グラフェン

新規グラフェン系ナノ構造 -製造、機能化、および設計-

Manuela Melucci,1 Simone Ligi,2 Vincenzo Palermo3
1ISOF – Consiglio Nazionale delle Ricerche (CNR), Italy
2GNext sas, Italy
3ISOF – Consiglio Nazionale delle Ricerche (CNR), Italy

Material Matters 2012, 12(2), 11 → PDF版

はじめに

グラフェンの発見から現在に至るまでのその進展度合いには目を見張るものがありますが、発見当初、この材料に関心を持ったのはほとんどが物理学者でした。十分な量の高品質グラフェンを製造することが困難だったため、接着テープで剥がした非常に単純な形状の単一シートのグラフェンを使用して、この新材料の驚くべき電子特性が研究されました。最初の革命から10 年後、グラフェンは一般の人々からも注目され、オンラインのソーシャルメディアで最も「フォロー」されている材料となり、極めて優れた新材料と考えられています1

しかし、加工性が低いことや、エレクトロニクス分野では電子構造にバンドギャップがないことなど、グラフェンの利用拡大を妨げる大きな問題が残されています。

最近では、化学の分野でもこのユニークな材料の研究が活発となっており、グラフェンの加工性や多用途性を向上させ、機能化および加工に関する様々な手法の開発が進められています。安価なグラファイトから出発する大規模なグラフェンの製造が実現されており2、金属基板または炭化ケイ素上で高品質のグラフェンを成長させる方法が最適化され、様々な分野で商業的または試作品段階の実用例が示されています3,4

これまでに、我々はグラフェンの特異な2次元(2D)形状が、真空、液体、固体薄膜中での有機分子との相互作用などのユニークな特性に与える影響を明らかにしてきました5,6

化学的処理を加えることで、溶解度が低く化学的にほぼ不活性なこのグラフェン材料から、エレクトロニクス、複合材料、エネルギー貯蔵、触媒などの用途に合わせて、単純な可溶性シートから2次元のグラフェンシートを集合させた3次元のバルク材料または発泡体といった階層構造まで、様々な形状の材料を作製することができます。

単一シートレベルでの溶液中のグラフェンの化学

グラフェンの加工および用途に合わせた機能化を行うための最も単純な方法は、溶液中において単一シートに処理を行うことです。大規模な製造方法として、「温和(soft)」な方法と「苛酷(harsh)」な方法があります。「温和」な方法では、グラフェン格子を損なわない非共有結合性の超分子相互作用が利用され7-9、「苛酷」な化学的方法は、酸化グラフェン(GO:graphene oxide)へ酸化した後に還元を行う手法で、シート表面に化学的欠陥が生じるのを避けることができません(図110-12

グラファイトの剥離およびグラフェンの機能化の概略図

図1 共有結合または非共有結合(超分子)に基づく方法によるグラファイトの剥離およびグラフェンの機能化の概略図

GOは、グラフェンのユニークな物性の多くが化学的欠陥に打ち消されてしまうため、長い間、グラフェン系材料の中であまり注目されていない物質でした。しかし、GOの高い加工性、多用途性、水溶性は、まさにこの特徴からもたらされます。熱的、化学的、または電気化学的な還元により導電性を復活させることが可能ですが、常にある程度の格子の損傷が残ります。そのため、還元型酸化グラフェン(RGO:reduced graphene oxide)の性能は、グラフェンと比較するとかなり低下します。それでも、様々な形状のGOおよびRGOの製造と応用の成功例が報告されており13-20、その一部は、最も注目されているグラフェンのエレクトロニクスまたは透明導電体への応用よりも実用化に近いように思われます。

