タンパク質質量分析は、バイオマーカーの発見、プロテオミクス研究、臨床アプリケーションを目的とする生体サンプルの解析に広く使用されています。タンパク質の大規模な特性解析に使用されるその他の手法と比較して、質量分析は複雑な解析に対応できることから、プロテオミクスの主要ツールになっています。
質量分析は、タンパク質の構造、翻訳後修飾、相互作用に基づく定量的同定と特性解析に使用されます。
定量的プロテオミクスでは、タンパク質またはペプチドをタンデム質量タギング(TMT)やiTRAQを用いて安定同位体で化学的に標識するか、標識アミノ酸の取り込みによって代謝的に標識することができます(SILAC)。重同位体と軽同位体の取り込みの比較により、質量スペクトルのピーク強度をタンパク質存在量と関連付けて、相対定量を行うことができます。絶対定量では、サンプルに同位体で標識した合成ペプチドまたはタンパク質スタンダードを添加して、選択反応モニタリング(SRM)分析を行うことができます。
タンパク質質量分析において、さまざまなタンパク質やペプチドの質量は、それらの気相イオンのm/z(質量/電荷)比を測定することによって決定されます。質量分析計が最初にイオン源を用いてタンパク質分子を気相イオンに変換します。次に、質量分析器がイオン化したアナライトをm/z比に基づいて分離します。続いて検出器が各m/z値でのイオンの数を記録します。ペプチドまたはタンパク質のイオン化には、MALDIとエレクトロスプレーイオン化(ESI)が一般的に用いられます。
MALDIは、レーザーエネルギー吸収マトリックスを用いて、タンパク質分子のフラグメント化を最小限に抑えながら、イオンを生成するイオン化法です。最初に、サンプルを適切なマトリックス材料と混合します。次に、パルスレーザーをサンプルに照射し、サンプルとマトリックス材料両方のアブレーションと脱離を引き起こします。続いてアブレーションされたガスのプロトン化または脱プロトン化によってアナライト分子をイオン化した後、質量分析による解析を行います。
エレクトロスプレーイオン化(ESI)では、液体サンプルに高電圧をかけてエアロゾルを発生させ、ペプチドとタンパク質のフラグメント化を最小限に抑えながらイオンを発生させるエレクトロスプレーを用いてイオンを生成します。液体クロマトグラフィー(LC-MS)の溶離液をエレクトロスプレーに直接投入し、タンデム処理を行うことができるため、エレクトロスプレーイオン化は質量分析と液体クロマトグラフィーを連結する際によく用いられます。
トリプシンなどの部位特異的プロテアーゼを用いて、タンパク質を切断して小さなフラグメントにすると、実験スペクトルをタンパク質データベースの理論スペクトルと照合することで、または標準物質と比較することで、同定が可能になります。相対定量の場合は、アミノ酸供給によって取り込まれた安定同位体を用いて細胞培養物を代謝的に標識するか、化学的手法を用いてサンプルを安定同位体で標識することができます。同位体標識された合成ペプチドをサンプルに添加すると、選択反応モニタリング(SRM)分析を用いた絶対定量が可能です。
較正標準は、サンプル分析のコントロールとして働き、タンパク質の同一性、実験の感度、消化の効率の測定に用いられ、クロマトグラフィーによる分離と定量分析に役立ちます。
クロマトグラフィーでは、タンパク質とペプチドを分析しやすいように分離することができます。複数の異なるペプチドが同程度の質量を有する場合があるため、質量がきわめて近い、または同一のペプチドが質量分析計に同時に添加されることを防ぎ、全体的な測定のダイナミックレンジを向上させる目的で、HPLCがよく使用されます。
検出と分析の前に、タンパク質やペプチドはMALDIまたはESIによりイオン化されます。質量分析器は、m/z値に基づいてイオンを識別します。結果として生じるフラグメンテーションパターンを用いて同定を行うことができ、サンプルは、同位体標識によって識別されるサンプルのピーク強度比の評価によって相対的に定量することや、標識された内部標準によるSRM分析を用いて絶対的に定量することができます。
Mass spectrometry workflow and tools to monitor proteins by mass spectrometry
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