有機エレクトロニクス材料

ジケトピロロピロールおよびチエノチオフェンを用いた高性能半導体ポリマー:DPP-TTポリマー

Tony Wigglesworth, Yiliang Wu, Cuong Vong and Matthew Heuft

Xerox Research Centre of Canada, Mississauga ON, L5K 2L1

Material Matters 2014, 9(1), pp.33. → PDF版

はじめに

高性能共役系有機化合物およびポリマーの開発は、有機EL(OLED:organic light emitting diode)1、有機電界効果トランジスタ(OFET:organic field-effect transistor)2、センサ3、有機太陽電池(OPV:organic photovoltaic)2などのオプトエレクトロニクスデバイスにおいて、多様な応用の可能性が期待されているために、産学の研究において広く注目を集めています。無機材料と比較して、有機材料は軽量、可溶性、フレキシブル基板との親和性といった特有の利点をもたらすため、低コストの印刷技術を用いた電子デバイスの作製に用いられます。ジケトピロロピロール(DPP:diketopyrrolopyrrole)系材料は、プリンテッドエレクトロニクス用の高性能ポリマーを開発するための最も有望な基本骨格の1つとして知られています4。DPPポリマーは、電子不足のDPP発色団によって誘起される強いドナー-アクセプタ相互作用のため、優れた凝集特性を有しています。これにより、ポリマーを用いた溶液プロセスによるOFETで5~10 cm2V-1s-1もの移動度(p型)が得られました5,6。この種の半導体ポリマーは汎用性があり、[C60]PCBMおよび[C70]PCBMアクセプタを用いたバルクヘテロ接合太陽電池でも利用され、3~7%の光電変換効率(PCE:photoconversion efficiency)が報告されています7。これまで研究されてきた多くのDPP系材料の中で、ジケトピロロピロール-チエノチオフェン(DPP-TT)共重合体は、近年開発された最も有望なp型有機半導体ポリマーの1つとして登場しました。本論文では、溶液プロセスによるOFETデバイスにおけるDPP-TT共重合体の応用について紹介します。

溶液プロセスによる有機電界効果トランジスタ

DPP-TT共重合体は、溶液プロセスを用いてOFETデバイスを作製する際の一般的な有機溶媒であるクロロホルムやクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、キシレンに溶解します。DPP-TT共重合体P1791989)は、OFETおよびOPVの両デバイスにおいて優れた性能を発揮するため、広く研究されています。例えば、このDPP系ポリマーについて1~10 cm2V-1s-1の移動度がいくつかの論文で報告されており、その値はポリマー分子量やデバイス構造に依存します6,8。Liらは、ポリマーP1を用いて溶液プロセスにより作製した有機薄膜トランジスタ(OTFT:organic thin film transistor)が、10 cm2V-1s-1もの移動度を示すことを報告しています6。この優れた性能は高い分子量(Mw = 501kDa)によるものです。しかし、この驚くべきデバイス性能にもかかわらず、DPP系ポリマーは、大規模な商業用途では使用を禁じられているハロゲン系有機溶媒に対して主に溶解性を示します。本論文では、1cm2V-1s-1に近い性能を有するDPP-TTトランジスタが、非ハロゲン系芳香族溶媒から実験室環境下で作製できることを明らかにします。我々は、平均分子量Mw = 35~50 kDaのポリマーP1がキシレン溶媒に対して優れた可溶性を有することを見出し、溶液プロセスによるOFETにおけるデバイス性能を調べました。

デバイス作製

トップゲート・ボトムコンタクト型OFETを、200 nmの自然酸化膜を持つnドープしたシリコンウエハの上に作製しました。SiO2誘電体層は、プラズマ洗浄した基板を、オクチルトリクロロシラン(OTS:octyltrichlorosilane)またはオクタデシルトリクロロシラン(ODTS:octadecyltrichlorosilane)自己組織化単分子層(SAM:self assembled monolayer)で修飾することで作製しました(0.1 Mトルエン溶液中に60℃でそれぞれ20分間、40分間浸漬)。表面修飾の後、トルエンおよびイソプロパノールを用いてウエハを完全に洗浄し、ポリマーP1の0.7 wt.% p-キシレン溶液で基板を飽和させることにより、半導体層を作製しました。この溶液を基板上にそのまま2分間おいた後、1,000 rpmで60秒間回転することにより、均一な25~50 nm厚のポリマーP1膜が形成されます。この膜を80℃、10分間真空乾燥し、真空中にて140℃でアニールしました。チャネル長が90 μmのデバイスは、シャドウマスクを介して60 nm金電極を真空蒸着して用意し、デバイス性能はKeithley SCS-4200システムで測定しました。ポリマーの化学構造、デバイス構造および典型的なトランジスタ特性を図1に示しました。

DPP-TTの化学構造およびそのOFETデバイスの特性

図1 A)DPP-TTの化学構造。B)トップコンタクト・ボトムゲート型(TCBG:Top-Contact Bottom-Gate)デバイス構造。C)典型的なDPP-TTトランジスタの出力特性。D)TCBG(L =90 μm、W = 1,000 μm)OTFTデバイスの典型的な伝達特性。チャネル長が90 μmのデバイスでは、OTS修飾したSiO2誘電体層上にスピンコートで作製したデバイスのp型の平均飽和移動度は0.60±0.07 cm2V-1s-1でした。ODTS修飾したシリコン基板上に作製されたデバイスでは、平均飽和移動度は0.96±0.08 cm2V-1s-1に向上し、最大1.02 cm2V-1s-1の移動度を達成したデバイスもありました。

結論

ジケトピロロピロール-チエノチオフェン(DPP-TT)共重合体は、溶液プロセスが可能であり、かつドナー-アクセプタの強い相互作用によってもたらされる顕著な凝集特性を有するため、プリンテッドエレクトロニクスへの応用に最も有望な半導体材料の1つです。このDPP-TT共重合体は、溶液プロセスによるOFETおよびOPVデバイスにおいて非常に優れた性能を示します6,7c。また最近では、非ハロゲン系溶媒による処理が可能であることが明らかになり、デバイス性能はアモルファスシリコントランジスタの最高性能(0.5~1.0 cm2V-1s-1)に近づいています。さらに、140℃のアニール温度でDPP-TT共重合体から高性能デバイスが得られ、低コストのプラスチック基板を用いることも可能です。

     

References

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