示したように、自己組織化単分子層は高性能な低電圧駆動性の有機トランジスタのための誘電体層として用いられており2、他のSAMや自己組織化多分子層も、高性能誘電体層として報告されています(図27,8。誘電体層を形成させるための表面重合の開始にはSAM開始剤が用いられています(図39

自己組織化単分子層を用いたOTFTの模式図

図2.自己組織化単分子層を用いたOTFTの模式図。さまざまな有機半導体()および自己組織化ナノ誘電体I~III()の分子構造を表しています。ナノ誘電体層はシラン前駆体化合物溶液から作製されます。

表面開始重合反応による金ゲート電極の修飾。

図3.金ゲート電極の修飾。表面開始重合反応によって誘電体層が成長します。

半導体層

電荷輸送を促進させるため、有機半導体層は通常π共役系のオリゴマーまたはポリマー(π-πスタッキングの方向が電流の方向と一致することが理想)で構成されます。そのためには、気相または溶液からの堆積によって半導体分子が自己組織化して、ある配向をとる必要があります。この配向性の高い分子層は、(1)配向性の高い大きなドメインに結晶化しやすい適切な化学構造をもつ分子の設計、もしくは(2)自己組織化による単分子層または多分子層、によって形成されます10,11

Regioregular型ポリ(3-ヘキシルチオフェン)は、ドロップキャスト法またはスピンコーティング法による溶液堆積時に自発的に組織化して高配向性構造を形成し(図412、0.1 cm²/Vsを超える移動度を持つ、数少ないポリマー半導体のひとつです13,14。交互積層法は有機半導体の堆積に有用である可能性をもつ方法で、層の厚さや粗さ、化学組成、分子配向を正確に制御することができます。この方法は銅フタロシアニン誘導体の自己組織化多分子層の作製に用いられており、これらデバイスではion-assisted dopingが観察されています11

パターニングのための自己組織化単分子層

有機トランジスタの場合、デバイス間のクロストークを最小とするように半導体層をパターン化しなければなりません。さらに、用途によりますが、ドレイン電極とソース電極はお互いの距離が最長で数マイクロメートルになるようパターニングする必要があります。

インクジェット印刷やスクリーン印刷、オフセット印刷といったさまざまな印刷方法15-17に加えて、濡れ性パターニングやテンプレート成長を利用した有機半導体の選択的な成長に、SAM修飾表面が利用されています(図518,19。SAMのパターニングは、従来のフォトリソグラフィやマイクロコンタクト印刷でも行うことができます20。さらに、有機半導体のパターニングに加えて、チオールSAMの下地であるAu薄膜をエッチングから保護するために、Au電極を作製するための耐エッチング層としてパターン化したSAMを用いることも可能です21。パターン化SAM層は、プラスチック基板への金属電極パターンの無電解メッキの開始にも用いられています22

P3HTの配向の様子。

図4.Regioregular型ポリ(3-ヘキシルチオフェン)は、溶液からの成長によって高配向性構造へと自発的に組織化します。ポリマー鎖間のπ-πスタッキングが電荷輸送を促進します。

有機半導体結晶のパターン配列。

図5.自己組織化テルフェニルチオールのテンプレートパターン上に選択的に核生成して生じた有機半導体結晶のパターン配列の光学顕微鏡写真。(a)および(b) アントラセン結晶(200 μm)、(c)アントラセンの大型配向単結晶(50 μm)、(d) パターン化されたアントラセン結晶薄膜(300 μm)、(e) パターン化された5-クロロテトラセン単結晶(100 μm)。カッコ内は各スケールバーの大きさ。

このように、自己組織化材料および自己組織化プロセスは、活性材料として重要であるとともに、有機フレキシブル電子デバイスの低コスト作製にも不可欠です。この分野はすでに大きく進歩していますが、それでもなお、パターニングの性能および精度に関する需要が高まるにつれて、自己組織化プロセスは今後ますます重要となるでしょう。

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