グラファイトを剥離してグラフェンが得られる過程は、ナノスコピックおよびメソスコピックな複雑な現象です。他の可溶化処理と同様に、この過程は、化学的、静電的、およびファンデルワールス相互作用の間の複雑な競争に依存し21、マイクロスケールでの流体力学にも支配されます。我々は最近、機械的、化学的、および電気化学的な方法で剥離したグラフェンの系統的な比較研究を行いました22。3つの方法の中で、化学的酸化でGOを得る方法は非常に効率が良いものの、グラファイトの剥離には破壊を伴う方法であることが明らかとなりました。電場を使用して分子をグラファイト内に挿入する電気化学的な酸化法では、短時間でバルクのグラファイトの深部から剥離を行うことが可能ですが、同時にグラフェン格子の損傷も生じます。

超分子相互作用を利用する剥離法は有機溶媒中で超音波処理を行う方法で、最高品質のグラフェンが得られますが、超音波処理に高エネルギーが必要なため、シートの横の寸法が短くなります(通常<1 μm)。これらの3つの方法の違いを検討すると、剥離の速度および効率と材料品質の維持との間にトレードオフの関係があることがわかります22

溶液中で剥離したグラフェンシートを様々な分子またはナノ物体で化学的(共有結合的および非共有結合的)に修飾することで、固有の特性を持つ、目的に合わせた、新しいグラフェン系材料を得ることが可能です23。グラフェンは高度に共役したsp2炭素構造を持つため、広範囲で非局在化したπ電子が特徴の有機半導体または工業用色素などの多環芳香族有機材料に対し、グラフェンは強い親和性を持ちます。これら化合物はグラフェンとは異なり容易に加工可能で、HOMO、LUMO、およびバンドギャップを調整できます6

水または有機溶媒に対する溶解性を向上し、ポリマー複合材料中での分散性に優れ、新規のオプトエレクトロニクス機能を持つグラフェン-有機ハイブリッド材料を作製するため、グラフェンとこれら分子との間の親和性が現在調べられています。これまでに開発されたすべてのグラフェン系ハイブリッドシステムに対して公平で徹底的な概説を行うことは困難ですが、興味深い例として、有機材料に加え、金属ナノ粒子、生体分子、DNAなどを使用したハイブリッドが挙げられます。一般的には、ペリレン類9,24,25、ピレン類8,26-29、ポルフィリン類30–34、フラーレン類35、オリゴチオフェン類36,37、ポリチオフェン類38,39が使用されており、金属ナノ粒子40,41や生物学的成分42,43も利用されています。

溶媒の表面張力または溶解度をパラメータとして、異なる溶媒中のグラフェンの分散性を予測する複数の経験的モデル7がありますが、グラフェンと効率よく相互作用する分子とそうでない分子があることについて、分子レベルでの明確な理解は得られていません7。我々は、液体剥離法で安定な水性懸濁液を調製するための剥離剤として、水溶性ピレン化合物である複数のピレンスルホン酸ナトリウムの効率性を系統的に比較する研究を行いました8。これらのピレン誘導体はpH応答性を持ち、基礎研究の対象として興味深いだけでなく、フォトルミネセンス量子収率が高く、水溶性に優れ、毒性がないため、実用的な用途においても関心を集めています。また、ハイライトマーカー、鉛筆、石鹸などの用途で大量生産、実用化されています。

我々は、極性基の数を増加させた一連のピレン誘導体4種類を調べ、そのすべてがグラファイトを剥離して安定なグラフェンの懸濁液が得られることを見出しました。ピレン分子層1層で覆われた単層グラフェンシートがある比率で得られています26。懸濁液中のグラフェンの全濃度は、中心の疎水性のピレンに付加した極性基の数に大きく依存します。ピレン誘導体とグラフェンの相互作用における重要な要素として、ピレン分子とグラフェン表面の間に閉じ込められた溶媒分子の薄層が関与していることが分子動力学計算で明らかになりました。両親媒性のピレンスルホン酸分子は非対称な形状で強い双極子を持ちます。この分子が表面に接近するとその向きを変えて、最も効率的にこの溶媒の層に滑り込みます。シミュレーションの結果では、分子の双極子自体が重要なのではなく、溶媒層へ分子が「滑り込む」のを双極子が促進し、その結果、ピレン色素の芳香族コア部とグラフェン間の水分子が横方向に押し出されることが示されています。

