抗体

抗体101 (抗体基礎知識)

ハカセのじっけん基礎知識

 

「抗体101」では知っておくと便利な抗体の基礎知識を解説および免疫染色、ウェスタンブロットなど抗体を使う一般的な実験プロトコールを掲載しています。

抗体を用いた実験プロトコール(PDF)

抗体の基礎知識

① 抗体の基本構造

抗 体は特定の物質(抗原)に対して結合する働きを持つイムノグロブリン(免疫グロブリン)の総称です。Bリンパ球で産生される抗体は、血漿中に分泌され、生 体内で細菌やウイルスなどの異物(抗原)を認識・排除する免疫システムの中心的な役割を果たしています。この特定の抗原を認識する作用を利用して、抗体は 生物学の実験や医療、医薬への応用に利用されています。

抗体は同じ構造をした2本の重鎖(H鎖, heavy chain)と2本の軽鎖(L鎖, light chain)から形成され、H鎖(分子量 約50 kDa)とL鎖(分子量 約25 kDa)がL鎖のC末端付近でジスルフィド結合(S-S結合)によって結びつき、Y字型の構造をしています(分子量 約150 kDa)。

抗 体がタンパク質分解酵素のパパイン(papain)によってY字構造の根本付近で切断された場合、C末端側(Y字の下部)に1つのFcフラグメント、N末 端側に2つのFabフラグメントが得られます。FabフラグメントはN末端側のH鎖とL鎖が結合している状態です。また、タンパク質分解酵素のペプシン (pepsin)によってヒンジ領域(H鎖のジスルフィド結合部)を残して切断された場合、C末端側に2本のH鎖、N末端側に2つのFabフラグメントが 結合しているフラグメントF(ab‘)2が得られます。

Fcは同一クラス、サブク ラ ス内で共通のアミノ酸構造から成る定常領域で、H鎖のみで構成され炭化水素鎖が結合しています。IgGおよびIgM分子のFc領域は免疫反応調節に関与す る細胞(マクロファージなど)の細胞表面レセプターへの結合能があり、免疫反応を調節するサイトカインの放出を促進する機能があります。

Fab 部分ではH鎖とL鎖がジスルフィド結合で結合し、抗原結合領域を形成しています。この抗原結合領域は各抗原の特異性により異なるため、可変領域と呼ばれま す。イムノグロブリン1分子に抗原結合領域が2個所存在するため、理論的に各イムノグロブリンは2つの抗原分子と結合可能です。

② イムノグロブリンのクラス、サブクラス

イムノグロブリン (免疫グロブリン) は主にIgA、IgD、IgE、IgG、IgMの5種類のクラスに分類され、クラスごとにFc領域(パパインによって切断されたH鎖側の領域)の配列が異なります。その他のイムノグロブリンとして、鳥類は卵⻩中にIgYを産生します。 IgA、IgD、IgE、IgG、IgMの各クラスのH鎖はそれぞれギリシャ文字でα、δ、ε、γ、μ鎖と表記されます。

さらに、同一のクラス内でアミノ酸構造が異なるサブクラスを持っているイムノグロブリンもあります。ヒトIgGはIgG1、IgG2、IgG3、IgG4の4種類のアイソタイプ (サブクラス) に分類され、それぞれのH鎖はγ1、γ2、γ3、γ4と呼ばれています。

L鎖についてはκ鎖、λ鎖の2種類に分類され、生物種によりκ鎖、λ鎖の割合が異なります。

イムノグロブリンの軽鎖の比

生物種 κ/λの比率
Human ヒト 67%/33%
Mouse マウス 95%/5%
Rat ラット 99%/1%
Rabbit ウサギ 90%/10%
Goat ヤギ 1%/99%
Sheep ヒツジ 1%/99%
Pig ブタ 50%/50%
Bovine ウシ 1%/99%
Horse ウマ 1%/99%
Chicken ニワトリ N/A

ヒト イムノグロブリンの特性

  lgG lgA lgM lgD lgE
H鎖 (重鎖) クラス γ       α   μ δ ε
H鎖 サブクラス γ1 γ2 γ3 γ4 α1 α2 None None None
H鎖 分子量 59 kDa 50 kDa 60 kDa 50 kDa 55 kDa 55 kDa 75 kDa 62 kDa 70 kDa
L鎖 (軽鎖) κ, λ κ, λ κ, λ κ, λ κ, λ
L鎖 分子量 *
(κおよびγ)
23 kDa 23 kDa 23 kDa 23 kDa 23 kDa 23 kDa 23 kDa 23 kDa 23 kDa
総分子量 150 kDa 150 kDa 170 kDa 150 kDa 160 kDa
(血清型)
600 kDa
(分泌型)
160 kDa
(血清型)
600 kDa
(分泌型)
970 kDa 180 kDa 180 kDa
標準的な血清中濃度
(mg/mL)
5-9.5 2.2-4.8 0.4-1.0 0.1-0.6 0.4-3 0.1-0.5 0.2-2.8 <1 <1
吸光係数 (0.1%, 280 nm) 1.4 1.4 1.4 1.4 1.32 1.32 1.18 1.7 1.53
補体固定 weak weak strong no no no strong no no
Fc受容体結合 strong weak strong weak yes yes yes no yes
脂肪細胞、好塩基球の脱顆粒 no no no no no no no no yes
胎盤通過性 strong weak strong strong no no no no no

