最も一般的なHPLCトラブルの特定とその解決策
HPLCメソッドの開発は、カラム技術と装置の進歩により改善されてきましたが、それでも問題は発生します。どのトラブルシューティングガイドでも、選択性の再現性が最も重要なカラムの評価基準であるとされているため、ほとんどのメーカが製造プロセスのバリデーションを万全にしています。にもかかわらず、非常に影響されやすい試料の分析では、表面特性に存在する小さな違いが出現する傾向にあります。原料と試薬、表面結合特性、充てんプロセスとカラム充てん剤、ラボ機器、環境など、関与している変数を考えると、製造においてこれらすべてを排除することは実質的に不可能です。さらに、カラムの使用中には表面特性が変化する傾向があります。固定相は分解し、シリカは溶解してケイ酸塩となり、広い表面は試料や移動相から不純物を吸着しやすくなります。したがって、これらの小さな違いは、方法の堅牢性により補わなければなりません。
このガイドでは、代表的なHPLCトラブルを挙げて、解決する方法を述べます。
最も重要なことは、以下の4つのシンプルな主要ルールに留意することです。
- 「1」のルール:一度に1つ以上のことを変更してはいけない。複数の変更をすることで、どの変更からの影響なのかを推測することが困難になります。
- 「2」のルール:影響や問題は、解決するためには必ず再現できるものでなければならない。クロマトグラフィーの問題を再現できない場合、その原因や解決法を見つけるには非常に困難になります。
- 「元に戻す」:結局のところ、定期的な日常メンテナンス(消耗部品の定期的な交換など)で作業の内容と日時をしっかり記録することで、多くの場合、問題を回避できます。
- 正確な記録:ほとんどの問題は、一晩で発生するのではなく、徐々に発生します。正確な記録を付けることが、多くの問題を検出して解決するのに極めて重要です。
受け取るカラムはすべて受領時に評価し、それ以降は決まった間隔で評価します。カラムの効率、使用した移動相、ランプ電流、ポンプ性能などの履歴を書面に記録しておくことにより、お使いのシステムの性能をモニターできます。
記録は、シリカカラムに水を入れたり、有機溶媒を加えすぎて緩衝液に沈殿が生じたりするミスを防ぐのにも役立ちます。多くの分析担当者がHPLCシステムに何らかの変更を加えます。信頼できる記録は、変更したことが問題の原因でないことを確かめる最良の方法です。ポンプ、検出器、自動サンプラー、およびデータシステムについては、お使いの装置のマニュアルにあるトラブルシューティングガイドをご参照いただくか、担当の装置サービスエンジニアにご連絡ください。
お使いのシステムが、モジュール式システムであってもそれより高度なユニットであっても、HPLCシステムの重要な部分は変わりません。システム全体の性能に影響を及ぼす問題は、それぞれのコンポーネントで発生する可能性があります。ここでは、発生する可能性のある一般的な問題とその解決法について説明します。クロマトグラフィーユーザーは、異なるカテゴリーに分類される問題の特定と解決を頻繁に実施する必要があります。それらの解決法を使いやすい表形式で示します。
HPLCトラブルの確認
HPLCシステムでは、多くの発生源で問題が発生することがあります。まず、トラブルを明確にした後、発生要因を特定します。
どの部品がトラブルを起こしているのかを確認します。一般に、消去法でトラブルを特定し、解決します。
HPLC法からUHPLC法への移行をお考えの場合は、 HPLC Method Transfer Calculatorをご利用ください。メソッド移行に伴う実行時間の短縮と溶媒消費量の節約の計算をサポートします。

