微生物培地の基礎
微生物試験には実験室で細菌、酵母、ウイルスなど、さまざまな生物が利用されます。発酵、タンパク質およびワクチン製造などの大規模プロセスは、生理活性がある細菌を大量に必要とします。このため、さまざまな用途において、適切な生化学的環境で微生物の特性を維持できるような栄養培地が必要とされています。
あらゆる微生物培地は栄養源、エネルギー源、必須ミネラル、バッファー、およびpH指示薬を含んでいます。また、選択物質、凝固剤を添加した培地もあります。宿主細菌を含む栄養培地で細菌ファージなどの偏性寄生体を培養する場合もあります。
典型的な微生物培地の基本成分は下記のとおりです:
- 栄養源-タンパク質、ビタミン、ミネラル、および炭水化物;多くはペプトンおよび肉抽出物の混合物
- エネルギー源-炭水化物;多くはグルコース
- 必須ミネラル-マイクロミネラルおよびマクロミネラル;多くはペプトンおよび肉抽出物中に存在
- バッファー-至適pHを保つ試薬;多くは特定アミノ酸、リン酸塩、クエン酸塩、および両極性イオン
- pH指示薬-色の変化により培地のpH変化を示す化学物質;ほとんどの場合はフェノールレッド
- 選択物質-特定の細菌のみが増殖できるような物質;抗生物質、亜テルル酸塩、アジ化物、および胆汁塩など
- 凝固剤-培地を必要に応じて固体または半固体状態に保つ物質;寒天が汎用されるが、ゼラチンも時折使用
- 増殖因子や酵素などの特定の物質が特殊な細菌の培地に成分として含まれている場合もあります
・微生物培地の種類
- 単純/基本培地:普通ブイヨンおよびペプトン水を含み、分子生物学研究分野で各種細菌の単離および培養に常用されています
- 複合培地:各種栄養の混合物を含み、アミノ酸源の正確な組成は同定されていません。チョコレート寒天、マッコンキー寒天、Lowenstein-Jensen培地などがあります
- 規定培地:ある種の細菌に必要な既知・規定の炭素・窒素を含みます
- 特殊培地:栄養条件が難しい細菌の増殖を促進し、標的以外の細菌の増殖を抑える特殊物質、あるいは、細菌を識別できる指示物質を含みます
| 培地名 | 内容 | 用途 |
|---|---|---|
| 細菌培地 | ||
| LB培地 | Lysogeny BrothまたはLBは、大腸菌の培養用として人気が高く汎用されている培地です。これは、赤痢菌指示株の培養のためにBertani Gによって初めて作成されました。LBは、ペプトン、酵母抽出液、NaCl、および寒天(固体培地の場合)を含む栄養培地です。NaCl濃度により、LB培地は下記のように分類される場合があります:LB - Miller, LB - LennoxおよびLB -law salt | LB培地は、クローニング、プラスミドを含むDNA、および遺伝子組換えタンパク質産生のための、大腸菌株の非選択的培養に適しています。抗生物質が添加される場合の選択的培養にも適しています。抗生物質耐性大腸菌株の選択的培養には、滅菌LB寒天(抗生物質有/無)を含むプレートも利用されます。 |
| 最小塩類(M9)培地 | M9培地は、必須塩類および窒素を含みます。 | 最小塩類(M9)培地は、クローニング、プラスミドを含むDNA、および遺伝子組換えタンパク質産生のための大腸菌株の非選択的培養に適しています。抗生物質が添加される場合の選択的培養にも適しています。 |
| Terrific Broth (TB培地)(改変型) | TB培地は、より短時間で、細菌を高収率で得ることができる富栄養培地です。 | TB培地(改変型)は、クローニング、プラスミドを含むDNA、および遺伝子組換えタンパク質産生のための大腸菌株の非選択的培養に適しています。抗生物質が添加される場合の選択的培養にも適しています。 |
