ペロブスカイト太陽電池の基礎

材料科学の基礎 第9号 2018PDF版


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序文

桐蔭横浜大学 医用工学部 特任教授 宮坂 力

ペロブスカイト太陽電池は、桐蔭横浜大学の実験室で誕生し、シリコン太陽電池にせまる22%の変換効率も印刷法で作る素子で達成している、現在最も注目される太陽電池です。世界中の研究室でこの太陽電池の追試が行われ、高効率と高耐久化を目指した研究開発が進められています。高効率・高耐久ペロブスカイト太陽電池を製作するには、グローブボックスやスピンコータ、蒸着装置などが必要となります。一方で、このペロブスカイト太陽電池を中高生でも作製できるような実験手順書があれば、その製作を通して、結晶化学、無機化合物の定性分析から半導体物理、そしてエネルギー・環境科学まで幅広い学際領域をカバーするこの次世代太陽電池を、企業や大学の研究室で関心のある研究者であれば、どなたでも製作することができ、実物を見ながら将来の研究開発へのヒントを得ることができると思われます。

ペロブスカイト化合物を太陽電池に用いる研究が始まったのは2005年のことです。ヨウ化鉛PbI2とヨウ化メチルアンモニウムCH3NH3Iを混合することで得られるヨウ化鉛メチルアンモニウムCH3NH3PbI3の褐色の化合物が、酸化チタン多孔膜を光電極とする色素増感太陽電池の増感剤として機能することを発見したのが研究の始まりです。研究開始の当初は、ヨウ化メチルアンモニウムCH3NH3Iの合成もする必要があり、化学系の研究室での研究から始まりましたが、今では、試薬メーカーから必要な試薬は簡単に手にはいるようになり、ペロブスカイト太陽電池の研究はますます盛んになっています。

シリコン太陽電池に迫る22%を超える変換効率が得られ、さらに、印刷法で作製できる特徴から、プラスチックを基板とする薄型軽量太陽電池の製造検討も加速しています。薄型軽量の素子となれば、ペロブスカイト太陽電池の応用は、建築物の屋根等に設置して生活家電や、あるいは電気自動車の充電に用いるための開発のみならず、IoTデバイス用のエナジーハーベスト電源としての注目もより一層高まります。再生可能エネルギーへの関心もあり、早期の実用化も期待されています。

今回、私共の研究室で作成しました高校生向けの実験手順書を、ノーベル化学賞受賞者であられる白川英樹先生と津山工業高等専門学校准教授・廣木一亮先生の手でブラッシュアップしていただき、ペロブスカイト太陽電池をどなたでも製作していただける実験手順書が完成いたしました。一人でも多くの研究者の方に光発電の楽しさと奥深さを体験していただくことを願ってやみません。

はじめに

津山工業高等専門学校 准教授 廣木 一亮
津山工業高等専門学校 准教授 香取 重尊

シグマ アルドリッチ ジャパンが刊行する「材料科学の基礎 8 導電性高分子の基礎」1)を執筆してから、はや5年あまりが過ぎた。このニュースレターは、材料科学の研究を始めたばかりの方にとても喜ばれた。

その流れをくむ本冊子では、2017年ノーベル賞の候補にも挙がったペロブスカイト太陽電池をとりあげ、その最も簡単なつくり方と基礎評価、試薬の純度、さらには教育への展開を視野に入れた解説と、実際の実験教室例を紹介する。専門家ばかりが読むものではないという観点から、できるだけ易しく、イメージが湧くような解説を心がけた。それゆえ、やや表現の厳密性を欠く箇所があるかもしれないが、そこは御容赦いただきたく、またより良い表現があれば、筆者にお知らせ願いたい。

太陽電池とは?

太陽電池が太陽光から電気を生み出すことは、子供でも知っている。もう少し専門的な言葉をつかうとするなら、太陽電池とは「光を受けると動ける電子が発生する光電変換と呼ばれる現象を利用した光エネルギーを電気エネルギーに変換する素子である。光エネルギーを直接電気エネルギーに変換できることから、クリーンで環境にやさしい発電方法として注目を集めている2)