Figure 1.Components of an HPLC System
移動相におけるトラブルの回避
クロマトグラフィーの装置で最も重要なのはカラムです。しかし、カラムにより保持されても、最終的な分離は、移動相(MP)にも大きく左右されます。固定相から得られるさまざまな作用は、カラムを通る溶質の保持と移動度の違い(選択性)に影響します。多くの場合、クロマトグラムの感度が低いこと、ベースライン、ノイズ、スパイクの上昇は、移動相のコンタミに原因があります。移動相中の不純物は、特にグラジエント溶出では問題となります。小さな不純物であっても時間と共に蓄積が生じ、移動相の溶出力により溶出されることを「待っている」ことがあるからです。コンタミ成分の濃度が上昇するにつれてベースラインが上昇し、疑似ピークが発生する可能性があります。
多くの場合、クロマトグラフィー分離の問題は、移動相が正しく/一貫して調製されていないことと関連しています。したがって、(臨床診断やプロセス制御などにおいて)メソッドの堅牢性を高め、メソッド移行をより簡単にし、使いやすさを実現するという実用的な理由から、より単純な移動相を使用する傾向が見られます。
溶媒/移動相添加剤純度
ほとんどの人におなじみのルールとして「garbage in, garbage out(ゴミを入れたら、ゴミしか出てこない)」があります。この格言は、移動相成分の正しい純度を選択する際に特に真実です。たとえば、正確で再現性のある綺麗なベースライン(ゴーストピークなし)と高感度のクロマトグラフィー分離を実現するには、グラジエント分離にグラジエントグレードの溶媒と試薬を使用することが絶対不可欠です。アプリケーションに基づいて正しく適切なグレードの溶媒を使用すること(例:LC-MSにはハイパーグレードなど、詳細はSigmaAldrich.com/solventsを参照) でも、コンタミの確率を最小限に抑え、クロマトグラフィーカラムの寿命を延ばすことができます。
逆相分析で最も一般的な汚染源は水です。実施する分析に応じて、高純度水、HPLCグレード、またはLC-MSグレードのいずれかを使用します。市販のボトル入りの水 または適切なMilli-Q® 超純水・純水製造装置からの超純水も使用できます。Milli-Q® 超純水・純水製造装置は、C18逆相シリカ充てんの最終フィルターなどで最適化された水精製とモニタリング技術を独自に組み合わせているため、クロマトグラフィーユーザーにとってすばらしい選択肢です。お客様のラボに最適な超純水製造装置の選択は、利用可能な供給水質、1日あたりの必要量、モニタリング要件、期待される認定レベル、およびお客様が求めるその他の特定の要件などの、いくつかのパラメータに基づいて行われます。蒸留水や脱イオン(DI)水を使用する場合、一般的な脱イオン装置では水に有機物のコンタミを持ち込み、分析をリスクにさらすおそれがあることに留意してください。
溶媒、塩、イオンペア試薬、塩基、および酸の調製剤はすべてHPLC(またはLC-MS)グレードのものを使用してください。低品質の溶媒の洗浄には時間がかかり、微量のコンタミが残留しがちです。高感度紫外検出器、蛍光検出器、または質量分析(MS)検出器を使用すると、こういった微量のコンタミが問題を起こすことがあります。最終検出器として質量分析を使用する場合、最高の全体的なメソッド感度を確保し、MS装置のコンタミを回避するため、MSグレードの溶媒と添加剤を使用してください。
多くの水性緩衝液は、細菌や藻の増殖を促進するため、毎回使用する分だけ調製し、UHPLC分析の場合は0.22 µm、標準的なHPLC分析の場合は0.45 µmのフィルターを用いて使用する前にろ過します。ろ過することにより、ベースラインにノイズを生じさせたりカラムを詰まらせたりする可能性がある粒子も除去されます。水性緩衝液に約100 ppmのアジ化ナトリウムを添加して微生物の繁殖を防ぎます。 あるいは、エタノール、アセトニトリル、メタノール、イソプロパノールなどの有機溶媒を20%以上の濃度で緩衝液と混合することもできます。
緩衝液などの試薬の添加が必要な場合、試薬が必要な品質を満たしており、使用期限を過ぎていないことを確認します。使用期限の切れた添加剤からの分解物は、試料のクロマトグラムのゴーストピークの原因となります。添加剤の性質(例:20 mM、pH7のリン酸緩衝液)によっては、より短時間で分解するものがあります。不適切/不注意な取扱い(例:残った溶媒をボトルに戻す、ボトルの栓をせずに実験台の上に放置する、見失ったピペットチップがボトルの中に浮いているなど)により、これらの試薬に含まれる化合物は短時間でだめになります。
移動相の混合
プレミックスの移動相を用いるアイソクラティックモードの分離の場合、よく使用されている混合物(水/アセトニトリル、メタノール、またはテトラヒドロフラン)の調製時には、その中の溶媒の容量収縮を考慮に入れる必要があります。このような移動相混合物の調製を正しくできる唯一の方法は、構成成分の正確な量を別々に量り、それらを混合することです。たとえば、有機溶媒を70%含む移動相を得るには、300 mLの水と700 mLの有機溶媒を別々に正確に量った後、フラスコ内で混合します。水のみを正確に量った後に有機溶媒を追加して必要な最終容量にすると、溶媒混合物の収縮により、得られる溶媒強度が少し高くなります(または、有機溶媒を最初に追加した後に水を添加する場合には低くなります)。MPをプレミックスする場合、有毒溶媒の煙霧が放出される可能性があることに注意して、ドラフト内で作業をしてください。
最近では、一般的にグラジエントポンプを使用して正しい組成のグラジエントが得られていますが、低圧グラジエントシステムを有する装置と高圧グラジエントシステムを有する装置を比較すると、混合メカニズムの違いにより、保持挙動におけるいくつかの小さな違いが確認されることがあります。BOTアプローチには良い点も悪い点もあります。低圧グラジエント形成装置はよりシンプルであるため、メンテナンスが簡単ですが、主な利点はグラジエントとは無関係な一定流量です。高圧グラジエント形成システムで得られる流量は、設定値よりも数パーセント低くなりますが、これは混合後の溶媒の収縮が原因です。確立されたメソッドをある装置から別の装置へと移行する場合には、この現象に留意する必要があります。
逆相クロマトグラフィーの場合、5%アセトニトリル・水溶液や5%水・アセトニトリル溶液などのプレミックス移動相を使用する方が良いことがほとんどです。このような選択の背景にある根拠は、脱気の効果を高めること、混合した際の混合物の加熱(例:メタノール水溶液)や冷却(例:アセトニトリル水溶液)を回避すること、そして2つの移動相の粘度と表面張力をより近づけることで混合効率を改善することです。このようなプレミックス溶媒の限界は、移動相Bの溶媒強度は100%にはならないこと、そして移動相調製における余分なステップとなり、それが追加の潜在的なエラーの原因であることです。通常、コンタミの可能性を高めないように、移動相溶媒は配達用容器から直接使用することが推奨されます。
イオン性化合物を含む試料の分析の際、緩衝液は、HPLC分離における保持を制御する最も重要な変数の1つが緩衝液です。イオン性化合物(分析対象物質とマトリックス)がイオン化状態で存在するか非イオン化状態で存在するかは、移動相のpHにより決まります。逆相(RP)クロマトグラフィーにおけるイオン化種は、必ず非イオン化種よりも早くカラムから溶出されます。pHを変更することで、近い位置で溶出されるピークや重複したピークの効果的な分離のための選択性を高めることもできます。分析間のpHのばらつきにより、分離に一貫性が得られません。緩衝液はpHの変動を抑えます。したがって、分析対象がイオン化する物質の場合、種、イオン強度、pHの緩衝に関して適切な緩衝液を選ぶことは、HPLC法の開発において最も重要なステップです。
LC緩衝液の選択のヒント
緩衝液の選択。用途に適した緩衝液の選択は、pKa、pH範囲、UVカットオフなどの緩衝液の特性により左右されます。一般に、緩衝液は、そのpKa値の+/-1単位のpHで使用します。この範囲内では、緩衝液はpHを変えようとする意図的な試みを阻止します。緩衝液の能力は、そのpHがそのpKaと等しいときに最大になります。UVカットオフ値も考慮する必要があります。検出波長が緩衝液の吸光度と干渉してはいけないからです(有意な吸光度:トリフルオロ酢酸< 220 nm、ギ酸、酢酸 <240 nm)。イオン化する分析対象物質で最良の結果を得るには、pKaから2単位以上離れたpHを持つ緩衝液を使用します。移動相のpHが分析対象物質のpKaと近すぎる場合、試料中に両方の種が存在するためピークの割れやショルダーが見られることがあります。イオン化する分析対象物質が複数の場合、すべての分析対象物質が同じ形、つまりイオン化型または非イオン化型のいずれか、で存在しているpH値を選択すべきでしょう。
- 緩衝液pHの測定。 緩衝液のpHは、有機移動相の添加前の水性部分のpHです。有機溶媒の添加により、通常、pHは上下どちらかにシフトします(同じ緩衝液についてpHシフトは一貫しているはずです)。有機溶媒中の緩衝液の正確なpHを知っておくことはそれほど重要ではありませんが、pH値を一貫させておくことは重要です(分析対象物のpKaも水相で決定され、個々のpKaシフトも分からないからです)。
- 化学的純度。HPLC分析で使用する移動相添加物(緩衝液、塩、酸および塩基)ならびに有機溶媒の品質/純度は、検出器の感度および溶出プロトコルに適していなければなりません。
- 化学適合性。バッファー組成と移動相のpHは、カラムの部材および固定相の性質に合ったものを選び、これらの部材や固定相の腐食を予防しなければなりません。
- MS適合性。質量分析システムに無機塩を取り入れることはおすすめできません。適切な揮発性緩衝液の例は、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、クエン酸アンモニウムです。ギ酸や酢酸のようなpH調整剤は、pHを制御し、LC-MS用にイオン化を助けるために使用する必要があります。
- 緩衝液の溶解性。理想的には、緩衝液は完全に水溶性(RP法)であるべきで、選んだ有機溶媒と混合された場合に分析中に沈殿してはいけません。したがって、有機溶媒中の濃度が高くなったときの沈殿を避けるために、緩衝液濃度は慎重に選ばなければなりません。そうしないと、ポンプの操作上の問題が発生し、HPLCカラムの詰まりや背圧の上昇が引き起こされます。
- 緩衝液強度。固定相との相互作用の弱い溶離液は、弱く結合している分析対象物質のみをカラムから溶出することができますが、相互作用が強い場合は強く結合した分子を溶出させます。さまざまな溶媒の溶離強度または溶媒強度は、用いる固定相の種類に依存します。溶離強度以外に、バッファーの粘度も、HPLC分析における使用に関する適合性の点から、重要な役割を果たします。
- 緩衝液濃度。理想的には、再現性のある結果が得られる最低濃度を選択する必要があります。濃度が高いと、極性分子の溶出が早くなります。一般に、緩衝液濃度は5 mMを下回ってはいけません。この濃度を下回ると、緩衝液としての性能を発揮できないことがあります(分析対象物の濃度や干渉能力による)。緩衝液濃度を上げることで粘度が上がり、その結果、カラムの背圧が高まります。一般的に、濃度は5~100 mMの範囲に維持する必要があります。無機塩バッファーの濃度が100 mMを上回ると、ポンプの稼働部品の消耗が早まるため、バックシールウォッシュの設置が推奨されます。
大多数のHPLC分離において緩衝液が重要な役割を果たしてることが分かります。メソッド開発では多くの場合、緩衝液を慎重に選択し、緩衝液の調製において十分注意することが必要です。つまり留意すべき一般的なルールは、緩衝溶液は均一かつ透明であり、粒子が含まれない、ということです。保管する場合、緩衝液には使用期限があることを忘れず、当日の調製を検討してください。
ポンプトラブルの確認
ポンプは、幅広い条件で溶媒を一定流量でカラムに流さなければなりません。HPLCポンプは、シングル/デュアルピストンデザイン、シリンジポンプ、またはダイヤフラムポンプのデザインを取り入れています。 これらのポンプは、低圧グラジエント形成システムまたは高圧グラジエント形成システムとなります (図 2 & 3)。どちらのアプローチも使用されますが、高圧グラジエントポンプでは、混合後の溶媒収縮のため、流量が設定値より最高4%低くなることがあり、クロマトグラフィー分離の正確さに影響する可能性があります。一方、低圧グラジエント形成ポンプは、カラムへのグラジエント到達を遅延させるため、正確な溶出条件の維持において課題が生じ、これは特に高速の急勾配グラジエントを用いる際に著しくなります。これらの操作上の特性については、クロマトグラフィー分析の特定の要件に基づいてポンプシステムを選択する際、特にメソッドをある装置から別の装置へと移管する際に、注意深く検討する必要があります。

