有機合成化学

イナミド:多目的で適用範囲の広い合成ビルディングブロック

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はじめに

応用範囲の広い、新たな試薬の開発により、現代の有機合成反応は大きな進展を遂げ、複雑な化合物の迅速かつ高効率な合成が可能になりました。こうした中から本記事では、窒素が結合したアルキンである「イナミド」について紹介します。イナミドは各種アルキンの中でも最も応用範囲が広く、新たな化学反応を創り出す際に、大変魅力的な候補化合物となります。

アルドリッチでは、Gwilherm Evano教授のご協力のもと、各種イナミド誘導体を提供しています(805564805572805580805599805602)。イナミドは近年、有機合成分野において鍵となるビルディングブロックとして注目され、この10年の間に独特の反応性を活かした新反応が続々と報告されています1,2,3

イナミドの概要

電子供与性の窒素原子が結合することで、アルキンの三重結合には強い電子密度の偏りが生じます。このためイナミドでは、通常のアルキンでは不可能な、官能基・位置・立体選択的な反応が可能になります。イナミンの場合と異なり、イナミドでは窒素原子上の電子求引基によって反応性が適度に緩和されています。また、窒素上の置換基としてはアシル基、アルキルオキシカルボニル基、トルエンスルホニル基などが利用可能で、その選択により反応性を調整することもできます。これら窒素上の置換基は、反応の効果的な配向基やキラル補助基として利用できる他、時には反応に関与することもあります。

イナミドからは、他の方法では困難な、高い反応性を持った合成中間体を生成することが可能であり、窒素官能基を化合物に導入するための極めて有用な試薬となります。イナミドを出発物質とした含窒素環の合成は、ヘテロ環合成の分野に大きなインパクトをもたらし、新たなパラダイムをもたらしました4。天然物や医薬品合成の分野においても、イナミドを出発物質に用いることで、今までにない逆合成ルートが可能となり、短段階での合成が実現しています5

下に、イナミドを用いたいくつかの合成中間体、化合物骨格、天然または生理活性を有する化合物の合成例を示します。

イナミドを用いた合成の例

特長

  • 空気、湿気、熱などに安定
  • イナミンの安定な代替物
  • 高極性、高反応性のアルキン
  • 多くの合成反応に用いうる優れたビルディングブロック

主な利用例

イナミドを用いる多くの合成反応のうち、いくつか代表的なものを以下に示します。

  1. イナミドは、アルデヒド16やイミン17からオレフィンへの変換に用いることができます。用いる酸触媒によって、生成するアルケンの幾何選択性を変化させることができます。

    イナミドの反応例1

  2. Evansの不斉オキサゾリジノン補助基を有するキラルなイナミドに、まず有機銅化合物を作用させ、さらにアルデヒドを加えることで、アルドール型生成物を得ることができます。この反応により、長らく課題であったアルドール型反応による四級不斉中心の形成が実現しました18

    イナミドの反応例2

  3. イナミドは、高い反応性を示すケテンイミニウムカチオンの前駆体ともなります。ケテンイミニウムカチオンは連続的な環化反応を起こし、複雑な含窒素ヘテロ環化合物を生成します12

    イナミドの反応例3

本記事の作成にご協力いただいたCédric Theunissen, Morgan Lecomteの両氏及びGwilherm Evano教授に感謝いたします。

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References

  1. Evano, G.; Coste, A.; Jouvin, K. Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 2840.
  2. DeKorver, K. A.; Li, H.; Lohse, A. G.; Hayashi, R.; Lu. Z.; Zhang, Y.; Hsung, R. P. Chem. Rev. 2010, 110, 5064.
  3. Evano, G.; Theunissen, C.; Lecomte, M. Aldrichimica Acta 2015, 49, in press.
  4. Wang, X.-N.; Yeom, H.-S.; Fang, L.-C.; He, S.; Ma, Z.-X.; Kedrowski, B. L.; Hsung, R. P. Acc. Chem. Res. 2014, 47, 560.
  5. Evano, G.; Theunissen, C.; Pradal, A. Nat. Prod. Rep. 2013, 30, 1467.
  6. Gourdet, B.; Lam, H. W. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 3802.
  7. Peng, B.; Huang, X.; Xie, L.-G.; Maulide, N. Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 8718.
  8. Das, J. P.; Chechik, H.; Marek, I. Nature Chem. 2009, 1, 128.
  9. Mulder, J. A.; Hsung, R. P.; Frederick, M. O.; Tracey, M. R.; Zificsak, C. A. Org. Lett. 2002, 4, 1383.
  10. Gati, W.; Rammah, M. M.; Rammah, M. B.; Couty, F.; Evano, G. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 9078.
  11. IJsselstijn, M.; Cintrat, J.-C. Tetrahedron 2006, 62, 3837.
  12. Theunissen, C.; Métayer, B.; Henry, N.; Compain, G.; Marrot, J.; Martin-Mingot, A.; Thibaudeau, S.; Evano, G. J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 12528.
  13. Yun, S. Y.; Wang, K.-P.; Lee, N.-K.; Mamidipalli, P.; Lee, D. J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 4668.
  14. Zhang, Y.; Hsung, R. P.; Zhang, X.; Huang, J.; Slafer, B. W.; Davis, A. Org. Lett. 2005, 7, 1047.
  15. Mak, X. Y.; Crombie, A. L.; Danheiser, R. L. J. Org. Chem. 2011, 76, 1852.
  16. You, L.; Al-Rashid, Z. F.; Figueroa, R.; Ghosh, S. K.; Li, G.; Lu, T.; Hsung, R. P. Synlett 2007, 1656.
  17. Shindoh, N.; Kitaura, K.; Takemoto, Y.; Takasu, K. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 8470.
  18. Minko, Y.; Pasco, M.; Lercher, L.; Botoshansky, M.; Marek, I. Nature 2012, 490, 522.

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