| Hanahan液体培地(SOB培地) | SOB培地は、LB培地より高濃度のペプトン、アミノ酸、およびペプチドを含みます。 | Hanahan液体培地(SOB培地)により、高効率のコンピテント細胞の調製が可能です。 |
| SOC培地 | SOC培地は、グルコース添加による改変型SOB培地です。他の糖を利用する細胞プロセスはグルコース存在下で抑制されます。宿主細胞の生理機能に影響を与える可能性のある遺伝子組換えタンパク質の発現が抑制され、その結果、高効率の形質転換反応が起こります。 | SOC培地により、コンピテント細胞の高効率な形質転換が可能です。 |
| 2X YT培地 | 2X YT培地は、通常のLB培地の2倍濃度の酵母抽出液を含みます。より長い増殖期間を目的とした、高濃度の細胞の培養および維持に有用です。 | 2倍YT培地は、クローニング、プラスミドを含むDNAや遺伝子組換えタンパク質のための大腸菌株の非選択的培養、並びにM13バクテリオファージの培養に適しています。抗生物質が添加される場合の選択的培養にも適しています。 |
| NZCYM液体培地 | NZCYM液体培地は、アミノ酸、ペプチド、ビタミンを含む、低塩濃度の富栄養液体培地です。 | NZCYM液体培地は、クローニング、プラスミドを含むDNAおよび遺伝子組換えタンパク質産生のための大腸菌株やλバクテリオファージの非選択的培養に適しています。抗生物質が添加される場合の選択的培養にも適しています。 |
| 酵母培地 | ||
| 酵母窒素原基礎培地(Yeast Nitrogen Base)(アミノ酸含有/非含有) | Yeast Nitrogen Baseは、窒素源、ビタミン、微量元素および塩を含む栄養培地です。酵母培養を含む大半の発酵反応の基礎栄養培地の役目を果たします。 | Yeast Nitrogen Base(アミノ酸含有/非含有)は、それぞれ、酵母の培養用、あるいはアミノ酸および炭素要求性に基づく分類用に使用されます。 |
| ファージ培地 | ||
| NZ Amine®液体培地 | NZ Amine®液体培地は、アミノ酸、ペプチド、ビタミンを含む、低塩濃度の栄養培地です。 | NZ Amine® 液体培地はλバクテリオファージの増殖に適しています。 |
・よくある質問
Luria、Lennox、Miller LB組成の違いは何ですか?
LB培地(Lysogeny液体培地)の組成は当初、トリプトン、酵母抽出液、NaCl、およびグルコースでした。ほどなくしてグルコースが省かれ(Miller培地)、その後、NaClが半量になりました(Lennox培地)。用途によっては、塩をさらに減量する必要があります(Luriaの低塩培地)。
LB-Miller製品の中での違いは何ですか?
お客様のニーズに合った各種LB-Miller培地を販売しています。粉末および液体など、さまざまなフォーマットがあります。。LB寒天プレートの準備が容易な粉末も販売しています。L2542(LB Miller液体培地)L3522(LB Miller粉末培地)L3147(寒天入りLB Miller粉末培地)
用途に適した細菌培地の選び方
どの培地でも大腸菌はよく増殖しますが、プロトコルが無い場合、培養液を選ぶための一般的なガイドラインがあります。一般に、大腸菌の増殖・維持、DNAプラスミド作成、タンパク質製造にはLB-MillerおよびLB-Lennoxを使用します。Lennoxはある種の塩感受性抗生物質を使用したセレクションで必要な低塩組成です。LB-Luria低塩培地は、大腸菌増殖あるいはその他の制限要素で、可能な限り低塩が必要とされる特殊な用途に使用します。TB培地は大腸菌の増殖が速いため、高収率なタンパク質およびプラスミド DNAの生成に使用します。SOBは高効率なタンパク質、プラスミド DNA、およびコンピテント細胞の生成に使用します。SOCはコンピテント細胞の初回増殖および形質転換において使用します。
培地にマグネシウムを添加すると細胞密度が上がりますか?