一般に広く普及し、利用されているのは無機系太陽電池であり、腕時計や電卓から住宅用太陽電池、また大面積の太陽電池;ソーラーパネルを大量に用いたソーラー発電所にまで利用が進んでいる。これはp型半導体とn型半導体との接触面、いわゆるp-n接合面に光が吸収されると、電荷分離が起こって電子とホール(電子の抜け殻、正の電荷をもつ)が生成し、それを集電極に導くことで両極間に起電力が生じるという現象を利用したものである(図1)。かつての高価だった結晶系シリコンに代わって、比較的安価なアモルファス系シリコンと、結晶シリコンを組み合わせた太陽電池が主流になりつつあり、発電効率は20%を超える3)

太陽電池の基本構造

図1 太陽電池の基本構造

これらの無機系太陽電池に対し、有機系太陽電池の研究・開発も盛んに行われており、色素増感太陽電池4),5)や有機薄膜太陽電池6),7),8)が主なものである。

色素増感太陽電池(図2)は、実用化可能性のある有機系太陽電池として現在も研究が進められている3),4)。発明者の名前を冠してグレッツェルセルとも呼ばれ、光触媒として有名な酸化チタン(IV) TiO2と色素を組み合わせた電荷分離層を有する。この電池の巧みなところは、まず色素が光エネルギーを吸収して電荷分離を起こし、その電子が酸化チタンに移り、更に集電極へと伝わる。生み出された電子は外部負荷を経由して対極に移動し、電解液中のヨウ素I2を3つのヨウ化物イオンI-に還元する。ヨウ化物イオンは色素によってまた還元される。これらの一連の流れが繰り返されることで太陽電池として作用する。注目すべきは白色で紫外線線領域にしか吸収をもたない酸化チタンの上に、可視光を吸収する色素を吸着させて光エネルギーを効率的に捕えることを可能にした点である。つまり本来は紫外線しか吸収しない酸化チタンに、色素をまとわせて可視光増感させたことが、この電池最大の特徴である。電解液を使用するなど短所もあるが、低コスト・省エネルギーで製造可能な太陽電池として注目を浴びた3)。実際に作ってみたい方は、易しい解説書9)や工作キット10)も出ているので、そちらを参考にして欲しい。

この色素増感太陽電池こそ、ペロブスカイト太陽電池の直接のルーツであるといって良い。

色素増感太陽電池

図2 色素増感太陽電池

他方、有機薄膜太陽電池は図3に示すように多層型の電池(マルチレイヤー型電池)8),11)をなしていて、多層型(マルチレイヤー型)有機EL素子12)と裏表の関係にある。前者は光エネルギーを電気エネルギーに変換して集電する素子、後者は電気エネルギーを光エネルギーに変換して放出する素子であり、働きもまた裏表の関係にあるといえる。

有機薄膜太陽電池

図3 有機薄膜太陽電池

最も重要な役割をする層が電荷分離層で、この層に光を受けて電荷分離を起こし、電子とホールを生み出す点は無機半導体のp-n接合と同様である。有機薄膜太陽電池に特徴的なのは、電子を与える電子供与体(ドナー)である導電性プラスチックのポリチオフェン誘導体、および電子を受け取る電子受容体(アクセプター)のフラーレン誘導体という二種類の有機半導体(図4)が、バルクヘテロ接合して電荷分離層をつくることである。バルクヘテロ接合とは、簡単に言えば2つの物質が複雑に組み合って大きな接合面積を持つ状態を指し、発電効率の向上に一役買っている。

更に電荷分離層の正極側には、電子の抜け殻で正(プラス)の電荷をもつホールを正極に受け渡すホール輸送層として、ポリスチレンスルホン酸(PSS)でドープした導電性プラスチックのポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT-PSS)が用いられている。正極の透明電極の酸化インジウム‐ 酸化スズ付ガラス(ITOガラス)やフッ素ドープ酸化スズ付ガラス(FTOガラス)、また負極はアルミニウムなどの金属が使用される。

有機薄膜太陽電池に用いられる物質

図4 有機薄膜太陽電池に用いられる物質

これらの電荷分離層・電子輸送層・ホール輸送層に用いる物質を設計・合成したり、組み合わせを変えたりすることにより、発電効率や素子の寿命などの性能を改善することができるところが、有機系太陽電池研究の面白さである。

有機系太陽電池の多くはどれも薄く軽く柔軟性に富んでいる。製造工程に印刷技術(プリンタブルエレクトロニクス)などを応用することで安価に製造できるなど多くの利点を持つ。従来、無機系太陽電池の半分程度であった発電効率も劇的に上昇し始めた。新世代の太陽電池として注目に値する。

