有機合成化学

ケトスルホキソニウムイリド:安全で用途の広いカルベン等価体

ケトスルホキソニウムイリドの反応

CoreyとChaykovskyがケトスルホキソニウムイリドについて報告したのは1960年代のことでした[1]。この化合物群は安定性が高いことから、近年、大量合成の現場などでα-ジアゾカルボニル等価体として注目を集めています[2-4]。1993年にBaldwinはヘテロ環拡大反応におけるカルベン等価体として、ケトスルホキソニウムイリドの遷移金属触媒反応を報告しています[5]。その後、2009年にMSDがこの反応を製造プロセス等への応用を進めたことで[6]、これらの試薬の注目度が高まりました。2017年、Li[7]とAïssa [8]は、ケトスルホキソニウムイリドを用いた遷移金属触媒反応によるC-H結合活性化に成功し、応用の幅を大きく広げました[9]。例えば、この試薬はアゾロピリジン類やアゾロピリミジン類を含む、環の継ぎ目に窒素原子を持つ[5,6]-ビシクロヘテロ環化合物のような有用化合物の合成が可能になります。

下図にまとめてあるケトスルホキソニウムイリドの反応バリエーションは、この試薬を用いた新しい反応開発や創薬研究の可能性を探る参考になるでしょう。

ケトスルホキソニウムイリドの利点

ケトスルホキソニウムイリドは対応するカルボン酸とその誘導体より一工程で合成されます。これらの試薬は一般的に結晶性固体でハンドリングが容易です。自由度が高いカルベン等価体で、副生成物として生成するのはジメチルスルホキシドです。対照的に、α-ジアゾカルボニル化合物は便利な試薬である一方で、反応に伴う窒素ガス発生は安全面で大きな問題点となります。

ケトスルホキソニウムイリドの代表的な金属触媒反応例

Representative Metal-Catalyzed Reaction Products

 

本スポットライト記事執筆ご協力頂いたAndrew Streit, Gia Hoang, および, Jonathan Ellmanに感謝申し上げます。

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参考文献

  1. Corey, E. J.; Chaykovsky, M. J. Am. Chem. Soc. 1964, 86, 1640.
  2. Wang, D.; Schwinden, M. D.; Radesca, L.; Patel, B.; Kronenthal, D.; Huang, M.-H.; Nugent, W. A. J. Org. Chem. 2004, 69, 1629.
  3. Molinaro, C.; Bulger, P. G.; Lee, E. E.; Kosjek, B.; Lau, S.; Gauvreau, D.; Howard, M. E.; Wallace, D. J.; O’Shea, P. D. J. Org. Chem. 2012, 77, 2299.
  4. Mangion, I. K.; Ruck, R. T.; Rivera, N.; Huffman, M. A.; Shevlin, M. Org. Lett. 2011, 13, 5480.
  5. Baldwin, J. E.; Adlington, R. M.; Godfrey, C. R. A.; Gollins, D. W.; Vaughan, J. G. J. Chem. Soc., Chem. Commun. 1993, 1434.
  6. Mangion, I. K.; Nwamba, I. K.; Shevlin, M.; Huffman, M. A. Org. Lett. 2009, 11, 3566.
  7. Xu, Y.; Zhou, X.; Zheng, G.; Li, X. Org. Lett. 2017, 19, 5256.
  8. Barday, M.; Janot, C.; Halcovitch, N. R.; Muir, J.; Aïssa, C. Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 13117.
  9. For a review, see: Wu, X.; Sun, S.; Yu, J.-T.; Cheng, J. Synlett 2019, 30, 21.
  10. Hoang, G. L.; Ellman, J. A. Tetrahedron 2018, 74, 3318.
  11. Halskov, K. S.; Witten, M. R.; Hoang, G. L.; Mercado, B. Q.; Ellman, J. A. Org. Lett. 2018, 20, 2464.
  12. Hoang, G. L.; Streit, A. D.; Ellman, J. A. J. Org. Chem. 2018, 83, 15347.

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