グラフェンシート上の有機分子のナノスケール相互作用は、グラフェンの剥離に関する理解を深め向上させるための基礎的な観点から大変興味深いだけでなく8、先端応用の点においても重要な意味を持ちます。たとえば、一般的な工業用色素でグラファイトを剥離するというこのピレンを用いた手法は、グラフェンーポリマー複合材料の加工に応用されています45。同じピレンスルホン酸を使用して、窒化ホウ素、二硫化タングステン、硫化モリブデン、セレン化物およびテルル化物などの2D材料を同様に可溶化できることが示されています(図2)。これらの材料は、異なる2D材料を積層した光検出デバイスの作製にも使用できます44

ピレン誘導体の化学式および2D結晶を含む分散液

図2A)超分子グラファイト剥離法に使用したピレン誘導体4種類の化学式。(B)ピレン誘導体を使用して調製した2D結晶を含む分散液の光学画像(数字の1、2、3、4は(A)に示した有機色素のスルホン酸基の数)8,44

超分子相互作用に基づく非共有結合性の修飾方法と並行して、機能性有機化合物をグラフェンまたは酸化グラフェンに共有結合させる様々な合成法が世界中で提案されています。この目的を達成するためには、より高効率で制御可能な合成プロトコルの開発という難しい課題があります。グラフェンの分散性は低く、本質的に不活性な化学構造を持つため、GOと比較して反応性が遥かに限定されます。そのため、大半の場合、フリーラジカルまたはジエノフィルとC=C結合との間に共有結合を生成する手法が使用されています46,47。グラフェンとは異なり、GOは、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシド基、ヒドロキシル基を介して通常の方法で反応するので、容易に修飾できます。その中でも、GOの官能基化に最もよく使用される合成法は、カルボキシル基の活性化に続いて求核基(アミン類37)と反応させる方法です。最近提案された別のGO官能基化の方法では、マイクロ波照射で表面のヒドロキシル基をシリル化する手法が使用されています。この方法で、トリアルコキシシランを末端に持つπ共役発色団をGOシートの表面にグラフトすることができます36

物理的ドーピング48-50または共有結合によるグラフト37,51の後で、機能性分子材料の特性がグラフェンの挙動に与える影響について複数の研究が報告されています。それと同時に、分子の性質がグラフェンの存在によってどのように影響されるかという疑問も残ります。グラフェンおよびGOが発光分子の光電子放出を強く消光することは広く知られていますが52-54、グラフェン-有機分子集合体のナノスケールの構造は、この相互作用にどの程度の影響を与えるのでしょうか。システムの構造をナノスケールで設計することで、この相互作用を調節することができます。例えば、柔軟なアルキル鎖をリンカーとしてオリゴチオフェン色素をGOに結合したときに観測される消光効率は低く(~16%)37、短いリンカーを使用すると強い消光(~60%)が得られます51。同じオリゴチオフェン類が自己集合した単分子層にGOを堆積した場合、ほぼ完全な消光が達成されます52図3Aを参照)。

GO–オリゴチオフェン複合体

図3A)GOシートによるSiOx上のオリゴチオフェン分子薄層の蛍光消光52。(B)柔軟なジアミンをリンカーに使用してオリゴチオフェン色素でGOを官能基化して得られた蛍光性GOシート37。(C)エタノール中の共有結合性GO–オリゴチオフェン複合体の画像。pHが中性(左)、HClで酸性化(中央)、トリエチルアミン(TEA)で再び中性化(右)。通常光(上段)およびUV照射(下段)。発光の切り替えが可逆的であることが示されています37

蛍光消光以外にも、同じGO–オリゴチオフェン集合体を使用して、この分子(オリゴチオフェン)をGOに結合したときに化学物理的な特性がどのように影響を受けるかについて研究が行われました。溶媒中で孤立している場合と、バルクの巨視的な表面に結合している場合で、分子は異なる挙動を示します。しかし、グラフェンまたはGOに結合している分子が置かれている環境は、2Dシートのサイズが通常の分子より遥かに大きいため、これらの中間にあたる曖昧な状況です。実際には従来のバルク表面に結合している状況に近いものの、それと同時に溶液に溶解しています5。我々は、分子が溶液中で遊離している場合とGOに結合している場合の発光の変化を確認するために、pH応答性の蛍光発光を利用してGOとテルチオフェン色素の相互作用を調べました(図3BC)。その結果、色素をGOに共有結合させても、色素の吸収および発光特性、特にpH応答性が変化しないことが明らかになりました。

