お茶は世界中で水に次いで最も人気のある飲料です。どのお茶も、同じ植物であるチャ(camellia sinensis)の葉に由来します。さまざまな種類のお茶は、この植物の栽培方法、栽培産地、および葉の処理方法に違いがあります。緑茶は、葉を収穫してすぐに乾燥されます。そのため、摘み取るとすぐに始まる酸化過程が停止します。一方、紅茶は葉を十分に酸化させることによって、よりコクのある風味を持つカフェイン含有量が高い飲料になります。1緑茶の摂取は心臓病や数種類のがんのリスク低下といった健康効果に関連づけられますが、これは主にカテキン類がもたらす抗酸化作用によります。これらの化合物には、ビタミンC、Eといったその他の抗酸化成分より細胞の酸化的損傷を止める効果があることが明らかになっています。2
お茶は世界中で主要な農産物と考えられており、2012年の生産量は480万トンでした。3お茶の大量生産では、収穫量を最大化するために農薬を使用することが多く、消費者にとってはこれらの化学物質へのばく露が懸念材料になります。そのため、お茶の輸入国の多くは残留農薬試験を義務づけています。そのような国には、米国、カナダ、オーストラリア、日本、および欧州連合(EU)諸国などが含まれます。農薬残留基準(MRL)の要件はこれらの国ごとに異なり、EUが設定したMRLはお茶の輸入国の中で最も低く、農薬によって異なりますが、0.05~50 mg/kgの範囲にあります。3これらのMRLを満たすことは、お茶の残留農薬試験を実施する分析ラボにとって難題になります。なぜなら、農薬と一緒に共抽出されるバックグラウンドの濃度が高いためです。そのような化合物には色素、糖類、ポリフェノール類、アルカロイド類などが含まれることがあり、これらはクロマトグラフィー分析を妨害する恐れがあります。茶抽出物の一般的なクリーンアップには、1級-2級アミン(PSA)、C18およびグラファイトカーボンブラック(GCB)、GCB含有二層カートリッジによるSPEをQuEChERSで使用することが含まれます。4,5,6GCBは緑色色素を効果的に除去しますが、分析対象である平面構造の農薬も強く保持します。多くの場合、GCBによるQuEChERSクリーンアップでは、そのような平面構造の農薬の回収率が低下します。二層SPEカートリッジを使ってクリーンアップする場合は、これらの化合物を回収するためにトルエンを溶出溶媒に添加することがあります。最終抽出物にトルエンが存在してもGCシステムへの注入は可能ですが、HPLC分析においては溶媒置換する必要があります。
本アプリケーションでは、SPEカートリッジであるSupelclean™ Ultra 2400を使用して緑茶のQuEChERS抽出物をクリーンアップしました。Supelclean™ Ultra 2400は、乾燥製品(茶、コーヒー、香辛料)など、バックグラウンドが高い試料のクリーンアップ用に設計された二層SPEカートリッジです。カートリッジの上層にはカーボン/PSA/C18混合物、下層にはZ-Sepが含まれています。カーボン(Graphsphere™ 2031)は色素を除去し、溶出溶媒にトルエンを添加する必要なく平面構造の農薬の回収率を上げるように設計されています。下層のZ-Sepは油と油脂成分を除去し、色素もさらに除去します。小サイズ(1 mLおよび3 mL)のカートリッジは、溶媒使用量を減らしながら十分にクリーンアップできるように設計されました。
本研究では、緑茶に5 ng/gと50 ng/gで農薬を添加してQuEChERSによって抽出しました。その後、1 mL Supelclean™ Ultra 2400カートリッジを使ったクリーンアップとPSA/C18/GCBを使ったQuEChERSクリーンアップを比較しました。最終抽出物をLC/MS/MSとGC/MS/MSで分析し、クリーンアップ性能をバックグラウンドと農薬回収率の観点から比較しました。
緑茶を地元の食料品店で購入し、使用する前に微粉末に粉砕しました。試料に5 ng/gと50 ng/gで農薬を添加し、図1に示す手順で抽出しました。図2に示すように、試料をSupelclean™ Ultra 2400 SPEカートリッジとPSA/C18/GCBでクリーンアップしました。
図1.緑茶のQuEChERS抽出手順
図2.緑茶からのQuEChERS抽出物のクリーンアップ
それぞれのクリーンアップ法を使って、農薬添加サンプルとブランクを調製しました。試料は、クリーンアップごとに調製し、0.5~10 ng/mLで得られたマトリックスマッチド5点検量線にて分析しました。いずれのクリーンアップでも、同一の試料抽出物をLC/MS/MSとGC/MS/MSの両方で分析しました。分析条件はそれぞれ表1、表2、表3、表4に示します。
