牛乳のオフフレーバー(異臭)に対する容器材料の影響
はじめに
乳製品工場で牛乳がガラス瓶ではなく、高密度ポリエチレン(HDPE)製プラスチック容器に充てんされ始めたとき、牛乳の光劣化異臭(LIOF)が問題になりました。LIOFにはいくつかのタイプがありますが、最も一般的なものは脂質の酸化と硫黄含有アミノ酸の分解に起因するものです。脂質の光誘起酸化は、フリーラジカルが牛乳中の不飽和脂肪酸に反応して起こります。このフリーラジカル反応は二重結合を開裂し、主にアルデヒドに分解され、少量がケトンとアルコールに分解されるヒドロペルオキシドを形成します。この種類のなかで最も一般的な光活性化被分析物質は、ヘキサナールとペンタナールであり、主にリノレン酸から誘導されます。1

硫黄含有アミノ酸がホエイプロテイン中で分解されるメカニズムは、完全には解明されていません。この種類のなかで最も一般的な分解生成物は、ジメチルスルフィド(DMS)、メタンチオール(MT)、ジメチルジスルフィド(DMDS)です。DMSとMTは揮発性が高いため、本研究では主にDMDSに焦点を当てました。
紫外線がガラスを容易に透過しないことは十分に裏づけられていますが、各種プラスチック材料については透過することが知られています。米国では、牛乳は主にHDPE製容器に入れて販売されます。そのような容器のなかには、白色顔料や着色顔料を混ぜてプラスチックの有効性を高め、紫外線バリアの役割を果たすものがあります。本研究の目標は、さまざまなタイプのプラスックを評価し、どのタイプが牛乳を完全な状態に保つのに最良のバリアになるかを判断することでした。
牛乳のLIOFの分析にはいくつかの分析方法が使用されてきました。本研究では、固相マイクロ抽出(SPME)を選択してさまざまな牛乳試料を分析しました。さらに、この手法は高感度かつ自動化が容易で、分析精度も正確です。
実験方法
2%の脂肪分を含む牛乳を地元の酪農場から購入し、厚さが約5 mmの1/2ガロンガラス製容器に入れて保存しました。購入後、プラスチック製密閉キャップをアルミホイルで直ちに覆い、4℃の暗所に保存しました。
さまざまなタイプのプラスチック製容器を入手しました。プラスチックの種類を示す記号がそれぞれのプラスチック製容器に表示されていました。表面積と容量が似た容器を見つけるように努めました。それぞれの容器の厚さは、キャリパーゲージで測定しました。容器には内容積の93±1%まで満たしました。その目的は、容器の形状がさまざまなため、容器内の空隙容量を一定に保つことでした。キャップと容器のネック部分をアルミホイルで包み、キャップを通して紫外線が透過しないようにしました。容器の材質と寸法を 表1に示します。
| 容器材 | 壁厚(mm) | ベース形状 | 総表面積(mm2) | 容器内の牛乳容量(mL) | 容器内容積(mL) | 液量の% |
|---|---|---|---|---|---|---|
| PETE1 | 0.60 | 円形 | 10241 | 55 | 59 | 93% |
| HDPE2 | 0.80 | 円形 | 9864 | 65 | 71 | 92% |
| PP3 | 1.32 | 円形 | 9694 | 50 | 54 | 93% |
| 白HDPE4 | 1.50 | 角形 | 10400 | 67 | 72 | 93% |
| ガラス瓶 | 2.00 | 円形 | 11327 | 75 | 80 | 94% |
| 1PETE - ポリエチレンテレフタレートエーテル | 2HDPE – 高密度ポリエチレン | |||||
| 3PP-ポリプロピレン | 4白色不透明の顔料を含浸させた白HDPE – HDPE | |||||
