有機エレクトロニクス材料

Plexcore PV有機太陽電池作製キット

Darin Laird, Ph.D.

Director of Advanced Device Technology, Plextronics, Inc.

Jia Choi, Ph.D.

Aldrich Material Science

はじめに

現在の世界的なエネルギー需要の拡大に対処するためには、太陽エネルギーを電力に変換することのできる、低コストで環境に優しい技術の開発が不可欠です。数十年前に開発された第一世代の太陽エネルギー変換技術である、シリコン系太陽電池には大面積化に難点があり、既存の送電網を利用しなければならないという問題があります。その後登場した第二、第三世代の太陽電池技術の中でも、フレキシブル性や低コスト性、化合物の化学的設計や合成における高い汎用性といった点から、有機太陽電池(OPV:organic photovoltaic)や有機化合物をベースとした太陽電池が高い注目を集めています。さらに、有機化合物を用いることで、シリコン系や無機化合物系太陽電池と比較してコストがかからず、軽量で、容易に製造することが可能です1。こうした特長に加えて、デバイス効率と基本的な物理プロセスの理解における大きな進展によって、OPVは商用化に近づいています2,3。特に、プリント技術との組み合わせにより、単純で高いスループット性をもつロール・ツー・ロール(roll-to-roll、R2R)法を用いた大量生産によるコスト削減効果が大いに期待されます4。最近では、単独もしくは他のプリンテッド有機エレクトロニクス技術との併用によるプリンタブル電源として、印刷法のみで作製された有機太陽電池の研究開発が進められています。実現すれば、今日の印刷による紙の新聞と同様の手法で、自己発電型電子新聞の製造が可能となります5-7

Plexcore PVインクキット

近年、プリンテッド太陽電池の性能は飛躍的に向上し、高効率化(1%以下から最大10.7%)および長寿命化(数時間から数年)が達成されています。Plexcore PVはすぐにご利用頂ける(ready-to-use)溶液のキットで、5%を超える高効率プリンテッド太陽電池を安定して作製することができます(現在販売を終了いたしております。ご了承ください)。

PV 1000製品の外観

図1 Plexcore PVインクキットの外観

このPVキットは、光活性インク(1)とホール輸送インク(2)の二つの溶液処理可能なインクから構成されています(表1)。光活性インクはP3HT(poly(3-hexylthiophene))とフラーレン誘導体をベースとした溶液です。表1に示したように、Plexcore PV 1000キットには「P3HT:PCBM」、Plexcore PV 2000キットには、より高効率の「P3HT:ICBA」の溶液が用いられています。これらインクを用いることで、大半のコーティング方法によって適切な基板へ従来型、逆構造型の有機太陽電池を作製することが可能です。大面積化へのスケールアップや最適化のために、適切なアノード/カソードの組み合わせを検討することができます。さらに、Plexcore PVキットの材料には、一般的な電池や無機系太陽電池に見られるような重金属が含まれていません。連続処理の可能なロール・ツー・ロール法に対する親和性の高さから、他の太陽電池材料に比較して低コストです。

表1 Plexcore PVインクキットの構成

Plexcore PV ink system PV 1000(711349 PV 2000(772364
Photoactive ink(1) p-type polymer poly(3-hexylthiophene-2,5-diyl) (P3HT)
n-type fullerene
[6,6]-phenylbutyric acid methyl ester C60
(PCBM)

Indene C60 bisadduct
(ICBA)
Hole transport ink(2) sulfonated poly(thiophene-3-[2-(2-methoxyethoxy)ethoxy]-2,5-diyl) (S-P3MEET)

プリンテッド太陽電池への利用

プリンテッド太陽電池では、主に光活性層のドナー材料(Plexcore PVキットの場合P3HT導電性高分子)によって太陽光が吸収されます。この光吸収によって励起子が生成され、正負の電荷キャリアに分離します(図2)。その後、これら電荷キャリアは電極(カソードおよび透明カソード)へ移動することで回路が形成され、外部へ電力が供給されます。ホール輸送層とアノードのエネルギー準位を最適化することで、ホール輸送層による光活性層からの正電荷抽出が効率よく行われ、有機太陽電池効率に重要な低い抵抗での接合が可能となります。

図2 Plexcore PVを用いた典型的な従来型有機太陽電池のセル構造(逆構造型太陽電池の作製も可能です)

Plexcore PVインクの組み合わせが高効率プリンテッド太陽電池デバイスの安定した作製には重要で、費用効果に優れた他の商用有機系太陽電池材料と比較して、太陽光から電気的エネルギーへの変換をより高効率で行うことが可能です。図3は、Plexcore PV 2000インクキットを用いて印刷法により作製したフレキシブル有機太陽電池モジュールです。

図3 フレキシブル有機太陽電池モジュール
(条件を最適化したスロットダイ法によってPlexcore PV 2000インクをコーティングしています)

