Luc Vanmaele, Ph.D.
Materials Technology Centre, Agfa Materials, Agfa-Gevaert NV, Septestraat 27, B-2640 Mortsel, Belgium
エネルギー需要のかつてない世界的高まりから、コスト競争力の高い「グリーン」な新技術の開発が求められています。有機太陽電池(OPV:organic photovoltaic)は、近年新たに登場した太陽光発電技術を代表するものであり、低価格、軽量、かつコーティングや印刷技術によるロール・ツー・ロール方式(roll-to-roll)で連続的に大量生産できるというメリットに加えて、フレキシビリティなどの新たな特徴を有しています。高分子や低分子を用いた溶液プロセスによって作製可能なOPV系については、過去十年間にわたる活発な研究によって、基礎的理解が進み、商業利用に必要な技術の開発も進んでいます。
Agfaは、これまで培ってきた工業用コーティングやプリント技術によって、Orgacon™ PEDOT:PSS製品を商品化いたしました。スロットダイ(slot die)コーティング、スピンコーティング、インクジェット印刷やスクリーン印刷などのプリント技術1-3によって、フレキシブル、リジッドのどちらの基板に対しても、溶液プロセスを用いて低コストでのOPV製造を行うことが可能です。Orgaconは、Agfaが独自に開発したポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(4-スチレンスルホン酸塩)(PEDOT:PSS)をベースとする導電性高分子で、その特性や性能は、用いる製造法や目的とする用途に最適化されています(表1)。
PEDOT:PSSは、ICP(Intrinsically Conducting Polymer)であるPEDOTポリマーの水分散液タイプであり、図1に示すように、EDOTモノマーをポリスチレンスルホン酸存在下で重合させることで得られます。PEDOT:PSSは、他の導電性ポリマーと比べて導電率および透明性が非常に高く、費用効率に優れたロール・ツー・ロール方式による大量生産が可能で、フレキシブルな基板上にも塗布できることから、有機オプトエレクトロニクスデバイスの材料として有望視されています。
図1PEDOT:PSSの化学構造
有機太陽電池は、アノード層、正孔注入層(HIL:hole injection layer)、光活性層、電子輸送層(ETL:electron transport layer)、カソード層からなる層構造を持ちます。PEDOT:PSS分散液は仕事関数が高く、優れた透明性を示し、ITO薄膜上に均質な層を形成することから、OPVデバイスにおけるHIL材料として用いられています。ETL材料には、酸化亜鉛や二酸化チタンのナノ粒子のような電子伝導に優れた材料が用いられます。ITO上に塗布されるHILやETL材料の層構造は、OPVデバイスの構造によって異なります。
単セルモジュールには、従来型と逆構造型という2つの異なったOPV構成のタイプがあります(図2)。従来型セルでは、アノードにはITOが、カソードにはITOよりも仕事関数が低い金属(アルミニウム、リチウムなど)が一般的に用いられます。逆構造型セルの場合、カソードにITOが、アノードにITOよりも仕事関数が高い金属(銀など)が用いられます。いずれのタイプにも長所と短所があり、従来型OPVセルはスケールアップしやすく、少ない層で構成されるのに対し、逆構造型OPVセルはより安定で総じて高い効率を示します。
図2A)従来型OPV、B)逆構造型OPVの層構造とそのエネルギー準位図4
有機太陽電池の光活性層が太陽光を吸収することによって、正および負の電荷キャリアが生成します。この励起子がカソードとアノードの界面へ移動、電荷分離し、それぞれ両極へ伝播します。このプロセスにおいて、光活性層からの効率的な正電荷の取り出しには正孔注入層(HIL)が非常に重要であり、HIL層のエネルギー準位をアノードの準位と合わせ必要があります(図2A)。正孔注入層として用いられるPEDOT:PSS(Orgacon HIL-1005やIJ-1005(739316)など)は、安定した性能を示す高効率プリンテッド太陽電池の作製に不可欠です。