溶液から実際の材料へ

グラフェン(または化学的に修飾したグラフェン)の2Dシートを溶液中で加工および機能化(超分子相互作用を利用または酸化グラフェンを経由)した後は、マイクロ/ナノ電極と合わせてシリコン基板に堆積して、トランジスタやセンサーなどのデバイスを非常に容易に作製できます。加工性の高さと、グラフェンと有機材料間の電荷移動が簡単なことを利用して、パーコレーション構造の調節が可能なデバイスを作製し、RGOが持つ良好な電荷移動度と有機材料の持つ半導体的挙動を融合することができます。

最近発表された例として、RGO/ポリ(3-ヘキシルチオフェン)二重層18、グラフェン/フェニルオクタン、グラフェン/アラキジン酸混合物55、グラフェンとpoly[N,N-9-bis(2-octyldodecyl)-naphthalene-1,4,5,8-bis(dicarboximide)-2,6-diyl]-alt-5,59-(2,29-bithiophene)]および(P(NDI2OD-T2))などの高性能半導体ポリマーとの混合物56が挙げられます。

グラフェンと有機材料を同時に堆積して分厚い混合層を形成したり55,56、順番に堆積して二重層18とすることが可能です。

グラファイトを剥離するπ共役有機分子の能力を利用して8,55、デバイスへの有機材料の堆積に使用する溶液の中でグラフェンの剥離を行うことができます。別の方法として、より「古典的」な溶媒を使用した2段階のex situ法でグラファイトを剥離した後、有機半導体と混合する方法も使用できます56。適切な溶媒を使用して電場をかけることで、ソース、ドレイン、または電極間へ選択的にシートを堆積することができます57,58

より複雑な多層構造へのグラフェンの加工

半導体ポリマーとの単純な混合物または二重層に加えて、化学的に修飾したグラフェンの高い加工性と可変性(tunability)を活かして、より複雑な構造を作製することが可能です。

交互積層(LbL:layer-by-layer)法で高品質グラフェンと1-ピレン酪酸N-ヒドロキシコハク酸イミドの自己組織化単分子層を交互に堆積した、多層「サンドイッチ」構造を作製できます。このような多層構造では、グラフェンにピレンがドープされているため電気伝導度が純粋なグラフェンと比較して6桁も向上することが示されています59。

同様の方法で、GOとポリ-L-リジンをLbL法で交互に堆積した多層構造も作製できます。GOを800℃に加熱して還元しポリ-リジンをドープすると、約488 F/cm3という非常に大きい体積静電容量と、2,000 V/sに達する並外れたレート特性を持つマイクロスーパーキャパシタが得られます。

様々な長さのリンカーで共有結合的に官能基化することで、2D多孔性を持つGO系の構造を作製できます。例えば、酸化グラフェン(GO)にp-キシレンジアミンを挿入するインターカレーション反応は、pillared typeグラフェン系材料を調製する簡便な方法です60。この方法では、p-キシレンジアミンと隣接するGOシートの表面のエポキシド基との架橋反応により、グラフェンのc軸に沿って束縛系(共有結合性の「縫い目」)が生成するので、元のGOと比較して層間距離を大幅に変えることができます。GOの層間距離を増加させると、元のGOと比較して材料の多孔性と比表面積が最大で5倍増加します。

溶媒剥離グラフェンシートと真空蒸着による金属スズ薄層の多層構造を作製すると、より粗い構造が得られます。Ar/H2中、300℃でアニール処理すると、スズ層が崩壊して孤立したナノピラーが生成され、グラフェンのスペーサーとしての役割を果たし、バッテリーのリチウムイオン貯蔵部になります(図4A61

