アプリケーション1:
ヒト代謝ホルモンの血液および血漿サンプルからのマルチプレックス定量
アプリケーション2:
15種類のヒト補体因子に対するマルチプレックス測定
アプリケーション3:
ヒト脳脊髄液、血漿および血清中のアルツハイマー病バイオマーカーの検出(アプリケーションノート)
アプリケーション4:
COVID-19研究のためのサイトカインストームでのバイオマーカー定量
アプリケーション5:
ヒト血清および血漿中のSARS-CoV-2 抗原タンパク質に対する 抗体検出のためのマルチプレックスアッセイ(アプリケーションノート)
アプリケーション6:
免疫療法を受けている転移性NSCLC患者の血清中における可溶性免疫チェックポイント分子のマルチプレックス評価(アプリケーションノート)
アプリケーション7:
カルタヘナ法非該当MILLIPLEX® ヒトサイトカイン/ケモカイン/ 成長因子パネルA を用いた48 種のアナライトのマルチプレックス定量分析(アプリケーションノート)
代謝疾患として分類される肥満、糖尿病、心疾患やそれらに近い生理状態は、健康な生活を意識する上でとりわけ関心を集めやすい事象です。代謝関連ホルモンは、脂肪細胞、膵臓、胃および腸管を含む各器官において生産、分泌され、エネルギーの産生と消費、食物の摂取、および体組織中の代謝において統合的な役割を果たしています(図1)。小児及び若年においてもII 型糖尿病の発症が増えている事実や、代謝シグナルと発がんの結びつきから、ホルモンと代謝性疾患がどのような関係を持っているかという研究は疾患の治療および予防において重要だと考えられています。
代謝バランスの維持には複数のホルモンによるシグナル制御が関与しているので、単一のバイオマーカーの測定は代謝系の理解にはほとんど意味がありません。一方、複数の因子を同時に測定するには、サンプル量が大きな制限要因となります。これらの課題を克服するために、メルクはLuminex 社のxMAP® テクノロジーに基づいた測定系で使用可能なマルチプレックスアッセイキットを開発しました。このキットを用いれば、ヒト代謝に関連した複数の測定項目が同時に定量可能です。
このアプリケーションノートでは、膵臓、消化管および脂肪細胞が分泌する15の因子の同時定量を可能にするマルチプレックスアッセイキットを用いて測定した、食事前後のヒト代謝ホルモン分泌量の比較データを紹介します。
図1 代謝関連ホルモンの連関
体重および代謝を制御するためのエネルギー摂取とエネルギー消費のバランスは、各臓器から分泌されるホルモンによる脳(ここでは特に間脳視床下部)への信号伝達が調節している。
MILLIPLEX® Human Metabolic Hormone Magnetic Bead Panel (カタログ番号 HMHEMAG-34K)を、同梱プロトコルに従って使用した。
健康なヒト集団(n = 20)から、朝食摂取1時間後あるいは夜間絶食後の血液を採集し、ただちにプロテアーゼ阻害剤カクテルおよびDPP-4 阻害剤(カタログ番号 DPP4)を混和後、血清および血漿に分離してマルチプレックスアッセイを実施した。同じサンプルに対して高感度活性型GLP-1 ELISAキット(カタログ番号 EGLP-35K)で活性型GLP-1 を定量した。
図2 代謝関連ホルモンのマルチプレックスアッセイ
各因子を段階希釈してMILLIPLEX® Human Metabolic Hormone Magnetic Bead Panel によって作成した検量線(A)およびそこから算出した検出感度データ(B)。
図3 ヒト血清および血漿中の代謝ホルモンのマルチプレックスアッセイ
A. MILLIPLEX® Human Metabolic Hormone Magnetic Bead Panel を用いて実施した、夜間絶食後(Fast)ならびに朝食摂取1時間後(Post)のヒト血清(Serum)および血漿(Plasma)におけるC-Peptide、GIP、活性型GLP-1、Insulin の定量結果。いずれも予想される量の増加が観察された。
B. 血清および血漿中の各因子の含有量比較。いずれも、高い相関を示していることが、一次近似式の傾き(Xの係数)ならびに相関係数(R)の値から判断できる。
図4 活性型GLP-1 のMILLIPLEX® マルチプレックスアッセイとELISAの比較
A. MILLIPLEX® マルチプレックスアッセイとELISA それぞれの活性型GLP-1 に対する検量線。
HMHE: MILLIPLEX® Human Metabolic Hormone Magnetic Bead Panel