Figure 2High-pressure gradient system

Figure 3.Low-pressure gradient system
クロマトグラフィーポンプのトラブルには、クロマトグラフィーにおけるポンプの性能や信頼性に影響を及ぼす可能性のあるさまざまな問題があります。
クロマトグラフィーポンプのトラブル | 原因 |
|---|---|
ベースラインのノイズ | 移動相中のコンタミまたは気泡、ポンプシールの摩耗、またはチェックバルブの問題。 |
流量の変動 | ピストン、シール、チェックバルブなどのポンプ部品の異常。 |
不正確なグラジエント | ポンプの機能不全または不正なプログラミング |
漏れ | シールの摩耗、背圧が高すぎる、接続が緩んでいる、またはチューブが損傷している。 |
圧力の変動 | ポンプの機能不全、移動相中の気泡、またはチェックバルブの問題。 |
プライミングできない | ポンプヘッドの中の空気、漏れ、または溶媒レベルが不十分。 |
ポンプシールの劣化 | 連続使用、腐食性溶媒、または不適切なメンテナンス。塩含有移動相を使用する場合にはシールバックフラッシュの設置を推奨します。
|
一貫しないポンプ送液 | ポンプ部品の異常、例えば摩耗したピストンやチェックバルブの機能不全。 |
圧力スパイク | ポンプ部品の問題またはシステム中の気泡の存在。 |
温度制御の問題 | 温度制御メカニズムが不十分であると溶媒粘度にばらつきが生じて、ポンプ性能に影響を及ぼす可能性があります。 |
これらの問題への対処では、多くの場合、定期メンテナンス、消耗品の点検と交換、クロマトグラフィーポンプの適切な校正と操作の確認が必要です。定期的なシステム点検と推奨メンテナンススケジュールの順守は、最適なクロマトグラフィー性能のために不可欠です。
多くの場合、ポンプシステムの問題は見つけることも修正することも容易です。ポンプシステムのトラブルの特徴は、繰り返し発生するベースラインノイズであり、その頻度は流量と比例して高まります。ポンプの接続部に塩が溜まっているのは、漏れの兆候です。緩衝液の塩は、毎日新鮮な脱イオン水でシステムから洗い流す必要があります。お使いの装置に関する特定の問題を取り出して解決するには、操作マニュアルのトラブルシューティングセクションとメンテナンスセクションをご参照いただくか、担当の装置ベンダーにお問い合わせください。ポンプのシールは定期的に交換する必要があります。新しい(U)HPLCシステムの購入を検討する際には、予防メンテナンスプログラムをぜひおすすめします。
インジェクター・注入溶媒
インジェクターは、溶媒の流れが止まるのを最小限に抑えて試料をすばやく系内に導入します。現在のHPLCシステムは、可変ループ、固定ループ、およびシリンジタイプのインジェクターを使用しています。これらのセットアップの動力源は、手動、空気圧、または電気です。
インジェクターに関する機械的な問題(漏れ、キャピラリーチューブの詰まり、シールの摩耗など)は、見つけやすく解決しやすい問題です。これらの問題を解決するには、クロマトグラフィー結果の品質や再現性に影響を及ぼす可能性のあるさまざまな問題に対処する必要があります。インジェクターシールの物理的な劣化によるカラムフリットの詰まりを防ぐには、プレカラムフィルターを使用します。注入の再現性がないといったその他の問題は、解決するのがやや難しくなります。
ピークの高さが変わる、ピークが割れる、ピークの幅が広いといった問題は、試料ループが完全に充てんされていない、注入した溶媒が移動相と相溶性がない、または試料の溶解度が低いために発生することがあります。可能である場合には、注入時にカラムを通過している移動相に試料を溶かしてから注入してください。そうできない場合には、移動相より溶離力が低い注入溶媒を選ぶようにしてください。オートサンプラーの中には、別のシリンジ洗浄溶液を使うものがあることに注意してください。洗浄液には、移動相と相溶性で移動相より弱いものを必ず使用してください。これは逆相分析と順相分析を切り替えるときや親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)分析のときに特に重要です。インジェクションニードルの外面を清潔にしておくことも非常に重要で、特に高濃度や高粘性の試料を取り扱う際に重要です。前回の注入からの残留物を予防し、インジェクションニードルセットポートのコンタミを回避するためにニードルの外部洗浄が推奨されます。セットポートのコンタミは、その後の分析の正確さを損ない、異なる試料間での交差汚染を引き起こすことがあります。ニードルの外部洗浄は、ニードルの外側を徹底的に洗浄するように設計された洗浄液の入った1つ以上のバイアルにニードルを浸漬することで実施できます。適切な外部洗浄は、クロマトグラフィーシステムの完全性を維持する役に立つだけでなく、最終的には分析結果の精度と信頼性に貢献します。
適切な試料調製は、クロマトグラフィー分析の正確さと信頼性を確保することの重要な側面です。インジェクターニードルの詰まりとその後のシステムの問題を予防するために、注入前には試料をろ過することが必須です。ろ過により、インジェクションニードルの狭いチャネルを塞ぐ可能性のある粒子状物質を除去して、円滑で一貫した注入プロセスを実現します。さらに、試料をバイアルから取り出す際には、時間と共に沈降物が蓄積している可能性があるため、バイアルの底から注入することは避けることをおすすめします。沈降は、クロマトグラフィーシステムへの不溶な粒子の持ち込みにつながり、カラムの詰まりや汚染を引き起こします。分析担当者は、試料のろ過やバイアルの底からの注入の回避といったベストプラクティスを守ることで、クロマトグラフィー結果の全体的な信頼性と正確さに貢献して、システム汚染リスクを最小限に抑え、最適な性能を確保することができます。
カラム保護
移動相インレットフィルター、インジェクタープレフィルター、プレカラムフィルター、およびガードカラムはほとんどの装置に必須の部品ではありませんが、複雑な分離に関連する問題を大幅に減少させます。すべての試料を0.45 µmまたは0.2 µmのシリンジフィルターでろ過することを推奨します。
インラインフィルターは、クロマトグラフィーシステムの中心的役割を担っており、分析カラムの品質を高め、寿命を延ばすために不可欠な部品です。液体経路内に戦略的に配置されるこれらのフィルターは、移動相や試料に含まれる粒子状物質、デブリ、コンタミ物質がクロマトグラフィーカラムに到達する前に効果的に捕捉します。インラインフィルターは、不要な粒子の侵入を予防することで、カラムの充てん剤の保護と保存に貢献するため、カラムの寿命を延ばし、一貫性と再現性のある分離を確保します。インラインフィルターは、ろ過の代わりにするためのものではなく、むしろカラムの予備的保護のようなものです。インラインフィルターの空隙径は、カラム注入口フリットより小さくすることを推奨します。例えば、5 µmの粒子を充てんしたカラム頭部のフリットが2 µmである場合、インラインフィルターの空隙径は約1~0.5 µmとすべきです。システムの背圧が上昇し始めたら、点検し、必要に応じてインラインフィルターを交換します。
どの場合であっても、ガードカラムの使用を強く推奨します。ガードカラムの固定相は、分析カラムに不可逆的に吸着して寿命を縮める物質を捕捉できるように、分析カラムと適合していなければなりません。ガードカラムは、クロマトグラフィーシステム内の犠牲的要素です。こういった使い捨て製品の耐用年数は、移動相組成、注入量、試料純度、pHなどによって決まります。デバイスが汚染されたり粒子が詰まったりすると、圧力が上昇して、ピークが広がったり分割したりします。
分析カラムを最大限に利用する
カラムに含まれるものが結合逆相/順相、イオン交換、アフィニティー、疎水相互作用、サイズ排除、樹脂/シリカベース充てんのいずれであっても、分析カラムに関する最も一般的な問題は劣化です。劣化現象は、ピーク形状の悪化、ピークの分割、ショルダー、分解能の低下、保持時間の短縮、および背圧の増加です。こういった現象は、コンタミがフリットまたはカラム入口に堆積したか、充てんベッドに空隙、溝、または窪みがあることを示します。
劣化はカラムの効率が高いほど顕著に見られます。例えば、0.5 µmのフリットで保持した3.0 µmの充てん物は、2.0 µm以上のフリットで保持した5 µmまたは10 µmの充てん物より詰まりやすくなります。各カラムを最大限に利用するには、適切なカラム保護と試料調製が必須です。
カラムに試料を多く注入すると、ピーク形状が悪化したりその他の問題が発生したりすることがあります。
代表的なカラム容量(負荷、試料注入)
カラムのキャパシティーはさまざまな要因で決まりますが、カラム上の分析対象物質の最大注入量と試料量の代表値は以下の表のとおりです。 最大注入量は、総カラム容量の2%を超えない量であると考えられており、HPLCにおける代表的な試料濃度は約1 mg/mLです。通常、効率と分解能は、注入体積が減ると高まることに留意してください。
カラム寸法:長さ x 内径(mm) | 一般的な流量* | 最大試料**量 | 試料の体積*** |
|---|---|---|---|
100 x 0.075 | 0.15 ~ 0.5 µL/min | 9 ng | 0.5 ~ 9 nL |
100 x 0.1 | 0.25 ~ 1 µL/min | 16 ng | 1 ~ 16 nL |
100 x 0.2 | 1 ~ 4 µL/min | 60 ng | 0.01 ~ 0.06 μL |
100 x 0.3 | 2 ~ 9 µL/min | 140 ng | 0.01 ~ 0.14 μL |
100 x 0.5 | 5 ~ 25 µL/min | 0.4 µg | 0.05 ~ 0.4 μL |
100 x 1 | 20 ~ 100 µL/min | 2 µg | 0.1 ~ 2 μL |
100 x 1.5 | 0.04 ~ 0.2 mL/min | 4 µg | 0.2 ~ 4 μL |
100 x 2 | 0.08 ~ 0.4 mL/min | 6 µg | 0.4 ~ 6 μL |
250 x 3 | 0.15 ~ 0.8 mL/min | 40 µg | 3 ~ 40 μL |
250 x 4 | 0.3 ~ 1.5 mL/min | 60 µg | 4 ~ 60 μL |
250 x 4.6 | 0.4 ~ 2 mL/min | 80 µg | 5 ~ 80 μL |
250 x 10 | 2 ~ 10 mL/min | 400 µg | 30 ~ 400 μL |
250 x 25 | 10 ~ 60 mL/min | 2.5 mg | 200 ~ 2500 μL |
* 全多孔性5 µm粒子材料カラムに関して算出された代表的な流量の値。より小さな粒子が充てんされたカラムの場合、5 から 3 µmの粒子に変更すると流量は1.6倍に増え、5 から 2 µmの粒子に変えると2.5倍になります。表面多孔性物質の場合、流量の上限も、全多孔性粒子より高くなります。モノリス型シリカカラムの場合、流量上限は3倍にまで高まる可能性があります。注記:いずれの場合も、カラム背圧をモニタリングして、最大推奨限界を超えないようにすることが重要です。 ** カラムに大量の試料をロードする必要がある場合、試料の量を増やすより、試料濃度を高める方がよいでしょう。HPLC/UHPLCにおける標準試料濃度は1 mg/mLです。 *** 最大注入量は、空のカラム容量の2%である最大推奨限界量に基づいて算出されます。表面多孔性粒子とモノリス型シリカカラムの場合、最大注入量は50%減らす必要があります。 | |||
検出器問題の解決
検出器問題は電気系と機械/光学系の2種類に分かれます。電気系の問題は機器メーカーに連絡する必要があります。機械/光学系の問題は多くの場合フローセルに行き当たります。検出器関連の問題には、セルのコンタミ、気泡、漏れなどがあります。これらの問題は通常、クロマトグラムにおける感度の低下、ドリフト、ベースラインのノイズやスパイクを引き起こします。特定のセル、特に屈折率検出器で使用されているセルは、圧力に敏感です。メーカーの推奨値を超える流量や圧力で使うとセルウィンドウが壊れるおそれがあります。古いランプ、故障したランプや、立ち上がり時間、ゲイン、または減衰が不正確な検出器を使用すると、感度が落ちてピーク高さが失われます。
HPLCトラブルの原因と対策
カラムにオーバーロードすると、移動相組成の小さな違いにより保持時間に大きな違いが生じる可能性があり、これは温度でも変化します。ただし、移動相が緩衝されており、ポンプが適切に作動していても、pHが試料物質のpKに近すぎると、保持時間は変動する可能性があります。したがって、移動相のpHは、分離する分析対象物のpK値の少なくとも1 pH単位は上または下になるように選ぶ必要があります。保持時間のドリフトは、カラムのコンディショニングが不十分であることを示唆します。カラム寿命が延びるに伴い、保持時間は、特に酸性pH(pH 2以下)で分析する場合に、保持性が低下する方向にシフトする可能性があります。保持時間の突発的な変化は、通常、システム内のエラーが原因です。
問題:保持時間の変化