生成した3D多層ナノ構造は、ポリマーバインダーやカーボンブラックを加えることなく、リチウムイオン二次電池の負極としてそのまま使用可能です。電気化学測定では、5 Ag-1もの電流密度で非常に大きい可逆容量と優れたサイクル特性を示しました。これは、熱蒸着などの真空技術と液体プロセスを組み合わせることで新規構造の作製が可能になった良い例です。

別の例としては、イオン液体で機能化した酸化グラフェンシートを構造規定剤に、レゾルシノール/ホルムアルデヒドポリマーを炭素前駆体に使用して、高度に均一なサンドイッチ型GOシートを多孔性炭素(PC:porous carbon)に埋め込むことができます。このPC/GO/PC多層サンドイッチ構造では、5 mV s-1で341 F g-1という優れたレート特性と大きな比容量が得られ、導電助剤なしで35,000サイクルを超える良好なサイクル安定性も示します。

溶液中または平坦な基板上の非常に薄い層の中で単一シートレベルのグラフェン複合材料を製造する方法が、主にエレクトロニクス用途で報告されています。さらに、よりラージスケールの例を挙げると、メソスコピックなテンプレートを使用してより複雑な構造を作製し、巨視的な階層構造を持つバルク材料を得ることができます。

マクロスケールへの展開:エネルギー貯蔵または触媒用発泡体

GOの酸化、還元および化学的機能化などを行うことで、金属62,63、ポリマー発泡体64、無機ZnOナノ結晶65、エマルジョン中の水-有機液体界面66,67といったマイクロまたはナノ多孔性テンプレートのほぼすべてにおいて、様々な種類の2Dシートを加工することが可能で、テンプレート上で直接成長させることもできます。グラフェンを使用して、他のナノ構造68や電極58を包む(wrap)もしくは被覆(coat)することもできます。逆に、表面を他の材料で被覆することで、導電性が低くあまり頑丈でない材料を支持する2D基板としてグラフェンを使用できます69,71

これらの構造は見た目が美しいことが多いだけでなく(図45)、グラフェンの特性と相乗的および補完的な特性を持つ他の材料でさらに機能化できるため、技術的な観点からも興味深いものです。

グラフェン/スズナノピラーのナノ構造

図4 A)グラフェン/スズナノピラーのナノ構造の調製手順の概略図および対応するSEM画像61B)RGOで支持したSn/Cナノケーブルの合成手順の概略図と対応するSEM画像71

グラフェン系3D構造テンプレート

図5 グラフェン系3D構造テンプレート。A)金属発泡体62B)ポリマー発泡体64を使用。C)~E)エマルジョン中66

グラフェンの電気的、光学的、機械的、熱的な特性は並外れたものですが、メディアで宣伝されているほどすべてに優れているわけではありません。エネルギー分野ではグラフェンよりも優れた特性を持つ材料もあります。Fe2O3は豊富に存在する無毒で安価な材料で、擬似キャパシタ電極として有望な候補です。その静電容量の理論値は大きく(1,007 mA h g-1)、一般的に使用されるグラファイト系材料の値(372 mA h g-1)を遥かに上回ります。しかし、電気伝導率が低く、サイクル安定性に優れていないため、Fe2O3系の電極の実用化は制限されています。そのため、次世代電池の開発においてグラフェンとFe2O3の併用が大きな関心を集めています。

我々は、電気化学的手法と溶液プロセス法を組み合わせて、エネルギー貯蔵用の階層型グラフェン-Fe2O3複合材料を作製しました。グラファイト片を急速に拡張し、この層間を拡張したグラファイトを電気化学的に効率良く剥離できる特注装置を使用して、電気化学的に剥離した酸化グラフェン(EGO:exfoliated graphene oxide)シートを作製しました。作製したシートをコロイド前駆体の水酸化鉄と共に犠牲ニッケル発泡体に堆積しました。これに続いて焼成処理を行う際、EGO発泡体に導電性が生じるのと同時にFe(OH)3がヘマタイト(α-Fe2O3)に変換されて、メソ多孔性EGO発泡体の表面にナノ多孔性Fe2O3層が形成されます。このようにして得られたグラフェン/金属酸化物ハイブリッドは、連続的で導電性のある3D複合材料であるため、階層型のメソ-ナノ多孔性構造(図7AD)を特長とする、リチウム貯蔵に最適な構造(図6)となります。標準的なボタン型電池の電極としての性能を最大限に向上させるため、液体プロセスを使用してFe2O3:EGOの比率を調節し、このナノ構造材料を最適化することができます63