マグネシウム非含有の微生物培養の場合、10~20 mM塩化マグネシウム(MgCl2)または硫酸マグネシウム(MgSO4)を添加すれば細胞密度が増す可能性があります。場合により、インキュベーターの振盪速度を上げる必要があります。
・微生物培地の選択ガイド
| 培地名 | 成分 | 製品番号 | フォーマット | 調製時の注意 | 用途 |
|---|---|---|---|---|---|
| LB – Miller |
| L2542 | 液体 | Ready-to-use | 通常の大腸菌培養に適している |
| L3522 | 粉末 | 25 gを水1 Lに混ぜ、オートクレーブ後、冷却して使用 | ||
| L3147 | 粉末および寒天 | 40 gを水1 Lに混ぜ、加温して溶解し、オートクレーブ後冷却して使用 | ||
| L5667 | 100 μg/mLアンピシリン添加寒天プレート | Ready-to-use | ||
| L0168 | 50 μg/mLアンピシリン入り寒天プレート | |||
| L0543 | 50 μg/mLカナマイシン入り寒天プレート | |||
| L0418 | 100 μg/mLカルベニシリン入り寒天プレート | |||
| LB – Lennox |
| L3022 | 粉末 | 20 gを水1 Lに混ぜ、オートクレーブ後、冷却して使用 | 塩感受性大腸菌株の培養に適している |
| L2897 | 寒天入り粉末 | 35 gを水1 Lに混ぜ、加温して溶解し、オートクレーブ後冷却して使用 | ||
| L7275 | 錠剤 | 各1.2 g錠を水48.3 mLに加え、オートクレーブ後、冷却して使用 | ||
| L7025 | 寒天入り粉末 | 各1.68 g 錠を水48.3 mL に加え、オートクレーブ後、冷却して使用 | ||
| L7658 | EZMix™ | 20.6 gを水1 Lに混ぜ、オートクレーブ後、冷却して使用 | ||
| L7533 | 寒天入りEZMix™ | 35.6 gを水1 Lに混ぜ、加温して溶解し、オートクレーブ後、冷却して使用 | ||
| L5542 | プレート | Ready-to-use | ||
| L9234 | 液体 | Ready-to-use | ||
| LB – law salt |
| L3397 | 粉末 | 15.5 gを水1 Lに混ぜ、オートクレーブ後、冷却して使用 | 低塩条件が必要な大腸菌株の培養に適している |
| L3272 | 寒天入り粉末 | 30.5 gを水1 Lに混ぜ、加温して溶解し、オートクレーブ後、冷却して使用 | ||
| Overnight Express Instant LB Medium |
| 71757-M | 顆粒状培地 | 1 L滅菌水にEasyPakの内容物を加え、10 mLグリセロールを添加後、2分間電子レンジで加熱し溶解させます。 Overnight Express Instant LB Medium は1 kgボトルサイズの製品もあります。顆粒状培地は、水への迅速かつ均一な溶解を可能にし、培地の凝集を防ぎ、飛沫粉末の吸入を防ぎます。 | 培養のモニタリングや細胞増殖中のIPTG添加無しで、通常の大腸菌のタンパク質発現が可能です。 |
| Overnight Express Instant TB培地 |
| 71491 | 顆粒状培地 | EasyPakは1 L の培養に十分な顆粒状培地60 gがアルミニウムホイルパウチに入っています。1 L滅菌水にEasyPak 内容物を加え、10 mL グリセロールを添加後、2分間電子レンジで加熱し、溶解させます。Overnight Express Instant LB培地は1 kgボトルサイズの製品もあります。顆粒状培地は、水への迅速かつ均一な溶解を可能にし、培地の凝集を防ぎ、飛沫粉末の吸入を防ぎます。 |
| 培地名 | 成分 | 製品番号 | フォーマット | 調製時の注意 | アプリケーション |
