量子ドット

グラフェン量子ドット:特性、合成および用途

はじめに

コロイド状半導体量子ドット(QD:Quantum Dot)は、サイズに依存したユニークな電子的・光学的特性を示すため、太陽電池、発光ダイオード、生体イメージング、電子ディスプレイ、その他のオプトエレクトロニクスデバイスにおいて多くの応用が期待されており、研究開発が活発に行われています。

しかし、無機量子ドットは非常に高価なため、工業的な利用は遅れており、今のところ限定的な利用にとどまっています。さらに、無機量子ドットが強い毒性を持つことも新しい用途の開発を妨げています。最近、新規量子ドット材料であるカーボン量子ドット(CD、Cドット、CQD:carbon quantum dot)およびグラフェン量子ドット(GQD:graphene quantum dot)が、費用効率の高い代替材料として期待されています。CDおよびGQDは無毒で、良好な溶解性と安定したフォトルミネッセンスを示し、表面グラフト化しやすい利点があるため、無機量子ドットに代わる材料の候補として有望視されています。さらに、石炭やその他の炭素源からマルチグラムスケールのGQDを1段階で合成する方法が最近開発されたことから、大規模な工業生産の可能性が開かれています。

グラフェン量子ドットの合成

従来のグラフェン量子ドットの合成法では、グラフェン1またはフォトニック結晶2のような高コストの原料が使用され、収率はかなり低く、レーザーアブレーション法3、電子線リソグラフィ4または電気化学的合成法5といった高価な方法が必要だったため、GQDの商業利用は事実上不可能でした。最近の研究では、クエン酸/尿素などのかなり安価な有機的化合物からGQDを調製する方法が報告されており6、生産コストの削減や合成の大規模化が可能になっています。また、知られている中で最も安価な材料である石炭からGQDを合成する方法7は、将来、商業製品にGQDが使用される可能性をさらに高めています。その低い製造コストから、石炭由来のGQDは大規模な工業的利用が実現可能で、費用効率が高く環境に優しい代替材料として従来の無機量子ドットに代わることができるかもしれません。

代表的な方法では、濃硝酸中で石炭を撹拌し、100~120℃で数時間加熱します。溶液を冷却し、硝酸を蒸発させて再利用します。その後、グラフェン量子ドットをクロスフロー限外ろ過でろ過します。精製後、ロータリーエバポレーターで溶液を濃縮すると、固体のGQDが得られます。

グラフェン量子ドットの特性評価

原料、温度、反応時間などの製造工程のパラメータを調節することで、多様な高品質グラフェン量子ドットを作製することができます。図1に、青色発光GQD(900708)の代表的な光学およびTEM画像を示します。GQDから透明で安定した水分散液が得られ、通常、直径<5 nm、高さが1~2.0 nmのディスク型構造をとることがわかります。

グラフェン量子ドットの外観およびTEM像

図1 青色発光グラフェン量子ドットの代表的な光学およびTEM画像。(a)高濃度GQD分散液の光学画像。(b)希釈したGQD分散液を可視光(左)および365 nmのUV光(右)で照射した際の光学画像。(c)代表的なTEM画像。挿入図:GQDのHR-TEM画像。

グラフェン量子ドットの代表的なフォトルミネッセンス(PL:Photoluminescent)およびUV-VIS特性を図2に示し、シグマアルドリッチ から販売されているGQDのPL特性を表1に示します。

グラフェン量子ドットの光学特性

図2 グラフェン量子ドットのUV-VIS特性。(a)GQDの励起および発光強度の等高線図。(b)350 nmで励起したGQDのフォトルミネッセンス発光。(c)GQDの吸収スペクトル。

表1 グラフェン量子ドットのフォトルミネッセンス特性

  Blue
Cyan
Aqua Green
Quantum Yield (%) >70 >30 >35
Maximum excitation (nm) 350 420 485
Maximum emission (nm) 445 490 525

グラフェン量子ドットの用途

従来の量子ドットとは対照的に、グラフェン量子ドットは生体適合性および光安定性を示し、表面グラフト化が可能で、グラフェン由来の優れた熱的、電気的、機械的特性を持っています。これら特長から、次に示すような最先端かつ多様な用途における利用が期待されます。

  • セキュリティー/偽造防止/ブランド保護用タガント(taggant)材料8
  • 生体イメージング用マーカー9
  • 蛍光ポリマー10
  • 抗菌11、生物付着防止12、消毒システム13
  • 重金属14、湿度および圧力センサー15
  • バッテリー16
  • フラッシュメモリデバイス17
  • 太陽電池18
  • 発光ダイオード19

まとめ

現在、グラフェン量子ドットは限られた量でしか入手できないため、その応用はまだ開発段階にあります。石炭を原料としたGQD合成は、高品質材料の大規模生産が可能になる点で有望視されています。研究用の高品質GQDが大量に入手できるようになれば、GQD特有の性質がより詳細に研究され、新しい用途の開発も同時に加速するでしょう。

量子ドットやナノカーボン材料については右記のページもご参考ください。
カーボンナノ材料製品リスト
     

References

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