Figure 4.Variable Retention Times. A) Normal, B) Problem, C) Problem
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
流量の変動 |
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緩衝容量が不十分 |
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カラムコンタミの蓄積 |
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平衡化時間がグラジエント分析には不十分またはアイソクラティック移動相の変化 |
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最初数回の注入 – 活性サイト |
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移動相成分の選択的蒸発 |
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カラム温度の変動 |
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カラムが過負荷になっている(一般に、カラムに注入した溶質の質量がカラム容量を超えると保持時間が短縮される) |
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試料溶媒が移動相に適合していない |
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カラムの老化 |
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問題:保持時間の短縮
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
カラム充てん剤に活性サイトがある |
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カラムへの質量過負荷 |
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流量の上昇 |
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結合固定相が失われた |
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カラム温度の変動 |
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移動相組成の変化 |
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カラムの汚れ |
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問題:保持時間の延長
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
流量の低下 |
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移動相組成の変化 |
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結合固定相が失われた |
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移動相組成の変化 - オンライン混合 |
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イオン性化合物のpH調整の失敗または不十分なpH調製 |
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カラム内の温度の低下/温度の変動 |
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カラムの汚れ |
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クロマトグラフィーカラムの平衡化は、クロマトグラフィープロセスにおいて非常に重要なステップであり、正確で再現性のある結果を確保するために不可欠です。このプロセスでは、ベースラインが安定化してシステムが平衡化されたことが示されるまで特定の条件下でカラム内に移動相を通過させる必要があります。
平衡化にはいくつかの重要な目的があります。まず、カラム内の固定相が移動相と相互作用できるようにするため、充てん剤の十分なぬれとコンディショニングを確保します。これは、カラム内での移動相と分析対象物の均一な分布を確立する役に立ち、分離効率と分解を最適化します。
さらに平衡化は、圧力、温度、流量などのシステムパラメータの安定化に役立ち、後続の注入時の変動を最小限に抑えます。平衡化では、システムが定常状態に到達できるようにすることで、ベースラインドリフトのリスクを減らし、時間が経っても一貫した性能を確保します。
問題:カラム平衡化時間が長い
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
逆相イオンペア試薬と長鎖イオンペア試薬では、必要な平衡化時間が長い |
|
問題:保持時間がばらつく
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
グラジエント - カラム再生時間が不十分 | 最初の移動相組成(A)で平衡化時間(量)を増やして、早いピークの一定した保持を達成する |
イオンペア試薬 - 平衡化時間が不十分 | 平衡化時間(量)を増やす イオンペア試薬では、移動相の切り替えにカラム体積の50倍もの量が必要になることもある |
アイソクラティック – 平衡化時間が不十分 | 平衡化のために10~15倍量の移動相をカラムに通す |
ピーク
クロマトグラムですべてのピークの見た目が同じ場合、問題は分離前に発生しています。クロマトグラムで一部のピークまたは1つだけのピークがゆがんだ形で溶出される場合、原因は化学的性質によるものです。
問題:ピークがブロード
広いピークは、HPLCシステムの部品に対する実質的影響(キャピラリー接続不良、空隙容量、大きすぎる検出器セル、時係数の選択ミス)またはカラム性能不良により発生します。

Figure 5.Typical chromatograms, A). Normal peaks B) Broad peaks
問題点 | 解決策 |
|---|---|
試料の過負荷
|
|
検出器 - セル体積が大きすぎる |
|
注入する体積が大きすぎる |
|
カラム外体積が大きい |
|
移動相溶媒粘度が高すぎる |
|
インジェクターバルブ内のピーク分散 |
|
カラム効率が低い |
|
保持時間が長すぎる |
|
カラムヘッドがコンタミしている |
|
| カラムが汚れている/消耗している |
|
データシステムのサンプリング速度が遅すぎる |
|
検出器時係数が遅い |
|
カラム温度が低すぎる |
|
一部のピークがブロード – 前回の注入から保持された分析対象物が遅く溶出されている |
|
ガードカラム/プレカラムまたはカラムに欠陥があるか、汚れている |
|
試料が強溶媒に溶解している |
|
緩衝液pHが間違っている |
|
緩衝液濃度が低すぎる |
|
カラム外効果 |
|
カラムと検出器の間の漏れ |
|
検出器セルが大きい |
|
試料がシステムに適合していない、または試料の沈殿 |
|
問題:ゴーストピーク
ゴーストピークは、未知の試料成分、前の注入からの遅く溶出されるピーク、不純物、または移動相に関連した混合の問題により引き起こされる可能性があります。したがって、試料は、できればいつも溶離液または弱い溶出力の溶媒に溶かしてください。溶離液よりもUV吸収が低い物質は、負のピークを出現させることがあります。

Figure 6.HPLC chromatograms, A) Previous sample, B) After injection of solvent following the solvent with no ghost peak, C) After injection of solvent following the solvent showing a ghost peak
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
前回の注入から保持された分析対象物が溶出された |
|
イオンペアクロマトグラフィー – 平衡が乱れた |
|
ペプチドマッピングにおけるトリフルオロ酢酸が酸化した |
|
試料中に未知の干渉成分がある |
|
カラムのコンタミ |
|
溶媒の不純物 |
|
試料中に遅く溶出されるピーク(通常ブロードピーク)が存在する |
|
問題:負のピークが出る

Figure 7.A) Normal chromatogram, B) Chromatogram with negative peaks
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
屈折率検出 - 溶質の屈折率が移動相のものより小さい |
|
UV吸光度検出 – 溶質の吸光度が移動相のものより小さい |
|
試料の溶媒と移動相の組成が大きく異なる(空位ピーク) |
|
問題:ダブルピークになる
すべてのピークにショルダーがある場合やすべてのピークがダブルピークとして溶出される場合、原因としては、インラインフィルターやカラムインレットフリットの詰まり、プレカラムのコンタミ、カラムヘッドの空隙容量が考えられます。ほとんどの場合、カラムは、インレットフリットを洗浄したり交換したりして元の状態に戻すことができます。この問題に対する短期的解決策としては、カラムを逆にするという方法もあります。カラム出口のベッドの破損は、ピークの広がりにはわずかにしか寄与しません。
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
フリットが詰まっている |
|
ガードカラムまたは分析カラムの入口にコンタミがある |
|
干渉化合物が同時溶出されている |
|
前回の注入から干渉化合物が同時溶出されている |
|
カラムが過負荷になっている |
|
カラムに空隙またはチャネリングがある |
|
注入溶媒が強すぎる |
|
試料の量が多すぎる |
|
試料が強溶媒に溶解している |
|
問題:ピークのリーディング