ナノ多孔性Fe2O3層で被覆することにより、初期放電容量を701 mAh g-1まで上げることが可能です。これは市販の電池に匹敵する値で、初回の放電/充電サイクル後も高いエネルギー容量が維持されます(図7E)。

階層型グラフェン-Fe2O3複合材料

図6 電気化学的に剥離した酸化グラフェン(EGO)のニッケル金属発泡体テンプレート上への堆積と、それに続く焼成によって、酸化鉄(ヘマタイト)で被覆されてない/被覆された導電性発泡体(GF:conductive foam)を与えるプロセスの概略図63

メソ多孔性の導電性グラフェン発泡体

図7A)ナノ多孔性酸化鉄層で被覆した、メソ多孔性の導電性グラフェン発泡体のSEM画像。(B)(A)の挿入図。(C)多孔性Fe2O3/GF層の階層構造を示す図。(D)元のNi発泡体、GFおよびFe2O3/GFの試料を比較した写真。(E)Fe2O3:GFの比率を変化させて得られた比容量の値63

エネルギー貯蔵に加えて、触媒の分野でもグラフェン系多孔性構造の可能性に期待が持たれています。特に、燃料電池において不可欠な酸素還元反応(ORR:oxygen reduction reaction)の高効率正極触媒として、グラフェン系材料が有望であることが示されています。

より一般的な材料(窒素ドープカーボンブラックまたは窒素ドープグラフェンシート)に担持したFe3O4ナノ粒子と比較して、Fe3O4/グラフェン発泡体は開始電位がより正の値になり、正極電流密度が高く、アルカリ性電解液中のORRにおいて電子移動数が多いことが判明しています。これらの性能向上は、グラフェン系支持材の3Dマクロ細孔と広い比表面積によりORR特性が向上したためだと考えられます69。電気化学的なエネルギー貯蔵およびエネルギー変換の最先端で使用されている多孔性グラフェン材料に関する詳細なレビューが文献72で与えられています。

結論

現在、グラフェンの化学的な剥離、加工、および機能化の分野は急速に拡大しており、複数の科学的成果が毎月発表されています。グラフェンの品質標準化、特性制御、低価格化などが進むにつれて、この傾向は今後数年間でさらに加速し、世界中のより幅広い工業用途でグラフェンが使用されることが予想されます。多層グラフェン粉末は既に手頃な価格になっており、グラフェン系複合材料を実用化した製品が既に末端市場で販売されています。さらに、化学的機能化により複合材料中のグラフェンとポリマーマトリックスの相互作用が強化され、極めて少ない量のグラフェンを使用して機械的特性を向上することができます。

グラフェンの電子的特性は確かに際立っていますが、先進的で比類ない機能性を持つ非常に広範囲の材料の製造を可能にするのは、グラフェンの化学的な多用途性と加工性です。実際、グラフェン研究に刺激されて化学分野そのものが再び活気づいており、従来の有機化学的方法をグラフェンの機能化に改めて適用させるという、新たな課題が生まれています。これと並行して、様々な複合材料を作製するための新規のad hocな手順および反応の開発が必要です。分子薄層で被覆した単純なグラフェンシートからグラフェンと有機材料のバルク複合材料まで、さらには、有機材料、無機材料、生体材料と組み合わせるための頑丈で多機能な3D骨格としてのグラフェンを含む複雑な3D構造などの実現が期待されています。

グラフェンおよび2D材料については右記のページもご参考ください。
     

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