ペロブスカイト太陽電池の登場

近年、日本で開発され、注目されている太陽電池がある。それがペロブスカイト太陽電池である。2009年に宮坂力、小島陽広らがペロブスカイト型の結晶構造をもつヨウ化鉛メチルアンモニウム (CH3NH3)PbI3を、色素増感太陽電池の光増感剤の代わりに用いた最初の太陽電池を発表した15)。その時、既に発電効率は3.8%と、有機系の太陽電池としては悪くない値であった。

ペロブスカイトとは一般式ABX3で表される物質の総称で、超伝導など興味深い電気的・磁気的特性を有する特殊な物質群として知られている。Aがメチルアンモニウムイオン(CH3NH3)+、Bが鉛(II)イオンPb2+、そしてXがハロゲン化物イオンIになったものがハロゲン化鉛メチルアンモニウム(CH3NH3)PbX3(X = Cl, Br, I)であるが(図5)、薄膜にして光を当てると強く蛍光発光するなど、光に対して優れた応答性を持っている。

ペロブスカイト結晶

図5 ペロブスカイト結晶(桐蔭横浜大学 宮坂研究室提供)

たとえばヨウ化鉛メチルアンモニウム(CH3NH3)PbI3は、ヨウ化メチルアンモニウムCH3NH3Iとヨウ化鉛(II) PbI2の反応によって溶液中で合成される。溶媒には主にN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)やジメチルスルホキシド(DMSO)、γ -ブチロラクトンといった比較的高沸点の非プロトン性極性溶媒が用いられる。ここで得られた黄色の溶液をある一定の温度以上に加熱すると色が黄色から暗褐色に変化してペロブスカイト型の結晶をつくる。

CH3NH3I + PbI2 → (CH3NH3)PbI3

このペロブスカイト結晶と、無機物である酸化チタン(IV) TiO2とを組み合わせて、太陽電池の光増感層に使ったのがペロブスカイト太陽電池である(図6)。ここで用いられる酸化チタンは電子輸送層およびメソポーラス酸化チタンである、大きな表面積を持った酸化チタン上なら、薄いペロブスカイト層であっても充分な光増感効果が期待でき、変換効率を落とさずにデバイスの薄膜化・軽量化が可能となる。しかし何と言っても色素増感太陽電池最大の欠点だった電解液を用いず、完全に固体のペロブスカイト結晶によって光増感層が置き換えられたことこそ、実用化に向けた最大の利点であるといえる。

ペロブスカイト太陽電池

図6 ペロブスカイト太陽電池

もう一つ重要な役割をするのが、電荷分離で生じたホールを捉え、スムーズに正極に受けわたすホール輸送層である。最も多用されるホール輸送材料(HTM)は2,2,7,7-テトラキス(N,N-ジ-p-メトキシフェニルアミン)-9,9-スピロビフルオレン(spiro-MeOTAD)であるが、高価な物質である。

ペロブスカイト太陽電池は、色素増感太陽電池と有機薄膜太陽電池の長所を上手くハイブリッドしたものである。既に発電効率は実験室レベルで20%を超え、無機系太陽電池に引けを取らないレベルであり、その研究開発の動向からますます目が離せない16)

ペロブスカイト太陽電池をつくろう

何はともあれ、ペロブスカイト太陽電池をつくってみたい、触れてみたいという方のために、作製法と基礎物性評価を紹介したい。その点でとても参考になるのが、桐蔭横浜大学宮坂研究室の池上和志らが桐蔭学園高校で行っている実験プログラムである17)。このプログラムは高校生向けではあるが、本格的な実験器具を用いており、ペロブスカイト太陽電池の素子構造や作製法を体験するには、最適と言える。筆者(廣木)は、恩師である白川英樹とともに何度も宮坂研究室を訪問させていただき、宮坂力および池上和志から直接手ほどきを受け、著書にも掲載させていただいた18)。そのエッセンスに当たるものをより多くの方に知っていただきたく、ここでも紹介したい。

実験

有機EL素子など他の有機デバイス同様に、ペロブスカイト太陽電池の作製にはスピンコーターや真空蒸着装置などの機器をつかう必要がある。しかしながら、なるべく多くの人にペロブスカイト太陽電池を知って欲しいという願いから、実験は可能な限りシンプルなものとなっている。