|---|---|---|---|---|---|
| 最小塩類 (M9) |
| M6030 | 粉末 | 56.4 g を水1 Lに混ぜて5倍原液溶液を調製し、オートクレーブ後冷却します。使用前に1倍に希釈します。 | 遺伝子組換え大腸菌株に適しています。 |
| M9956 | 液体 | Ready-to-use |
| 培地名 | 成分 | 製品番号 | フォーマット | 調製時の注意 | 用途 |
|---|---|---|---|---|---|
| Terrific液体培地(改変型) |
| T5574 | 液体 | Ready-to-use | クローニング、高収量のプラスミドを含むDNAおよび遺伝子組換えタンパク質産生のための大腸菌株の非選択的培養に適しています。抗生物質を添加する選択的培養にも適しています。 |
| T9179 | EZMix™ | 48.2 g を水1 Lに混ぜ、4mlのグリセロールを添加し、オートクレーブ後、冷却して使用 |
| 培地名 | 成分 | 製品番号 | フォーマット | 調製時の注意 | 用途 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2倍YT培地 |
| Y1003 | 液体 | Ready-to-use | クローニング、プラスミドを含むDNAや遺伝子組換えタンパク質産生用の大腸菌株、およびM13バクテリオファージの非選択的培養に適しています。抗生物質を添加する選択的培養にも適しています。 |
| Y2377 | 粉末 | 31 g を水1 Lに混ぜ、オートクレーブ後、冷却して使用 | |||
| Y2627 | EZMix™ | 31.6 g を水1 Lに混ぜ、オートクレーブ後、冷却して使用 |
| 培地名 | 成分 | 製品番号 | フォーマット | 調製時の注意 | アプリケーション |
|---|---|---|---|---|---|
| NZCYM液体培地 |
| N3643 | 粉末 | 22 g を水1 Lに混ぜ、オートクレーブ後、冷却して使用 | クローニング、プラスミドを含むDNAや遺伝子組換えタンパク質産生用の大腸菌株、およびλバクテリオファージの非選択的培養に適しています。適切な抗生物質を添加した場合、選択的培養にも適しています。 |
| 培地名 | 成分 | 製品番号 | フォーマット | 調製時の注意 | 用途 |
|---|---|---|---|---|---|
| アミノ酸添加済み酵母窒素原基礎培地 |
| Y1250 | 粉末 | 6.7 g を水100 mLに混ぜ、グルコース5 gを添加して10倍原液溶液を調製し、ろ過滅菌します。使用前に滅菌水で1倍に希釈します。 | 酵母窒素原基礎培地(Yeast Nitrogen Base)は、文献でも頻繁に引用されている酵母培養用培地です。この栄養に富む微生物液体培地には、アミノ酸、窒素、ビタミン、微量元素および塩が含まれています。 |
| アミノ酸非含有酵母窒素原基礎培地 |
| Y0626 | 粉末 | 6.8 g を水100 mLに混ぜ、グルコース5 gおよび適切なアミノ酸5-10 mgを添加して10倍原液溶液を調製、ろ過滅菌します。使用前に滅菌水で1倍に希釈します。 | 酵母窒素原基礎培地は野生株酵母の培養に理想的と考えられています。選択マーカーを利用する場合、培地中のアミノ酸が妨げになることが知られています。この培地はアミノ酸なしで処方されており、酵母の人工染色体のクローニングおよび操作に有用です。 |
| 培地名 | 成分 | 製品番号 | フォーマット | 調製時の注意 | 用途 |
|---|---|---|---|---|---|
| NZ Amine ® 液体培地 |
| N3518 | 粉末 | 16 g を水1 Lに混ぜ、オートクレーブ後、冷却して使用 | λバクテリオファージの増殖に適しています。 |
参考文献
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