ELISA:高感度活性型GLP-1 ELISA キット。
B. 血清サンプル中の活性型GLP-1 をMILLIPLEX® マルチプレックスアッセイとELISAで定量した結果の相関。
縦軸: MILLIPLEX® Human Metabolic Hormone Magnetic Bead Panel
横軸:高感度活性型GLP-1 ELISA キット。
C. 高感度GLP-1 活性ELISA キットによる夜間絶食後のヒト血清および血漿中活性型GLP-1 定量結果。Fast:夜間絶食後、Post:朝食摂取1 時間後。
D. MILLIPLEX® マルチプレックスアッセイによる夜間絶食後のヒト血清および血漿中活性型GLP-1 定量結果。Fast:夜間絶食後、Post:朝食摂取1 時間後。
MILLIPLEX® Human Metabolic Hormone Magnetic Bead Panel は代謝因子に対するマルチプレックスパネルです。
今回は同一ヒト個体に由来する夜間絶食後のヒト血液(対照)と、摂食1時間後(実験区)の血液中の代謝ホルモンをMILLIPLEX® Human Metabolic Hormone Magnetic Bead Panel を用いて定量し、測定値の相互比較およびELISA による測定データとの比較を実施しました。複数の要因が綜合的に関与する代謝ホルモンの研究においては、独立した単独因子の測定よりも、注目している系に関与する複数因子を同時に定量できる方が、現象の理解に役立つデータセットを獲得できると考えられています。
本アプリケーションノートの実験結果は、今まで知られていた各因子の摂食前後の変動をよく支持しており、本パネルが摂食やエネルギー消費を制御している代謝ホルモン系の研究において正確な実験データを得られることが支持されました。
補体系は様々な血漿中のタンパク質から構成され、貪食細胞や抗体による病原体排除を補う機能を持っています。補体系は、一度活性化されると免疫応答の増幅を経て、標的細胞(病原体)の細胞膜を穿孔して浸透圧性の溶菌を引き起こす「細胞膜障害性複合体」(Membrane-attack Complex:MAC)の活性化に達します。補体系は、古典経路(Classical Pathway)、レクチン経路(Lectin Pathway)、副経路(Alternative Pathway)の3経路に大分類されます。
MAC が自己細胞に作用すると体組織を激しく損傷する可能性があるため、補体経路の活性化は厳密に制御されている必要があります。補体系は、喘息、敗血症だけでなく、全身性エリテマトーデス(Systematic Lupus Erythematosus:SLE)、炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)、関節リウチ(Rheumatoid Arthritis:RA)、多発性硬化症(Multiple sclerosis:MS)等の自己免疫疾患においても、重要な役割を持っていると考えられています。その上、補体系はアルツハイマー病(Alzheimer's Disease:AD)や脊髄損傷といった中枢神経系の疾患や損傷とも関連を持っていることが明らかになってきています。
疾患との高い相関から、患者の血清あるいは血漿中の各補体系構成因子を一度に定量する「補体プロファイリング」には大きな価値があると考えられていますが、いままでに有効な補体系定量法は、単一因子を対象にしたELISAのみでした。
本アプリケーションノートでは、患者の血清あるいは血漿中の補体系因子に対するMILLIPLEX® ヒト補体パネルI (カタログ番号 HCMP1MAG-19K)および MILLIPLEX® ヒト補体パネルII (カタログ番号 HCMP2MAG-19K)の適用例をご案内します。
※ 本アプリケーションノート掲載データを取得した際の実験プロトコルは、MILLIPLEX® ヒト補体パネルの推奨実験プロトコルと一部異なっています。
96ウェルプレートに洗浄バッファーを150 μL 加えて10分間インキュベートし、バッファーを取り除いた。各ウェルに、患者由来サンプルまたは標準タンパク質25 μL を分注し、アナライト測定ビーズとアッセイバッファー各25 μL を添加後、4℃で一晩反応させた。3回洗浄したビーズ懸濁液にビオチン化抗体カクテル50 μL を添加し、室温で1 時間処理してから、50 μL のストレプトアビジン-PE 溶液を添加して室温のまま30分間追加のインキュベーションを行った。ビーズは測定前に3回洗浄し、150 μL のシース液に懸濁した。
Luminex® 200システムを使用した。
