この5~10年の間に、複雑な水性試料のマトリックス(生体液、水など)から低分子(医薬品化合物など)を回収、濃縮、およびクリーンアップする新しい抽出方法を開発する際に、親水性ポリマーのSPEが選択されるようになってきました。C18といった従来の逆相化学とは異なり、親水性ポリマーは一般に疎水性成分(ポリスチレンおよび/またはジビニルベンゼンなど)と親水性成分(メタクリラート、ビニルアミダゾール、N-ビニルピリリドンおよび/またはヒドロキシルなど)から構成されています。親水性ポリマーのSPEは、無極性官能基と極性官能基のいずれも含むため、従来のシリカベースの逆相SPE化学を上回る全く異なった利点をもたらします。中程度の極性から無極性の化合物しか保持できないシリカベースの逆相モードとは異なり、親水性ポリマー相は極性から無極性まで、酸性から塩基性まで、はるかに広範な分析対象物質を保持できます。そのような化合物が保持されると、メタノールおよび/またはアセトニトリルなどの水に混和する溶媒で容易に溶出されます。その結果、親水性ポリマー相は汎用性に優れています。加えて、親水性ポリマー相は極性官能基を含むために過乾燥が非常に起こりにくく、多くの場合に関連する抽出法の再現性/堅牢性が高まります。一方、シリカベースの逆相モードでは、コンディショニング中に固定相が過乾燥するとアルキル鎖が破壊される可能性があります。
本レポートでは、Supel™-Select HLB SPE(Select HLB)と呼ばれる新しい親水性ポリマー相の有用性を説明し、その中でこの製品を使用して、一連の医薬品化合物とパーソナルケア用品を血漿と飲料水から抽出しました。血漿アプリケーションでは、強力なコレステロール降下剤である2種類のスタチン系薬剤を抽出するのに使用する一般的な方法を解説します。飲料水の方法はEPA法1694:HPLC/MS/MSによる水、土壌、堆積物、および生物固体中の医薬品とパーソナルケア用品の修正版です。近年、医薬品化合物とパーソナルケア化合物の有害な影響が公共の飲料水供給施設に及んでいることを示唆する証拠が増えています。例えば、そのような影響が人間のホルモン代謝経路の撹乱、抗生物質耐性菌株の出現、および特定のがんタイプの発症率増加につながる可能性があります1。2002年、米国地質調査所は都市部下流の水試料を検査して、試料を採取した水路の80%で医薬品化合物を確認しました2。
Select HLB SPEは、水性試料から非常に広範囲の化合物を固相抽出するために開発されたスチレンベースの親水性改良ポリマーです。保持メカニズムは主として逆相相互作用に基づいていますが、相が親水性に改良されているため、さらに高い極性の化合物にも選択性を示します(HLB:親水性親油性バランス)。Select HLBにより保持して回収できる高極性化合物の例として(これらに限定されませんが)、ピリドキシン(logPo/w -0.56)、リボフラビン(logPo/w -2.02)、およびビオチン(logPo/w 0.11)が挙げられます。表1と表2に、本技術の仕様と特徴/利点をそれぞれ示します。
本研究では、プラバスタチンとアトルバスタチンをラット血漿に100 ng/mLと5 ng/mLの濃度で添加しました。添加したラット血漿試料(n=3)をSelect HLB SPE、30 mg/1 mL(54181-U)と主な競合他社の2種類のポリマーSPE相を使用し、表3に示す方法で抽出してLC-MS/MSで分析しました。図1に示す結果より、Select HLB SPEは、主な競合他社と同様にいずれの被分析物質でも試験した添加濃度で試料を良好にクリーンアップし、高い回収率を得ました。
本研究では、EPA法1694 ― HPLC/MS/MSによる水、土壌、堆積物、および生物固体中の医薬品とパーソナルケア用品を使用し、主な競合他社の親水性ポリマーSPEと対照してSelect HLB SPEを試験しました3。48種類のグループ1医薬品化合物を含有するキャリブレーション溶液をEPA法1694の表11a、CS-5列に記載された濃度レベル(25~25,000 ng/mL)で調製し、試験試料は1 Lの飲料水に4 mLのCS-5キャリブレーション溶液を添加して調製しました。1 Lの添加試料を表4に示す手順を使って抽出し、EPA法1694の表2と表3に記載されたLC-MS/MS条件と関連してAscentis Express C18、10 cm x 2.1 mm(53823-U)を使用して分析しました。2種類の異なる溶出溶媒(メタノールとメタノール:アセトニトリル(50:50))、表5を使用し、Select HLB SPEと競合他社(W社)の間で絶対回収率を比較しました。試験した大部分の化合物の回収率の値はSelect HLBと競合他社の間で同様でした。試験した48種類の分析対象物質は、いずれの製品でも61~65%の平均絶対回収率で回収できました。Select HLB SPEは、市販されている同等の親水性ポリマーより疎水性がやや高いことに注意してください。そのため、メタノール:アセトニトリル(50:50)の溶出溶媒を試験しました。Select HLBでは、試験した48種類の化合物のうち少なくとも20種類でCH3OH:CH3CN溶出溶媒により回収率が向上(10%超)しました。しかし、CH3CNのみでの溶出で回収率が高くなったのはグループ1化合物の10種類でした。Select HLBを使用して最適に回収するには、まずメタノールのみで溶出し、その後メタノール:アセトニトリルで溶出することを推奨します。
注記:Select HLB SPEの各ステップで体積0.5 mLを使用しました。
図1.スタチンを5 ng/mLで添加したラット血漿をSelect HLB SPEにより抽出したトータルイオン クロマトグラム
To continue reading please sign in or create an account.
Don't Have An Account?