ここでは桐蔭横浜大学 宮坂研究室が桐蔭学園高校の生徒を対象に行った実験をもとに「手作りの」ペロブスカイト太陽電池のつくり方を紹介する10)

通常、導電フィルム上に酸化チタン層TiO2やペロブスカイト層(CH3NH3)PbI3をつくる際にはスピンコーターを用いる。どちらも数十~数百nmという非常に薄い膜をつくる必要があるからである。ここで述べる方法では一度塗った酸化チタンをあえて拭きとり、導電フィルム上にわずかな量の酸化チタンを残すという方法で成膜を行う。こうして作った酸化チタン層の上に、微量のペロブスカイト溶液をたらし、塗り広げることでペロブスカイト層を成膜する。

ホール輸送層の成膜については、私たちが手づくりの有機EL素子の実験教室で考案した、シリコンゴムのスペーサーを使った簡易的な電気化学重合法を採用する。ただ、導電フィルムがITO-PEN(インジウム−スズ酸化物つきポリエチレンナフタレート)というプラスチックフィルムであるため、向かい合う距離が短いと内側に曲がってショートしてしまうため、スペーサーを厚くして、その分、電圧との重合時間を増やす工夫をしている。

できあがった二つの間に、カーボンブラックをはさんで手づくりのペロブスカイト太陽電池は完成する。カーボンブラックは、カーボン紙などに用いられる炭素の粉末で、ここでは特に電気伝導性に優れるアセチレンブラックを使っている。桐蔭横浜大学の池上らによると、ポリピロールやポリアニリンといった導電性ポリマーとカーボンブラックの複合材料もホール輸送層として有望とのことである。なお、封止も私たちが手づくりの有機EL素子で用いた強力両面テープを採用している。

できあがったペロブスカイト太陽電池の構造は図7のようなものである。

実験でつくるペロブスカイト太陽電池の構造

図7 実験でつくるペロブスカイト太陽電池の構造

用意する器具・材料

【詳細はPDF版 5~9ページを参照ください】

太陽電池の特性評価

太陽電池の性能は太陽の光エネルギーを電気エネルギーに変換したときの変換効率によって評価することができる。地表で受ける太陽光のエネルギーは季節や天候、時間帯によっても大きく変動することから、実際の太陽電池の測定には太陽光スペクトルを人工的に再現した擬似太陽光(ソーラーシミュレータ)が使われる。照射する光の強さは規格化されており、AM-1.5(100 mW/cm2)を標準光源として照射する※注1。一般的に出力特性は、光照射時と未照射時の太陽電池の電流―電圧特性(I-V特性)を測定することで得ることができ、無負荷状態の電圧を開放電圧(Voc)、太陽電池の端子間を電流計で短絡したときに流れる電流を短絡電流(Isc)といい、出力性能を評価する重要な指標となる。図20に一般的な太陽電池の電流-電圧特性(I-V曲線)を示す。また、この曲線の任意の点P(i, v)は動作点と呼ばれ、太陽電池の最大出力(Pmax)を得るためには、Pの値、すなわち電圧と電流の積が最大になる点で動作させれば良い。また、太陽電池の変換効率はこの最大出力(Pmax)を入射光の強度で割った値で示される。面積当たりの出力の高い太陽電池を得るためには、最大出力(Pmax)をVoc × Iscで割って得られる値を1に近づけるようにすることが必要である。なお、この最大出力を曲線因子(Fill Factor、FF)といい以下の関係がある。

FF = (Pmax) / (Voc × Isc)

太陽電池の電流-電圧特性

図20 太陽電池の電流-電圧特性

※注1 太陽光は宇宙空間を伝播した後、空気の層を通って地表に届く。このとき光のエネルギーは空気(窒素、酸素、水蒸気、二酸化炭素など)の分子による吸収を受けることから、大気圏外のパワー密度よりも弱くなった光が地表に届く。この空気の量をエアマス(AM)といい、大気圏外ではAM-0、天頂から地表に垂直に入射する場合をAM-1、中緯度地帯では1.5倍の空気層を通過すると考えてAM-1.5と呼んでいる。なおAM-1.5の太陽光のパワー密度は約1 kW/m2である。

内部量子効率と外部量子効率

太陽電池の変換効率と共に特性を特徴付ける重要なものが内部量子効率と外部量子効率である。内部量子効率(IQE:Internalquantum efficiency)とは吸収した光子の数に対して外部回路を流れた電子の数の割合を百分率で示した数値である。内部量子効率は光を吸収してから電子を捕集するまでを見ている。