Figure 8.Typical chromatograms, A) normal without a fronting peak B) with a fronting peak
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
カラムにチャネリングがある |
|
カラムが過負荷になっている |
|
プレカラムが破損しているか汚れている |
|
間違った溶媒に試料が溶解している |
|
試料に干渉化合物がある |
|
試料の沈殿 |
|
問題:ピークのテーリング
早く溶出されるピークのテーリングの原因はカラム外効果です。テーリングを解消するには、キャピラリーの接続、チューブ、検出器セルを含めたシステム全体を点検する必要があります。次に、シリカゲル表面との非特異的相互作用は、遅く溶出されるピークのテーリングを引き起こし、さらにはダブルピークの出現につながります。トリエチルアミンまたは酢酸を移動相に添加するか、適切な固定相を選択することで、ピーク形状が大幅に改善するでしょう。移動相のpH値の選択が不適切な場合にも、ピークテーリングが引き起こされることがあります。原則として、クロマトグラフィーは、試料物質のpK値よりも1 pH単位上または下のpHで実施すべきです。

Figure 9.Typical chromatograms, A) Normal without a tailing peak B). With a tailing peak
問題点 | 解決策 |
|---|---|
塩基性溶質 – シラノール相互作用 |
|
溶質のキレート – 塩基性シリカに含まれる微量金属 |
|
シリカ系カラム– 高pH出の分解 |
|
シリカ系カラム - 高温での分解 |
|
シリカ系カラム – シラノール相互作用 |
|
カラムヘッドにおける空隙形成 |
|
カラムの過負荷 |
|
カラムフリットが詰まっている |
|
試料中の干渉化合物/不純物 |
|
カラムへの試料の吸着(特に塩基性化合物) |
|
試料が活性サイトと反応している |
|
移動相pHが間違っている |
|
カラムタイプが間違っている |
|
注入溶媒が間違っている |
|
問題:スパイク
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
移動相に気泡がある |
|
カラムをキャップなしで保管した |
|
問題:ピークがない

Figure 10.Typical chromatograms, A) Normal peaks, B) No peaks, C) Very small peaks
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
フロースルー検出器がない、漏れ |
|
試料注入に再現性がない |
|
試料が注入されていない |
|
検出性がない |
|
検出器のランプがオフ、または設定が間違っている |
|
試料がない/試料が劣化している/試料が間違っている |
|
問題:ピークにショルダーがある、ピークが割れる

Figure 11.Typical chromatograms A) Normal peaks B) Split peaks
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
ガードカラムの破損または汚れ |
|
カラムヘッドが汚れている |
|
カラムヘッドにデッドスペースまたはカラム内にチャネリングがある |
|
溶離液と適合していない溶媒に試料を溶かした |
|
問題:ピーク高さが変わる(1つまたは複数のピーク)

Figure 12.Typical chromatograms, A) Normal B) One peak with a different height
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
1つまたは複数の試料成分が劣化しているか、カラム活性が変化した |
|
特に、注入ポートとカラム入口の間に漏れがある。(保持時間も変化する。) |
|
試料の体積がばらついている |
|
検出器またはレコーダーの設定が変更された |
|
検出器ランプが弱い |
|
検出器セルのコンタミ |
|
問題:分解能が失われた
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
移動相がコンタミ/劣化している(保持時間や選択性の変化の原因) |
|
ガードカラムまたは分析カラムが詰まっている |
|
問題:ピークが丸い

Figure 13.Typical chromatograms, A) Normal, B) Rounded Peaks
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
検出器が線形ダイナミックレンジ外で動作している |
|
試料とカラムが相互作用している |
|
クロマトグラフィーカラムからの試料の回収に影響を及ぼす要因はいくつかあり、カラムの化学的性質、移動相組成、分析対象物の性質、操作パラメーターなどがあります。カラム充てん剤と固定相の化学的特性の選択は、分析対象物の保持と溶出挙動に大きく影響します。分析対象物の物理化学的特性に合わせてカラム選択を最適化することは、非特異的吸着を最小限に抑え、試料回収率を最大限にするために重要です。移動相組成は、分析対象物の溶出と試料の回収において極めて重要な役割を担っています。移動相の組成とグラジエントプロファイルを調整することで、分析対象物の溶出効率を高め、分析対象物の回収率を改善できます。
問題:試料かい収率が低い
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
タンパク質の吸収または吸着 |
|
カラム充てん剤での吸着 |
|
チューブやその他のハードウェア部品への吸着 |
|
カラム充てん剤への化学吸着 |
|
固定相との間の疎水性相互作用 |
|
塩基性化合物の場合の99 %未満の収率 - 活性サイトへの不可逆的吸着 |
|
酸性化合物の場合の90 %未満の収率 – 活性サイトへの不可逆的な吸着 |
|
多くの場合、新しい部品を設置した後、特に設置が適切に行われなかった場合には、漏れが発生することがあります。また、システム背圧の突発的な上昇も漏れを引き起こします。古く、摩耗し、詰まった部品も、漏れの原因となることがあります。
問題:カラムまたはフィッティングに漏れがある
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
フィッティングが緩んでいる |
|
緩んだフィッティングのところに沈殿(白い粉末)がある |
|
問題:検出器に漏れがある
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
検出器シールの不全 |
|
問題:インジェクターバルブの漏れ
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
バルブローターが摩耗している、または傷ついている |
|
問題:ポンプの漏れ
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
ポンプシールの不全 |
|
クロマトグラフィー選択性の突然の変化は、カラムのコンディショニング、移動相の組成、試料マトリックス効果、温度と流量の変動、カラムの劣化などのさまざまな要因から生じます。これらの要因を理解し、これらの効果を軽減するための適切な対策を実施することで、クロマトグラフィー結果の信頼性と再現性を維持して、正確かつ一貫した分析性能を確保できます。
問題:選択性の違い

Figure 14.Typical chromatograms, A) Normal, B) Problem of change in selectivity
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
移動相組成が異なる |
|
新しい溶離液組成がわずかに異なる(pHが調整されていない、溶媒にコンタミが含まれている) |
|
溶媒強度が低すぎる/溶離液を緩衝していない |
|
試料を異なる溶媒に溶かす |
|
カラム寿命が近づいている、コンタミ |
|
緩衝液の温度が変動している |
|
カラム間の再現性 |
|
カラムが不可逆的に変化した |
|
クロマトグラフィーのベースラインは、クロマトグラフィー分析で分析対象物を検出するための参照点として役立ちます。分析対象種の溶出がない状態で検出器が生成するシグナルを表しており、ベースラインノイズレベルとシステム安定性を示します。安定で明確なベースラインは、クロマトグラフィー分析における正確なピーク検出、積分、定量化に不可欠です。ベースラインのドリフト、ノイズ、スパイクなどのばらつきや乱れは、分析対象物のピークを分かりにくくし、不正確な結果をもたらします。ベースラインの乱れの原因となる要因には、移動相組成の変動、温度、圧力、検出器感度、さらには検出器ノイズや電子妨害などの装置関連の問題があります。ベースライン減算やフィルタリングなどの適切なベースライン補正方法は、シグナル・ノイズ比を高め、データ品質を改善するためによく使用されます。さらに、定期的なシステムメンテナンスとしてのカラムのフラッシング、検出器の洗浄、装置の校正などは、ベースライン安定性を維持し、クロマトグラフィー結果の信頼性を確保するために不可欠です。まとめると、クロマトグラフィーのベースラインは、クロマトグラフィー分析で極めて重要な役割を果たしており、分析対象物濃度の正確で精密な定量の基礎として役に立っています。ベースライン安定性の維持は、分析用途において信頼できる再現性のあるクロマトグラフィー結果を得るために不可欠です。
問題:ボイド時間における乱れ
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
移動相に気泡が入っている |
|
正-負 – 注入溶媒と移動相の屈折率が違う |
|
問題:ベースラインがドリフトする

Figure 15.Typical chromatograms, A) Normal B) Baseline Drift
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
負の方向(グラジエント溶出) – 移動相Aの吸光度 |
|
正の方向(グラジエント溶出) – 移動相Bの吸光度 |
|
正の方向 – コンタミの蓄積と溶出 |
|
波状またはうねりがある – 室内温度が変化している |
|
問題:ノイズ

Figure 16.Typical chromatograms, A) Normal, B) Baseline noise (regular)

