高分子材料

切り替え可能なRAFT剤

ブロック共重合体の精密合成に用いられる切り替え可能なRAFT剤

Jeremy Bartels, Ph.D. and Sebastian Grajales, Ph.D.

Aldrich Materials Science, Milwaukee, WI.

切り替え可能なRAFT剤とは

可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合は汎用性の高い精密ラジカル重合法です1-3。実際、ラジカル重合によって重合可能な大半のビニルモノマーに対してRAFT重合を用いることができます。しかし、用いるモノマーによって反応性が異なるため、リビング重合を行うには適切なRAFT剤を選択する必要があります。一般的に、ジチオエステル2やトリチオカルボナート5などのRAFT剤は、「高活性なモノマー(MAM)」であるスチレン(Sty)やメチルアクリラート(MA)、メチルメタクリラート(MMA)の重合反応を精密に制御することができます。一方で、ジチオカルバメート6,7やキサンタート8などのRAFT剤は「低活性なモノマー(LAM)」である酢酸ビニル(VAc)やN-ビニルピロリドン(NMP)、N-ビニルカルバゾール(NVC)の重合制御に用いなければなりません。適切でない組み合わせ(たとえば、ジチオカルバメートRAFT剤とMMAモノマー)を選んだ場合、重合反応が禁止もしくは厳しく制限されます5

ビニルモノマーの反応性に違いがあるために、MAMとLAMからなる分子量分布の狭いブロック共重合体(poly(MAM)-block-poly(LAM))の作製には難点がありました。その解決のため、切り替え可能な(switchable/universal)RAFT剤がCSIROから報告されています1。この特殊なRAFT剤はジチオカルバメート化合物であり、ピリジル基の窒素をプロトン化することでMAMの重合を制御し、その脱プロトン化によってLAMの重合を容易に制御することが可能です(スキーム1)。

切り替え可能なRAFT剤のプロトン化/脱プロトン化

スキーム1 プロトン化/脱プロトン化したN-メチル-N-(4-ピリジル)ジオカルバメートの一般構造式。RAFT剤をプロトン化したときにはMAM(Sty、MA、MMAなど)の重合に、脱プロトン化した場合はLAM(Vac、NVP、NVCなど)の重合反応を効果的に制御することができます1,9

反応の際の注意点

この新規反応は溶液中の直接重合反応によってin situで進み、反応速度は早く、しかも可逆的です。重合反応を制御する最適な方法は、化学量論量の強有機酸(p-トルエンスルホン酸(402885)やトリフルオロメタンスルホン酸(347817)など)によって4-ピリジル基のプロトン化を行うことです10。もしくは、Al(OTf)3515884)などのルイス酸を4-ピリジル基に配位させることでも可能です10。脱プロトン化は、N,N-ジメチルアミノピリジン(DMAP107700)などの有機塩基を用いてin situで行うか、粉砕した炭酸ナトリウムを用意し、ポリマー溶液を通過させることでも可能です。

切り替え可能なRAFT剤を用いてよく定義されたブロック共重合体を調製するには、まず、プロトン化RAFT剤によってMAMブロックを重合し、次に脱プロトン化し、LAMブロックの重合を続けて行います1,9,10。その主な理由は、末端のLAM基が優れたラジカル脱離基ではないためにMAM存在下では低いブロック形成効率につながりますが、その一方で、ポリ(MAM)はLAMと比較して高い連鎖移動定数を持つ傾向にあるためです。ある場合(特にポリスチレン高分子連鎖移動剤(macroCTA)を用いて酢酸ビニルブロックの重合反応を開始するとき)、残った極少量のMAMを(析出もしくは真空蒸留によって)完全に取り除くことを強くお勧めします。溶液中の微量のMAMは、それ以降に行う重合反応を阻害してしまいます。さらに、MAMとLAMブロック間の反応性を橋渡しするためにモノマー中間体を加える必要がある場合もあります。たとえば、スチレンと酢酸ビニルの組み合わせの場合、すべてのスチレンモノマーが消費、除去された後に少量のメチルアクリラート(約5%)をポリスチレンmacroCTAと酢酸ビニルの溶液に加えます。ポリスチレンmacroCTAは、メチルアクリラートがすべて消費されて純粋な酢酸ビニルブロックを生成していく前までは、メチルアクリラートと酢酸ビニルの比率が徐々に変化していくよう(gradient)にモノマーを取り入れていきます。

切り替え可能なRAFT剤を用いたpoly(MAM)-block-poly(LAM)の合成についてのプロトコール(USサイト、英語版)がございます。ご参照ください。

切り替え可能なRAFT剤とモノマーの適合表

表1は、重合反応に用いられる一般的なモノマーとアルドリッチから販売している切り替え可能なRAFT剤との適合表です。「」は適合していることを、「-」は適合していないことを表しています。たとえば、プロトン化した2-Cyanopropan-2-yl N-methyl-N-(pyridin-4-yl)carbamodithioate(736236)は、スチレンやメタクリラートなどの重合に適しており、ビニルエステルなどの重合制御には適していないことを示しています。

表1 プロトン化/脱プロトン化した切り替え可能なRAFT剤とモノマーの適合表
(各モノマー構造式をクリックするとUSサイトの製品情報ページに移動します。)

  スチレンモノマー アクリラートモノマー メタクリラートモノマー ビニルエステル/アミドモノマー
脱プロトン化した切り替え可能なRAFT剤
プロトン化した切り替え可能なRAFT剤
     

References

  1. Benaglia, M.; Chiefari, J.; Chong, Y.K.; Moad, G.; Rizzardo, E.; Thang, S.H. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 6914-6915.
  2. Chiefari, J.; Chong, Y. K.; Ercole, F.; Krstina, J.; Jeffery, J.; Le, T. P. T.; Mayadunne, R. T. A. ; Meijs, G. F.; Moad, C. L.; Moad, G.; Rizzardo, E.; Thang, S. H. Macromolecules 1998, 31, 5559–5562.
  3. Moad, G.; Rizzardo, E.; Thang, S. H. Aust. J. Chem. 2005, 58, 379-410.
  4. McCormick, C.L.; Lowe, A.B. Acc. Chem. Res. 2004, 37, 312-325.
  5. Mayadunne, R. T. A.; Rizzardo, E.; Chiefari, J.; Kristina, J.; Moad, G.; Postma, A.; Thang, S. H. Macromolecules 2000, 33, 243-245.
  6. Mayadunne, R.T.A.; Rizzardo, E.; Chiefari, J.; Chong, Y.K.; Moad, G.; Thang, S.H.; Macromolecules 1999, 32, 6977-6980.
  7. Destarac. M.; Charmot. D.; Franck, X.; Zard, S. Z. Macromol. Rapid. Commun. 2000, 21, 1035-1039.
  8. Francis, R.; Ajayaghosh, A. Macromolecules 2000, 33, 4699-4704.
  9. Moad, G.; Rizzardo, E.; Thang, S.H. Material Matters 2010, 5, 2-4.
  10. Keddie, D.J.; Guerrero-Sanchez, C.; Moad, G.; Rizzardo, E.; Thang, S.H. Macromolecules, 2011, 44, 6738–6745.
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