生体材料

「ドラッグデリバリーにおける高分子科学の手法」

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【高分子材料を用いたドラッグデリバリーシステム(DDS)研究に最適】

ドラッグデリバリーにおいて、溶解性の向上・放出制御・標的志向化に重要な役割を担う高分子科学のアプリケーションと実験手順を紹介します。

  • DDS研究者によるプロトコール紹介
  • 低分子、核酸、タンパク質の送達
  • キーテクノロジー
    • 薬剤コンジュゲートと PEGylation
    • 生分解性ナノ粒子とミセル
    • RAFT重合を利用したADCのための高分子キャリア
    • デンドロン
    • 応答性ドラッグデリバリーシステム
    • 核酸デリバリーのためのポリマー材料

目次

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序文

医学とバイオテクノロジーの急速な進歩は創薬分野を牽引し、新規の非常に強力で標的特異的な、多数の薬剤候補の開発につながりました。研究の急速な進展および創薬初期段階にもかかわらず、多くの薬物候補は、有効性の低さ、生物学的利用能の制限、および効果的な薬物送達に関連するその他の課題のために、前臨床評価中にドロップアウトします。低分子薬物は、低い溶解性、低い安定性、短い循環時間、およびそれらの治療効果を制限する非特異的毒性が問題となります。また、核酸、ペプチド、蛋白質などのバイオ医薬品は、安定性に乏しく、体からの排出が速いため、しばしばその利用が制限されます。こうした課題は、新しい医薬品の複雑さと多様性が相まって、バイオアベイラビリティや送達の障害を克服する新しいドラッグデリバリーシステムの進化を促進しています。しかしながら、ポリマーを用いた薬物送達方法の重要性が高まっているにもかかわらず、薬物送達に関する材料および方法は、ポリマー合成分野以外では広く利用されていません。

効果的な薬物送達とは、適切な場所、適切な時間および適切な量で薬物送達を可能にするために、各治療薬の薬物動態および薬力学を改善することです。デリバリーシステム研究では、薬効改善の為に3つの主要な戦略が用いられます。

制御された薬物放出

薬効は、治療濃度域内に濃度を維持すること(有効薬量)によって向上します。治療薬を含んだ高分子キャリアは、薬物拡散、溶解速度、またはキャリアの分解を制御することによって、薬剤の制御された時間的および空間的放出を可能にします。

標的化デリバリー

臓器、組織、細胞または細胞小器官レベルでの局在化によって、薬物の有効性を高め、毒性を最小限に抑えることができます。標的化は、核酸、ペプチド、抗体、或いは特異的な細胞受容体タンパク質や核酸、多糖類などと結合するようなその他の化合物をはじめとする親和性試薬でキャリアを被覆または結合することで行います。

溶解性の向上

薬物の溶解性および安定性が低い場合、他の点では有望な治療薬候補であってもその有効性がしばしば低下します。薬物送達システムでは、薬物送達担体中へのカプセル化またはポリマーとの結合によって、親油性および疎水性薬物のin vivo溶解性を改善することができます。

高分子ドラッグデリバリーシステムの選択

高分子ドラッグデリバリーシステムには3つの主要なカテゴリーがあります。コロイド担体(ミクロ、ナノ粒子、ミセル、ミクロ/ナノゲル)、移植可能なネットワークまたはヒドロゲル、およびポリマー薬物コンジュゲートです。残念ながら、広範な種類の治療薬を効果的に送達可能ないわゆる「銀の弾丸」は存在しません。むしろ、薬物送達システムの選択では、薬剤の性質や薬物送達システム固有の特性を考慮する必要があります(図1)。化学的性質、溶解度、力価、作用部位、クリアランス速度などの各薬物特性は、所望の結果を得ることができる適切な薬物送達システムの選択に影響を及ぼします。加えて、ドラッグデリバリーシステムの種類により、薬物担持量、放出時間、および投与に最も適した経路が決定されます。さらに、ドラッグデリバリーシステムの特性(サイズ、表面電荷および疎水性、形状、柔軟性、標的部位の含有)は、体内での機能および分布に影響を及ぼします。各ドラッグデリバリーシステムの利点と制限について表1にまとめました。いずれの担体からの薬物放出も、薬物特性、ポリマー特性、および環境/in vivo条件との間の複雑な相互作用によって決定される点に注意が必要です。