IQE =(外部回路を流れる電子数)/(吸収した光子数)= 励起子拡散効率 × 電荷分離効率 × 電荷輸送捕集効率

一方、外部量子効率(EQE:External quantum efficiency)とは、外部回路を流れる電子の数を入射した光子の数で割って、百分率で表したものである。

EQE =(外部回路を流れる電子数)/(入射した光子数)= 活性層における入射光の吸収効率 × IQE

EQEの測定は単色光を用いて波長ごとに行われ、スペクトル表示したIPCE(incident photon to current efficiency)スペクトルが素子特性を表すものとして用いられる。IPCEスペクトルは照射する単色光の波長を連続的に変化させて、ゼロバイアス時の電流密度として測定する。

IPCE = 外部回路を流れる電子数 / 入射した光子数

ペロブスカイト太陽電池の評価

ペロブスカイト太陽電池では、ペロブスカイト結晶層が光吸収と電荷生成の点で極めて重要である。代表的な材料であるハロゲン化鉛メチルアンモニウムを基板に塗布した場合、適切な温度で加熱処理を施すと、黄色から暗褐色に変化し、ペロブスカイト結晶が形成される。この色の変化は目視によって観察でき、簡易的に結晶形成を判断する上で有効であるが、XRDによる結晶構造の解析結果とも相関している。すなわち、ペロブスカイト結晶は、図5に示したように立方晶の体心に金属が配置し、立方晶の各面心にハロゲンイオン、各頂点にメチルアンモニウムイオンが配置した格子構造をとっている。ペロブスカイト結晶が形成されていないときには黄色であり、熱処理によって暗褐色となった薄膜では、図21のようなX線回折パターンを示す。詳細な分析の結果、それぞれのピークは2θ =14.1°(110)面、19.9°(112)面、23.4°(211)面、24.4°(202)面、28.3°(220)面、31.8°(310)面、40.5°(224)面、43.0°(330)面での回折に相当することが知られている19)。特に体心の金属イオン(鉛Ⅱ)を面内に含む(110)面から強い反射が得られ、ペロブスカイト結晶形成を確認するための判断指標となる。

ペロブスカイト結晶のXRD回折パターン

図21 ハロゲン化鉛メチルアンモニウムを用いたペロブスカイト結晶のXRD回折パターン。スピンコート法によって作製。挿入図は、ミストデポジション法により成膜した結晶のXRDパターン。

ペロブスカイト太陽電池の量産技術の開発

ペロブスカイト太陽電池を実験室レベルで作製する場合、本稿で紹介した手法は有効である。しかし、実用化を考慮すると量産するための新たな製造技術が求められる。既にいくつかの手法が検討されており、特にロールtoロール方式(R2R、RtoRと記述されることもある)で量産できる技術が確立されれば、現在主流のシリコン太陽電池よりも大幅に製造コストを抑えることができ、一気に普及する可能性がある。量産化を見据えた製造方法として最も有力な手法は印刷技術を応用したインクジェット方式20-21)といえる。また、この他にもスロットダイコーティング22)や、超音波を使って原料溶液を霧状にして吹きつけるミストCVD法なども検討されている23)。これらの手法はいずれも大面積化に対応できるが、スケールアップの際に様々な課題があり、現在のところ実用化には至っていない。本稿では著者らが検討している超音波噴霧を用いたミストCVD法によるペロブスカイト結晶の作り方を紹介する。

超音波噴霧による薄膜作製法は決して新しいものではないが、近年、京都大学 藤田静雄教授らによって金属酸化物の結晶成長など、新しい切り口での研究成果が報告され、ミストCVD法・ミストデポジション法として注目されている24)図22にミストCVD法・ミストデポジション法の概略図を示す。超音波によって霧状になった原料溶液は窒素などの不活性ガスをキャリアガスとして用いて搬送され、あらかじめ基板を設置した金型内に流し込んで基板上で化学反応が起き、薄膜が形成される。一方、固定したノズルからミストガスを吹き付けて成膜する手法もある。ロールtoロールによる量産を見据えた場合、後者の手法が適している。吹き付けタイプの成膜手法では、ノズル直下で薄膜が堆積するため、大気圧下での反応制御が求められる。ペロブスカイト太陽電池の場合、先ずハロゲン化鉛メチルアンモニウム溶液からペロブスカイト結晶を作製する必要があるが、ミストデポジション法では加熱しながら材料を堆積できるため、従来法のように結晶化のためのアニール処理を施さなくても良く、基板上に直接ペロブスカイト結晶を堆積させることが可能である。著者らは基板温度と供給するガスの流量を最適化し、吹き付けながらペロブスカイト結晶を作製する手法を確立している。