表1 MILLIPLEX® ヒト補体パネル
MILLIPLEX® ヒト補体パネルI はC2、C4b、C5、C5a、C9、D 因子、マンノース結合レクチン(MBL)およびI 因子(合計8 因子)を、MILLIPLEX® ヒト補体パネルII はC1q、C3、C3b、C4、B 因子、H 因子およびProperdin(合計7 因子)を標的にしている。
*2017 年1 月時点の製品構成です。
図1 ヒト補体パネルの特性
MILLIPLEX® ヒト補体パネルI (A)とヒト補体パネルII (B) を用いた、それぞれのパネルが標的とする補体系因子に対する検量線(本パネルの販売を開始した2016年当初のデータを引用しています)。
SLE:全身性エリテマトーデス(Systematic Lupus Erythematosus)患者血液由来サンプル
JIA:若年性特発性関節炎(Juvenile Idiopathic Arthritis)患者血液由来サンプル
Sepsis:敗血症患者血液由来サンプル
Control:健常者血液由来サンプル
ヒト補体パネルI :200倍希釈サンプルを使用
ヒト補体パネルII:40,000倍希釈サンプルを使用
図2 患者由来サンプルに対するヒト補体系のマルチプレックスアッセイ結果(1)
SLE、JIA、Sepsis それぞれの患者から採取したサンプルに対するヒト補体パネルI の測定結果。SLE およびJIA ではC1q、C4 およびC2 が増加、 C4b およびC3 が低下する傾向がみられた。ただし、C3 の低下傾向に健常者との有意な差が確認できたのはJIA のみであり、SLE におけるC3b の増加傾向にも健常者との有意差は認められなかった。一方、Sepsis ではC4、C2、C3b の増加傾向がみられた。
図3 患者由来サンプルに対するヒト補体系のマルチプレックスアッセイ結果(2)
SLE、JIA、Sepsis それぞれの患者から採取したサンプルに対するヒト補体パネルII の測定結果。自己免疫疾患と感染症で補体プロファイリングの結果が異なるように見える。
表2 患者由来サンプルに対するヒト補体系のマルチプレックスアッセイ結果
図2 および図3 の12 因子に対するマルチプレックスアッセイ結果のうち、有意差のあるシグナルの増加あるいは減少を疾患ごとにまとめた。
図4 患者由来サンプル中の補体経路因子の相関
(A) SLE、JIA、Sepsis それぞれの患者におけるC4 とC4b の存在量の相関。健常者ではC4 濃度とC4b 濃度に線形の相関がみられないが、患者では相関が確認された。
(B) SLE 患者におけるC1q とC9 の存在量の相関。SLE 患者においてはC1q 濃度とC9 濃度の間に相関が確認された。
(C) SLE、JIA それぞれの患者におけるC3 とC3b の存在量の相関。健常者ではC3 濃度とC3b 濃度に線形の相関がみられるが、患者では相関が喪失していた。
本アプリケーションノートでは、今までELISAによる単一項目測定だった補体経路15 因子をMILLIPLEX® マルチプレックスアッセイキットを用いて同時に測定できることを示しています。
図2および図3ではSLE、JIAおよびSepsis患者由来サンプル中の12因子の濃度分布が示され、表2にはそれぞれ項目のうち統計的な有意差が認められた変化がまとめられています。それらの結果から、本アッセイでは3種類の疾患患者における補体経路因子の濃度に関して、健常者との差を検出できることが分かりました。また注目する1対の因子をそれぞれ縦軸、横軸にとって比較(図4)したところ、次の3つの特徴が明らかになりました。
このうち(1) と(2) からは、SLE、JIA、Sepsis においては、古典経路が強く関与している可能性が示唆されます。また、(3)からは、自己免疫疾患においては副経路の機能が十分に発揮されにくいか、または健常者では副経路が活性化されやすい環境にあることが推定されます。
本アプリケーションノートから、SLE とJIA の間で補体経路プロファイリングパターンの類似点が多かった(表2 および図4)ことが分かります。この結果は、自己免疫疾患とその他の感染症が、補体経路プロファイリングによって区別されうる可能性を示唆しています。単一項目の測定では十分な解析ができない生命現象、特に複数の因子が複雑に関与し合うシグナル伝達系や細胞間情報伝達の解析には、本アプリケーションノートで紹介したようなマルチプレックスアッセイが有効です。
お問合せ先
メルク ライフサイエンス リサーチ事業部
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