Figure 17.Typical chromatograms, A) Normal B) Problem (Irregular baseline noise)
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
連続的 – 検出器ランプの問題またはフローセルが汚れている |
|
グラジエントまたはアイソクラティックプロポーショニング – 溶媒混合が不十分 |
|
グラジエントまたはアイソクラティックプロポーショニング – プロポーショニングバルブの機能不全 |
|
不定期に発生するシャープなスパイク – 外部の電気的干渉 |
|
定期的 – ポンプパルス |
|
ランダム – コンタミの蓄積 |
|
スパイク – 検出器に気泡がある |
|
スパイク – カラム温度が溶媒の沸点より高い |
|
圧力の問題は通常、背圧が高すぎることと関連しています。問題がどこから生じているのかを解明するためのグッドプラクティスは、システムを段階的に取り外すことで、最初は検出器から、順次インジェクターへと遡り、ポンプを取り外します。
問題:圧力の低下
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
ポンプへの流量が不十分 |
|
ポンプからカラムまでの通水ラインの漏れ |
|
ポンプチェックバルブまたはシールの漏れ |
|
ポンプのヘッドに気泡がトラップされている(圧力の変動でわかる。) |
|
ポンプキャビテーション |
|
問題:圧力の変動
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
ポンプ内の気泡 |
|
ポンプチェックバルブまたはシールの漏れ |
|
問題:背圧が高い
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
プレ/ガードカラムが詰まっている |
|
カラムヘッドが詰まっている |
|
キャピラリーが詰まっている |
|
カラムが不可逆的に吸着された試料で詰まっている |
|
カラムの粒子径が小さすぎる(例:3マイクロメーター) |
|
カラムで微生物が増殖している |
|
移動相の粘度が高すぎる |
|
インラインフィルターまたはガードカラムのフリットが詰まっている |
|
インレットフリットが詰まっている |
|
ポリマー系カラム - 溶媒の変更が充てん剤の膨張を引き起こした |
|
塩析(特に、移動相に高濃度有機溶媒を使用している逆相クロマトグラフィーの場合) |
|
インジェクターがカラムから外されたとき - インジェクターの詰まり |
|
問題:液が流れていない