ミストデポジション法によるペロブスカイト結晶の作製

ミストデポジション法は図22(a)に示したように原料溶液を霧状にして吹き付ける手法で、先述したように大面積基板への成膜に適している。このためペロブスカイト太陽電池の量産技術として利用できる可能性がある。ここではミストデポジション法によるペロブスカイト結晶の作製について紹介する。

ミストデポジション法でペロブスカイト結晶を作製するには、先ずハロゲン化鉛メチルアンモニウムの溶液を調製する。調製といっても特別な溶媒を用いる必要はなく、超音波を印加したときに霧が立ち易いものを選択すれば良い。本稿で紹介したDMFやγ-ブチロラクトンでも構わない。調製した溶液に超音波を印加し、ハロゲン化鉛メチルアンモニウム溶液の霧を発生させ、この霧を加熱した基板に吹き付けて成膜を行う。この時、基板温度の制御が重要であり、適切な温度範囲にないとペロブスカイト結晶を得ることはできない。図23はミストデポジション法により成膜したガラス基板上のハロゲン化鉛メチルアンモニウム薄膜である。基板上に均一に成膜できていることが分かる。また、図21(挿入図)は得られた薄膜のXRDの回折パターンである。120℃に加熱した基板上に成膜した結果、2θ=14°、28°、43°付近にピークが認められ、ペロブスカイト結晶が形成されていることが確認できる。また、成膜前には黄色だった液体が成膜後には、暗褐色の薄膜となることが確認できる。

ミストCVD法の概略

ミストデポジション法の概略

図22 ミストCVD法(a)・ミストデポジション法(b)の概略

ミストデポジション法により成膜したハロゲン化鉛メチルアンモニウム

図23 ミストデポジション法により成膜したハロゲン化鉛メチルアンモニウム

ペロブスカイト太陽電池と試薬の純度について

ペロブスカイト太陽電池を作製する際に、用いる試薬の純度がしばしば取り沙汰される。特に太陽電池の肝であるペロブスカイト結晶の生成には、ハロゲン化鉛の純度が重要であるという報告がある。そこで原料であるヨウ化鉛、ヨウ化メチルアンモニウム、溶媒に用いられるDMFについて、純度に関する検討の結果を簡単にまとめてみたい。

まずヨウ化鉛(II) PbI2について。ここで用いたのは純度98%(一般試薬)のヨウ化鉛、純度99.999%(高純度試薬、203602)のヨウ化鉛、高純度99.999%(ペロブスカイトグレード、900168)を用いて、ペロブスカイト結晶の生成や発電効率について検討を行った。素子作製法や測定法については一般的な手法をとったが、ただ透明電極にペクセル・テクノロジーズ製の酸化チタン付導電フィルム(PECF-IP-BF78)を用いた。緻密な酸化チタン層をもつ、このフィルムは初期のころ私たちが悩まされたショートの問題を完全に解決してくれた。このナノ酸化チタン層をつくるのが、そうたやすいことでないことは実際に試みるとすぐ分かり、色々な研究がなされている25-27)。試薬純度の検討に話を戻すが、結論からいうと、私たちが行った限りにおいて、純度による大きな違いは見られなかった。ヨウ化鉛の純度が発電効率に影響するという、一般にいわれている説とは異なる結果であるが、あくまで私たちができるレベルの話であり、発電効率のトップを競うようなレベルにおいては、ヨウ化鉛の純度の貢献は否定できない。いずれにしても明確な結論を得るには至らなかったため、今後の更なる研究が待たれるところである。

次にヨウ化メチルアンモニウムの純度について。ペロブスカイト太陽電池が世に出た直後、汎用試薬メーカーのカタログに載っていなかったため、私たちはヨウ化水素酸とメチルアミン水溶液から中和反応によってヨウ化メチルアンモニウムを得ていた。実際のところ、ろくに再結晶もしないままペロブスカイト太陽電池の作製に使用していた。いわば「ホームメイド」のヨウ化メチルアンモニウムと、試薬で購入したヨウ化メチルアンモニウム(結晶、806390)を比べてみると、溶液調製の際以外には、たとえばペロブスカイト結晶の生成や発電効率には特段、違いは認められなかった。

