Kathy Stenerson, Megan Wesley
ピスタチオはその風味と、コレステロールの低減、体重管理、糖尿病と高血圧の予防、消化の改善といった健康効果が期待されています。1この木の実は、米国(特にカリフォルニア州)、イタリアのほか、イラン、トルコ、アフガニスタン、シリアといった中央アジア諸国で栽培されています。米国EPAが設定したピスタチオの残留農薬基準値は、農薬に応じて0.01~0.7 μg/g(収穫前)、3~200 μg/g(収穫後)の範囲です。2そのため、残留農薬試験では低い濃度を正確に測定できる方法が求められます。ピスタチオに含まれる多くの残留農薬の分析には、「迅速(Quick)、簡単(Easy)、安価(Cheap)、効果的(Effective)、堅牢(Rugged)、安全(Safe)」なQuEChERS法が使用されています。3
ピスタチオの脂質含有率は約45%です。そのため、QuEChERSを適用して得られたアセトニトリル抽出物中には大量のマトリックスが共抽出されることがあります。この脂質を低減できるクリーンアップ吸着剤を使用することが、LC-MS/MSおよびGC-MS/MSシステムの汚染を防止し、イオン抑制を最小限に抑えて低濃度検出を可能とします。本アプリケーションでは、ピスタチオ中における残留農薬分析でのQuEChERS法の一部にSupel™ QuE Z-Sep+吸着剤を使用しました。Z-Sep+は、ルイス酸/塩基相互作用と疎水性相互作用の両方によって脂質成分を保持するように作用する、ジルコニアとC18で修飾したシリカ吸着剤です。Z-Sep+が持つジルコニアの選択性により、C18単独の場合より広範囲の脂質を保持します。本アプリケーションでは、QuEChERS抽出とZ-Sep+吸着剤を使用したクリーンアップの後、ピスタチオ中の残留農薬をLC-MS/MSとGC-MS/MSで分析しました。対象とした被分析物質のリストにはピスタチオに関連する農薬を含めました4,5。
ピスタチオを地元の食料品店で購入し、殻付きのまま液体窒素で凍結し、粉砕してから表2と表4に挙げた農薬を10 ng/gで添加し、1時間平衡化させました。その後、試料を図1の手順にしたがって、QuEChERS抽出とZ-Sep+によるクリーンアップに供しました。最終的に得られた抽出物を100 μL分注し、5 mMぎ酸アンモニウム/0.1%ぎ酸水溶液で1 mLに希釈し、表1に示す条件にてLC-MS/MSで分析しました。
残りのアセトニトリル抽出物は、表3に示す条件を適用してGC-MS/MSで分析しました。添加した試料は、無添加のピスタチオマトリックスのブランク(クリーンアップ後)で調製したマトリックスマッチド5点検量線に対して定量しました。内部標準物質は使いませんでした。
図1.ピスタチオに使用したQuEChERS抽出とクリーンアップの手順
最初にZ-Sep+吸着剤によるクリーンアップを、脂質が多い試料に対する一般的なQuEChERSクリーンアップ吸着剤であるPSA/C18と比較しました。図2にQuEChERS抽出物(アセトニトリル中)の外観を比較して示します。いずれのクリーンアップでも緑色が除去され、同様の淡黄色の抽出物が得られました。GC-MSスキャンを比較したときのバックグラウンド(図3)は、PSA/C18よりZ-Sep+によるクリーンアップ後の方が低いことが分かります。クリーンアップしない抽出物中の最も高いピークは脂肪酸とモノグリセリドです。PSA/C18ではこれらの化合物の濃度が減少しただけですが、Z-Sep+によるクリーンアップ後はほとんど何も検出されませんでした。
表5に、添加ピスタチオ試料(繰り返し測定回数n=3)の平均%回収率と%RSDを示します。大部分の農薬はLC-MS/MSで分析し、感度が不十分なものはGS-MS/MSで分析しました。分析した30種類の農薬のうち、22種類が一般に許容される70~120%の範囲で回収されました。再現性は、RSD値において30種類すべてが20%未満であり、多くは10%未満でした。エトキサゾールとトリクロルホンの2種類の農薬は回収率が50%を下回りました。トリクロルホンは、クリーンアップステップ中にZ-Sep+吸着剤に強く保持された可能性が高く、これはその構造中に存在するリン酸基のルイス塩基性によるものと思われます。一方、エトキサゾールはリン酸基を含まず、そのlog P値が5.6であることに示されるように親油性が非常に高い農薬です。 脂質の多いピスタチオマトリックスからアセトニトリルを使ってこの化合物を抽出した効率は、極めて低かったと考えられます。log P値が6.3であるスピネトラムも、調査した農薬の大部分より低い回収率(56%)を示しました。log Pが高い農薬の回収率が低くなる傾向は、脂質が多いマトリックスに対する他の研究でも認められています6。酢酸エチルなどの低極性溶媒を添加して抽出すれば、これらの化合物の回収率はいずれも上昇する可能性がありますが、その場合、共抽出されるバックグラウンドの濃度も上昇すると予想されます。
図2.クリーンアップ前後でのピスタチオ抽出物の比較
図3. (a) クリーンアップなし、(b) PSA/C18でクリーンアップ、(c) Z-Sep+でクリーンアップしたピスタチオ抽出物のGC-MSスキャン比較(Yスケールはすべて同じ)
45%の脂質を含むピスタチオの残留農薬分析には困難なマトリックス問題が生じます。QuEChERS抽出を使用すると、対象とする被分析物質と一緒に多少の脂質が共抽出されます。したがって、このバックグラウンドはクリーンアップステップによって低減できるはずです。本アプリケーションでは、Supel™ QuE Z-Sep+を使用することにより、LC-MS/MS分析とGC-MS/MS分析に供する前に、これらの抽出物を効果的にクリーンアップできることを実証しました。Z-Sep+を使用することにより、脂肪酸とモノグリセリドのバックグラウンドが大幅に低減され、GC-MSスキャンデータで明確に示されるように、得られた抽出物のバックグラウンドはPSA/C18でクリーンアップした場合より低下しました。
30種類の対象農薬のうち22種類の回収率が許容範囲である70~120%であり、再現性も良好でした。
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