バックグラウンド-クリーンアップ後、Supelclean™ Ultra 2400でクリーンアップした抽出物のほうがPSA/C18/GCBでクリーンアップしたものよりわずかに薄い色を呈しました(図3)。それぞれの抽出物のGC/MSスキャン結果(図4)から、Ultra 2400でクリーンアップした試料に存在するバックグラウンド量が最小であることが分かります。Ultra 2400カートリッジはPSA/C18/GCBより多くのポリフェノール(10~20分の溶出ピーク)を除去しましたが、カフェイン(20分に大きなピーク)はいずれの抽出物にも残っていました。添加濃度5 ng/gではバックグラウンドがさらに大きくなり、特にGC/MS/MS分析ではUltra 2400でクリーンアップした試料よりPSA/C18/GCBに多くの妨害が認められました。γ-シハロトリンの例を図5に示します。
図3.クリーンアップ前後における緑茶からのQuEChERS抽出物(未希釈)
図4.(a) クリーンアップなし、(b) Supelclean™ Ultra(1 mL)でクリーンアップ、(c) PSA/C18/GCBでクリーンアップした緑茶抽出物のGC/MSスキャン分析
図5.緑茶中に5 ng/gで添加したγ-シハロトリンを(a) PSA/C18/GCBでクリーンアップ、(b) Supelclean™ Ultra 2400でクリーンアップした後のGC/MS/MS分析:MRM 181.2/152.1
農薬回収率-2種類の添加濃度で得られた農薬回収率と再現性を表5にまとめ、図6に比較結果を示します。いずれの添加濃度でも、クリーンアップ性能は総じてPSA/C18/GCBよりUltra 2400を使ったときのほうが良好でした。クリーンアップにUltra 2400を使ったときのほうが多くの農薬を定量でき、農薬添加サンプルに対するRSDが20%未満の回収率は70~120%の範囲に収まっていました。
図6.緑茶の残留農薬分析におけるクリーンアップ性能の比較(分析した農薬の総数:41品目)
5 ng/gでは、いずれのクリーンアップ後にもアセフェートとスピロジクロフェンを検出できませんでした。表5に示すように、PSA/C18/GCBでのクリーンアップ後はマトリックスのために数種類の農薬を定量できませんでした。キャプタンは、5 ng/g、50 ng/gのいずれでもマトリックスのために分析できませんでした。テトロン酸およびテトラミン酸系農薬(スピロジクロフェン、スピロメシフェン、スピロテトラマット)ならびにスピノサド(スピノシンAおよびD)の回収率は、いずれの添加濃度でもUltra 2400よりPSA/C18/GCBのほうが低くなりました。これは、それらの化合物のいくつかがその構造中に平面骨格を含んでいたり、非常に大きかったりするためにGCBに強く保持されるからであると考えられます。構造中に平面構造を含むもう1つの農薬であるキノキシフェンは、いずれの添加濃度でもUltra 2400でのクリーンアップ後の回収率が70%を超えましたが、PSA/C18/GCBを使用した場合は60%を下回りました。
*2複製物の平均
ND:未検出
緑茶からの残留農薬抽出にQuEChERSを使用すると、色素、ポリフェノール類、およびカフェインを含有する高いバックグラウンドの抽出物が得られます。この試料をUltra 2400 SPEでクリーンアップすると、PSA/C18/GCBを使用したQuEChERSクリーンアップよりバックグラウンドが低くなりました。これは、抽出物の色、GC/MSスキャンのバックグラウンド、およびGC/MS/MSデータから明らかでした。いずれのクリーンアップでもカフェインは保持できませんでしたが、Ultra 2400カートリッジはPSA/C18/GCBと同量の色素、より多くのポリフェノール類を除去しました。農薬回収率についてはUltra 2400のほうがPSA/C18/GCBより性能が良く、特に添加濃度5 ng/gでは試験した41種類の農薬の73%で回収率が70~120%でした。一方、PSA/C18/GCBで回収率が70~120%の農薬は20%でした。これより高い50 ng/gの添加濃度でも、Ultra 2400によるクリーンアップではPSA/C18/GCBより良好な結果が得られ、95%の農薬で許容範囲の回収率と再現性を示しました。一方、後者でのクリーンアップでは83%でした。
要約すると、緑茶抽出物のクリーンアップでは、Supelclean™ Ultra 2400のほうがPSA/C18/GCBを使用したQuEChERSクリーンアップよりバックグラウンドを低減できることがわかりました。その結果、低濃度で分析可能な農薬の種類が増えました。カートリッジが小さいことは、使用溶媒量が少なくて済み、溶出溶媒にトルエンを使用する必要がないという点で、それより大きなGCB 6 mL積層カートリッジに対する優位性をもたらします。
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