Figure 18.Typical chromatograms A) Normal, B) Problem (No flow)
考えられる原因 | 解決策 |
|---|---|
ポンプがオフになっている |
|
流れが中断/妨げられている |
|
漏れ |
|
ポンプヘッドに空気がトラップされている(圧力変動で分かる) |
|
推奨事項
お使いの機器マニュアルの中のメンテナンスセクションとトラブルシューティングセクションを参照していただくか、担当のサービスエンジニアに問い合わせていただくことをおすすめします。最近のHPLCシステムには、装置内部の問題領域を切り分けるのに役立つ自己診断機能を持つものが多くあります。カラムや実施している分析に関連してなかなか解決しない問題については、Supelco®のテクニカルサービス部門にお問い合わせください。
本ガイドの残りのページには、 分解能、保持性、または選択性 が失われた後でカラムの性能を回復させる手順、カラムのハードウェア問題を予防および解決する方法に関する提案、ならびにSupelcoポートフォリオから選んだカラム保護製品を示します。カラムの寿命を延ばし、一般にHPLCまたはFPLC® 分析を簡素化または改善する全アクセサリー製品については、メルクのウェサイトをご覧ください。
お使いのカラムの性能回復
高吸着性成分を含む試料や溶媒にカラムを曝すことにより、背圧が上昇し、選択性が変化するでしょう。多くの場合、以下の適切な洗浄プロトコルに従ってカラムの元の性能を取り戻すことができます。溶媒洗浄再生を実施する際、カラムは逆向きに接続して、分析HPLCシステムからシンプルで安価なポンプへ移します。別の方法として、カラムを検出器から取り外し、直接廃液に行くように洗浄します。各溶媒は、少なくともカラムの20倍量、できれば30倍量を用いて洗浄します。
各カラムに同梱されている取扱説明書をしっかり読むことが重要です。この取り扱い説明書には、推奨されるカラムの手入れや再生の方法に関する情報も記載されています。それらの推奨事項には必ず従ってください。 粒子によるカラム上部のコンタミは、通常、バックフラッシュモードでカラムの5~20倍量でカラムを洗浄することにより簡単に除去できるはずですが、カラムメーカーが認めている場合にのみ実施してください。両方のカラムフリット(入口と出口)が同じ空隙径を持つことを確認することが重要です。カラム充てん剤の内部深くにトラップされた小さな粒子は除去されない可能性が高いことに留意してください。このような洗浄の結果、カラム内の背圧はある程度は低下するはずです。非特異的に結合した材料をカラムから取り除くのは困難です。通常、コンタミがどのような化合物であるのかは分からないため、その結果は予測できません。 成功率は0~100%の範囲になるかもしれません。カラム充てん剤を完全に回復させるため、5 µmより小さな粒子が充てんされたカラムの均一性は、ほぼ不可能になります。通常、カラムのバックフラッシュは短期的にのみ役に立ちます。
お使いのカラムをフラッシュ/再生することにした場合、以下の段階ごとの手順により、試料のコンタミにより性能が劣化したカラムを理論上は再生できるはずです。
注記!カラム再生で使用されるすべての溶媒は、そのカラムで日常的に分析を実施する際に通常使用されるものと同じ分析品質レベルでなければなりません。
- カラムを外して逆にし、
- 検出器ではなくポンプにつなぎます。
- 1,500~4,500 psiの(ただし、メーカーの取扱説明書にある最大推奨圧力を超えない)カラム背圧を発生させる流量を使用し、下の表にある適切なフラッシュ手順に従います。SUPELCOSIL®カラムをお使いの場合は、テストミックスを用いて、データシートに記載の条件で分析します。
- 通常の溶媒でカラムをコンディショニングする
- テストミックス試料を用いてカラムをテストする効率、対称性、および容量は、テストシートに記載されている値の10~15%以内になっているはずです。そうでない場合には、カラムを交換してください。
注記:表に記載の体積は、25 cm x 4.6 mm(内径)のカラムのものであり、このカラムの体積は4.15 mLです。25 cmより長いまたは短い内径4.6 mmのカラムを回復する場合は、すべての体積に25に対するカラム長さの比を掛けます(例えば15 cmのカラムであれば、体積の15/25(= 0.6)倍))。内径が4.6 mm以外のカラムを回復するときは、すべての体積に(4.6)2 に対するカラム内径の2乗の比を掛けます(例えば内径3.2 mmのカラムであれば、表の値の(3.2)2/(4.6)2 = 10.24/21.16 = 0.48倍)。
カラム回復手順 | |
|---|---|
カラムのタイプ | カラム再生手順 |
シリカカラム | 以下の液で洗い流す:
メーカーが規定した条件に従ってカラム性能を評価する。 注記:不活性化したシリカカラムの再生については、「シリカカラム再生溶液」もご覧ください。 |
SUPELCOSIL™ LC-PCNカラム | A. タンパク質を除去する場合 B. TCAを除去する場合
それでも許容可能なカラム性能が得られないときは、分析に使用する濃度の10倍の移動相緩衝液を調製して一晩カラムに循環させる。* *注意:緩衝液のタイプおよび/または濃度によっては、濃度が10倍になると沈殿を引き起こす可能性があります。 |
シリカベース逆相カラム (アルキル(C8、C18など)、フェニル、またはジフェニルカラム、SUPELCOSIL LC-PAHカラム) | A. 水溶性試料 以下の液で洗い流す:
カラム性能を評価する。 B.水に溶けない試料 以下の液で洗い流す:
カラム性能を評価する。 |
シリカベースのイオン交換カラム | イオン交換システムを含むほとんどの分析でイオン性移動相が使われる。カラムの性能に影響する可能性がある化合物は一般に水に溶けないか、またはほんのわずかしか溶けない。このような化合物を除去するには以下の手順で十分なはずである。 以下の液で洗い流す:
カラム性能を評価する。 |
極性結合相カラム(アミノ、シアノ、もしくはジオールカラム、またはパークル型キラルカラム) | 逆相モード(有機溶媒/水性緩衝液移動相など)で使うカラムでは、シリカベース逆相カラムに対するものと同じクリーンアップ手順に従う。非水性移動相で使うカラムには以下の配合を使う: 以下の液で洗い流す:
カラム性能を評価する。 |
タンパク質およびペプチドのRPLC用シリカベースカラム | シリカベース逆相カラムに対するプロトコールに従う。 あるいは、トリフルオロエタノール100 µLを1回以上注入する(注入回数は注入ごとにカラム性能を評価して決める)。 カラム性能を評価する。 |
HPLCでよく使用される代表的な有機溶媒の特性 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|
溶媒 | 極性 | 水との相溶性 | UVカットオフ• |
| 溶媒強度、 | 20ºCでの粘度 |
ヘキサン | 非極性 | なし | 200 | 1.375 | 0 | 0.33 |
イソオクタン | ↓ | なし | 200 | 1.391 | 0.01 | 0.5 |
四塩化炭素 | ↓ | なし | 263 | 1.4595 | 0.14 | 0.97 |
クロロホルム | ↓ | なし | 245 | 1.446 | 0.31 | 0.57 |
塩化メチレン | ↓ | なし | 235 | 1.424 | 0.32 | 0.44 |
テトラヒドロフラン | ↓ | あり | 215 | 1.407 | 0.35 | 0.55 |
ジエチルエーテル | ↓ | なし | 215 | 1.353 | 0.29 | 0.23 |
アセトン | ↓ | あり | 330 | 1.359 | 0.43 | 0.32 |
酢酸エチル | ↓ | 不十分 | 260 | 1.372 | 0.45 | 0.45 |
ジオキサン | ↓ | あり | 215 | 1.422 | 0.49 | 1.54 |
アセトニトリル | ↓ | あり | 190 | 1.344 | 0.5 | 0.37 |
2-プロパノール | ↓ | あり | 210 | 1.377 | 0.63 | 2.3 |
メタノール | ↓ | あり | 205 | 1.329 | 0.73 | 0.6 |
水 | 極性 | あり | –– | 1.3328 | >0.73 | 1 |
極性溶媒に接する非結合シリカカラム
水、アルコールといった非常に強い極性を持つ溶媒を含む試料と移動相は、コーティングされていないシリカHPLCカラムを非活性化することがあります。そのため、カラム性能、特に溶質の保持と選択性に著しい影響が及ぶことがあります。 非極性溶媒で長時間にわたって洗い流してもカラム性能は部分的に回復するだけで、化学薬品が無駄になります。シリカ再生溶液(酢酸、ジメトキシプロパン、メチレンクロライドを含む)は、トラップされた極性材料を除去してすばやくかつ安価にシリカカラムの性能を回復させます。この溶液をポンプにより4 mL/分の流量で10分間にわたって劣化したカラムに流した後、2 mL/分の流量で10分間にわたって移動相で洗い流します。シリカカラム評価用テストミックスを用いて。カラム性能を評価します。性能は、極性溶媒を導入する前と実質的に同じであるはずです。
カラムの保管
カラムの保管は、短期、中期、長期となります。
- 短期保管:この場合の短期とはオーバーナイト(一晩)のことであり、最後の分析で使用した移動相がカラム内に残っていてもよいでしょう。あるいは、移動相を超低流量で流しておくこともできます(特に移動相の緩衝液濃度が高い、50 mMを超える場合)。この場合、翌日に分析を続ける前のカラムのコンディショニングは省略することもできます。このオプションは特に、移動相組成の変化により再平衡化に長い時間かかってしまう順相分離の場合に特におすすめです。ただし、移動相中の緩衝液濃度が非常に高い場合(>0.5 M)には、ポンプ部品の寿命(インジェクター、スイッチバルブなど)が、高濃度緩衝液に接触していた時間に左右されるでしょう。同じことが、pHがカラム限界に近い場合(ほとんどのシリカ系カラムの場合はpH 2~pH 7)のカラムにも当てはまります。一部の塩類、特に塩化物塩は、ステンレス鋼に対して非常に腐食性が高いため、カラムの壁や出入口のフリットに作用する可能性があります。そのような場合、カラム(およびすべてのシステム)は、より穏やかな移動相でフラッシュする必要があります。その場合には、カラムの約10倍量の水含有量の多い移動相(約90%)でカラムを洗浄することをおすすめします(一部のよく使用されるカラム寸法のおおよそのカラム体積は以下の表に記載しています)。
一部のよく使用されるカラム寸法のおおよそのカラム体積とその倍数 | ||||
|---|---|---|---|---|
カラム長(mm) | カラム内径(mm) | おおよそのカラム体積(mL) | カラム体積の10倍量(mL) | カラム体積の15倍量(mL) |
250 | 4.6 | 4.15 | 41.5 | 62.3 |
250 | 2.0 | 0.79 | 7.9 | 11.8 |
150 | 4.6 | 2.49 | 24.9 | 37.4 |
150 | 2.0 | 0.47 | 4.7 | 7.1 |
100 | 4.6 | 1.66 | 16.6 | 24.9 |
100 | 2.0 | 0.31 | 3.1 | 4.7 |
50 | 4.6 | 0.83 | 8.3 | 12.5 |
50 | 2.0 | 0.16 | 1.6 | 2.4 |
25 | 4.6 | 0.42 | 4.2 | 6.2 |
25 | 2.0 | 0.08 | 0.8 | 1.2 |
注記:この表に記載されている体積が、実際にカラムを通過しなけれなりません。溶媒ボトルを交換して、チューブを取り外して別のボトルに入れた場合、チューブの体積(約2~3 mL)、デガッサー(古いタイプのデガッサーは最大15 mLで、新しいものは約4 mL)、ポンプ(約1 mL)、インジェクターを考慮してください。また、流量に応じて、溶媒がカラムに到達するための時間を追加してください。
| ||||
カラムを装置から外す場合、溶媒が蒸発して固定相が乾燥してしまわないようにエンドプラグをしっかりとはめてください。最悪のシナリオは、高濃度の塩で使用されたカラムの洗浄が不十分で、時間とともに乾燥してしまうことです。塩の結晶が形成され、カラムはおそらく不可逆的に破損してしまうでしょう。ただし、乾燥状態で保管できるカラムもあり、保管できないカラムもあります。メーカーのカラムのお手入れのガイドラインを確認してください。標準的なHPLCカラムは、室温で保管し、冷蔵庫や冷凍庫では保存してはいけません(例外は修飾タンパク質アフィニティーカラムやリアクター型活性酵素カラムです)。以下の推奨事項は、中~長期的なカラムの保管にも有効です。
- 中期保管:この場合の中期とは2日間から週末にかけての期間であり、カラムはフラッシュが必要です。フラッシュの強度や量は、分析で使用された緩衝液濃度に応じて異なります。一般的に、まず10%有機溶媒水溶液を含む移動相を約10倍量で用いてカラムをフラッシュして緩衝剤を洗い流すことが推奨されます。この場合、洗浄は効果的で、緩衝液の沈殿やカラムの乾燥の問題も回避できます。次に、カラムは装置につないだままにしておくことも、取り外してエンドプラグを用いて閉じておくこともできます。カラムの短期保管に関する推奨事項も検討してください(推奨される保管溶媒に関するカラム添付文書の参照など)。
HILICカラムをアセトニトリル水溶液で保管すると、分析法で低イオン強度の緩衝液(例:5 mMの酢酸アンモニウム)が使用される場合には、再平衡化に長い時間がかかることがあります。したがって、HILICカラムの場合には、80~90%のアセトニトリルを含有する溶媒中および5~10 mMの酢酸アンモニウムまたはギ酸アンモニウムを含む緩衝液中で保管することをおすすめします。
カルボン酸官能基を含むイオン交換ミックスモード相(例:弱陽イオン交換相)は、ゆっくりとしたエステル化とその結果としての選択性/容量の変化により、アルコール含有溶液中では保管できません。
- 長期保管の場合:シリカ系カラムは、約10%の有機溶媒水溶液を用いたカラムの15倍量以上を用いる十分な洗浄後に、有機溶媒含有量の多い移動相でカラムの10倍量以上を用いてフラッシュしてください。非プロトン溶媒中で保管できます。水も存在する場合には、高濃度であってはならず、必ず50%未満になっているようにしてください。文献で推奨されている最良の保管溶媒は、アセトニトリルまたはメタノールです(一部例外があり、例えばアミド修飾されたカラムの場合には、アセトニトリルのみで保管する必要があります)。いくつかの研究では1 、RP条件では、高純度のアセトニトリルまたはメタノールを用いた場合のHPLCのステンレス鋼製部品の浸食や腐食の速度が、水と混ざっていた時と比べて速くなったことも示されています。したがって、90 %のアセトニトリルまたはメタノールは、ほとんどの逆相カラムの長期保管に最適です。逆相カラムの場合、イソプロパノールと水(80/20)の保管溶液ミックスでは、イソプロパノールの粘度と蒸気圧が高いため、エンドフィッティングが完全に密封されていなとしても、カラムが乾燥する確率は低くなります。イソプロパノールは強力な溶離液でもあるため、イソプロパノール中での保管後は、アセトニトリルやメタノールのグラジエントを用いる場合よりも多くの不純物が洗い流されることを確信できます。最後ですが重要なこととして、イソプロパノールは毒性も低いです。カラムのフラッシング、洗浄、保管に使用されるすべての移動相は、分析で使用されるものと同じ品質グレードでなければなりません。カラムは、今後使用する前にカラムを評価するために、分析証明書(CoA)/カラム報告書と共に、またできたら過去の使用歴を確認するためのカラムのログブックと共に、元の箱に入れて、室温で(例外として前述のアフィニティーカラムがあります)保管します。
カラムはどのくらい長く保管できるでしょうか。それはさまざまな側面に左右されます。5年や10年保管していても変化しないカラムもあります。そのように長い保管期間後のカラムを使用する場合には、カラムは乾いてしまっている可能性が高いこと、100%アセトニトリルでの最初のフラッシュで再度濡らす必要があること(RP相)、選択性を測定する前には移動相で約1位時間平衡化する必要があることを想定してください。また、カラムテストミックスを分析して、CoAのデータと比較してもよいでしょう。
正しいカラムの保管は、正しいクロマトグラフィーとカラム寿命を伸ばすために不可欠です。最後に重要なこととして、カラムの操作の詳細についてはメーカーのガイドラインに必ず従ってください。
カラムテストミックス
HPLCカラム用性能評価ミックス
しっかり規定されたテストミックスを用いれば、クロマトグラフィー問題のトラブルシューティング、システム効率の最適化、および性能を知りたい条件でのカラム評価が可能です。テストミックスは光分解を防ぐために琥珀色のアンプルで出荷され、適切な使用法と結果の解釈法が書かれた指示書が付属しています。
一般的なハードウェアの問題の予防と解決
漏れを防ぐ
漏れはHPLC分析でよく発生する問題です。お使いのシステムでの漏れを最小限に抑えるために、異なるメーカーのハードウェアおよびフィッティングと入れ替えないでください。適合しないフィッティングを最初は無理に合わせることができても、分離に問題が見られ、結合を繰り返すと最終的にフィッティングに漏れが発生する可能性があります。入れ替える必要がある場合は、適切なアダプターを使い、次に進む前にすべての結合部で漏れをチェックしてください。
高濃度の塩(>0.2 M)と腐食性の移動相を使うと、ポンプのシール効率が下がることがあります。インジェクターローターシールの寿命も、移動相の条件、特に高pHでの動作に依存します。イオンペア試薬を長期間使用すると、ポンプピストンの潤滑効果によってシール部でわずかな漏れを生じることがあります。シールによっては、特定の溶媒でうまく機能しないこともあります。厳しい条件でポンプを使用するときは、その前に装置メーカーの仕様書をご覧いただくか、担当のサービスエンジニアにご連絡ください。シールの交換については、ポンプマニュアルのメンテナンスセクションをご参照いただくか、担当のサービスエンジニアにご連絡ください。
カラムフリットの詰まりを取る
カラムフリットの詰まりはHPLCでよく見られるもう1つの問題です。最初からこの問題を最小限に抑えるには、プレカラムフィルターとガードカラムを使用します。入口を洗浄するにはまずカラムを外し、逆にして(検出器ではなく)ポンプにつなぎます。標準流量の2倍の流量で溶媒をポンプで流します。入口フリットにある少量の粒子状物質を除去するには、カラム体積の約5~10倍量の溶媒で十分のはずです。洗浄したカラムの性能を標準テストミックスで評価します。
カラム保護製品の選択
Supelco® 移動相ろ過装置(アスピレーター管に接続)
- ろ過装置1(1,000 mL横管付きフラスコに接続):250 mLガラス製リザーバー、ファネルベースおよびストッパー、クランプ、ステンレス鋼製ホルダーおよびふるい、テフロンガスケット10枚、Nylon 66フィルター(47 mm、孔径0.45 µm)50枚を含みます。
- ろ過装置2(アスピレーター管に接続):250 mLガラス製リザーバー、34/45テーパー付きファネルベース、34/45テーパー付き1,000 mLフラスコおよびガラス製キャップ、クランプ、ステンレス鋼製ホルダーおよびふるい、テフロンガスケット10枚、Nylon 66フィルター(47 mm、孔径0.45 µm)50枚を含みます。
溶媒とその他の移動相成分から粒子とガスを除去して装置とカラムを保護する。ナイロン66膜フィルターは、HPLCで一般的に使用されるどの溶媒にも対応可能。
移動相ろ過装置
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交換用ガラス部品
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フィルター
プレカラムフィルターは、カラムフリットに堆積してピークを割ったり背圧を上げたりすることがある粒子状物質からHPLCカラムを保護するのに不可欠です。粒子の発生源は、移動相(特に、緩衝液が有機溶媒と混ざる場合)、ポンプとインジェクターシール、試料などです。5 µm以上の粒子を含むカラムを保護するには2.0 µmのフリットを、5 µm未満の粒子を含むカラムには0.5 µmのフリットを使用します。