500 mLメスフラスコに冷たい牛乳を満たし、内部標準物質であるヘキサナール-d12を5 μg/Lで添加しました。この牛乳を直ちに、表1に示す容量レベルまで容器に分注し、2本の密閉ガラスバイアルに入れ、4℃の冷蔵庫に入れました。キャップは透過紫外線を低減するため、アルミホイルで覆いました。容器は、紫外線光源として使用したSylvania Octron 32 W蛍光灯の約10 cm下に置き、ホイル内張りのあるトレイに入れました。ばく露時間は2時間でした。牛乳をばく露後、牛乳を冷やし、酸敗を防ぐため、容器を4℃の冷蔵庫に1時間入れました。牛乳試料を冷やす間、10本の空の10 mLバイアルをGerstel MPS II多目的サンプラー上の4℃に設定したペルチェ式冷却バイアルトレイホルダーに置きました。サンプラーには、ファイバーを洗浄するニードルコンディショナーと試料を混合するための撹拌機が付いています。牛乳5 mLを2本ずつ、冷却した10本のバイアルに移しました。冷蔵庫にある、添加した新鮮な牛乳が入った2本のバイアルもトレイに追加しました。Supelco® CAR/PDMSファイバー(Nitinol)を使用して試料を抽出しました。本研究で使用した抽出条件を 表2に示します。
| 自動サンプラー: | Gerstel MPS II |
| 検体採取: | 5 mLの冷却した牛乳 |
| ファイバー: | NitinolコアでのCarboxen™/PDMS(CAR/PDMS)(57907-U) |
| 培養: | 255 rpmでの攪拌で50℃で1分間 |
| 抽出: | ヘッドスペース、15分、50℃、250 rpmで攪拌 |
| 脱離: | 3分間、300℃ |
| 後脱離: | ニードルクリーナーで2分、280℃ |
試料は、5977 A MSDにつないだAgilent 7890B GCで分析しました。脱離した被分析物質の分析に使用した条件を 表3に示します。
| GC: | Agilent® 7890 |
| カラム: | VOCOL™、30 m x 0.25 mm I.D.、1.5 μm df(24205-U) |
| オーブンプログラム: | 8℃/分で45℃(2分)から100℃まで、12℃/分で140℃まで、16℃/分で180℃(0.2分)まで |
| キャリアガス: | ヘリウム、1 mL/分、一定流量 |
| 給水口: | 0.75 mm IDライナー(2637501)で300℃ |
| 注入ポート: | スプリットレスで0.75分後、20 mL/分でベント |
| 転送ライン: | 250 ℃ |
| 検出器: | MSD四重極型、m/z 40-150 |
| 定量イオン: | ペンタナール-44、ヘキサナール-56、ジメチルジスルフィド-94、ヘキサナール-d12 -64 |
結果
CAR/PDMSのNitinol SPMEファイバーは、CAR/PDMSの細孔が小さいために本アプリケーションにおいて優れた選択肢になります。これらの細孔は、小~中程度の大きさの被分析物質を抽出するのに理想的です。Nitinol SPMEファイバーは極めて耐久性に優れ、不活性です。ファイバーコーティングは、膜厚を常に監視することで優れた再現性を保証する最先端コーティング装置を使用して製造されています。これらの被分析物質が水中にあるときの回収率は塩化ナトリウムを添加することによって向上しますが、脂質を含む牛乳中では向上しません。 牛乳試料での応答は塩を添加しなくても精度の向上とともに高くなったため、試料には塩を添加しませんでした。さまざまな抽出時間を評価し、15分間で試料をμg/L未満の濃度で定量できると判断しました。その他のSPMEパラメーターも、抽出効率と脱離効率が得られるように最適化しました。検量線は、LIOF被分析物質の標準物質を試料濃度1~10 μg/L、ヘキサナール-d12 を5 μg/Lで7つの新鮮な牛乳試料に添加して作成しました。別の新鮮な牛乳のバイアルには、ヘキサナール-d12 のみ5 μg/Lで添加しました。これらの試料を、 表2と3に示す方法に従って抽出、測定しました。それぞれの被分析物質のピーク面積を計算し、LIOF標準物質を添加していない試料から得られたピークを7つのLIOF添加試料から差し引きました。

図1.バックグラウンドを差し引いたLIOFの検量線

図2.(A) ISを添加し、光にばく露しなかった牛乳、(B) ISを添加し、ポリプロピレン容器中に保存して光にばく露した牛乳のクロマトグラム