Plexcore PV光活性層およびホール輸送層を用いた有機太陽電池について、米国国立再生エネルギー研究所(NREL:National Renewable Energy Laboratory)に認定されたセル効率を得ています。Plexcore PV 1000と2000インクによるデバイス特性の比較を表2に示します。

表2 Plexcore PV 1000と2000によるNREL認定デバイス特性

  Voc [V] Isc [mA] Jsc [mA/cm2] Fill Factor (%) Efficiency (%)
PV 1000
[P3HT:PCBM]
0.60 0.49 9.87 65 3.83
PV 2000
[P3HT: ICBA]
0.81 0.44 10.32 72 5.98

図4には、Plexcore PV 1000と2000で作製した有機太陽電池デバイスの電流(I)-電圧(V)特性を示しました。OPVセルを用いたモジュール(non-UV protected outdoor glass-encapsulated module)の試験が、NRELのSolar Energy Research Facility(SERF, Golden, CO)にて行われており、太陽光照射の下、数千時間の耐久性を示しています。

図4 NRELによって認定された、Plexcore PV 1000(左)および2000(右)による有機太陽電池の電流-電圧曲線

(Device Architecture: glass/ITO/ Plexcore PV HTL/ Plexcore PV photoactive layer/Ca/Al; Cell size= 0.1 cm2 with 0.043 cm2 aperture area, AM 1.5G light source)

図5は、PV 1000インク太陽電池の規格化された外部量子効率(EQE:external quantum efficiency)をプロットしたもので、吸収特性を表しています。PVインクキットによる太陽電池では、60-70%の外部量子効率(100%に近い内部量子効率)が得られます。これらのタイプの有機太陽電池の場合、光活性層にて吸収されたほぼすべての入射フォトンが電荷キャリア(電子と正孔)として収集されます。300から650 nmの波長のフォトンがPVインクによって容易に吸収され、非常に高い外部量子効率を示します。

図5 NRELによるPlexcore PV 1000キットの規格化された外部量子効率(EQE)スペクトル
(PV 2000ベースの有機太陽電池も同様のEQE特性を示します。)

Plexcore PVインクを用いたプリンテッド太陽電池の利点と特徴を表3に示します。

表3 Plexcore PVインクキットの特長

特徴 Plexcore PV 利点
調整済み溶液として提供 ・最適なプリンタブル特性と電池効率が得られるように設計されたキット
・溶液プロセスの可能なインク
・作製条件の記載されたTechnical Bulletin(PV 1000PV 2000、英語版PDF)
・使用前に合成や溶液調製の必要がない
・真空蒸着の必要がない
・デバイス作製の時間を短縮できる
・スピンコートやスロット-ダイ法による塗布が可能
高効率 ・NRELで認定された6%の効率の有機太陽電池の作製が可能なPlextronics社の技術
・ホール輸送インクは異なる光活性インクに対して調整可能
・一貫した性能の商業用OPV材料を用いることで研究開発がスムーズになる
・工業レベルでの技術開発の成果を利用できる
信頼性の高い材料の安定供給 ・実験に便利なキット製品(各インクは25 mlサイズ)
・商業スケールで製造されたポリマー材料
・安定した特性の材料を用いることで、デバイス構造などのシステム開発に注力できる

Plexcore is a registered trademark of Plextronics, Inc. Product of Plextronics, Inc. U.S. Patent 6,166,172.

有機エレクトロニクス用インクについては左記のページもご参考ください。
     

References

  1. Hong Ma, Hin-Lap Yip, Fei Huang, Alex K.-Y. Jen. Interface engineering for organic electronics. Advanced Functional Materials 2010, 20, 1371.
  2. Martin A. Green, Keith Emery, Yoshihiro Hishikawa, Wilhelm Warta and Ewan D. Dunlop. Solar cell efficiency tables (version 40). Progress in Photovoltaics: Research and Applications 2012, 20, 606–614.
  3. Pankaj Kumar and Suresh Chand. Recent progress and future aspects of organic solar cells. Progress in Photovoltaics: Research and Applications 2012, 20, 377.
  4. Madhusudan Singh, Hanna M. Haverinen, Parul Dhagat, Ghassan E. Jabbour. Inkjet Printing-Process and Its Applications. Advanced Materials 2010, 22, 673.
  5. Claudia N. Hoth, Pavel Schilinsky, Stelio A. Choulis, Christoph J. Brabec. Printing highly efficient organic solar cells. Nano Letters 2008, 8, 2806.
  6. Yulia Galagan, Jan-Eric J. M. Rubingh, Ronn Adrriessen, Chia-Chen Fan, Paul W. M. Blom, Sjoered C. Veenstra, Jan M. Kroon. ITO-free flexible organic solar cells with printed current collecting girds. Solar Energy Materials & Solar Cells 2011, 95, 1339.
  7. M. Möllera, N. Leylanda, G. Copelanda, M. Cassidya, Self-powered electrochromic display as an example for integrated modules in printed electronics applications. The European Physical Journal Applied Physics 2010, 51, 33205.
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