ただし「ホームメイド」ヨウ化メチルアンモニウムを合成する際、塩を乾燥ジエチルエーテル※で4回ほど洗浄し、減圧乾燥に時間をかけて、極力、水とメチルアミンの除去に努めたことは付記しておく価値がある。また保存は通常のサンプル瓶で行っているが、デシケーター中に入れている。ヨウ化メチルアンモニウムは吸湿性があるため、手早く秤量する必要がある。ヨウ化鉛についても同じことが言えそうだが、発電効率のトップを競うようなレベルにおいては、グローブボックス内、不活性雰囲気下で扱うことが望ましいだろう。経験的な感覚で書いてしまうのは気が引けるが、これらはぺロブスカイト結晶の生成や寿命を大きく左右していると考えられる。

ジエチルエーテル(あるいは単にエーテルとよばれる)C2H5OC2H5は、揮発性・引火性が非常に高く、取り扱いに特に注意を要する試薬である。もともと有機化学の研究室では火気厳禁の実験室が多いが、エーテルを使用する際、同じ室内で火気を用いてはならない。

もう一点、意外と看過されがちな点として溶媒の純度がある。有機合成や電気化学の実験を行う実験室では当たり前のことだが、溶媒は「蒸留してから」使う。特に注意すべきと感じたのはDMFである。不純物として水や分解生成物であるジメチルアミンや一酸化炭素を含んでおり28)、これらはペロブスカイト結晶の生成を阻害する可能性がある。一般的な精製法に従えば29)、これら不純物を除去できるが、5 w/vの水素化カルシウム CaH2を加えて一昼夜撹拌し、ろ過した後に20 mmHgで蒸留し、保存する際は3Aもしくは4Aのモレキュラーシーブスを加えておくという程度の簡易的な精製法28)で十分である。他に良くつかわれる溶媒のγ -ブチロラクトン28)やDMSO29)についても似たり寄ったりではあるが、いずれも減圧蒸留する必要がある。面倒だという方は高純度溶媒を求めればよいが、保管にも取り扱いにも気をつかう必要があるので留意して欲しい。

以上、いくつかの観点からペロブスカイト太陽電池を作製する際に用いられる試薬の純度について考えてきた。いささか感覚に頼っていて、科学的でない点はただただお詫びするしかないが、それだけに論文には書かれない「コツ」のようなものとして、皆さんの役に立てれば幸いである。

まとめ

ペロブスカイト太陽電池は、現在、最も実用化に近い有機系太陽電池である。今回、様々な太陽電池との比較から、この太陽電池がいかに優れているか、知っていただけたものと思う。筆者(廣木)は師の白川英樹とともに、ペロブスカイト太陽電池と導電性ポリマーを組み合わせた実験教室がつくりたいと、宮坂研究室を訪ねた。宮坂力や池上和志らは科学教育にも強い熱意をもっており、全面的な協力を得て素晴らしい実験教室をつくり上げた。一見、子供向けの実験ととらえられがちだが、それは誤りだ。実際は高価な試薬を減らし、複雑な過程をできるだけ簡単な作業に置き換えて、素子の製法を「単純化」したということだ。工業レベルでみた場合、この単純化に寄与するのは、インクジェット法やミストデポジション法かもしれないし、もっともっと簡単な成膜法かもしれない。今後もペロブスカイト太陽電池は研究され続けるだろうが、より安価な材料から、より単純なプロセスでつくることができるよう、更なる技術の開発が期待される。そうあってこそ低コスト化が実現し、社会に普及する太陽電池となるだろう。ペロブスカイト太陽電池がより身近なものになり、誰もが知り、使えるものになることを願ってやまない。

謝辞

本冊子に記載の実験内容の多くは桐蔭横浜大学宮坂研究室の協力がなければ完成しなかった。宮坂力先生、池上和志先生、古郷敦史博士(現、産業技術総合研究所)、卒研生の小林俊輔氏、実験に参加していた桐蔭学園高校の生徒さんたち、実験と画像撮影に協力してくれた津山工業高等専門学校 廣木ゼミの松原巧君、出口翔斗君、竹内嗣人君、西山政隆君、浜田将聖君、そして宮坂研に同行して下さった白川英樹先生に心から感謝する。

参考文献

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