ピークID:1.ペンタン;2.イソプロパノール;3.ジメチルスルフィド;4. n-ヘキサン;5.2-ブタノール;6.ペンタナール;7.ジメチルジスルフィド;IS.ヘキサナール-d12;8.ヘキサナール;9.ヘプタナール(操作条件については 表3 を参照)
添加範囲1~10 μg/Lにおける3種類の被分析物質の相対感度は、回帰係数値が0.99を超え、Y切片値は小さくなりました(図1)。これらの結果はフルスキャンモードで得たため、必要に応じてSIMモードを使用すれば、より高い感度が得られると思われます。 図2に、ISを添加し、光にばく露しなかった牛乳のクロマトグラム(A)と、ポリプロピレン容器中で光にばく露した牛乳のクロマトグラム(B)を示します。クロマトグラムを比較すると、PP容器中で光にばく露することによって被分析物質のピークが増加したことがわかります。いずれのクロマトグラムも同じ縮尺であり、内部標準物質(ヘキサナール-d12)のピークはいずれのプロットでも似ていました。本研究では3種類の被分析物質に注目しましたが、その他の被分析物質は光ばく露またはその他の何らかのメカニズムにより生成されます。小さな2種類の揮発性被分析物質であるペンタンとイソプロパノールのピークは、光にばく露した試料ではるかに大きくなります。試料を複製して分析したこと(本稿にはデータを示しません)、また複製した試料のクロマトグラムが似ていたことに注意してください。さまざまな容器中で光にばく露した牛乳から得られた、LIOFの濃度を計算するために、分析結果から相対感度の平均値を計算しました。相対感度の平均値を 表4に示します。
| 光なし | PP | HDPE | PETE | HDPE白 | ガラス | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ペンタナール | 0.206 | 0.826 | 0.572 | 1.142 | 0.470 | 0.282 |
| DMDS | 0.000 | 0.172 | 0.170 | 0.196 | 0.000 | 0.000 |
| ヘキサナール | 0.122 | 1.454 | 1.027 | 1.826 | 0.551 | 0.438 |
光にばく露しなかった牛乳試料から得られた各被分析物質の相対感度の平均値を、さまざまな容器から得られた相対感度の平均値から差し引きました。バックグラウンドを差し引いた相対感度を 図1に示す線の傾きで割りました。計算結果を図3 に示します。

図3.バックグラウンドを差し引いた牛乳中LIOFの濃度(単位:μg/L)
この結果から、2種類のプラスチック、PETEとPPは最も効率が悪い紫外線バリアであったことがわかります。PETE容器の厚さが容器の中で最も薄かったことがバリア特性に影響した可能性があります。PPはあらゆるプラスチックの中で最も厚かったものの、LIOFを多く形成しました。HPDEプラスチックに白色顔料を添加すると、紫外線に対するバリア性がはるかに向上し、その特性はガラスに匹敵しました。追加研究で実証したように、ガラスの厚さがバリア特性に影響を与えます。
結論
牛乳の保存に使用する材料の種類が脂質の酸化防止に極めて重要である可能性があります。本研究により、やはりガラスが紫外線に対する最良のバリアであるものの、顔料を含浸させたHDPEが有効な選択肢であることがわかりました。この場合、白色顔料がLIOFの形成を減少させるのに役立ちましたが、黄色やピンク色の顔料がさらに有効な可能性があることがいくつかの研究で示されています。CAR/PDMSのNitinol SPMEファイバーは、低分子の香気成分を保持できました。細孔は、これらの被分析物質を効率的に脱着します。さらに、Nitinol SPMEファイバーは高い不活性特性と極めて高い耐久性を備えています。このファイバーは、従来品のフューズドシリカコアSPMEファイバーに対する代替品になります。
関連製品
Response not successful: Received status code 500
参考文献
続きを確認するには、ログインするか、新規登録が必要です。
アカウントをお持ちではありませんか?