*軽鎖はすべてのイムノグロブリンクラスに存在しています。一般的にヒトではκ鎖67%、λ鎖33%の比率で見られます。他生物種の比率は下表「イムノグロブリン軽鎖の比」をご覧下さい。

ヒト イムノグロブリンの特性

  lgG lgA lgM lgD lgE
H鎖 (重鎖) クラス γ α μ δ ε
H鎖 サブクラス γ1 γ2a γ2b γ3 None None None None
lgG中の比率 46% 24% 27% 2%        
L鎖 κ (約95%), λ (約5%) κ (約95%),
λ(約5%)
κ (約95%),
λ(約5%)
κ (約95%),
λ(約5%)
κ (約95%),
λ(約5%)
相分子量 (kDa) 160 160 160 160 160 (モノマー)
350-400
900 180 190
標準的な血清中濃度 (mg/mL) 0.3-5.0 0.1-4.0 0.1-5.0 0.1-0.2 0.01-0.03 0.1-1.6 0.003-0.01 0.0001-0.001
血清中半減期 (日) 8-11 3-12 2.6-3.5 4-8 0.5-1 0.5-1 <1 <1
電気泳動移動度 Fast Slow Slow Slow        
炭化水素 (%) 2-3 2-3 2-3 2-3 7-11 9-12 12-15 12
補体固定 - +++ +++ +/- - +++ not known not known
吸光係数 (0.1%, 280 nm) 1.4 1.4 1.4 1.4 1.35 1.18    
沈降係数 6.6 6.6 6.6 6.6 6.7 19 6.5 8

イムノグロブリンの構造模式図

③ 抗体の形状

抗原を免疫した動物の血清 (抗血清) やモノクローナル抗体を産出するハイブリドーマから得られる抗体は様々な方法で分離または精製されます。それぞれの精製法によって抗体の反応性は異なることがありますので、目的に応じた形状を選ぶことでより良い結果が期待できます。

抗体製品の形状 説明
IgG分画 (IgG Fraction) IgG分画は全抗血清からイムノグロブリン分画を分離し、さらにイオン交換クロマトグラフィーによって得られた分画です。IgG分画は宿主動物の血清タンパク質は基本的に含まれていません。
IgG分画抗体は非常に強いアフィニティが必要な時に有用とされ、特に検出する目的の抗原の量が少ない時にもっともよく利用されることがあります。また、アフィニティが強すぎることによって、アフィニティ精製を行う際、担体から目的の抗原が溶出されにくくなることがあります。
アフィニティ精製 (Affinity Isolated, Affinity Purified) 抗血清を抗原をアガロースなどの担体に結合させた免疫特異的な精製法によってアフィニティ精製抗体が得られ、基本的に目的の抗原に結合するような宿主動物の血清タンパク質は除去されています。アフィニティ精製はもっとも精製された状態で、非特異的結合が少ない傾向があります。
非特異的な結合が少ないことが期待されるため、非特異的結合によるバックグランドを抑えたい場合によく用いられることがあります。
腹水 (Ascites Fluid) 腹水は腹腔内の液体で、特異的なモノクローナル抗体を発現するハイブリドーマ細胞を腹腔に注入したマウスから得られ、遠心によって脂質層と細胞ペレットが除去されます。腹水は特異的な抗体の他に宿主動物のイムノグロブリンなど血清タンパク質が含まれています。特異的な抗体の濃度は一般的に1-10mg/mL、総タンパク質濃度は約20mg/mLです。
培養上清 (Tissue Culture Supernatant) 特異的な抗体を分泌するハイブリドーマを培養した培養液から遠心して培養上清が得られます。一般的に培養上清には培養に使用した5-10%のウシ胎児血清 (FBS) が含まれています。
精製イムノグロブリン (Purified Immunoglobulin) 精製イムノグロブリンは一般的にモノクローナル抗体をprotein Aやprotein Gでアフィニティ精製したものを示しています。
F(abʼ)2フラグメント(F(abʼ)2 Fragment) F(abʼ)2フラグメントはIgGをペプシンで切断することで得られるFc領域を含まない可変領域(2ヶ所の抗原結合部位を含む) から成るフラグメントです。
リンパ節や脾臓や末梢血のようなFc受容体を持つ細胞 (マクロファージ、Bリンパ球、ナチュラルキラー細胞) を含むサンプルに抗体のFc領域が非特異的に結合して高いバックグランドが生じる場合があり、その問題を避けるためにF(abʼ)2フラグメント抗体が用いられることがあります1
F(abʼ)2フラグメントはIgGに比べてサイズが小さいため電子顕微鏡による組織染色に用いられます。
F(abʼ)2フラグメントは2ヶ所の結合部位を持つことから抗原のクロスリンクが可能で、免疫沈降アッセイやロゼットアッセイ2、表面抗原を介する細胞凝集に利用されます3

リファレンス
1.Saito, K. et al., Decreased Fc gamma receptor III (CD16) expression on peripheral blood mononuclear cells in patients with Sjogren'ssyndrome. J. Rheumatol., 25, 689-696 (1998).
2.de Saint Martin, J., Idiotypic and anti-idiotypic determinants on lymphocytes during anti-Rh immunization. Rev. Fr. Transfus. Immunohematol., 26, 573-583 (1983).
3.De Reys, S., et al., Fc-independent cross-linking of a novel platelet membrane protein by a monoclonal antibody causes platelet activation. Blood, 84, 547-555 (1994). These kits are comprised of universal reagents for use with primary antibodies in immunohistology, ELISA, and immunoblotting.