現在用いられているITO材料には、硬い(フレキシビリティがない)、破損しやすい、高価などの難点があり、代替材料の模索が進められています。例えば、ITOのアノード/カソードは、印刷またはコーティングによる金属グリッド(銀など)によって置き換わる可能性があります。従来型OPVセルの場合、プリンテッド金属グリッドはPEDOT:PSS正孔注入層(Orgacon HIL-1005またはIJ-1005(739316))でコーティングされます。この際、PEDOT:PSS層は表面の平滑化の役割も果たします。粘度およびスピンコーティングにおける回転速度に対する膜厚曲線を、図3に示します。
図3粘度および回転速度に対する膜厚曲線
銀グリッド/PEDOT:PSSのような従来型OPVデバイスの寿命安定性能を、図4に示します。ガラス基板上に、PEDOT:PSS(Orgacon HIL-1005)アノード、もしくはPEDOT:PSSでコーティングした銀グリッドアノードを用いて、金属リッド(蓋)で封止したデバイスでは、PEDOT:PSSでコーティングしていないITOアノードを用いた同等のデバイスに比べて、安定性が格段に向上していることが明らかです(図4A)。高性能バリア被覆金属箔基板上に作製した銀グリッド/PEDOTデバイスを薄膜で封止したデバイスでも、非常によく似た結果が得られています(図4B)。
逆構造型のOPVセルでは、PEDOT:PSS正孔注入層の上に金属グリッドが印刷(スクリーン印刷など)され、現在では、PEDOT:PSS薄層と組み合わせた透明な(グリッド)電極を用いることによって、ITO電極を完全に置き換えた、透明なOPVデバイスを製造することのできる逆構造型のほうが好まれるようになっています。透明性および効率の高いOPV電池構造は、建材一体型太陽電池(BIPV:Building Integrated Photovoltaic)などの用途において特に有用です。
図4異なる基板、封止方法を用いた、ITOを含まない従来型OPVのデバイス安定性5。A)各種アノードを用いたガラス基板(金属リッドで封止)。B)銀グリッド/PEDOTデバイス。高性能バリア被覆金属箔基板(薄膜で封止)およびガラス基板(金属リッドで封止)。共にデバイスのサイズは2 cm x 2 cm。
参考:MPP (Maximum Power Point、MMP) = AM1.5(エアマス1.5、太陽天頂角Z = 48.2°に相当)で測定された最大電力点、HC PEDOT = Orgacon HIL 1005
効率の向上を目指して新たな構造をもつ有機太陽電池システムが開発されています。たとえば、多層タンデム型太陽電池は、より広い領域の太陽光スペクトルを吸収するように設計されています(図5)。単接合型OPVセルでは、バンドギャップよりもエネルギーの小さいフォトンは吸収されず、またバンドギャップよりエネルギーの大きなフォトンの場合、その過剰エネルギーは熱平衡化によって失われます。タンデム型太陽電池では、異なる領域の太陽光スペクトルを吸収する複数のサブセルを組み合わせることにより、このような損失を軽減しています。タンデム型太陽電池では、再結合層として、蒸着ZnO層もしくは溶液塗布によるZnOナノ粒子層と、pHが中性のPEDOT:PSS(Orgacon N-1005、739324)との積層構造が用いられます4,6。
図5タンデム型太陽電池6
Agfaの提供するOrgacon OPV製品は、スロットダイやスピンコーティング用のほかに、インクジェット印刷およびスクリーン印刷に利用可能なPEDOT:PSS製品です。特に、Orgacon HIL-1005およびIJ-1005(739316)は、HIL材料として開発され、スロットダイコーティング、スピンコーティング、またはインクジェット印刷による塗布が可能です1。さらに、ガラス、PET、PEN、または光活性材料(P3HT/PCBMなど)上へのコーティング用にも最適化されています。必要に応じてごく少量の非イオン性界面活性剤を添加し、表面張力をより最適化することもできます。P3HT/PCBMなどへの濡れ特性を最適化するには、イソプロピルアルコール(IPA)のようなアルコール類も有用です。Orgacon N-1005(739324)は、再結合層としてタンデム型OPVセルに用いられる、pHが中性のPEDOT:PSS分散液で、スロットダイおよびスピンコーティングによる塗布が可能です6。Orgacon S305およびOrgacon EL-P 5015(768650)はスクリーン印刷用インクで、ITOの代替として最適であり、金属グリッド上に印刷することによって透明性の高いアノードを作製することができます2。
Orgacon is a trademark of Agfa-Gevaert N.V.
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