メルクのSupelco® プレカラムフィルターは、メルクのウェブサイトに掲載されているあらゆるHPLCカラムやガードカラム、またはValco互換のエンドフィッティングを持つその他のあらゆるカラムに手締めで直接つなぐことができます。PEEK製キャップと本体、2 µmステンレス鋼製フリット。
Supelco® フリット& フィルター
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Valcoプレカラムフリット・スクリーンフィルター3
インライン設置。効率的な小デッドボリュームのフィルターが、カラム性能を下げることなくお使いのカラムを微粒子から保護します。交換可能な1/8" フリットは、0.5 µmの孔径で3 µmまたは5 µmのカラム充てん剤を保護します。交換可能なふるいの孔径は2 µmです。高ろ過容量(ほとんどの用途)のフリットフィルターか、または小デッドボリュームの(微小径カラムに使用するものなど)スクリーンフィルターのいずれかを選択してください。外径が1/16" の配管に使用してください。1/16" フィッティングが付属しています。

Valcoプレカラムフィルター・フリット
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Isolation Technologies社製プレカラムフィルター
インライン設置。高容量インレットフィルターがデッドボリュームとバンドの広がりを最小限に抑え、お使いのカラムを保護しながらカラム効率の損失を防ぎます。フリット空隙率:0.5 µm。図のように組み立てます。

SSI高圧プレカラムフィルター
インライン設置。316ステンレス鋼製フィルターディスク(孔径0.5 µm)は、カラムのエンドフィッティングを取り外さずに簡単に交換できます。最大動作圧力:15,000 psi(1054 kg/cm²)。1/16" 配管用。

SSI高圧プレインジェクターフィルター
ポンプとインジェクターの間に取り付け、移動相に対する最後のろ過を行います。簡単に交換できる316ステンレス鋼製フィルターエレメント(孔径0.5 µm)。最大動作圧力:15,000 psi(105 MPa)。1/16"外径配管用。10~32ネジ。

Isolation Technologies社製プレカラムフィルター
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Upchurch社製プレカラムフィルター
インライン設置。ステンレス鋼製本体に、不活性なポリエーテルエーテルケトン(PEEK)エンドフィッティング、および一方のPEEKエンドフィッティング内に0.5 µmまたは 2 µm PEEKフリット付き。

Upchurch社製プレカラムフィルター
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Rheodyneモデル7725および7725iインジェクター
Rheodyneモデル7725インジェクターでは1 µL~5 mLの試料を高い確度と精度で注入できます。頑丈でメンテナンスが容易な設計により、以下のような多くの先進的な特徴を持っています:
- 特許を取得した連続流設計(図を参照)により、LOAD(充てん)からINJECT(注入)に切り替えたときに流れが中断しません。
- インジェクター前面の圧力ネジでシールを簡単に調整できます。
- ポートの角度が広い(30º)ため、フィッティングに容易にアクセスできます。
このインジェクターには20 µLの試料ループが含まれ、pH 0~14で動作するようにTefzelローターシールと交換できるVESPELローターシールとともに提供されます。工場設定値は5000 psi(345 bar)で7000 psi(483 bar)まで調整可能です。モデル7725iは内部位置検出スイッチを備えています。
従来のHPLCバルブは試料注入中に流れを瞬間的に遮断するため、カラムに圧力衝撃が繰り返して加わります。Rheodyneの特許取得済みMBB(メークビフォアブレーク)設計では古い接続が切れる前に新しい接続が行われるため、流れが中断されません。

Rheodyne Model 7725 injector. 1. To sample loop, 2 From pump, 3. MBB passage, 4. MBB port, 5. To column, 6. From sample loop
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Optimize Technologies社製ポンプ交換部品
消耗しやすいポンプ部品の定期交換を含む予防メンテナンスプログラムは、コストのかかるダウンタイムをなくすのに役立ちます。当社が選りすぐった広範なOptimize Technologies社製チェックバルブ、シール、およびピストンは、ポンプメーカーの仕様を満たすか、またはそれを超えます。選りすぐりの最新ポンプ部品については、ウェブサイトをご覧ください。

SSI™ LO-Pulse™ ダンパー
パルスダンパーはポンプの脈動を制御してベースラインの安定度を上げます。SSI™ LO-Pulse™ダンパーは、単ピストン往復HPLCポンプ(Altex 110A、Eldexポンプ、LDC MiniポンプVS、SSIモデル200および300など)に対応する特許取得済みユニットです。500 psi~6,000 psi(35~420 kg/cm2)の圧力範囲で微量試料成分の定量分析の精度と検出限界を改善します。フィッティングとマニュアルが付属しています。
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