ドラッグデリバリー製剤の選択プロセス

図1 ドラッグデリバリー製剤の選択プロセス

表1 ドラッグデリバリーシステムの利点と制限

ドラッグデリバリーシステムとポリマータイプ 利点 制限
マイクロ粒子
  • 生分解性ポリマー
  • 天然高分子
  • さまざまな薬物をカプセル化
  • 持続的な放出が可能
  • バースト放出の可能性(局所的な毒性につながる可能性)
ナノ粒子
  • 生分解性ポリマー
  • 天然高分子
  • 安定したデリバリーシステム
  • サイズが小さいため、組織や腫瘍への保持と浸透が強化される
  • 細網内皮系(RES)での非特異的な取り込み
ミセル
  • 両親媒性ブロック共重合体
  • 疎水性薬物の溶解度の向上
  • 安定性が低く、追加の架橋が必要な場合がある
薬物コンジュゲート
  • 親水性ポリマー
  • デンドリマー
  • 薬物の流体力学的半径の増加により、循環半減期が延長され、クリアランスが減少
  • 薬物の免疫原性と分解の低下
  • コンジュゲーションにより薬物活性が低下する可能性
  • 持続的ではあるものの、制御された放出ではない
  • 低い薬物担持量
ハイドロゲルまたはインプラント
  • 親水性ポリマー
  • 生分解性ポリマー
  • 天然高分子
  • 幅広い放出期間(数週間から数か月)
  • 局所的デリバリーに有用
  • 投与頻度の減少による、患者のコンプライアンス(服薬遵守)の向上
  • 薬物の溶解性が効用を制限する可能性
  • 実現可能なデリバリー経路の制限
  • デリバリーには切開もしくはより大きなゲージの針が必要になる場合がある
  • 局所的なdose dumping(過剰放出)の危険性

ドラッグデリバリー材料の選択

ポリマーの選択によってドラッグデリバリーシステムの性能は大きく影響を受けます。そのため、カプセル化効率、放出速度、および放出持続時間を制御するために、ポリマーを慎重に選択する必要があります。薬効を改善するための三つの鍵となる薬物送達戦略を実施するために、多くのポリマーが様々な薬物送達システムに用いられます(表2)。ポリマービルディングブロックの多様性は、ドラッグデリバリー製剤の選定をさらに複雑にする可能性があります。DuとStenzelが(本レビューで)述べているように、ポリマー選択において最も重要な要素は、薬剤とポリマーの相互作用を考慮することです。ポリマーの選択は薬物放出のメカニズム(バルク侵食、システム劣化)を決定し、ポリマーの特性(分子量、表面電荷)の選択は、放出速度や薬物動態に影響を及ぼします。薬物送達システムからの放出のより細かい調整は、複数のタイプのポリマーを用いるか、または添加剤を用いることによって行います。

表2 ポリマーの分類とドラッグデリバリーにおける役割

ポリマーの分類とドラッグデリバリーにおける役割

このガイドブックについて

本書は、高分子ドラッグデリバリーシステムの概要を示すとともに、これら技術を実験室で利用するために必要な、対応するプロトコールおよび製品情報を提供することを目的としています。高分子化学のバックグラウンドを持たない研究者でも、ドラッグデリバリー研究にポリマー材料を使用できるような内容になっていますが、DDS研究の最先端の手法も数多く収録されています。本ガイドブックが、化学者、エンジニア、薬学研究者、および生物学者にとって、トランスレーショナルリサーチを容易にするための様々な薬物送達技術を知るきっかけになることを期待しています。

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